SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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投稿が遅れに遅れて申し訳ありませんでした
今回は本当に言い訳のしようがない自分の責任のため再発防止につとめたいと思います
あと今回長めです


第20話 最強、来訪 

──マーズ大将って、どんな人なの?……怖くない?

「うーん……まあ、()()()気さくだから、話しかけたら取って食われる、なんて事にはならないと思うよ。急に変なことで怒ったりもしないし」

戦ったことはあるの?

「あるよ。去年、訓練部隊にいた時に一回ね。50秒ギリギリで優勢は取れたけど、撃墜判定までは無理だった。それが、初めて撃墜判定まで行けなかった模擬空戦かな。いや、そりゃ向こうは本気だったと思うけど……質問は一個まででしょフラム、次!」

ジャニスとはどういう関係なんですか?

「知人以上、友人未満って感じかな。さっき話した空戦の後、向こうに妙に気に入られてね。こっちのショックなんてお構いなしでグイグイ来るもんだから、それ以来苦手になったね……まあ、今は多少落ち着いてるだろうけど」

私達の中なら、誰だったら勝てそう?

「……フィーネがジョーカーかな。正直、他は全員で行っても無理だと思う。多分昔より強くなってるし、あいつには個人の戦闘能力が高くないと太刀打ちできないから。もう終わり?」

あの……おっぱい揉んでも怒られないくらい気さくな方ですか?

「っはは、いいねそれ!面白そうだから、ちょっとやってみてよ!何かあったら私が謝るからさ」

 

 

 

 

5人が会話をしている遥か彼方の、まばらな雲が浮かぶ朝焼け空。黒く波打つ海の上を、C-17が悠々と飛んでいた。

そのコクピットの中で、ヘッドホンを頭につけながら操縦桿を握っていた1人の少女が、会話の内容にくすりと笑いをこぼす。

「好き放題言われてますよ、隊長」

黒髪の少女が、上り始めた太陽の光と機器のランプにのみ照らされた薄暗いコクピットの中で、左を向いて座席に体を預けていた少女に言う。

隊長と呼ばれた少女は顔に被せていた帽子をゆっくりと除け、黒髪の1人の言葉に笑みを返す。

「へぇ?例えばどういうのかな、シノ」

「『おっぱい揉んでも怒られませんか』ってボイドさんに聞かれてます。原文そのままですよ」

くすくすと笑いながら、シノと呼ばれた少女が言う。銀髪の「隊長」は、思わぬ返事に困惑の表情を浮かべ、次いで自分の胸部に目をやる。装飾が施された群青の制服に包まれた膨らみは、その場には居ないジャニス以上のサイズだった。

「それは、まあ……別にいいけど。ジャニスはなんて答えてる?」

「笑いながら『面白そうだからちょっとやってみて』、って言ってます。なかなか愉快な方々のようですね」

「ジャニス……なんか、上官命令で無茶苦茶なこと言ってやろうかな。リベリオンで後方勤務しろとか」

頭の後ろで手を組みながら「隊長」がこぼす。すると、広いコクピットの中、2人の背後のベッドで寝ていた、さらに2人の少女の片割れが話し声に反応し、むくりと起き上がる。

「ふぁ〜……ん。何話してんだぁ、大将〜?」

「おっと、起こしちゃったか。悪いね、うるさくして。向こうの話を聞いてたんだ」

目を擦りながら起き上がった少女が、寝ぼけたようにあくび混じりの声で聞く。それに、大将と呼ばれた「隊長」が振り返り、謝罪の弁を述べる。

「あー、そうかぁ……」

「もうすぐ着くだろうし、まだ寝てていいよエレノア」

「わかった、大将……くかぁ……」

「隊長」の言葉で、Tシャツとズボンだけというラフな格好で起き上がった茶髪の少女が、気絶したようにベッドに倒れ込む。

「到着まであとどれくらいかな」

「えーっと、2時間くらいですね。このまま私が操縦しますし、隊長も寝て大丈夫ですよ」

「そっか。じゃあ、任せたよシノ」

そう言って、再び帽子を目深に被る「隊長」。コクピット内に響く少女らの寝息は、朝焼けで赤紫に染まった空を駆けるC-17のエンジン音にかき消された。

 

 

 

 

 

「へ、変なところは無いかしら……カニンガム、リボンは曲がってない?」

格納庫の前で緊張した面持ちで後頭部のリボンに触れるフラムに、右隣に並んでいたカニンガムが答える。

「問題ありません、お嬢様。堂々となさってください」

「そーそー。階級は高いけど、威厳なんてまるでないしね。そんなに構えなくても大丈夫だよ」

「そ、そう言われても仕方ないでしょ!少将までならあるけど、大将なんて、実際に会ったことも見たこともないんだから!」

左隣に並んだジャニスの言葉に、フラムが勢いよくまくし立てる。普段の高慢な態度もどこへやら、すっかり緊張しきった様子のフラムを見て、ジャニスはよくわからない愉快さのようなものを感じていた。

「少将かー……私は直接会ったことがあるのは大佐までだよ」

「私も」

「将官はあまり前線まで来ないし、仕方がないですよ。催しで姿を見るようなことはあっても、話を出来る機会なんてそうありませんから」

「レイが話したり見たりした中で一番偉い人は誰だった?」

ジャニスが、列の端にいたレイに聞く。こちらも緊張ゆえに話を聞いていなかったのか、ジャニスの問いかけに驚いたように反応する。

「あ、えーっと……前、この部隊が新設されて入隊することになった時に、こうくうばくりょうちょう……?って人とお話ししたことがありますけど、多分その人がすごく偉い人だと思います!制服の、胸のところがカラフルだったので!」

「「「「「「えっ?」」」」」」

左胸の徽章をジェスチャーで表現するレイの発言に全員が驚きの声を上げ、ジャニスの手招きで円陣を組んでひそひそ声で話し始める。

「航空幕僚長って、たしか大将ぐらい……?」

「そうだったはずだけど、さっきの話しぶりは確実にわかってないよね……存在自体も」

「ちょっと待ってよ、自分の所のトップの存在をわかってないって大丈夫なの!?」

「なんだか、心配になってきましたね……」

「……とりあえず、この話の続きは保留しておきましょう。あの方々の到着も近いですし」

カニンガムの言葉で5人が顔を見合わせて頷き、再び横一列に並び直す。

「どうしたんですか、皆さん」

「なんでもないですよ?……あっ、来ましたね」

首を傾げるレイの隣で、低いエンジン音と共に全員の頭上を通り過ぎていった影を指差すフィーネ。灰色の巨影はそのまま滑走路に進入し、ゆっくりと着陸する。

「あいつ元気にしてんのかなー……元気なんだろうなー……やだなー……」

「本当に嫌そうだね」

C-17が格納庫に近づいてくるにつれ、仏頂面が苦々しい表情に変わっていくジャニス。アナの好奇の視線も気にならないようで、搭乗口を恨めしそうに睨んでいた。

完全に静止したC-17の搭乗口から、群青の制服を身に纏った4人の少女が降りてきた。

先頭の銀髪の1人は悠々と、鋭い目つきの2人目は肩を怒らせながら、随一の長身の3人目は楽しげな笑顔を浮かべて、最後の4人目は前の1人に隠れるようにしながら7人の前に歩いてきた。

そして、目の前で立ち止まった先頭の1人に、カニンガムが敬礼をして言う。

「この度は、我々第201統合戦闘飛行隊との合同軍事演習にご協力いただき、誠に感謝致します。隊長の、マチルダ・カニンガム大尉です」

「こちらこそ。リベリオン空軍第1特殊作戦航空軍団第4特殊作戦飛行隊、第273飛行隊隊長……はぁ、言い切れた。全く、長くてしょうがないや……ごほん、クリスティーナ・マーズです。呼ぶ時はクリスタ、でいいよ。長いからね」

敬礼を返しながら長い部隊名を言い切り、深く呼吸するクリスタ。制服の肩章は確かに大将のそれではあるのだが、6人はその喋り口や表情には威厳らしきものは感じられなかった。

「は、初めまして、クリスタ大将。戦闘隊長を務めています、フラム・ローズキャリー大尉です。短い間ですが、よろしくお願いします!」

完全に動揺した様子のフラムが勢いよく差し出した右手を、人の良い笑顔を浮かべながら握手するクリスタ。

「これはこれは、ローズキャリー社の社長令嬢にお会いできるとは、光栄ですよ……でもまあ、そう緊張しないで。隣の人から私がどんな性格かは聞いてるでしょ?」

「……伝えてあるよ。下にいる時は気さくだって」

自分の方に目をやるクリスタをじっとりとした目で見返しながら、ジャニスが言う。

「その通り。大将っていう階級も、ほぼインパクトづけのためだけに与えられたような物だから、別に気にしなくていいし」

「そ、そうなんですか……」

あっさりと距離を縮めようとするクリスタに、どこか呆気にとられたようにフラムが相槌を打つ。

「まあ、ゆっくり慣れていってくれればいいさ……さて、握手する?」

「一応はしておこうかな、っと!」

フラムの前から離れ、ジャニスの正面に立って手のひらを振るクリスタ。その若干挑発じみた動きに、ジャニスは引き攣った笑顔と力一杯の握手を返し、クリスタも握り返す。

「「……!」」 

無言のままギリギリと互いの手を握り、すぐさま離す2人。不敵な笑みを浮かべたまましばしの間向かい合い、ジャニスはフンと鼻を鳴らして顔をそむけ、クリスタはアナの前へと移動する。

「初めまして。アナスタシア・スリャーノフ大尉……です」

「……へえ。2人目のご令嬢は、スリャーノフなんて名乗ってるんだ。不思議だね」

アナの顔を見たクリスタが、アナだけに聞こえるように顔を近づけ、声を低くして言う。

「っ!」

その言葉にアナの鉄面皮がほんの一瞬崩れるが、周囲がそれに気づく前に普段通りの表情に戻る。

「……お喋りは後にしましょう、大将様?」

「ふうん。ま、そうしようか。じゃ、後で」

普段よりも冷たく感じられそうなアナの声に、自然な笑みを返すクリスタ。2人のやりとりに傍から見ていた全員が疑問を覚えたものの、すぐさま游隼とにこやかに握手を始めたクリスタの方へと意識が向き、忘れ去っていた。

「ああ、君の事は知ってるよ!第2次扶桑海事変の時に活躍した」

「初めまして、クリスタ大将。李游隼大尉です。よ、よろしくお願いします」

「うんうん。李大尉、君、海軍出身だったよね?」

「は、はい。ご存知だったんですか?」

自分から言う前に言い当てられ、驚きながら聞く游隼。それに、クリスタは再び笑顔で頷く。

「来る前に、この部隊の皆のことは少し調べてね。青島防衛戦で、ネウロイの攻撃から多くの住民を守ったそうじゃないか」

クリスタの言葉に横に並んでいた6人が感嘆の声を漏らすが、当の游隼は、それにうっすらと影の差した苦笑いを浮かべる。

「……あの時は、同じ部隊の皆が活躍してくれたから防御に専念できたんです。私は、大したことはしてませんよ」

「謙遜するなぁ。でも、そういう辺りもアジア人らしいね……君もそうなんだよね?」

「はい。インド空軍から来たフィーネ・プラカーシュ中尉です。よろしくお願いします、マーズ大将」

視線を向けられたフィーネが微笑み、クリスタと握手を交わす。(ジャニスとカニンガムを除く)201の面々は少なからず緊張の面持ちを浮かべていたのだが、フィーネはまるで普段と変わりない様子でいた。

「堂々としてるねー。私より迫力あるんじゃない?」

「いえ、何も考えてないだけです」

クリスタのからかうような言葉に、フィーネは相変わらず普段通りの微笑みで返す。それに少しペースを乱されるも、咳払いをしてレイの前に行くクリスタ。

「あ、そう……んん。じゃ、最後は君かな。君のことも知ってるよ、栂井レイ少尉」

「本当ですか!なんというか、嬉しいような、恥ずかしいような……」

差し伸べられた手に握手を返しながら、えへへと笑って頭を掻くレイ。

「治癒魔法の使い手なんだって?うちの部隊にもいるんだけどさ、あの背の高い子」

「あの人も、リベリオンの方なんですか?」

クリスタが親指で指した後方の背の高い1人を見て、レイが聞く。視線が向けられているのに気づき、少女は軽く会釈した。

「いや、扶桑とリベリオンのハーフ。だよね、シノ」

クリスタが振り返って呼びかけたことで、長身の1人がレイに歩み寄って話す。

「そうです。母がリベリアンで、父が扶桑人ですね。私達は自己紹介しなくていいんですか?隊長」

「後でね。それよりも、先にしたいことがある」

「したいこと、ですか?」

クリスタの言葉にフラムが首を傾げる。格納庫内にあったストライカーを見て満足げに頷いたクリスタは、7人の正面に立ち、手を広げて言い放った。

「そう……まずは、君達の実力を見せて貰うよ!」

 

 

 

 

「まあ、こうなるとは思ったよ」

どこか空ろな目で足元のストライカーを眺めながら、ひとりごちるジャニス。その横から、訓練用のFM61を持ったフィーネが近づく。

「随分乗り気じゃないですね、ジャニス」

「私も向こうもお互いに強さを知ってるのに、なんで私まで参加しないといけないのかな……」

ジャニスの愚痴に、向かい合った離れた位置でホバリングをしていたクリスタが耳のインカムに手を当てて話す。

『別に、やりたくないならやらなくてもいいんだよ。皆はジャニスちゃんは負けるのが怖いんだ〜、って思うだろうけどね……あれ?おーい、ジャニス?まさかインカム外した?』

クリスタの嘲りが籠もった声は、ジャニスが手を耳に当てる動作を見てインカムを両耳から外したことによって空に消え、ジャニスの耳に届くことはなかった。

「どうせロクでもない答えだろうなと思って、『やらなくてもいいんだよ〜』ってとこから外したよ。なんか言ってた?アナ」

「煽ってた」

「だろうね」

アナの返答に、口元に笑みを浮かべながらジャニスが言う。それを受け、同じように笑みを浮かべていたクリスタが眉をぴくりと動かす。

『……まあいいさ。ルールはそっちに合わせよう。シールドの展開は無し、ストライカーもしくは体に少しでもインクが付けば撃墜判定、と。こっちはインカムの周波数を変えておくから、戦ってる最中でもバンバン指揮してていいよ〜。私に何か言いたかったら、周波数を調整してね。答えるかどうかは別だけど』

冗談めかした口調で話すクリスタが、最後に思い出したように付け足して言った。

『……そうだジャニス、一個だけちゃんとした質問するから聞いて』

「何さ」

ようやく真面目な声で聞いてきたクリスタに、まだどこか不満げな様子のジャニスが答える。

『アレは使っていいと思う?』

「いいんじゃない、私とやった時も使ったんだし。加減はしなよ」

『OK、わかってる。それじゃあ、始めようか……』

ジャニスの返事を受け、クリスタがそう言いながら目を閉じ、一度指を鳴らして目を開ける。その瞬間、地上にいたカニンガムも含めた第201統合戦闘飛行隊の7人は、クリスタから発せられる雰囲気が一変するのを感じた。

微笑みが消え、真一文字に固く閉ざされた口元。楽しげに開かれていたのが嘘のように細められ、獲物を見定める野生動物の如き鋭さに変わった両目。ただ浮遊しているだけだというのに、その全身からは途轍もない威圧感が漂っていた。

「作戦はさっき話した通り!スリャーノフ大尉と李大尉が肉薄して出来た隙を、ツガイと私で撃つ!フィーネ中尉はギリギリまで固有魔法は使わないで、自分のタイミングで行って!」

「「「「「了解!」」」」」

フラムの指示に、5人がFM61を構える。ゆっくりと散開し、それぞれのポジションに移行する中、1人引いた位置にいたジャニスに、フラムが言う。

「……ボイド、本当に参加しないのね?」

「最後の1人になったらやるかもね。ほら、行った行った」

ふらふらと手で追い払うようにするジャニスにフラムは無言で背を向け、クリスタへとFM61を構える。

「さあ、目にもの見せてあげようじゃない……ゴー!」

フラムの掛け声で、射撃しながら突進するアナと游隼。2人の射撃を加速しながら後方に上昇して回避したクリスタを、勢いそのままに追っていく。その針路を大まかに予測し、フラムとレイが少し遅れて3人の飛んでいった方向へと飛ぶ。

『さて、お手並み拝見と行こうか』

2人の追跡を受けているにも関わらず、クリスタが冷静な声で言う。直後、回避機動をしつつも直線的な動きだったクリスタが、猛烈な勢いで下降を始めた。

右上方を抑えていた游隼はその動きにわずかに呆気に取られていたようだが、逆側にいたアナはすぐさまその動きに対応して接近し、クリスタに狙いを付ける。

が、下降しながらアナが狙いをつけたタイミングで細かくターンやバレルロールをするクリスタは、照準の中心を横切るばかりだった。

しかしその動きは、クリスタを包囲するようにアナの後方から降り注いだ3重のペイント弾の嵐によって制限され、アナの照準の中心へと少しずつ近づいていく。

『うーん』

ペイント弾で逃げ道を塞がれたクリスタが、首を傾げながら小さな声で唸る。そして何を思ったか、体を反転させ、両脚のストライカーを今まさに降下していた地表方向へと向ける。途端にクリスタは空中で急減速し、追っていたアナ達の方向へと上昇を始めた。

「ここ……!」

クリスタの行動に困惑や驚きを覚えつつも、照準の中心に捉えたアナはFM61の引き金を引く。一瞬でペイント弾が怒涛の勢いで放たれ、アナの目の前に迫っていたクリスタをオレンジ色に染め────なかった。

引き金を引く直前に、照準から猛烈な勢いでクリスタが居なくなったと知覚した次の瞬間。射撃が来る、と感じて反射的に顔面を左腕で覆い隠したアナの背中が軽くつつかれ、小さな声が耳に届いた。

「バーン!」

アナの背中に一瞬指鉄砲を突きつけた後に横を抜け、上昇して游隼へと一気に接近するクリスタ。フラムとレイからの射線を切りつつも、アナを背後に置くことで游隼の射撃も封じる。

「くっ!」

『チャンスで迷っちゃだめだね』

手刀で機関砲を持つ游隼の手を叩き落とし、すぐさま顔面に指鉄砲を向けるクリスタ。

「バキューン!」

拳銃を撃つような動作と声に呆気にとられる游隼を尻目に、クリスタが大きく旋回する。やっと射線が通ったことでフラムとレイが射撃を行うが、クリスタは2人の射撃を難なく躱して距離を取る。

「わかっちゃいたけど……」

「……やはり強い」

「アナ、もう一回仕掛けてみよう。今度は私が先に行くから、フラムとレイも一緒に……」

レイとフラムが、離れた位置でホバリングをするクリスタを見て悔しげに言う。そこに合流した游隼が2人に声をかけるが、目下で俯いたままだったアナは答えない。

「……舐めてくれる……!」

絞り出すようにそう言い、両足を突き出してクリスタのもとへと突撃するアナ。その猛烈な加速は、固有魔法を使っているのが明白だった。

「アナさん!」

「くっ……追うわよ!」

レイの静止も聞かずに突撃するアナを見たフラムが焦りながら叫び、2人と共にアナを追う。

『噂通り、随分な加速だね』

余裕さを漂わせたクリスタが、ホバリング状態のままアナに狙いを定め、待ち受ける。

「はあっ!」

恐らく201部隊に来てから最速の速度で、クリスタへと猛進するアナ。あっという間に2人の距離は縮まり、激突する直前にアナがほんの少し軌道を上に向け、クリスタの右斜め上を通り抜ける。

「おー、凄い加速……うわっ」

衝撃波によって機関銃を持ったまま体をぐらつかせるクリスタの横を通過した辺りで、巡航体勢の足を思い切り前方に突き出し、体を襲うGに耐えながら減速するアナ。そのまま背泳ぎをするように上半身を後ろに倒し、天地が逆転した状態でクリスタに狙いを付ける。

(「今度こそ……!」)

「でも、読めてるんだ」

アナの射撃を振り向きすらせずに横にターンすることで回避し、脇の下にFM61を通すクリスタ。遂に引き金が引かれ、射撃を避けられたことで呆然と浮かんでいたアナの体にペイント弾が命中する。

「はい、撃墜。そこに居られても味方の邪魔になるだけだろうし、下に行ってたら?」

まばらにオレンジ色に染まった制服を着たアナの肩を叩き、クリスタが冷ややかに言う。

「……な……んで……」

「避けられたのかって?忙しいから私は言わないけど、多分そろそろ私の仲間が教えてくれるよ。ほら、降りた降りた」

愕然とした表情でこぼすアナに、クリスタがあっけらかんと言う。その視線は、会った時には含まれていたアナへの興味の色は完全に消え、既に追ってきた3人へと向けられていた。

 

 

 

 

 

(「なぜ背後からの射撃に、あそこまで完璧に対応できるのでしょうか……あの軌道からの動きを完璧に読んだ、というのも無理な話ですし」)

アナが落とされる瞬間を格納庫内から見ていたカニンガムが、難しげに眉を顰め、推理をするように口に手を当てる。その後方から、すっと横に並ぶ影があった。

「不可解、って感じの表情ですね」

楽しげな声でカニンガムに話しかけてきたのは、先程クリスタに「シノ」と呼ばれた少女だった。201部隊の中でアナと並んで最も長身なカニンガムよりも更に背が高く、だが威圧感は無かった。

「ご明察の通りです、東雲ミナ大尉」

「最初は皆そうなりますよ。あの能力は人間を……いや、もはやウィッチすらも超えている。あの人は、『最強』になるべくして生まれて来たと言っても過言じゃないかもしれません」

カニンガムは、そう話す東雲の横顔に含まれる自慢の裏に何か別のものを感じ取ったような気がしたが、それを口にはせず、静かに問うた。

「教えていただけませんか、大将の能力がどのようなものなのかを」

「構いませんよ。ね、隊長……うん、話しても良いそうですし、上の皆さんにも聞こえるようにしましょう。質問はご遠慮願いますが」

あっさりと応え、耳のインカムに手を当てて問い掛けるように東雲が言う。無線越しにクリスタの返事が来たのか頷き、一つ咳払いをして東雲が話し始める。

「……我々の隊長こと、クリスティーナ・マーズ大将閣下の固有魔法。それは『支配(ドミネーション)』です。自身を中心とする一定の範囲内に入った、隊長が『敵である』と認識した生物……ここにはネウロイも含まれますが。それらの動作を隅々まで把握し、瞬時に知ることができるんです」

無線を聞いていた201の面々の反応がカニンガムの耳に届くが、それらは凡そが驚きの声だった。

「更にその対象に威圧感を与えて『どうしても勝てない』と感じさせ、総合的なパフォーマンスを低下させることもできます。自らの周りにいる敵を『支配』する。それが、隊長の能力です。ボイド中尉にも言われたでしょう?個人の戦闘能力が必要だと」

東雲の言葉に、カニンガムは戦闘が始まった頃に感じた、得も言われぬ感覚を思い出していた。

『スリャーノフ大尉は悪くなかったけど、固有魔法に頼り過ぎだよ』

フラム、游隼、レイからの3方向の同時射撃を、舞うように避けながらクリスタが言う。弾道すらも見通しているのか、体にペイント弾が触れる寸前で避ける動きは、糸に操られた人形にも不可能であろうものだった。

『ふん、どの口が言ってんだか』

『私は別にいいんだよ、支配(ドミネーション)を使わなくても』

鼻で笑いながら言うジャニスに、未だ回避を続けるクリスタが答える。そして、その舞踊にも似た機動のまま射撃を行い、3人の包囲網を崩したところで、クリスタは急上昇する。

ふと、カニンガムの体にかかっていた重圧のような威圧感が消えた。それは上空の3人も同じだったらしく、ほんの少し姿勢を崩しているのが目に入った。

「……随分と余裕ですね」

「隊長も、伊達に『リベリオン最強』と呼ばれてませんから。たとえ支配を解除したところで、そうですね……2〜30人くらいのウィッチに襲われても、多分なんとかなりますよ」

『シノ、それは無理。10人くらい』

「……失礼、ちょっと話を盛りすぎましたね。でもまあ、そういうことです」

東雲の言葉に、ふむ、とカニンガムが声を漏らす。視線の先では、クリスタが散開した3人のうち、レイの方へと急降下をしているところだった。

『ま、たとえ動きが読めなくても』

『わぁー、は、早い!ふぎゃ!』

レイが回避もままならずにペイント弾の雨を浴び、子供のような悲鳴を上げる。それは軌道から予測していたのか、游隼とフラムがクリスタを後方から射撃するが、小刻みな回避機動を捉えることは出来ず、逆に接近の機会を与えてしまう。

『な、何この動き!当たらない!』

『大尉!落ち着いて、一旦離脱を……』

2人が揃って射撃をやめて後方へと上昇するが、全速のクリスタとの速度差は歴然で、2人とクリスタの距離はぐんぐんと縮まる。

『何もさせなければ良いだけだからね』 

射程圏内に入り、上昇している2人に機関砲を向けられたタイミングで、クリスタがほぼ直角に近い角度で縦方向に上昇する。

その突然の動きに翻弄され、狙いを上へと向ける2人の頭上を飛び越した所で降下するクリスタ。そのまま、照準を合わせられない2人のストライカーに(丁寧に4機全てに)ペイント弾を当てる。

『ほらね』

勢いを殺すためにくるりと前に一回転し、ホバリングをしながら、クリスタが言う。余裕綽々な口ぶりではあったが、声色は冷たく、当然の結果だと暗に言っているようだった。 

『……さて、残りは君とジャニスか。それは降参として認識して良いのかな。ん、違う?』

周囲を見渡し、何も持たずに両手を上げた状態で近づいてきたフィーネの姿を見たクリスタが言う。が、フィーネはそれに首を振り、ぱくぱくと口を開いて何かを言う。それなりの距離があるため、フィーネの声はクリスタへと届かなかった。

『あー……インカムの調整ができないのかな。ジャニス?』

『大丈夫、今やり方教えてるから……そうそう、うん、それでオッケー』

冷静さもどこへやら、なんとなく下の時に近いクリスタの声に、遠く離れたジャニスが反応する。それから数秒後、ようやく小さくノイズが響き、フィーネの声がクリスタの耳に届いた。

『もしもし?聞こえていますか、マーズ大将』

『うん。なんでこの回線にしたの?』

『フラムとレイの応援や何かが聞こえてきて、あまり集中できそうにないので。撃墜されたんですし、2人とも、死人に口無しですよ』

最後の言葉は、降下を始め、フィーネの目下に居た2人に言うように下を向いて放った言葉だった。

『そう……で、君は一人でいいの?』

再び冷静さを取り戻したクリスタの問いに、フィーネは苦笑しながら答える。

『ジャニスが、最後に一対一の場面になった時でないと戦わないと言っていますから。ジャニスの方が大将との付き合いも長いのでしょうし、ここは言う通りにしようかと』

『なるほど。君、やっぱり度胸あるよね』

『そうでもありませんよ。もう一つ、理由がありますし』

『それは?』

フィーネが、神官に罪を告白するかの如く胸に手を当て、普段浮かべている、人を見透かしたような微笑を浮かべて言った。

『私、自然にこういう場面になることに憧れてたんですよ……扶桑で言う所の、タイ人間ですね』

『……どういう意味?』

『多分、タイマンのことかな』

『そうそう、それです』

ジャニスの注釈に頷くフィーネを見て、苦笑いのような複雑な表情を浮かべるクリスタ。一度俯いてから顔を上げ、顔の前に垂れた銀髪を左右に掻き分けて機関砲を構える。

『君と話してると力が抜けそうだ……早く始めよう』

『それでは、遠慮なく』

そう言い、フィーネが機関砲を両手で持つ。そして、クリスタに背を向け、後方へと飛んでいった。自分の方向へ向かってくるかと勝手に想像していたクリスタは、一瞬意表を突かれたものの、すぐさま追跡を始める。

『うわー、速いなぁ……この模擬戦が終わったら詳しく調べさせて頂けませんか、その機体』

全速力で離れているにも関わらず、あっという間に距離を縮めてくるクリスタを見て、フィーネが言う。

『残念、私専用のカスタム機だからそう簡単に見せられないんだ。もし私が負けたら見せてあげてもいいよ』

『それでは諦めた方が得策でしょうか、っと!』

巡航している状態から半ば無理矢理気味にホバリング姿勢になり、追ってくるクリスタに正対するフィーネ。ぐんぐんと大きくなるその姿に機関砲の照準を合わせ、一度斉射するが、あっさりと最低限の動きで回避される。

『悪いけど、ジャニスとやりたいから早く終わらせてもらうね』

『それは有り難い、私も長期戦は苦手なもので』

それからも数度射撃を行うが、どれもクリスタには予測されていたようで、一瞬の確認で全て避けられ、距離が縮まっていくばかり。

『うーん……やはり私では無理なようですね。ジャニス、後は任せました』

機関砲を下ろし、諦めたようにフィーネが言う。その様子を油断せずに眺めていたクリスタだったが、既に回避も不可能なほどの位置まで来ていたため、フィーネの胴体に狙いを付け、短くバースト射撃を行う。

『案外、つまらない終わり方だったね……っ?』

そう言いながらフィーネの右を通り過ぎていくクリスタ。だが、回頭するとそこにフィーネの姿は無く、クリスタが驚きで目を見開く。

『さっきのは、嘘です!……っ、今のを避けますか!』

背後からの声が聞こえるやいなや即座に降下し、前方にくるりと一回転するクリスタ。両足の間から覗く空に、ペイント弾の奔流が一筋の線を描く。

エンジンを全開にし、一気に位置を変えるクリスタ。首を僅かに振り返らせると、フィーネが射撃をしながら追ってきているのが目に入った。

『君、固有魔法使ってるよね?それなら、私もちょっと使わせてもらうよ!』

『それは、御免被りたいですね!』

クリスタが支配(ドミネーション)を発動させ、背後から飛んでくるフィーネの射撃を一切振り返らずに躱す。が、その回避機動にはアナ達4人に追われていた時のような余裕は無く、かなり複雑なものだった。

「隊長が押されてるなんて、そんな馬鹿な……」

クリスタが追われる光景を地上で見ていた東雲が、愕然とした表情で空を見つめていた。

「……今朝の会話を盗聴していたのなら、覚えているのではないですか?ボイド中尉がなんと言っていたか」

カニンガムが横を振り向いて東雲の顔を見ながら、普段通りの無表情で、しかしどこか勝ち誇ったように言う。

「彼女は切り札(ジョーカー)だと」

(「原理はよくわからないけど、あの子の固有魔法は恐らく高速で動く能力……それでさっきのを回避したんだ……だったら!」)

決心したように振り返り、アナに追われていた時のようにホバリング姿勢になるクリスタ。そして、手に持ったFM61をフィーネに向けて乱射する。

『さあ、今度はそっちが避ける番だよ!』

乱れる銃口から放たれた無数のペイント弾の嵐の中を、空中にステップを踏むダンサーのようにすり抜けるフィーネ。そのままじわじわとクリスタに接近していき、大きく左にターンする。

そこで遂にクリスタの狙いを振り切り、猛烈な速度で逆にクリスタへと銃口を向けるフィーネ。

『貰った……!?』

しかし、その視界に写っていたクリスタの速度は、既に通常の速度に戻っており、フィーネのターンに合わせてクリスタが振り回したFM61に銃口を弾かれる。

『そこに来るって、思ってた!』

そして、ガラ空きになった顔面に指鉄砲を突き付けられ。

『バーン!』

引き金を引かれた。それでもフィーネは食い下がらず、クリスタの手を払いのけて機関砲を構えようとする。

『……ですが、まだ!』

『おっと、待った』

しかし、今度はその顔の前に手のひらが向けられ、フィーネはぐっと動きを止める。

『……どうしました』

『もう終わりにしよう、当初の目的はもう果たせた……私も弾切れになっちゃったし、十分じゃない?』

クリスタの言葉に、フィーネがふうと息を吐く。そして体から力を抜き、構えかけていた機関砲をゆっくりと下ろす。

だが、未だにどこか不服そうな表情を浮かべているフィーネに、クリスタが言う。

『私の機体、見せてあげるからさ』

それがまるでマジックワードであるかのように、その言葉でフィーネの表情が明るくなる。

『ならいいです』

 

 

 

「いやはや、隊長があそこまで追い込まれるなんて思いもよりませんでしたよ」

「フィーネ中尉、正式にウチに来ない?私のストライカー以外も、色々見せてあげられるよ」

「い、今はもう私達の仲間ですから!」

格納庫内に集まった7人の前で、戦闘を始める前に戻ったかのように明るい笑顔を浮かべたクリスタと、東雲が言う。クリスタの豹変ぶりに若干戸惑いつつも、言葉を遮るようにフィーネの前に出るフラム。

「冗談冗談、本気じゃないよ……そうだ、そろそろ時間も時間だし、お昼をご馳走になりたいな。頼めるかい」

「待った、先にお風呂入らない?皆汗かいただろうし、塗料も落としたいでしょ」

ジャニスの提案に空戦を行った5人が賛同の声を上げ、自然にクリスタに視線が集まる。

「じゃ、そうしようか。いいよね、シノ?」

「いいですね。私はエレノアさんとアリシアちゃんを呼んできますから、皆さんは先に行っていて下さい」

「そうと決まれば、早速行きましょう!」

東雲が促し、レイが意気揚々と先陣を切ったので、その場にいた全員がぞろぞろと浴場へと向かい始める。

ふと、その一団の最後尾を歩いていたクリスタにジャニスが近寄り、話しかける。

「どうだった、戦ってみて」

「皆、十分に高水準に感じたかな。栂井少尉は正直微妙だったけど、彼女は治癒が役割なんだろう?だったら、あれくらいでも及第点さ。みんな仲が良いし、いい部隊じゃないか」

「……ふーん」

認めたような口ぶりのクリスタの言葉に、どこか適当さが漂う返事を返すジャニス。

「ま、難しい話は後にしようか。普段から風呂入ってる?」

「最近は忙しくて入ってないけど、シノに勧められたのがきっかけで去年くらいから入るようになったかな。ここの風呂は大きいといいんだけど」

「そこは問題ないよ。生半可な銭湯より広いから安心して。それに……」

「それに?」

ふふふ、と自分を見て不敵な笑みを浮かべるジャニスにクリスタが聞くが、ジャニスは「すぐにわかるよ」としか答えなかった。

それから数分後、クリスタはジャニスの笑みの意味を理解するのだが────それはまた、別の話。




最後にある通り、クリスタたちとの話は本編とは別に、外伝として投稿したいと思います
本編のように定期的な投稿にはならないため、また気長に待っていただけると嬉しいです
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