SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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珍しく戦闘描写がいいと有識者から褒められました



第17話 暗雲

『目標捕捉。方位030、高度30000フィート。距離、約25マイル』

「しかし、全長80mで、ついでにステルス持ち……全く、厄介そうな相手だこと」

カニンガムの報告を聞き終わってから、「へ」の字のような6人編隊の右側2番目に位置していたジャニスが言った。事前に伝えられていたネウロイの大まかな情報への嘆息まじりの言葉に、ジャニスの後ろに位置していた游隼と逆側に位置していたアナが反応する。

「久々の大物だし、気は抜かないでいかないとね」

「これから雨らしいし、早く終わらせたい。濡れるのは嫌」

「雲の上飛べばいいじゃん?」

「でも、ネウロイは雲の下にいるかもしれないっていう話ですよ」

その他愛もない会話に、アナの後ろにいたレイが参加したところで、先頭のフラムが二度手を叩いて全員の注目を集める。

「お喋りはそろそろ終わり。ツガイの言うとおり、向こうの空域には雲が多いみたいだから、カニンガムのサポートも十全とは言えなくなるわ……もし乱戦になったら、ボイドはフィーネ中尉、李大尉はツガイを守って。私とスリャーノフ大尉は攻撃。油断しないでいくわよ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 

『目標の位置が把握できました。方位090、高度21000フィート。距離、約5マイル。現在、目標は雲の中を飛行中のようです。皆様、再三になりますが、くれぐれも油断なさらぬように』

発進から2度目のカニンガムの報告は、最初のそれが伝えられてから5分ほど後になってのことだった。合わせてフラムが手で制し、全員がホバリング姿勢に移る。

「まあ、これだけ曇ってればねぇ。あの中でやるんだったら、中型の相手だって苦戦しそうだよ」

6人の代弁をするように目下の景色を人差し指で指して言うジャニス。千歳基地を出発した頃はまばらに空に浮かんでいた雲が、今ではまさに海と形容するのがふさわしいように、6人の足元を埋め尽くしていた。

「最悪の事態は、すれ違って距離が離れてくことだよね。こんなに雲が厚いと、上からじゃ探しても見つかりそうにないだろうし……」

「まあ、カニンガムさんの魔導針もあるんですから、多少距離があっても問題ないでしょう。顔を出すまで待つくらいの余裕はあるかと」

「そこまで高速でもないみたいだし、よほど離されなければ大丈夫」

「そ、そうかな」

不安げな様子の游隼に、反対側にいたアナとフィーネが落ち着き払って言う。新たなストライカー(J-20)を手に入れ、戦果も以前より伸び始めていた游隼だったが、心配性な性格は変わっていなかった。

「さーて……モグラちゃんはどこかな〜っと」

ホバリング姿勢のままカニンガムの報告があった方に目を凝らし、ネウロイを探すジャニス。が、平坦な雲の平原に目新しい変化はない。

「……実は、もう私達の目の前にいたりして。ステルスだから気づいてないだけで」

「何言ってるの。これだけ雲から離れて飛んでるんだから、私達と同じ高度に居るんだったら影ができるでしょ。雲から出てくれば何かしらの痕跡は見つかるだろうし、まだ下よ」

編隊を崩して近寄ってきたレイの言葉に、首を振りながら呆れたように言うフラム。

やっぱりそうかー、とレイが納得してもとのポジションに戻るのとほぼ同時に、ジャニスが鋭く叫ぶ。

「……見つけた、1時方向!攻撃くるよ!」

全員がジャニスの声に反応し、示し合わせたように1時の方向に目をやる。その視線の先の雲では、うっすらと赤い光が瞬いていた。

「全機散開!さっき言ったペアで行くわよ!」

フラムが言い、6人が上下左右バラバラの方向に回避する。それまで6人がいた空間を、数十本の赤い閃光が通り過ぎた。

「くっ、また潜ったわね……」

「攻撃のタイミングはさっきのである程度わかったし、次に来た時に一気に行こう」

レーザーの飛んできた方角に前進し、破けたように形が崩れた雲に接近する2人。が、あまり迂闊に追うこともできず、HUD上に表示された大まかな位置の周囲を旋回するだけに留まっていた。

すると、2人の背後で風を切る音が連続して響く。咄嗟に振り返ると、待機していた4人と2人の中間ほどの位置で4つの影が雲を突き破り、猛烈な勢いで上昇していった。

「分離した?いや、子機ね!」

上昇を続け、6人の視線の先で太陽に重なる影。それを見て、游隼とレイが言った。

「さっさと本体をやっつけないと、延々と攻撃されるパターンだろうね……」

「こっちは私達に任せて、2人は本体を仕留めてください!」

「……わかった、でも無茶するんじゃないわよ!」

「そっちこそ!」

アナとアイコンタクトを交わして頷きあい、フラムが言う。ジャニスの返事を聞き届け、2人は雲の中へと突入した。

途端、全身を覆った水蒸気がゴーグルや髪をうっすらと白く染め、元からはっきりとしていなかった視界をより狭める。多少は覚悟していたとはいえ、環境があまりに捜索に向いていないことに、フラムが小さく舌打ちをする。

「図体は大きいくせに小心者ね……自分は顔を見せないで、遠くからちくちく攻撃してくるなんて」

「雲の下に出よう。このままじゃ埒が明かない」

白むフラムの視界内で、数少なくしっかりと映っていた存在のアナが振り返って言う。それに頷きを返し、2人は一気に降下した。白い世界に徐々に色が付き、濃さが増す。 

雲を抜けたタイミングで降下をやめ、暗い空の下で互いに逆の方向に回転して周囲を見渡す2人。すると、右側を見張っていたアナが、視線の先を指差して言った。

「いた、6時。消え始めてる」

そこでは、巨大なエイを想起させるシルエットのネウロイがゆっくりと回頭して2人に背を向け、左の翼の先から大気に溶けるように透明になっていた。

「無理に落としきる必要はないわ!今は、上の4人が来るまでの時間を稼ぐわよ!」

「わかってる」

片手に預けていた機関砲を両手で構え、ネウロイに接近するアナ。少し遅れてフラムも続き、向かって右側の翼の付け根に集中砲火を行う。

同じ箇所に命中した弾丸によってステルス能力が解け、上下に走った白い亀裂が翼全体の中程まで伸びる。それを、レーザーを回避しながら翼の下を通り抜けて確認する2人。

「装甲の回復速度はそこまで早くないみたいだし、このまま攻撃を続けましょう。気を引くわ」

どこか慌てたように十近い数の子機を周囲に展開するネウロイ。それを見据えたまま、楔形の分離体が一直線に向かってくる正面に、フラムがあえて突撃する。

「了解」

短い返答を返してその場から大きく旋回し、再び後ろに回り込むような軌道で接近するアナ。その背後では、狙い通りフラムが子機の攻撃を華麗に避けつつ、着実に数を減らしていた。

「確かに遅い……」

狙いをネウロイの右翼の付け根に定めたままストライカーのウェポンベイを両方とも開き、ミサイルの発射準備を整えるアナ。未だその部分は白い光を放っており、完全に修復はされていないようだった。

「片翼いただき」

ヴォオオオオオ……という重低音に続いてGsh-30-1から放たれた弾丸が白い穴を拡げ、止めを刺すように4発のK-77Mミサイルが命中。ぼろり、と崩れるように右翼が落ち、ネウロイが傾いて降下し始める。

「やった……あっ!」

楔形の子機を殲滅していたフラムが、ネウロイが落ちていく様子を見て歓喜の声を上げる。だが、それはすぐに驚きから出た声に掻き消された。

高度を下げるネウロイの背面から、2人が雲の上にいた時のものと同じであろう、5mほどの全長の子機が8発放たれたのだ。

「追う……くっ」

先ほどと同じように上昇していく子機を追おうとしたアナの正面から、最後の悪足掻きとでも言うようにネウロイの本体のレーザーが幾本も飛んでくる。距離の近さもあってか、アナはなんとか回避に専念しなければならず、なかなかその場を離れることができなかった。

『こっちはなんとか全部落としたよ、フラム!そっちは──』

「ボイド、同じのが行ったわ!数は8!」

わずかに息が上がったらしい様子のジャニスの声に、食い気味でフラムが返す。それを聞き、ジャニスがうげっ、と漏らした。

『嘘でしょー!倍の数は流石に厳しいよー!』

『そっちはまだかかりそうなの!?早く戻ってき──まずい、抜かれた!カニンガムの方に行ってる!』

游隼の声に、雲下の2人が息を呑む。

AWACS、つまり早期警戒管制機の役割を担うカニンガムは、他のメンバーのように武装を所持しておらず、ネウロイに接近された場合の対抗手段もシールド程度しかない。

その上、ストライカーも電子機器を満載した非戦闘用のため、小型ネウロイの追跡を振り切れるような速度を出すのは不可能である。

これらの理由から戦場から遠く離れた位置で管制を行っているのであり、接近されてしまえばネウロイにとってはただの的に過ぎないのだ。

「カニンガム!今すぐ撤退しなさい!早くっ!」

フラムのHUDの右下のレーダーでは光点が3つ、上空で戦っている4人から離れていた。レーダーの範囲を縮小して確認せずとも、カニンガムとの距離が縮まっているのは明らかだった。

『既に撤退は始めています。しかし、逃げ切れるかどうか……』

冷静さの中に焦りの混じった声。これまでにカニンガムがネウロイの接近を許したことは数度あったが、その全ては事前に(特にアナの手で)撃墜され、被害を受けたことは無かった。しかし、今のようにアナを含めた部隊全員が足止めを食らう状況は、これまでに無いケースだった。

『フィーネさん、間に合わないんですか!?』

『駄目です、空では時空流加速を使っても高速移動ができない!あそこまで離れられては、当たる前に避けられます!』

レイとフィーネの切迫したやり取りを聞き、フラムが言う。

「スリャーノフ大尉、ここは私が囮になるわ!あなたは早くカニンガムの所に!」

「了解……レイ、今すぐカニンガムのいる方向に行って。武装はどれくらい残ってる?」

『ミサイルは使い切りました。機関砲の弾はあと半分くらいです!』

「それなら……上々」

間一髪、頭の上を掠めるように飛んできたレーザーを躱しながらアナが答える。その横に、後方から接近してきたフラムが並び、言った。

「後は、任せたわ」

「無茶はしないで」

短い返答にサムズアップで答え、くるりと反転してネウロイに突撃していくフラム。アナはそのまま加速して雲に突っ込み、HUDに表示されたレイの場所に一直線に向かう。

雲を突き破り、目を痛めそうなほどの青い空に飛び出すアナ。背中を向けてカニンガムのいる方角へと飛んでいたレイを発見し、固有魔法を発動して近づく。

「レイ!」

「アナさん!って、大丈夫ですか!?」

レイの肩に手を置いた瞬間、アナのストライカーから異音が生じ、黒煙が排気に混ざる。明らかにアナの速度が落ちていき、完全にレイに引っ張られるような形になる。

「このままじゃ駄目……でも、それ(F-15)なら」

が、アナはそれも見越していたように言い、素早く機関砲をバックパックに引っ掛ける。そして空いた両手で自らのストライカーの後部、太ももの真ん中あたりに位置していたイジェクトボタンを叩く。ずるん、とSu-35ストライカーが足から外れ、重力に従って目下の雲へと落ちていった。

「借りるよ、少し乱暴になるけど」

推力を失ったことで、自然とぶら下がるような形になっていたレイに言うアナ。

「え?どういう意味で……わ、わ!わぁー!」

困惑したレイの疑問に答える前に、今度はレイのストライカーのイジェクトボタンを片方ずつ押すアナ。接続が解除されたことで魔法力の供給がカットされ、Su-35と同じようにずるりと落ちるF-15。そして、2人も落ちていく。

悲鳴を上げるレイを尻目に、落ちていくF-15を掴んでいたアナが人並外れた早業で履き、すぐに魔法力を込めた。静止したエンジンが再度動き出し、F-15ストライカーが一瞬で2人の体を持ち上げる。

「これでよし」

「はぁー、はぁー……こ、こんなことするんだったら先に言っててくださいよ!」

憔悴した表情を浮かべていたのも束の間、レイが抗議の声を上げる。だが、それもアナは気にしていなかった。

「しっかり掴まって、飛ばすよ」

「ちょ、ちょっと」

レイを背中におぶり、即座に固有魔法を発動して音の壁を破るアナ。空を漂っていた雲の欠片を消し飛ばし、ぐんぐんとカニンガムへの距離を詰めていく。

「カニンガム、あとどのくらいで来そう?」

『恐らく、1分もないかと』

カニンガムの冷静な報告に、アナが唇を噛む。

「……なんとか、30秒だけ耐えて」

『わかりました。もし私が耐えられていなければ、その時はよろしくお願いしますよ、栂井少尉」

「か、カニンガムさんが冗談を言うなんて珍しいですね、はは……」

レイの乾いた笑いの混じった言葉を打ち消すように、カニンガムが語気を少し強めて言う。

「冗談ではありません。私は、考えられる可能性を考慮した上で言っているだけです。いいですね?栂井少尉」

「っ……ま、任せてください」

カニンガムの言葉に、決心をしたようにレイが答える。

レーダー上の光点は互いに間隔を空け、3方向から攻撃を仕掛けようとしていた。

『来ました。出来るだけ早くお願いしますよ、大尉……さて、この機体(E-767)で戦闘機動をするのは初めてですね』

離れていた光点が動き出す。それに合わせるようにアナがより加速し、自分の背中のGsh-30-1と、レイの背中のFM61M3を両手で抱える。

2人にとって果てしなく長く感じられた時間が過ぎ、やっと青と白だけだった視界に赤い光が瞬いた。その方向に即座に針路を調整し、一切速度を緩めることなく突撃するアナ。分裂したのか、小さな楔形の子機に包囲されていたカニンガムを発見し、両手の機関砲のトリガーを引く。

拙い機動性でなんとか回避行動を取るカニンガムを包囲していた子機の群れが、すれ違いざまにアナが放った弾丸の雨によって、一瞬にして穴だらけになる。

ガラスを連続して踏み割るような破砕音に合わせ、包囲の穴をついて抜け出すカニンガム。怒りの声か、耳障りな金属音を鳴らしてカニンガムを追う子機だったが、全速で反転して戻ってきたアナが射撃を行い、大半の個体を撃ち砕いた。

残った個体が放ったレーザーを、鈍重なバレルロールで躱すカニンガム。だが、バレルロールの終わりを狙うように時間差で放たれた数本のレーザーが体へと伸びる。上方から放たれたレーザーを防ぐために、カニンガムが掌を向けた。

しかし、その手の先に青い光は瞬かなかった。

「カニンガム!」

アナが叫ぶ。たった今アナの行った銃撃によって、カニンガムにレーザーを放った個体は砕かれ、全ての子機は消滅した。

「カニンガムさん!」

レイが悲鳴を上げる。それでも、カニンガムへと伸びていった閃光は消えず。

「……不甲斐、ない……これでは、お嬢様に、叱られてしまいますね……」

苦しげにカニンガムが言い、体から力が抜けてふらりと墜落していく。

既に先の包囲中に細かい傷だらけになっていた体の2箇所──右肩と、胸の中心を穿った。




今回の敵ネウロイの元ネタは正直わかる人にはわかりやすすぎるかと書いてて自分で思いました
次回もお楽しみに
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