SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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今回のサブタイトルは元ネタがありますので、もしわかった方が居れば教えて下さい
元ネタを知ってる兄貴に試してもわからなかったくらいかなり細かいネタですが


第12話 犬の子、そして渦潮

7月25日 午前8時37分

『ッ……!ゴクウはA機、ジークはB機の周囲で待機!マーヴェリックとアイシクルは私に着いてきなさい!全部撃ち落とすわよ!』

〈灰-1から、灰-3を除く全機へ。現在地の上空3000フィートで散開後、待機。201さんの撃ち漏らしがあれば、私達で処理するよ〜。ま、無いことを祈るけどね〉

7つの声が2人の命令に了解、と返し、それぞれの指示された場所へと散らばって行く。

「分速30kmってことは、60倍して……マッハ1.7ぐらい?ってことはSAMかな。どうやって撃ったんだか」

『知らないわよ!でも、1つだけ言えるのは、私達が何とかしないと大変なことになるってことよ!』

ジャニスに追いつき、横に並んだ所で、焦りが滲む表情のフラムが言う。

『ヴァリアント、私なら先行して叩ける。許可を』

島の上空で、清の部隊と共にホバリングをしていたアナが言った。だが、フラムはそれを聞いても首を縦に振らなかった。

『駄目よ。1人で行くのは危険だわ』

『心配しなくていい。私を信じて』

〈隊長さんの言う通り、1人じゃ流石に危ないと思うよ〜。ま、君の実力は知らないけどね〉

近くでホバリングをしていた陽蘭が、アナの方を見ながら言う。それに対し、アナは永久凍土のように冷ややかな視線を送り返しながら答えた。

『余計なお世話。無駄口を叩いてる場合じゃないのがわからない?』

アナの予想外の反撃に、陽蘭がピクリと反応した。薄い笑いを貼り付けたような表情は変化しなかったが、目を若干細めていた。

〈へぇ……それじゃ、好きに選びなよ。部外者は黙ってるとするからさ〜〉

『ヴァリアント。アイシクルの実力ならば任せても問題ないのではないですか?それに彼女ならば、もし万が一追われる事になっても逃げられます。ご決断を』

『……アイシクル、先行するのを許可するわ。ただし、絶対に帰ってきなさい。絶対よ!』

了解(ウィルコ)

短く返答し、飛翔体が発射されたという島の方角へと飛ぶアナ。全身に力を漲らせるように少し体を縮め、一気に加速する。空気が切り裂かれ、破裂音が鳴り響いた。

《こちらドラグーン1。ヴァリアント、我々も彼女に同行する。飛翔体の破壊は手助けできないが、発射施設かそれに準ずる敵性体の破壊は任せてもらいたい》

F-15隊の隊長の声にフラムが一瞬逡巡したように息を呑むが、口を開いた。

『……ええ、お任せします。でも、くれぐれも無理はなさらぬように』

《了解した。……ドラグーン1より各機へ、聞いた通りだ。務めを果たすぞ》

《ドラグーン2了解》

《ドラグーン3、了解》

《ドラグーン4から6、了解》

ジャニスの頭上を、6機のF-15Fが飛び去っていった。

 

 

 

 

7月25日 午前8時38分

『約15秒後に接触が予想されます。どの個体を狙うつもりですか?』

9つの飛翔体は、島から放たれた後きれいに横一列に広がり、多少の差はあれどほぼ同じ高度で真っ直ぐにA機のいる方向へと向かっていた。

「横から回り込んで一気に叩く。落としきれなかったら追う」

『了解です。もし落とし損ねるような事があれば、後方の皆さんに任せるという選択肢も視野に入れておいて下さい』

「大丈夫。私はあいつらよりも速い」

大きく左回りの円を描くような軌道をし、HUD上の9つの表示が一直線に重なる位置へと移動するアナ。一度ホバリングの姿勢になってから、タイミングを計って再度飛行を始める。

白い尾を引きながら飛んでいたのは、ジャニスの予想通りミサイルの形をしていた。長さにして5mはあるであろうミサイルには、何故か白地に黒い斑のような模様が入っている異様な姿となっていた。

(「3……2……1……ここ」)

9発のミサイルの針路にアナのそれが重なりかけたその瞬間、アナの持っていたGsh-30-1機関砲が火を吹く。

「っ!?」

ダダンダンダンダン……という重い銃声と共に放たれた30mm弾が重力に引かれて落ちていき、右端とその隣のミサイルの中心に大穴を空ける。そのまま弾丸の列が真っ直ぐに伸びていれば、その向こうの3発ほどにも損傷を与えられていただろう。しかし、それは叶わなかった。

アナが引き金を引いた次の瞬間、がくんと体制が崩れた。「加速」を使いすぎたせいか、右脚のストライカーのエンジンが故障し、出力が低下していたからだ。

結果、弾丸は見当違いの方向に飛んでいき、残りの7発は上下左右に逃げ、再びA機方向へとバラバラに飛行を再開した。

『くそっ……皆、聞いて。理由は不明だけど、ミサイルがネウロイ化を始めてる。真ん中辺りの信管を撃ち抜かないと落ちなかった』

辛うじて命中した2発の爆発を見届けた後に悪態を一つついてから、ほんの僅かな焦りと驚きを含んだ声で、アナが言った。無線の向こうから返ってくる様々な(大半は驚愕の)言葉を無視しながら、更に続ける。

『結構な速度で再生するから、信管を正確に撃ち抜けないんだったら、何人かで集中して落とした方がいいと思う』

『現時点より、識別の簡略化のために対象に番号を振り当てます。HUDを注視してください』

すかさず、カニンガムが割り込んで言った。同時に、それぞれのHUD上のミサイルの表示が、「unknown」から左から順にⅠ〜Ⅶに変化する。

『あと、私はエンジントラブルで戦闘に参加できない。誰か、回収に来てほしい』

『マーヴェリック!私がアイシクルの方の一発を落としてから回収に行くから、右の一発をお願い!残ったのは清の皆さんに任せます!』

『ラジャ!』

〈ちょ、ちょっと?色々と急すぎてよくわかんないんだけど、説明してくれないかな〜〉

〈ミサイルを撃たれたが、ネウロイ化していてそう簡単に落とせそうにない。取り逃がすかもしれないから、その時は私達に任せる、ってことだろ?〉

『そういうこと!』

アナとミサイル群の少し前方で、ホバリングの状態のジャニスが言った。その視線の先では、フラムが前進しつつ上昇し、高度を正面から来る「Ⅵ」と同程度に合わせようとしていた。

『さあ、かかって来なさい!』

曲がりくねった軌道を描くミサイルを、加速しながら追うフラム。通常のミサイルではまず不可能で、ウィッチでも簡単に追い縋ることはできないであろう動きをするミサイルだったが、軌道の先に射撃を撃ち込むことで、巧みに旅客機たちから離れるように誘導するフラム。

『……こいつら、完全にネウロイ化してないからだろうけど、回避起動がワンパターンよ!落ち着いて動きを見極めて!』

『オッケー、わかった!』

〈こっちも了解〜!〉

大きな上昇・下降や旋回を射撃で抑制することで、ミサイルの動きは確実にフラムの手で制限されつつあった。少しずつ逸れはするものの、ほぼ真っ直ぐに旅客機から逆方向へと飛んでいる。

すると、一定の距離をとっていたフラムに、ミサイルが急接近する。不規則極まりない、まさにネウロイそのものの動きで近づいてきたミサイルに、フラムの銃口と視線が一瞬揺らぎ、空中を泳ぐ。心臓が早鐘を打ち、耳が遠くなるような感覚に襲われるフラム。

(「こんなの、ミサイルがしていい動きじゃない……けど」)

フラムの構えた銃口の揺れが止まる。先端まで黒く染まったミサイルが奇妙な動きのままに近づくが、最早そんなものにフラムは惑わされなかった。

『そんな動き、読めないとでも思った?』

フラムの構えていたDEFA791の銃口から放たれた数発の30mm弾が、ミサイルの中心を射抜き、ネウロイとしての活動もミサイルの運動も停止させる。力を失ったミサイルは、フラムの横を勢いそのままに落ちていき、大爆発を迎えた。

「お疲れ様、ヴァリアント」

「なんだ、自力で来れたの?」

ふう、と息を吐いたフラムに、アナが近づいてきた。少しふらついてはいるが、飛行自体はできるようだった。

「速度は出ないけどね……さっきの動き、見てた。凄かったよ」

他のミサイルの行方を追っていたのをやめ、フラムの方に振り向いて言うアナ。その顔には、言の通りにフラムを称賛するような笑みが浮かんでいた。それを見て、驚いたようにえっ、と吐息を漏らしたフラムだったが、すぐに普段の勝ち気な笑顔で言った。

「……フン!楽勝だったわよ!」

──現在時刻 午前8時40分 ミサイル残り弾数6 弾着までの推定時間──2分

 

 

 

 

7月25日 午前8時39分

「……まさか、ミサイルまでネウロイ化してるとはね。流石に予想外過ぎるや」

フラムが上昇し、1人でホバリングをしていたジャニスが言った。

(「最高速度がマッハ1.7でも、巡航速度はそれ以下のはず。今飛んでるのを見る限り、ネウロイ化しててもそこに違いが生まれないのはわかった。だったら……」)

首や指を曲げて鳴らし、深呼吸をするジャニス。離れた上空では、複雑な機動をしているミサイルとフラムによって、幾何学的な模様の飛行機雲が描かれていた。

「まぁ……少しぐらい楽しむとしますかねっ!」

エンジンを全開にし、正面のミサイルに接近するジャニス。ぐんぐんと互いの距離が縮まり、衝突直前の所ですれ違う。わずかに軌道が逸れたミサイルはそのまま直進し、ジャニスは即座に反転してそれを追う。

ジャニスが手持ちのGAU-22/Aを乱射するが、ミサイルは急激な軌道でそれらを回避し、直進を続ける。

「うーん、やっぱり適当に撃っただけじゃ当たんないかぁ……」

ミサイルに追従しながら、ジャニスが言う。ジャニスの予想通り、巡航速度は通常のストライカーでも充分に追従可能なものだった。

(「でも、フラムの言うとおり動きは大体読めたし……偏差でいけば何とかなるかな」)

ストライカーのウェポンベイが開き、片側に3発ずつ積まれたAMRAAMが姿を表す。HUD上のミサイルにシーカーが重なり、緑色の四角形が赤く変化する。

「さあ、避けてみなよ!」

1秒ずつの間を空けて、AMRAAMを掃射するジャニス。ミサイルへと6本の白い線が伸びていき、1発目の線がミサイルと重なる直前に、ミサイルがガクンと高度を下げる。が、続く2発目以降がその軌道に対応し、更にミサイルへと迫っていく。

3発、4発と、ミサイルの軌道に追いつけないAMRAAMが見当違いな方向へと飛んでいくが、ミサイルが5回目の回避をした方向に、偶然にも外れた2発目のAMRAAMが位置していた。

「そこっ!」

ジャニスが2発目のAMRAAMを狙い撃ち、爆発がミサイルを包み込む。が、ミサイルは爆発を突き抜け、何事もなかったかのように飛行を再開する。

「ま、そう簡単に落ちてくれないよね。直接やるしかないか……ん?」

残っていた2発はミサイルが爆発を突き抜けた時に誘爆してしまい、AMRAAMの残弾はストライカーの片翼に1発ずつしか残っていなかった。しかし、今の行動全てが無駄ではなかったようだった。ミサイルの後部ブースターの一部が破損し、見るからに速度が落ちていた。しかもその部分はネウロイ化しておらず、修復もされていなかった。

「ようし、頂きぃ!」

ミサイルに一気に接近するジャニス。もはや回避もできないのか、ふらふらと尻を振るだけのミサイルに狙いを定め、GAU-22/Aを掃射する。光る帯が真っ直ぐにミサイルへと伸びていき、ブースターを、中心の信管と弾頭ごと撃ち抜いた。

「うーん、結構あっさりだなぁ……もう少し何かあるかと思ったけど」

穴だらけになり、火を吹きながら落ちていくミサイルを見下ろしながら言うジャニス。その顔には、どこか残念そうな表情が浮かんでいた。

「あ、向こうも落としてら。じゃあ、残ってるのは7機かぁ。でも、私が今から行っても間に合うかな……っと!」

頭上で起きた爆発に反応し、青い空を見上げるジャニス。遠く離れた上空で、アナとフラムが向かい合ってホバリングをしていた。それから、ミサイルの方を振り向いたジャニスが、頭を猛烈な勢いで後方へとスウェーさせる。

「ふふん。同じ失敗は繰り返さないのが私なのだ!」

ジャニスが、自慢げに腰に手を当てながら言う。ジャニスが頭をスウェーさせた次の瞬間、それまで頭があった空間を、ミサイルことネウロイが放った赤い閃光が切り裂いていた。

それが最後の抵抗だったのか、ミサイルは爆散し、黒煙を空に漂わせた。

「こちらマーヴェリック、『Ⅴ』を撃破したよ。損害は無し。あと、ネウロイ化の時間が長かったからかな?ミサイルがレーザーを撃ってきた。1発来たのをギリギリで避けたけど、今のところ連射までは出来ないっぽい」

『お疲れ様。こっちは今[Ⅶ]を追おうとしてるんだけど、援護に来れる?』

フラムが言った目標は、7発のうち一番右側に位置して真っ先に上昇していった1発で、現在は40000フィート付近を超え、更に上昇を続けていた。

「うーん。『Ⅶ』に行くよりは、まっすぐA機の方に行ってたほうが良いんじゃない?どっちも追いつけるかわかんないけど、迎え撃つようにした方が良いと思う。そういえば、ランチャーの方はどうなってるのかな」

《こちらドラグーン1。現在、そのランチャーらしきネウロイと交戦中だ。撃破にはもう少し時間がかかりそうだが、次弾以降の発射はさせないと約束する》

ジャニスの問いに、隊長機が冷静な声で返す。

「そっか、じゃあそっちは今の所は安心だね。んじゃⅦの話に戻るけど、いっそ清の人たちに任せて、ヴァリアントも私と一緒にA機の方に行かない?」

「私は悪くないと思う」

会話をしながら、ジャニスの近くにフラムとアナが降下してきた。フラムの顔には若干の疲労が見えたが、ジャニスの言葉にすぐに精悍な顔つきに戻り、頷いた。

「……確かに、その方が良さそうね。急ぎましょう」

了解!(ラジャー)

──現在時刻 午前8時42分 ミサイル残り弾数5 弾着までの推定時間──1分30秒

 

 

 

 

7月25日 午前8時41分

『Ⅴ、Ⅵ共に撃墜を確認。残りは5発ですが、1発を除いてすべて雲の下を飛んでいます。迎撃の準備をお願いします』

島を少し離れた空で、固まってホバリングをしている清の部隊の4人。カニンガムの報告が終わったタイミングで、先頭にいた陽蘭が振り返って全員を見渡す。

〈はーい……灰-1から全機へ。聞いたね?そろそろ主席に良い所見せるとしようか。散開〉

〈〈〈〈好的(ハォドゥーア)!〉〉〉〉

バラバラに散っていたネウロイの行く先に、ウィッチが1人ずつ向かう。陽蘭と朱明は機関砲で、残った2人もK-77Mによる攻撃でネウロイの直進を妨げる。

ミサイルの燃料が切れかけているのか、ネウロイのブースターの出力はかなり落ちているようだった。事実、アナのそれよりも多少速度で劣る陽蘭らのストライカーであっても、ネウロイは容易に補足できていた。

〈今だ!……っ、こいつら、落ちない!?〉

〈油断するな佳蓮(灰-4)、そいつらはもう大半がネウロイだ!後ろにだけは向かわせるな!〉

〈信管を集中的に狙って爆発させるか、真っ二つにするしか落とす方法は無さそうだね。コアが無いのに面倒くさいなぁ〉

各々が射撃を行い、そのどれもが的確にネウロイに命中しはするものの、一瞬で損傷を再生され、反撃されてしまう。攻撃を喰らいはしないものの、それぞれが有効打を与えられずにいた。

〈ちょこまかと……佳蓮、やるよ!〉

〈わかった、楽燕(がくえん)!〉

バラバラに分かれて戦っていた2人が背をくっつけ、ぐるぐると回り始める。2人の周囲を飛び回っていたネウロイの回転速度に、自分たちを合わせようというのだ。

背中合わせでいる2人を取り囲むように、等間隔で飛んでいたネウロイが、軌道を水平に円を描くようなものにする。ネウロイの回転が止み、正面から突撃してきた瞬間に、2人の動きも止まる。

〈〈今!〉〉

2人がエンジンを全開にし、急上昇。2機のネウロイが放ったレーザーは虚空を切り裂き、正面にいたお互いを貫きそうになる。

〈私達はひとりよりも!〉

〈ふたりで戦う方が得意なの!〉

叫びながら、背をつけたままの2人が縦に回転する。佳蓮が前に倒れ、楽燕が佳蓮に背中を預けて後ろにひっくり返るという、それは一般的なウィッチにしてみても変則的な機動だった。

天地が逆さまになり前後が入れ替わったところで、2人の体がピタリと静止し、視界の斜め上方に捉えていたネウロイに銃弾の雨を浴びせる。

その機動があまりにもスムーズだったため、ネウロイがレーザーを避ける動きをしていた頃に、2人は既に狙いを定めていた。

二重に重なって銃声が響き、ミサイルの信管を破壊する。力を失ったネウロイは空中で衝突し、雲を突き破って海へと落ちていった。

〈やったー!〉

〈イエーイ!〉

もう一度回転して姿勢が一周したところで、2人が振り向き、歓喜の声と共にハイタッチをする。すると、その声を聞いていた朱明が、鋭く言い放った。

〈楽燕、佳蓮!後上方だ!〉

〈えっ!?〉

〈何処……〉

2人が声に反応して振り返ろうとしたのと同時に、その頭上を通り抜けた朱明が2人の上空でシールドを展開する。いつの間に狙ってきていたのか、ネウロイの放った赤い閃光がシールドに阻まれる。朱明が来ていなければ、今頃は2人とも撃墜されていただろう。

〈まだ戦闘中だぞ!警戒を解くな!〉

〈〈す、すいません!〉〉

朱明にレーザーを防がせたのは足止めのためだったようで、すぐさまネウロイが急降下をする。

〈逃がすか!〉

ネウロイを追うべく自らも急降下を始める朱明たち3人の上空で、爆発音が響く。佳蓮と楽燕がそれに反応して上を見ると、陽蘭が急速に上昇しているのが2人の目に入った。

〈朱明、そっちは任せるよ〜〉

〈〈隊長?!〉〉

たった今「Ⅳ」を落とした陽蘭が、紫の炎をストライカーから吐き出させ、「Ⅶ」を狙いに行こうとしていたのだ。それを見ようともせず、ただ一言だけ返す朱明。

〈ああ、任せろ〉

朱明が空中で静止し、砲口を正面から少し左に向けて一発。僅かに右に振り、もう一発を撃つ。アナの持っているものと同じGsh-30-1機関砲の、30×165mm徹甲曳光弾が空中を疾る。

左にぐい、と曲がったネウロイの側面に初弾が命中し、その衝撃で右に弾かれる。そこに、ワンテンポ遅れて放たれた次弾が命中。胴体を真っ二つにされた「Ⅲ」は、音もなく空に消えて行った。

〈私も、戦果無しは嫌なんでな〉

Gsh-30を肩に担ぎ、一安心というふうに言う朱明。

〈よし、私達も陽蘭の援護に行くぞ!〉

〈〈はい!〉〉

雲を飛び越え、3人が上昇を始めた。

──現在時刻 午前8時43分 ミサイル残り弾数1 弾着までの推定時間──30秒

 

 

 

 

7月25日 午前8時42分

「ううう……なんでこんなことに……」

青ざめた顔で言う游隼。その声は、お化け屋敷にでも連れてこられた少女のような、今にも泣き出しそうなものだった。

『大丈夫ですよ、游隼さん。清の皆さんも行ってくれてますし、私も着いてますから!』

旅客機に付きっきりの游隼の少し前方で、レイが言う。その、たとえ虚勢であったとしても元気な振る舞いが、実際は游隼の心を追い詰めていた。

レイの固有魔法は治癒。本来起きるはずのなかったアクシデントまみれの今回の騒動においても、彼女の魔法は大活躍だ。

負傷した清のウィッチを救い、更には重要参考人になるかもしれない人間も2人救った。それぞれの怪我の度合いは掴めないが、3人も治癒していれば、魔法力の消費も馬鹿にはならないだろう。

自分の固有魔法はシールド制御。大きさを可変させられたり、他にも色々と応用が利く。今回のような任務にはうってつけだ。急なアクシデントにも対応できる。

でも、使う機会が無い。優秀な仲間に恵まれたおかげで防ぐべきレーザーも飛んでこず、結局は待機しているだけ。魔法力は追従のための巡航にしか使わず、今もたっぷり余っているのがわかる。

そんな状態においても、レイは泣き言一つ言わずに、後方を睨んでいる。あまつさえ、自分のことを励ましてくれた。自分より若く、辛いはずなのに、気丈に振る舞っているその姿が。無自覚のうちに游隼の心を、よりきつく締め上げていた。

『……尉、大尉。李大尉!応答を!』

「はいっ!?ど、どうしたのカニンガム?」

カニンガムが声を荒げたことで初めて、游隼は自分が名を呼ばれていると気づいた。慌てて無線の声に耳を凝らす。

『清の部隊からです……残った最後の1発は、止められそうにないと』

〈本当に申し訳無いんだけど〜、このままだと多分ネウロイには追いつけないと思う〜〉

「なんで、そんな……」

間延びしていながらも焦っているような陽蘭の声が游隼の耳に届く。きっと、まだ陽蘭はネウロイを追っているのだろう。

〈ミサイルが完全にネウロイと一体化したからだ!だからあいつはもう燃料なんて必要ないし、馬鹿みたいな速度で飛んでるんだよ!〉

『少々お静かにしていただけますか?……李大尉。貴女の能力ならば、たとえ守るのが旅客機であったとしてもネウロイの攻撃から防ぎきることができます』

怒声混じりの朱明を諌めつつ、冷静にカニンガムが告げる。Gsh-30機関砲を脇に抱え、シールド操作の要となる両手を見る游隼。その手は、色を失ったように真っ白だった。

『簡潔に説明します。対象はつい先程、高度60000フィート地点から秒速736m、マッハ2.5で降下を開始。標的はA機で間違いないようです。大尉、もう視認できていますね?』

手から顔を上げる游隼。自分の正面斜め上方から、黒い点が接近しているのが見えた。カニンガムの言葉に、キーンと耳鳴りがしていた。世界の音が、耳から入ってくるものだけのようだった。

『加速してるじゃん!どうなってんのさアレ!無茶苦茶だよ!』

〈だから言ってるだろうが!アレはもうネウロイなんだよ!〉

無線越しに言い争うような、ジャニスと朱明の声。そう、あいつは無茶苦茶だ、と脳内が同意する。

『あーもう!今更何言っても遅いわよ!李大尉!あなたなら必ずできるわよ!』

フラムの激励の声。こんなことを言われたことは今まであっただろうか、と脳の片隅が疑問を浮かべる。

〈〈李大尉!〉〉

佳蓮と楽燕の自分の名を呼ぶ声。あの2人の所属は空軍だったはずだが、原隊が海軍の自分の名を知ってくれているとは、と口の端が微かに綻ぶ。

『游隼、信じてる』

アナの、いつも通りの冷静な声。そうだ、信じてくれている人がいる。こんな私を。今、この場を救えるのは私だけだ、と口が固く結ばれる。

『游隼さん!私が先行します!』

こちらに叫んでいる、レイの声。なんて頼もしく、勇敢な姿か。でも、それは無茶だ。たとえ旅客機を守れたとしても、自分の身を守れない。

「いいよ、レイ。下がって」

だから。

私が。

「私が……絶対に、守ってみせるから!」

全速でレイの前に飛び出し、両手を一度、拍手をするように打ち合わせる。腕全体に魔法力が集まっている感覚がして、燃えるように熱い。昔、一度だけ味わったこの熱さ。もう二度と会えないと思っていた熱。

無意識に引いていた右腕の狙いをつけるように、左腕を伸ばす。放つべき場所は完全に捉えた。ネウロイが放ってきた赤い閃光を、青い光がかき消していくイメージで、放つ。

「止まれええええええっ!

突き出した右掌から魔法力が迸り、シールドを展開。背後の旅客機に向けてばら撒かれたレーザーをすべて防ぐには、力を惜しんでいる余裕はない。今自分ができる最硬のシールドを、飛ばす。

──現在時刻 8時43分 ネウロイ残り機数1 弾着までの推定時間──3秒

 

 

 

7月25日 午前8時43分

游隼の突き出した右腕の先に通常よりも一回り小さいシールドが展開された次の瞬間、シールドが十数枚、一定の間隔で発生し、徐々に巨大化しながら前方向に伸びていく。その列が10mほど伸びた先で一際巨大なシールドが生まれ、様々な方向に放ったレーザーを全て防ぎきる。

〈〈やった!〉〉

佳蓮と楽燕が、同時に歓喜の声を上げる。

『〈まだ!〉』

それに、フラムと朱明の冷静な声が覆いかぶさった。

そう、まだネウロイは生きている。あくまで游隼が防いだのはレーザーだけであり、マッハ2.5で飛来する全長5m、重量600kgの弾丸の到達はまだだった。

フラムと朱明の声が游隼の耳に届いたのと同時に、猛烈な衝撃が突き出した右腕を襲い、鐘を撞いたような金属音が周囲に響き渡る。シールドに、ネウロイが激突したのだ。

「ぐうっ……!」

シールド間の間隔が狭まり、見えない何かに体当たりを食らったように游隼の体が後下方に押し下げられる。

が、ネウロイは激突の衝撃で押し潰れ、最前のシールド全体に薄く広がっていた。文字通り、捨て身の攻撃だったのだろう。

游隼の体が、旅客機の2mほど上空で止まる。ネウロイがはらはらと崩れ、雪のようにシールドから剥がれ落ち、そして、完全に消滅した。それを見届けてから、游隼が右腕を引き、全てのシールドを消失させる。

『──全飛翔体の撃墜、消滅を確認。李大尉、皆さん、本当に、お疲れ様でした』

カニンガムが、安堵感が滲み出た声で告げる。肩で息をしていた游隼は、それを聞いても、ただ呆然と空を眺めていた。

「……やったあーっ!!」

その背中に、レイが勢いよく抱きつき、ぐるぐると回る。

「すっっ……ごく、かっこよかったです、游隼さん!」

レイの溜めを作った称賛の言葉に、ギシギシと音がしそうなほどぎこちない動きで游隼が首を動かし、レイの顔を見る。

「と、止められたの?私が?本当に?」

游隼の一つ一つの問いに、脳震盪を起こしかねない勢いで首を縦に振るレイ。

「游隼さんが止めたんです!そして、皆さんの命を救ったんですよ!」

『旅客機からの通信です。流しますよ』

レイの言葉を待っていたかのようにカニンガムが言い、プッと回線が切り変わる音がした。

『君は俺たちの命の恩人だ!』

『最高のウィッチだ!』

『かっこよかったぞー!』

『うおおおおー!ありがとうー!』

『この恩は一生忘れねぇー!』

乗客のものだろうが、インカムから届く口々に叫ばれている感謝や称賛の声。中には、半分泣きながら叫んでいるようなものもあった。

そしてなにより、上昇した旅客機の窓から、機内の様子が見えていた。笑顔や泣き顔の何百人という乗客たちが、数の限られている窓の前を争うように貼り付き、游隼に手を振っていた。

「この人たちを……私が」

「そうですよ!」

『お疲れ、游隼!マジで凄かった!』

『本当、よく頑張ったわね!』

『信じたとおり、だったね』

まだ現実を受け入れられていない様子の游隼に、レイが力強い肯定を返し、離れた位置にいた3人もそれに倣う。それが切欠となったのか、游隼の喉から堰を切ったように嗚咽が漏れ、瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「うっ……わあぁぁぁあ!」

ぶらんと手を下ろし、顔を上に向け、声を抑えることもせず、子供のように泣く游隼。その泣き声は、扶桑海上の青空に広がり、そして消えていった。

 

 

 

 

7月25日 午前8時45分 A機機内貴賓室にて

「いやはや、良いものを見せて貰った。楽しめたよ」

「付近に他の反応も無いそうなので、先程の敵性体が最後のようですね。安全は確保されたかと」

リムレスの眼鏡をかけた細面の女性が、手元のタブレットを覗きながら、機械のように無機質な声で言った。

「それは重畳。なかなかスリルに溢れた空の旅だったが、扶桑には無事に行けそうだ」

それを聞き、国家主席と呼ばれた、短い黒髪をオールバックに撫でつけた男性が言う。1度頷いてから、ふと、思い立ったように口を開いた。

「そういえば、護衛にはこちらのウイッチ部隊も居なかったかな。活躍してくれたんだろうか?」

「結果から見ると、9体の敵性体を4人で1体ずつ撃墜したそうです。1人が被弾したそうですが、扶桑国の部隊によって難を逃れたと」

「なるほど、よく頑張ったじゃないか。しかし、今回の騒動で彼女らに一つ借りが出来てしまったな」

男が、窓の外を眺める。雲海を見下ろす高度で、ネウロイによる攻撃を防いだ黒い制服のウィッチが飛んでいる。少し前まで泣いていたためか、目を赤く泣き腫らしていた。

「……彼女は扶桑の部隊の隊員で、我が国の出身であるそうです。原隊は海軍のようです」

「そうだったか……うん、これも何かの縁だ。軍に連絡をしておいてくれ。彼女に『贈り物』をしたいとね」

「かしこまりました」

女性が頭を下げ、タブレットを操作する。

男が窓の外に目を向けると、正面を向いていたウィッチがそれに気づき、ぺこりと会釈をした。男はそれに対し、笑顔で手を振り返す。すると、ウィッチは目だけでなく顔を赤くし、大慌てで手をばたつかせた。

「ふふ。全く、頼もしいな」

男が、組んだ足に手を置く。

「……さて。どこの誰だか知らないが、誰に喧嘩を売ったのかを教える必要がありそうだ」

男が独り言のように呟き、頬杖をつく。その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。




前回・今回は前後編形式だったので、1、2話のように連続で投稿しました
つまり、次また連続で投稿することがあれば、それらは今回のように盛り上がる話(というか長い話)ということになりますね
あと1回か2回くらいやると思いますので、期待していただけると幸いです
それと、今回が来週分だということで、来週の月曜日の投稿はお休みです
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