SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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今回は自動投稿の設定を忘れていました、またまた遅れてしまい申し訳ありません
次回は明日の0時に投稿しますのでご勘弁を……


第11話 錯綜する扶桑海

7月25日 午前8時00分

『こちらヴァリアント(フラム)。各員、異常はない?』

晴れやかな青空を電波が走り、フラムの声をインカムを通して5人の耳に届ける。それを聞き、岩礁が無数に浮かぶ青海の上を飛ぶ4人が口々に答える。

『こちらジーク(レイ)、ストライカーや武装には特に異常なしです』

ゴクウ(游隼)、同じく。あー、緊張するなぁ。なにも起きませんように……』

溜息混じりに不安げな声を上げる游隼。レイが「大丈夫ですよ!」と励ますが、游隼は生返事を返すばかりなのだった。

「えー、こちらマーヴェリック(ジャニス)。ストライカーとかは特に異常ありませーん」

アイシクル(アナ)、機器等に異常はなし。いたって普通』

落ち着きを失ってブツブツと何かを呟く游隼とは正反対に、いつも通りの調子で返すジャニスとアナ。

『こちらシーカー(カニンガム)、合流対象を確認。周囲200kmに異常反応はありません。現在、予定時刻より約1分の遅れが生じていますが、誤差の範囲内ですね』

5人の、更に高高度を飛んでいるカニンガムが言う。

『うんうん。みんな、合流してからみっともない真似をしでかさないように、今から気を引き締めておきなさいよ!私達には扶桑のメンツもかかってるんだからね!』

「出たでた、ヴァリアントさまの見栄っ張りが。さすが、今回の為にちょっといい化粧品使ってるだけの事はありますなぁ」

ひひひと笑いながら、よくわからないイメージの口調でからかうジャニス。言われた直後だというのに、まるで気を引き締めていないのだった。

『なっ……なんでそれ知ってるのよ!カ……シーカーにも言ってないのに!』

すると、フラムが頬を真っ赤にしながら振り向き、慌てて言った。その反応に、どうせまた「ふざけたこと言ってると、今からでも帰らせるわよ!」などといった返しを期待していたジャニスが、驚きの声を上げた。

「え、もしかしてマジの話だったの?冗談のつもりで言ったんだけど……」

『〜〜〜〜っ!本当に、あんたって奴は……!!』

羞恥に頬を染めながら、わなわなと怒りで肩を震わせるフラム。両拳を振り上げるが、ジャニスは編隊の構成上、数メートル離れた位置で飛んでいる。行き場を失った拳は、虚しく元の位置に振り下ろされたのだった。

『お嬢様』

気まずさから何も話さなくなった5人の耳に、カニンガムの珍しく拗ねたような声が届いた。現状の雰囲気を打破してくれる事を願い、4人はカニンガムの言葉に意識を集中させる。

『……何よ』

『私は、お嬢様のお化粧が普段と異なっていた事には気づいていましたよ』

『…………そう』

(『カニンガム……多分それ、なんのフォローにもなってないと思うよ……』)

それから6人の間に訪れた完全な沈黙は、約20分後に清の部隊からの交信が来るまで、決して破られることは無かった(幸いにも、F-15Fのパイロット達は別の回線を使っていたため、フラムは秘密を知られずに済んでいた)。

 

 

 

 

7月25日 午前8時22分

〈こちら、清共和国空軍第24魔女師団第72航空連隊だ。前方のウィッチ、そこで静止し10秒以内に所属を名乗れ。返答が無いかそこから少しでも移動した場合、我々は貴君らを撃墜する〉

突如として若干険のある声が響き、6人の間に緊張が走る。全員がホバリングの姿勢になり、自然と視線がフラムに集まるが、フラムは泰然と答える。

『こちらは扶桑国国防空軍北部航空方面隊、第201統合戦闘飛行隊よ。私達がここに来るってこと、そっちには伝わってないのかしら?』

僅かな沈黙の後に、短く返事が返ってきた。

〈OKだ、そのまま前進してきてくれ〉

そう言い捨て、無線がブツリと一方的に切られた。不機嫌そうな顔でフラムが合図し、全員が飛行体制に戻る。

「なーんか、随分と失礼な感じだったね。無線も無理矢理割り込んできた感じだし」

『全くだわ。軍人として、最低限の礼儀も身に着けてないのかしら?』

『まあまあ。向こうも慣れてないんでしょうし、ちょっと緊張しちゃってるんですよ。多分』

『何分、護衛対象が対象ですから。厳戒態勢を敷いているのも当然でしょうね』

のほほんとした声でレイがフラムを宥め、カニンガムもそれに倣う。

『わかってる。……むしろ、少し安心したわ。向こうに適当な仕事をされたら、こっちだって困る事態が起きかねないもの。ほら、もう見えるわよ』

フラムの言葉を聞き、5人が前方に目をやる。5人の目には、遥か彼方の雲の合間に浮かぶ、2つの小さな点が映っていた。HUD上に既に表示されていた護衛対象が肉眼で目視できる距離にまで近づいたことで、6人の間には独特の緊張感が漂っていた。

『うー……ウィッチが大統領や首相になってくれれば、護衛も移動も楽でいいのになぁ……』

「確かに!でも年取ってからそういう地位になっても『あがり』で飛べないだろうし、若い子じゃ、そもそも支持されなくてなれないんじゃない?」

『うっ……確かに』

ジャニスの妙に鋭い返答に、游隼が言葉を詰まらせる。

『珍しいね、マーヴェリックがちゃんとしたこと言うの』

『そうね。少し驚いたわ』

「ちょっとちょっと、私ってそんな風に見られてたの?ちょー心外なんだけど」

『皆さん、そろそろ気を引き締めましょう。向こうからのコンタクトがありました』

カニンガムの無線の後に、5人が不安げに眉をひそめる。正面に位置する、左右に2機並んだ政府専用機の周囲を飛ぶ、ターコイズブルーの制服に身を包んだウィッチたちの姿を見ての事だった。

『……繋げて』

フラムが僅かな間を空けて言った。カニンガムに気を引き締めろと言われた直後に、正面から飛んでくる5人の清のウィッチのうち3人が、いかにも浮足立ったように政府専用機の方を横目で見ていたからだ。

何分そう体験できないことだし、より近い立場だから興奮しているのだろう、と結論づけても、その光景に5人が不安さを通り越して呆れを感じるのも無理はなかった。

しかし、残った2人はまるで機体の方を見ず、しっかりと5人に注視していた。恐らくその2人が隊長と副隊長だろう、と5人は考えた。

約20mほどの距離になると、フラムと先頭を飛ぶ隊長らしき人物が手を上げ、互いの部隊がホバリング姿勢になった。

F-15F部隊が旋回を行う下で、フラムが話し始める。清の部隊の隊長の向こう側に、木々の生い茂った小さな島がぽつんと見えていた。

『私達は、扶桑国国防空軍北部航空方面隊第201統合戦闘飛行隊、スペリオルウィッチーズ。私は隊長のフラム・ローズキャリー大尉です』

你好(ニーハオ)〜。遠路はるばるご苦労さま。ご存知の通り、私たちは清共和国空軍第24魔女師団第72航空連隊。私は黄陽蘭(こうようらん)大尉。一応、隊長やってまーす。よろしくねー〉

『よ、よろしく……』

片目が短い茶髪で隠れたウィッチが、機関銃を左手で保持し、右手をひらひらと振る。緊張感のない、胡乱な喋り方と声色に、フラムが苦笑いを浮かべる。

〈いやー、さっきはウチの副隊長が失礼したね。ちゃんと編隊組んでるんだからわかってるのに、あんな聞き方しちゃって。ほら、謝んなよ〉

〈すーいーまーせーんーでーしーたー。謝ったぞ〉

ウェーブのかかった黒髪を掻きながら、陽蘭の斜め後方のウィッチが面倒臭そうに言う。

朱明(しゅみん)。ちゃんと謝りなよ〉

〈チッ……あー、さっきは失礼した。申し訳無い。しかし陽蘭、万が一の事態も想定すれば、あの程度の注意勧告は普通だと思うが。テロリスト相手に丁寧に聞いてやる必要はない〉

鋭い一瞥を受け、多少きまりが悪そうに弁解する朱明。

〈それも一理あるんだけどさ〜。ま、いいや。今はとっとと引き継ぎしちゃおう。戦闘機さん方にずっと旋回させてるのも可哀想だし、旅客機もどっか行っちゃうからね〉

『そうですね』

フラムと陽蘭が近づき、直接声が聞こえてきそうなほどの距離で向かい合い、静止する。陽蘭が機関銃をストライカーに引っ掛け、右手で敬礼。フラムもそれに効い、機関銃を離し、敬礼を返す。

〈0830時より、趙昌岑(ちょうしょうしん)清国国家主席の護衛の任を移譲します。清共和国空軍第24魔女師団第72航空連隊隊長、黄陽蘭〉

『同時刻より、護衛の任を引き継ぎます。扶桑国国防空軍北部航空方面隊第201統合戦闘飛行隊隊長、フラム・ローズキャリー』

言い終わったところで、手を下げるフラムと陽蘭。少しの間が空いてから、陽蘭がにこりと笑う。それを見て、フラムが不安そうに聞いた。

『な、何か?』

〈いや……可愛いなぁって〉

『あ、ありがとうございます……』

〈おい陽蘭。仕事が終わったんだからさっさと帰るぞ、お喋りは抜きだ〉

しびれを切らしたらしい朱明が、苛立ちを隠すことなく言う。朱明の後方から、ゆっくりと左右に並んだ政府専用機が近づいてきていた。

〈え〜?せっかちだなぁ。もう少し話してたいのに……まあ仕方ないか。それじゃまたね、201の皆さん。再見(ザイツェン)〜〉

機関銃を持ちながらひらひらと右手を振り、5人に背を向ける陽蘭。振った右手をそのまま前に倒し、朱明や浮かれていた3人と共に来た方向へと戻って行った。

『ここからが本番ね。このまま傷一つ付けないで、羽田まで送り届けるわよ!』

『『『『「了解!」』』』』

フラムの合図によって、フラム、レイ、游隼が前方の政府専用機の上を通って三角形のフォーメーションに展開し、アナ、ジャニスが後方の政府専用機の下をくぐって左右に展開する。その上空で、6機のF-15Fが間隔を空けて一団に追従していた。

『周囲の警戒……危険物がないか確認……レーダーに目を配る……』

ひっきりなしに上下左右を見回しながら、ブツブツと注意事項を繰り返す游隼。

『落ち着きましょう、ゴクウさん!落ち着いてないと、出来ることも出来なくなっちゃいますよ?』

『そ、そうだけど……何か来ないか不安で……』

レイに諭される游隼だったが、間近に護衛対象であり、自分の国のトップに位置する人物が居る、という現実にはレイの言葉もあまり効果が無かった。

「大丈夫大丈夫。何か来たらレーダーに映るだろうし、いざとなればシーカーが教えてくれるよ……んぇ?」

ジャニスが游隼に言い、自らもチラリとHUD上に表示されたレーダーを確認する。すると、5個の青い光点が映るレーダーの画面に、突如として緑色の光点が浮かび上がった。ちょうど、陽蘭達の清の一団の少し前方の辺りだった。

「何これ……故障?」

『どうしたの、マーヴェリック。何かあった?』

『……皆さん、落ち着いて聞いてください。所属不明の敵性体に清の部隊が攻撃を受けたそうです』

カニンガムの言葉に、5人が息を呑む。ジャニスが思わず振り返ると、確かに雲の間を飛んでいるウィッチらが散り散りになって動き回っていたのが微かに見えていた。

『攻撃方法はレーザーによるものだということですし、恐らく敵性体はネウロイと見て間違いないでしょう。清側の周波数を送ります、設定してください』

5人が、HUDに表示された数値に回線を設定し、開く。無線からは、陽蘭の荒い息遣いが聞こえてきた。

〈一体どこから……あ、201の皆さん、聞こえてる〜?援護するから、ウチの隊員一人を回収して欲しいんだ〜。ストライカーが片方使い物になってないから、超特急でお願い。悪いけど、こっちはネウロイの位置を探るので精一杯でさ〜〉

『私が行く』

陽蘭が言い終わる前にアナが短く言い、彗星の如き尾を引きながら孤島の方面へと向かう。

急速に接近したアナに数本のレーザーを放つネウロイだったが、陽蘭と朱明がレーザーの根元に近い場所でシールドを展開し、攻撃を防ぐ。

〈やらせないよ〜〉

〈早く行け!〉

『そのつもり』

炎上したストライカーを脱ぎ捨てたウィッチをアナがしっかりと抱えたのを確認し、2人はその場から離れた。

『回収完了。ジーク、怪我してるから治療よろしく』

『ううん……これしかないか……アイシクル!これからB機に3000まで降下してもらうから、そっちに運んで乗せてもらって!ジークは先に乗ってなさい!』

アナの指示に、フラムが早口で追加する。

『了解』

『えっ、あっ、了解です!』

一度に色々な指示を受けすぎた事で、思考がパンクしていたらしいレイが、あたふたと返事をする。

『わ、私達は?』

降下を始めたB機へと接近するレイとアナを尻目に、飛び交う無線や指示を聞いていた游隼が心配そうに聞く。

「とりあえず待機してようよ。いつこっちに攻撃が飛んでくるとも限らないし、向こうは清の人たちに任せてれば大丈夫だって」

『そうね、私達は引き続き対象の護衛よ。でも、B機にも攻撃があるかもしれないし、マーヴェリックはB機の護衛に着いておいて!』

「了解っと」

警戒はしながらもホバリングで静観を決め込んでいたジャニスと、何やら政府専用機と交渉を行っていたフラムが答える。それを聞いても游隼の心配は晴れなかったようだが、心を決めたのか、少しは落ち着いて周囲を見渡すことが出来ていた。

〈灰-4から各機へ!こちらに気を惹かせます!〉

〈こちら灰-5!隊長!副隊長!今がチャンスです!〉

〈そこだね〜〉

〈ふん!〉

ミサイルによって木々が剥げ、黒い物体が露わになった孤島の森に、無数の機関銃弾とミサイルが降り注いだ。海に小波ができるほどの衝撃が生まれ、もうもうと土煙が舞う。

煙が晴れるとネウロイは跡形もなく消えており、地面には大きなクレーターが出来ていた。

『反応の消滅を確認。ネウロイの撃破に成功しました』

〈やったね〜。そういえば、そっちに助けてもらったのは今どうなってるのかな〉

『こちらの隊員が治療してます。ジーク!』

『はい!もうすぐ、終わる所です』

フラムが呼び掛けると、元気よくレイが答えた。それを聞き、陽蘭達が驚きの声を漏らす。

〈本当か?大した怪我でなかったとはいえ、余りにも早すぎないか〉

〈随分早いね〜。欣麗(きんれい)、大丈夫〜?〉

〈はい、すっかり元通りに治して頂きました!なんとお礼を言えばいいか……〉

レイと似たような元気な声で、陽蘭に返事が返される。それを聞いて、陽蘭が朱明と顔を見合わせて頷いた。一応はレイの能力を認めたのだろう。

〈しかし、何故いきなりこんな場所にネウロイが出現したんだろうな〉

『確かに……陽蘭大尉、ネウロイの周囲に何か無いか、調べて頂けますか?』

『現状、先程のようなネウロイの反応はありません。安心していいかと』

〈はいは〜い〉

フラムとカニンガムに頼まれ、朱明と残った2人が周囲の警戒をしている中、陽蘭が孤島の林に降りた。前傾気味のホバリングの体勢で滑るように低空飛行をし、林を探る陽蘭。

〈ん〜……〉

〈何かあったか?〉

〈えーっと……あっ〉

木々の間をすいすいと抜け、林をくまなく捜索する陽蘭。すると、クレーターから10mほど離れた林の中で声を上げた。

〈どうした〉

〈……人が2人倒れてる。血を吐いてるけど、うっすら息はあるっぽいね〜。両方男の人〜〉

〈なんだと!?〉

無線を聞いていた者達の間で、ざわめきが起きる。

〈治癒魔法が使えるって子、こっちに来て貰える〜?君の治癒速度なら間に合うかもしれないから〜〉

『はい!』

後方の政府専用機のドアを開け、空へと飛び出すレイ。機体から降下し、穏やかな海面をなめるように翔ける。

『人種はわかりますか?』

〈多分、アジア系と中東系かな〜。なんでこんな所に居たんだろ?〉

〈目的は、息を吹き返させられれば確認ができる。こんな所にネウロイが出現した事についても何か知ってるかもしれないし、重要な参考人になりそうだな〉

『…………っ?』

陽蘭と朱明が男たちについて話している最中、島の周囲の警戒をしていたカニンガムが怪訝そうな声を漏らした。魔導針が、島の山側にあたる沿岸部から、一隻の小さな船が動き出していたのを感知していた。

『陽蘭大尉、大尉の前方、11時方向から所属不明の船が島を離れようとしています。どなたかを派遣してもらえますか?』

清側から201に聞かされていた事前の情報では、この島は地元の漁船も密猟船も寄り付かない、ただの小さな無人島という説明だった。なぜそんな島に、しかもこのタイミングで、何者なのか……という様々な疑問が脳内に浮かんだカニンガムは、陽蘭に静かに言った。

〈はいは〜い。佳蓮(かれん)、お願い〜〉

〈了解です、隊長!〉

クレーターの上空で待機していたウィッチが、山をふわりと飛び越えて島の端へと向かった。

〈しかし、治療したところでどうやって連れて行くか、だな……海軍に頼むか?〉

〈そうだね〜。こんな状況だし、もう出発してきてくれてるはずだもんね〜……あ、来た来た〉

『お待たせしました!そこのお二人を治療すれば良いんですね?』

〈そ〜そ〜〉

陽蘭のもとにレイが到着し、倒れている二人の男性の横に着陸する。テキパキと治療の準備を整え、左手を向けて力を込めると、群青の光がアジア系の男性を包んだ。すると、蒼白だった顔に赤みが戻り、絶え絶えだった呼吸も整い始める。

『これで良いはず……次はそちらの方ですね!』

〈いや〜、目の前で見てても信じられないね、これは〉

〈全くだ……これほどの治癒魔法の使い手は初めて見たな。是非うちに欲しい〉

〈確かに〜。君、清に来ない〜?今なら色々付いてくるかもしんないよ〜〉

『あはは……そういうのは、私の一存では決められないので……』

中東系の男性に手をかざし、治癒魔法を発動させながらレイが答える。それを聞き、ほう、と二人が息を漏らす。

〈安易に靡かないのも良いな。しっかりした奴は嫌いじゃない〉

〈命令もよく聞いてくれそうだしね〜〉

『隊員のスカウトは遠慮して頂けますか?そこにいるジークは、こちらにしても貴重な人材なので』

フラムが3人の会話に割って入る。フラムに自分が貴重と言われたことで、えへへ……と嬉しそうに笑うレイ。

〈隊長!木造船の乗組員に話を聞いてみましたが、どうやら密猟グループだったようです。操船を停止するよう命じたところ、素直に応じました〉

清のウィッチの1人が報告を始めたため、レイへのスカウトは中止された。レイとフラムは胸を撫で下ろし、報告に耳を傾ける。

〈へぇ〜。他にも何か聞けたよね?〉

〈はい。えー、この島の近海で漁をしていた最中、エンジントラブルが発生したそうです。そのためこの島に寄って修理していたところ、突然ネウロイが現れ、攻撃が始まったので、なんとか応急処置だけを施して逃げようとしていた、と言っています〉

〈そっか〜。じゃあ、その人達も後で海さんに拾ってもらおうかな。処置はこっちの本国でするだろうし〜。ご苦労さま佳蓮、戻ってきていいよ〜〉

〈了解です!〉

しばらくして、フラムらの頭上にウィッチが戻ってきた。それと同時にもう一人の男性の治療が終わり、レイがふぅと息を吐いた。

『これでOKな筈です。でも、まだ完璧に治せたわけではないと思うので、病院に連れて行ってあげて下さい』

〈ああ。こちらとしても、色々と聞いておきたいことがあるからな〉

『皆さん、聞いて下さい。非常事態が発生しました。任務内容を変更し、至急そちらに対応してください』

カニンガムの言葉で、無線を聞いていたそれぞれが口をつぐみ、回線はシンと静まった。全員が、カニンガムの次の言葉に耳を傾ける。

『つい先程、現在地の北西約90kmにある島から超音速飛翔体が発射されました。発射数は9。推定到達時刻は3分後です』

 

 

 

 

7月25日 ネウロイが撃破される少し前の、B機の中

柔らかな日差しがよく当たる窓際の席だったからか、私はいつの間にか眠っていたようだった。機内の騒々しさに目を覚まし、隣にいた支局長にこれは一体どういう訳だと聞いた。

話によると、

「ついさっき護衛の部隊が清から扶桑のに交代したと思ったらこの機の後方の島から飛んできたレーザーで清のウィッチが攻撃された」

らしかった。安否は不明だが清の部隊は現在交戦中だそうで、一応はこの機と前方の機の安全は確保されているらしい。

「なんでこんなことになったんだ安全には細心の注意を払ってるんじゃなかったのかウィッチが落とされてるんじゃこんな機なんてただの的だ次は俺の番なんだ……」

などと膝を抱えながら呟いている支局長は置いておき、後方にあるという島を探さんと私はカメラを持って立ち上がった。

わらわらと人が集まっている窓に近づき、フォーマルな服たちの波を掻き分けて覗くと、確かにネウロイのレーザーらしき光が瞬いているのが見えた。

カメラの望遠機能をフル活用して件の島の上空辺りを睨んでいると、小さな爆発が起きた。

その光景を見て、ウィッチは無事に脱出できたのだろうか、こちらも危険なのではないか、と頭の中に浮かんだ疑問が不安感と緊張感でないまぜになり、視界がぐらつくような気がした。

「あれ、扶桑の部隊のウィッチじゃないか?」

という誰かの言葉に反応し、窓際の(私も含めた)人々が一斉に振り返った。

一瞬の光景だった。機体の前方向から、長い銀髪を揺らしながら一人のウィッチが飛んできて、猛スピードで旅客機の横を通り過ぎていった。

私は、無意識のうちにウィッチを追いながらシャッターを連射していた。

ストライカーユニットのエンジンの青い光が島の方に伸びていき、ぐにゃぐにゃと複雑な軌道を描いた。とんでもないスピードだ。加勢に行っているのだろうか。

『搭乗している皆さまにお伝えします!本機はこれより高度を下げ、前方の入り口からウィッチを乗り込ませます!近くのものにしっかりと掴まり、決して入り口に近寄らないようにして下さい!10秒後に降下を始めます!』

機長らしき男性の声が響き、コクピットから出てきた副機長らしき男性がドアのロックを外すのを見て、機内はパニックに包まれた。

人々は慌ただしく座席に座り、シートベルトを締める。

危険は承知でドアから少ししか離れてない席に座る。振り返って、うわ言を呟いていた支局長の方を見ると、虚ろな目をしながらもしっかりとシートベルトを締めていた。少しだけだが見直した。

急降下というほどでもないが、政府専用機がゆっくりと降下を始めた。体が浮くような感覚に包まれ、背筋にぞわぞわとした感覚が走る。

しばらくすると、目的の高度に達したのか機体は水平になり、異様な感覚は落ち着いた。

「わっ、たっ、た、わぁ!」

すると、前方のドアがガコンという音と同時に開き、暴風と共に機内に黒髪のウィッチが飛び込んできた。風の音にも負けない、男たちの野太い絶叫が機内を満たし、私は思わず耳を塞いだ。

「いたた……あっ、あ、すいません!お騒がせして!」

程なくして静まった機内で、ストライカーユニットや装備を外して床に立ち、ぺこりと礼をする少女。ええっと……と狼狽え、開いたままの扉の方を何度も見ている。この子が本当に例のウィッチなんだろうか?と思うほどに、まるでただの少女と変わらないような仕草だった。

思わず一枚撮る。

「あ、アナさん!」

「受け取って」

「はい!」

少しして、先程の銀髪のウィッチが1人の人間を抱えて扉の前に現れた。運ばれてきたのは、おそらくはウィッチであろう水色っぽい制服を着た少女だった。

制服の端々が破けて血が滲んでいたり、顔から血を流していたりと、それなりの怪我をしているという事は素人目でもわかった。

何事か話しながら軽々とウィッチを機内の少女に渡し、銀髪のウィッチは扉を閉めて去っていったのが窓から見えた。けたたましく吹き荒れていた暴風が収まる。

「じゃあ、始めますね」

「はい……よろしくお願いします」

少女はウィッチの治療をするようだった。袖をまくり、横になったウィッチの胸辺りに左手をかざす。

少女は、先程までとは打って変わって落ち着いた様子で目をつむり、深呼吸を一つした。すると、左手からぼんやりとした青い光が発生し、ウィッチの上半身を包み込む。

その神秘的な光景に、私だけでなく背後の他の乗客も興味を惹かれているようだった。座席の上や横から恐る恐るという風に顔を出し、その実しっかりと光景を目に焼き付けていた。

ウィッチが昔のように人々を守るようになってから、早5年と少し。血統でも関係しているのか、昔に比べて治癒魔法の使い手の数は僅かな増加傾向にあるらしい。

が、その分能力の精度が格段に落ち、小さな傷を治すのにも時間がかかるなど、言い方は悪いが粗製乱造気味な能力である、というのが最近のウィッチに対する認識だった。

しかし、目の前の少女のそれは明らかにレベルが違う、まさに魔法という言葉が相応しいであろう能力だった。

ハッとしてカメラを構える。治療は進行しているが、まだ時間がかかりそうだ。私も一応はカメラマンの端くれなので、何かあれば撮る、という姿勢は貫くようにしている。それがカメラマンの姿勢なのかは不明だが。

太腿の裂傷が、映像を巻き戻しているかのようにあっという間に塞がり、傷跡一つ残さずに治る。

左腕の肉が抉れていた場所は、もこもこと肉が盛り上がり、不自然な凹凸のないただの腕の一部となった。

ふと、少女の眉間にしわが寄った。顔をズームにしてみると、こめかみに汗が滲んでいるのがわかる。頬も赤みがさしており、息も少し上がっているようだ。効果が効果だけに魔法力の負担も大きいのだろうか。

すると、少女が唐突に目を開け、空いた右手を耳に当てた。インカムを装着していたので、指示か何かを聞いているのだろう。そして口を開く。

「はい!もうすぐ、終わる所です」

どうやら治療の進行度を聞かれたようだ。明るい声で少女が答える。少ししてから、離れた位置にいたウィッチも何やかんやと答えていた。

2人ともそのまましばらく右手を耳に当てていたが、会話はそれ以上には発展しなかった。

「……ふぅ。これで治療は終わりになります。まだ痛む点はありますか?」

「いえ、どこにもありません……完全に、元通りです!」

ウィッチが起き上がり、負傷していた場所を恐る恐るという風に撫でて言う。

まあ、そうなるのも頷けるだろうなとは思った。治療にかかった時間は30秒にも満たないものであり、不安になるのも無理はない。というかならない方が変だろう。

「よかった!……じゃあ、私はこれで戻ります。後のことは、よろしくお願いします」

ウィッチの返事を聞いて安心したようで、深く息を吐くと共に安堵の表情を浮かべる少女。すっくと立ち上がり、装備を整え始める。

まさか、再びそのまま闘いに行くつもりなんだろうか?休憩もせずに。

「ちょ、ちょっと!少しくらい休まないのかい?」

私は思わず座席から立ち上がり、声を掛けてしまっていた。私の突然の呼びかけに、少女は驚きから目を見開いていたが、すぐに首を振り力強く答えてくれた。

「私以外の皆さんも頑張ってますから。それに、私、体力には自信があるんです!」

少女は笑ってストライカーを履き、座席に掴まって立ち上がる。そして先程と同じように目をつむると、少女の頭と尾てい骨の辺りから、赤毛の耳と尻尾が生えてきた。ストライカーの先から青い光が放出され、少女の体が僅かに浮く。

「はい!……では、お騒がせして本当に申し訳ありませんでした!」

無線に答えてから、少女は私たち乗客に向かってぺこりと頭を下げた。そして取っ手を捻り、ドアを開ける。暴風が再び吹き込み、やかましい風の音が機内を満たした。

「君!名前を教えてくれないかな!」

「えっと……ジークです!」

風の音に負けないように大声で聞くと、ほんの少しの間の後に少女が言った。本名かどうかはこの際どうでもよかった。私は間髪入れずに言う。

「一枚良いかい!」

「はい!」

満点の笑顔とピースサインを浮かべた少女を、私はしっかりと撮影した。

「……さっきの写真、どういうつもりで撮ったんだ?記事に使うのか」

少女が出ていきドアも閉められた機内で、元の席に戻った私に隣の支局長が聞いてきた。

言われてみれば、どう使えばいいのだろうか。私はたまたま国家主席の扶桑訪問に密着取材に来ただけの、一介の幸運なカメラマンに過ぎず、記事に使うのも国家主席の写真だけだろう。

それでも、私はあの光景をただ無視することはできなかった。職業柄ウィッチを語る雑誌を目にすることも多いが、悪く言えばそれらは上辺だけを映し、表面的なことしか知ることができない。

そんな中で、あそこまで生々しく、直接的な場面に遭遇すれば、思わずシャッターを切ってしまうのも仕方ないことではないだろうか。

「何故でしょうか……私が、カメラマンだからですかね。わかりません」

私の言葉に、支局長は「お前がわからないなら、俺にわかるわけないだろうが」とだけ言い、ぶすっとした顔で黙り込んでしまった。

機体が高度を上げ始めたため、窓の外を眺める。少女は件の島の方へと飛んでいった。銀髪のウィッチもそうだった。今まで自分とは遥かに縁遠い存在だと思っていたウィッチの本質を目の当たりにし、私は衝撃を受けた。

戦闘を見てないまでも、さっきの光景も実物の一つだ。

私が追いたかった物は何だったか。この業界に入ってから数年しか経ってないとはいえ、最近自分にそう問いかけることが増えていた。

私はその問いに対しての、一つの答えを得たような気がしていた。




次回は今回以上に(本編が)長いです
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