ですが10月からは受験勉強も相まって更に投稿ペースが落ちます
可能な限り投稿は続けますが、最悪来年の2月ほどまで不定期かつ長ローペースになると思いますので、待っていただけると嬉しいです
夏も終わりが近づいたある日の深夜、場所は千歳基地の食堂。長机を挟み、2人のウィッチが座っていた。2人の前には、所々に泡のついたコップに、500mlの様々な酒の缶が十本に満たないほど置いてある。
「もう、寝る……」
胡乱な目つきでコップを眺めていたアナが唐突に呟いたかと思うと、腕を枕にして机に突っ伏した。その寝顔は薄く紅潮しており、少なからず酔いが回っているようだった。
「すぅ……かぁ……」
「ありゃ、もう寝ちゃったの」
厨房の奥から湯気が上がる中ぶりな皿を持ってきた游隼が、静かな寝息を立て始めたアナを見て言う。
「そのようですね」
「オラーシャの人はお酒に強いイメージあったけど、アナは意外とそうでもないよね。若いからかな?」
ジャーマンポテトの乗った皿と箸を一膳、カニンガムの前に置き、アナの隣に腰掛ける游隼。普段うたた寝をする時も難しい寝顔のアナが頬を緩ませ、口を開けて眠っている様子を、しばし見守っていた。
「そういう体質の方もいるということでしょう。私は、毎度のことながら李大尉がまるで平然としていることの方が意外です……」
「そんなに沢山呑んでないからね。ま、一番年長者でもあるし?」
「まだ20歳でしょう。まだ戦って貰わなければいけませんし、簡単に引退なんてさせられませんよ。本当に……」
ジャーマンポテトをつつきながら言うカニンガムの目は、眼鏡の奥で少しだけ眉尻が下がっていた。珍しくぼやくようなカニンガムの発言に、対面から顔を覗き込む游隼。
「……カニンガム、酔ってない?」
「だから言っらじゃないですか……同じくらいのんでるのに、なんでそんなに平然としてられるんですか?わかりません……」
俯き加減にそうぼやくカニンガムが、まだ半分ほど残っていたコップの中身を一気に飲み下した。そして、勢いよく空になったコップを机に置き、倒れ込むように体を前に倒す。
「おっとっと……今日はこれでお開きかな」
急いで反対側に回り込んでカニンガムの体を支え、優しく机にもたれかからせる游隼。2人が残した缶の酒を飲み干していると、食堂の扉が開き、ジャニスが現れた。
「やっ、游隼」
「……残念ながら、今日の飲み会はちょうど終わりましたよ」
游隼が指した2人が寝ているのを見て、ジャニスが声を出さずに楽しげに笑う。そのまま、流れるように游隼の席の前の箸を取り、まだ湯気が立ち上っている皿を指す。
「すっかり潰れちゃってるねぇ。あ、このジャーマンポテトもらっていい?起きてたらお腹空いちゃってさ」
「いいよー……そういえばジャニス、誰と当番だったっけ。あ、フィーネか。ちゃんとやってる?」
この週の夜間シフトはジャニスとフィーネの2人であり、フィーネが夜間シフトに入ったのは、最初に説明のためにアナと組んだ時以来だった。
「うん。ま、今は交代で寝起きしてるだけだからなんとも言えないけど、そこまで緊張もしてないみたいだし、いつも通り大丈夫だと思うよ……ん〜、やっぱり美味しいねぇ。お酒飲みたくなってきちゃった」
ゆっくりとチューハイの缶に伸びてきたジャニスの手を軽くはたき、缶をまとめて持っていく游隼。
「ダメダメ。法律により、18歳未満の方の飲酒は禁止されています。これ、全部空き缶だし」
「ちぇ〜。じゃあ水ちょうだい!」
「はいはい、了解っと……うわっ、停電?」
悔しげに手を振り上げるジャニスに、新たなコップに水を入れて持っていく游隼。と、次の瞬間、食堂の照明が消える。
「そうっぽいね。食べにくい……」
「何かあったのかな……まあ、とりあえず2人を部屋に移そう。手伝ってジャニス」
眠っているアナの手を取り、力が抜けた体を肩にかけて持ち上げる游隼。余った片手でスマートフォンを取り出してライトを起動し、出口までの道を照らす。
「ん。これだけベロベロだと、游隼のとこに寝かせた方がよくない?私は談話室で寝るから、游隼が私の部屋で寝なよ」
片手でおぶったカニンガムを支えつつ、食堂の扉を開くジャニス。游隼が出たタイミングで扉を閉じ、話す。
「そうさせてもらおうかな……2人いっぺんに飲んで潰れちゃったことは無かったから、こういうのは初めてだよ」
「フィーネが来て余裕が出来たからねぇ……それにしても真っ暗だ。基地だけじゃないのかな、停電」
「地震なんかは感じなかったし、発電所に何かあったとか?事故とか、ネウロイは……先に警報が鳴るか」
窓の外の電灯が消えているのを見て、担いだ2人を部屋に連れていきながら話す游隼たち。周囲の明かりは、緑色に光る非常灯のみだった。
「よい……しょ」
「よっこいせ、っと」
部屋に着き、それぞれのベッドにアナとカニンガムを寝かせる2人。アナとカニンガムはベッドに力なく横たわると、もぞもぞと体を動かして枕に頭を置き、再びすぐに寝息を立て始める。
「ふぅ。いやー……それにしてもおっきいこと。制服越しだってのに、すごい感触だったわ。レイが夢中になるのもわかる気がする」
その柔らかさを思い出すためか、両手で虚空を掴むような動きをするジャニス。それを見ながら、游隼が苦笑いを浮かべる。
「……来たのがレイじゃなくて良かったよ」
「本日未明の午前1時24分頃、豊富町上空8500m地点にて、大規模な磁場の乱れが観測されました。発生地点から半径220kmの円範囲内の変電所あるいは発電所が故障し、その結果停電が多発しているようです。また、発生地点から50km以内の円範囲では、直接電子機器の故障が観測されています」
翌朝、ブリーフィングルームに集まった6人の前で、カニンガムが説明する。普段持っているタブレットはその手に無く、代わりに書類が挟まったクリップボードを持っていた。
「原因は不明ですが、乱れが発生する直前、発生地点付近に一体のネウロイが確認されています。今朝、我々に再度磁場の乱れを起こされる前にそのネウロイを撃破する任務が下されました」
「磁場の乱れねぇ……EMPみたいなもん?ま、ネウロイが通信の妨害をすることもあるんだし、そこまで珍しくもないような気がするけど」
「問題は規模ね。ここまで広範囲に影響を及ぼされちゃ、普通のネウロイの相手も面倒になるわよ」
「だから早々に倒せってことだよね。変電所を直すたびに壊されて、停電が続くのも困るし」
どこか気軽なジャニスに、フラムと游隼が重ねて言う。
「ネウロイを捕捉できているということは、レーダーシステムは無事なんですか?」
「50kmより離れていたものがまだ正常に稼働できているようです……目標は豊富町上空から25km南下し、現在は天塩町上空にいるとのことです」
フィーネの問いにカニンガムが頷きを返し、クリップボードの書類を捲って答える。そのフィーネの後ろで、腕を組んで首をひねるジャニス。
「うーん……しっかし、どういう原理でEMPを発生させてるんだろうね。そう簡単に出来ることじゃないと思うけど」
「……それ自体がよくわからない存在の能力に原理を求めるのは、野暮だとは思うけど」
2人ずつ縦に3列に並んでいた中、最後列の游隼の横にいたアナがしかめ面で言い、言い終わるのと同時に頭を伏せる。
「まぁ、戦うときに厄介じゃないんなら何でもいいけどさ。近寄っただけで、AEDみたいな効果が出て死んじゃったりしなければ」
「そんなネウロイだったら怖いですね……」
ジャニスの言葉に、隣で身震いするレイ。が、正面にいたカニンガムが手を振ってそれを否定する。
「密着しない限りは影響は無いでしょう。それに、恐らくAEDは磁場とは無関係かと」
「……それじゃ、さっさと行ってさっさと倒すわよ!総員、出撃準備!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
「カニンガム、目標の位置は変化してない?」
『いえ、低速ながらも移動をしています。現在地は海上、天塩町の南西20km地点です』
「海……」
カニンガムからの報告を聞き、数日前の出来事を思い出したのか表情を曇らせるレイ。
「……全く、嫌な仕事押し付けてきたもんだよね、
「あの4人だけでも不可能じゃなかったよね……でも、もし万が一ネウロイを逃がした時のこと考えると、私達も加えて盤石にしたい気持ちもわからなくないよ」
「けど、目の前で……」
レイに振り返って吐き捨てるように言うジャニスに、游隼が声をかける。それに反論しようとジャニスが口を開くが、更に何かを言いかけた所で言葉を飲み込み、憮然とした表情で正面に向き直る。
「……私は、あいつらの脅威度がちゃんと認識できたことは良かったと思ってる。やり方はどうあれ」
「私もよ。ネウロイの力、そしてそれを利用しようとする者の悪意がね……ツガイ、あれを見てもまだ、あなたはあの子を救おうと思うの?もう、人間として助からないことになっていたとしても」
冷徹なフラムの問いかけに、レイ共々全員が口をつぐむ。しばらくの間、晴れ渡った青空を飛ぶ6人の間に甲高いエンジン音だけが響いた。
「……うん。私は、あの子を助けるよ。もし手遅れだとしても、出来るだけのことはしたい。それが、私の、ウィッチとしての使命だから」
力強い宣言で、6人の間に広がっていた静寂を打ち破るレイ。それを聞いていた全員が、その言葉から、以前と変わらぬ決意を感じていた。
「……ま、そう言うとは思ってたけどね。あんた、時々すっごく頑固だし」
やれやれ、と肩をすくめる動作をしながら、幾分か穏やかな声で言うフラム。その返しを受け、レイが憤慨したように答える。
「そんなこと、フラムちゃんにだけは言われたくないよ!」
「なんですってぇ!」
レイのしっぺ返しに、わざわざ先頭で振り返り、怒りの表情を見せるフラム。それを見ていたフィーネがクスクスと笑い、前を飛んでいたアナに近づいて耳打ちをする。
「……レイ、なかなか言えてますね」
「うち一番の石頭に言われたら、ああ言い返したくもなるよ」
「ちょっとそこ!聞こえてるんだけど!」
喧々諤々と言い争いをしていたフラムが、首を勢いよくフィーネ達に向けて叫ぶ。「おっと、失言」と言ってフィーネは編隊の元のポジションに戻り、アナはそっぽを向いて口笛を吹くことで誤魔化すような素振りを見せる。
一連のやり取りを聞き、難しい顔で正面を眺めていたジャニスの頬も、いつの間にか緩んでいた。
『目標との距離、約3マイル。高度、27400フィート。周囲20km圏内に、他のネウロイの反応はありません』
それから数分後、カニンガムが静かに告げた。
「また電磁場を乱される前に速攻で片を付ける……と言いたい所だけど、最初は少し出方を見ましょう。どんな攻撃をしてくるかわからないし」
「……静止しているということは、侵攻してきて直接攻撃するようなタイプでも恐らくないでしょうからね。推測に過ぎませんが」
「……そういうこと」
フラムの言葉の途中でフィーネが口を開く。それはおおよそ思い浮かべていた通りの内容だったようで、頷くフラム。
「見えてきましたね」
雲を抜けた6人の視線の先で、空にあいた穴のように黒い球体が浮かんでいた。それは水平方向に回転しているようで、ジグソーパズルのように表面に走った規則的な亀裂が移動していた。
「いい?攻撃を仕掛けても構わないけど、向こうが攻撃して来るようなら、可能な限りよく見て防いで!……それじゃ、全機散開!」
「一番槍は貰ったよ!そらっ!」
游隼が左旋回で回り込みながら一気にネウロイへと接近し、攻撃を仕掛ける。ヴォォォ……という唸り声と共にFM61から放たれた弾丸は、回転を続けるネウロイへと伸びていき、着弾する。
「よっし……って、当たってない!?」
しかし、確かに弾丸が命中した筈のネウロイの黒い表皮には一切の変化が無い。それを見た游隼が唖然の表情を浮かべ、再び距離を取る。
「どうなってんのかな、あのネウロイ。完全に当たったと思ったけど、そうじゃないみたいだし」
游隼やネウロイをわずかに見下ろす高度にいたジャニスが、首を捻りながら言う。
「私も少し試してみる」
「ん。気をつけて」
ジャニスの声を背に受けながら、降下していくアナ。球体の近くで止まり、亀裂同士の隙間を狙って射撃を行う。が、その弾丸も再び届かなかったのか、ネウロイの表面にはなんの変化も起きない。
「変化は無し、か。なら、これは」
アナが空を蹴るように足を振り回し、ウェポンベイからミサイルを放つ。白い尾を引いて直進したミサイルがネウロイに直撃し、爆発。
「駄目か」
爆炎と煙が晴れるが、ネウロイは依然として真っ黒なままで、傷一つすら付いていないようだった。
「……皆、一旦私の所に集まって!」
アナの攻撃を見届けた上でフラムが呼びかけ、5人が集合する。
「さっきのでわかったけど、当たってすらいないね。ミサイルの破片の一つも」
「シールドみたいなのを張ってるとか?でも、それっぽい何かは見えなかったし、爆炎と煙はそのままだったしね……」
アナの報告を聞き、游隼が顎に手を当てて言う。
「フラム、全員で同時に攻撃を仕掛けてみない?もし游隼の言う通りにシールドがあるならその穴や隙間を突けるかもしれないし、このままバラバラに攻撃してても埒が明かないよ」
「……そうね、向こうもまだ動く気配は無いし。じゃあさっきと同じような位置で、全方位から攻撃を仕掛けるわよ!散開!」
フラムの支持通り、集まっていた5人が再び上下バラバラに散り、ネウロイを取り囲むような位置についた。
「じゃあ行くわよ……3、2、1、ゴー!」
フラムが手を振り下ろすのを合図にして、6人が一斉に射撃を開始する。上下左右、様々な角度から放たれた無数の機関砲弾とミサイルが空を舞い、悠然と漂っていたネウロイをすっぽりと爆発と黒煙が包み込んだ。すると、着弾とほぼ同時に6人のHUDに表示されていたネウロイの反応が消える。
「やった!」
『いえ、まだです』
歓声をカニンガムの冷静な声が否定されたことで、レイが首を傾げる。
「え?だって、HUD上からは消えてますよ」
『ネウロイはまだ皆さんの目の前に存在しています……警戒を、微弱ながら電磁場の乱れが観測されました』
「うわっ、とと」
フィーネがバランスを崩すほどの強風が6人の間に吹き、もうもうとネウロイを包んでいた煙を押し流す。するとそこには、全く損傷のない、攻撃前と変化していないネウロイが浮かんでいた。
「……うわーお」
更に、損傷が無かったこと以上に6人の目を引く出来事が起こる。規則的な亀裂が走っていたネウロイの表面が剥がれたように浮き上がったのだった。その下には一回り小さい球体があり、浮き上がった表面はさながらその球体を守る盾の役割を担っていた。
「な、なんか早くなってません!?」
『乱れが拡大しています』
それだけに留まらず、浮かび上がった外装ごとしていた回転の速度がぐんと上がる。約10秒で一回転していた攻撃以前と比べ、既に1秒間に数回転するほどまでにネウロイは加速しており、明らかに異様な雰囲気を醸し出していた。
「全員距離を取って……攻撃に備えて!」
高速回転を続けるネウロイが白光が放ち始めたところでフラムが鋭く叫び、全員が後退しつつ片手をネウロイへと向ける。展開されていた外装が呼吸をするように小球体の周りから分散し、そして、再度猛烈な勢いで球体へと合体した。
次の瞬間、音もなく白い光の膜がネウロイから放たれ、6人へと迫る。それぞれが、目を閉じる、片腕で目を覆うといった方法で光から目を守りながら、藁にもすがる思いでシールドを張った。
「…………みんな、何とも、ない?」
閃光が拡がった数秒後。恐る恐る腕を目元から除け、自身の体を見下ろして異常のないことを確認しながら、ジャニスが聞くが、ノイズ音だけがジャニスの耳に届いた。
ネウロイは視界に入っていたものの、回転速度や外見が攻撃以前に戻っていたことから、ジャニスは仲間の安全確認を優先していた。すぐさま自分の上方にいたアナを向こうと同じタイミングで発見し、互いに接近する。
「返事がないから一瞬焦ったけど、インカムが壊れただけみたいだね」
「こっちも。とりあえず、フラムのとこに集まろっか」
「うん」
ジャニスはそのままアナとフラムの下へと飛び、散開していた残りの3人も集まった。
「どうする?」
「撤退しましょう。インカムやHUDも壊れたし、恐らくさっきのが電磁場の乱れなんでしょうけど、もう一度喰らってストライカーに影響が出ないとも限らないわ」
ジャニスに聞かれ、当然であるかのようにフラムが答える。事実、インカムだけでなく、全員のHUDに映像が映っていなかった。
「私達の体にも、ね。心臓が止まらなくてよかったですねえ、レイ」
「本当ですよ!どうなることかと思いました……」
フィーネのからかいに、真面目な表情で安心したように溜息を吐くレイ。
「とにかく、今は基地に戻るわよ……対策を練らないと、あいつには勝てない」
口惜しげにそう言ってフラムが来た方向へと引き返し、5人もそれに続く。
「あのネウロイは強力な磁場を形成し、広範囲に放出する他、弾丸や金属の破片を受け止めることによって自身を守っている、と推測されました。攻撃が効かなかったのはその為でしょう」
帰還した6人の前で、カニンガムがクリップボードの書類を捲って言う。
「弾が直接当たっていないんだったら、魔法力もまともに届かないよね。傷がつかない訳だ」
「感心してる場合じゃないでしょ!私達の魔法じゃ、あの装甲を突き破ってコアを攻撃できないよ」
暢気な口調のアナに、游隼が慌てた様子で言う。が、同じく暢気な口ぶりのジャニスがカニンガムへと顔を向けて言った。
「カニンガムのことだし、対策の1つや2つ考えてるんじゃないの?」
「はい。現在、小牧基地に隣接されている工場のF-15Fの2機がFSI仕様へと改修作業中のようで、作業が完了し次第こちらに回して貰えることになりました。その機体にGBU-28を1発ずつ搭載し、ネウロイを攻撃します」
カニンガムの案を聞き、レイを除いた全員が感嘆の溜息を吐く。
「なるほど、バンカーバスターなら効果はあるかもしれません。ですがそれらの作業、少なからず時間を要するのでは」
「そう何日も待ってられないわよ。今までは運良く他のネウロイが来てないからいいけど、2、3日もそう幸運が続くとは限らないだろうし」
「小牧基地の見積もりによれば、約9時間後にはこちらに到着できる予定のようです。私からは、以上です」
フラムとフィーネへのカニンガムの返答に、アナがちらりと腕時計に目をやる。黒地に金の数字が入った文字盤は、10時になるほんの少し前の時刻を指し示していた。
「7時過ぎ。もう暗くなってるね」
「あれだけ光ってればすぐ見つかるよ。他のネウロイが来ても、私達がF-15を守ってればいいんだし」
「……じゃあ、1900時に全員格納庫に集合。それまでは自由時間だけど、各自で装備は万全にしておくように。あとは、一応身体検査も受けておいて。それでは、解散!」
「それにしても、FSI仕様機を2機も回してもらえるなんて運が良かったですね。確か、今はまだ東京のあたりにしか配備されてない筈でしたし」
ブリーフィングルームから出、どこへともなく歩き出したレイが、横を歩いていたフィーネに話す。
「珍しいですね、レイが軍事用語を理解をしてるなんて。バンカーバスターも何かよくわかっていないんでしょう?」
「F-15のことだけは例外なんです。武装まではわかりません!……あいたっ」
何故か得意げに胸を張るレイの後頭部に、フィーネと反対側を歩いていたジャニスがチョップする。
「自慢できることかい。わからない時は聞いてくれれば教えてあげるけど、もう少し自分でも覚えなよー」
「はーい。ジャニスさんとフィーネさんはこの後どうするんですか?」
「今日は天気が良いですし、お昼ご飯まで外で寝るつもりでした」
廊下の窓から燦々と降り注ぐ日光に目を細め、フィーネが言う。2人もそれを聞いて顔を見合わせ、頷いた。
「うーん……私もそうしようかな」
「私もご一緒します!」
にこりと笑顔を浮かべ、窓の外を握った手の親指で指すフィーネ。
「いい場所があるんですよ。案内しましょう」
「コンクリートでも6m、地中なら30m貫通……でも、上手くいくかなぁ……」
暗青色の空を飛ぶ2機のF-15に搭載されているGBU-28を見ながら、游隼が小声で呟く。
「もし上手くいかなかったら、本格的にエレノア中尉とかの攻撃型の固有魔法の使えるウィッチを連れてくるしかないのかな……」
「今回の作戦が通用しないレベルなら、その選択肢もあり得るかもしれないけど」
心配そうな表情の游隼に、正面を向いたままアナが返す。その会話を聞き、2人の目下、厚い雲の下を飛んでいたジャニスが話に加わる。
『攻撃型の魔法の替わりになるように、機関砲とかミサイルが発展していったのでしょうに』
「この対応方法は流石に予想外だと思う」
『バンカーバスターの設計者も、電磁場を無理矢理貫通する使い方は予想外じゃない?』
『言えてるわね』
ジャニスの面白がるような言葉にフラムがくすりと笑いながら返し、少し遅れて咳払いをする。
『ネウロイまでもうすぐよ。ボイド、しっかり誘導を頼むわね』
『はーいはい。ま、ちょこまか動き回るんじゃないんだから、こいつで捉えるのも楽だね』
ジャニスがストライカーをぽんぽんと叩いて言う。作戦の概要は、先遣隊としてジャニス・フラム・レイ・フィーネがネウロイに接近して気を引き、游隼・アナの護衛するF-15FSIの2機が、F-35ストライカーに搭載されている誘導システムを用いてGBU-28をネウロイへと命中させるというものだった。
『目標までの距離、2マイル。高度23000フィート。現在、周囲20km圏内にネウロイの反応はありません』
『では円山大尉、発射のタイミングは一任しますね』
カニンガムの報告を受け、フラムがF-15のパイロットへと声をかける。
小牧基地から運ばれてきたF-15FSIの片割れに搭乗していたのは、203部隊でも実力を認められている隊員の一人であり、対地攻撃の経験もある円山大尉だった。もう1機に搭乗する石井中尉も、対地攻撃に長けているベテランである。
《了解です、ローズキャリー大尉》
大尉の声は低く落ち着いており、不安や緊張感は一切漂っていなかった。返答を聞き、一つ頷くフラム。先遣隊の4人が厚い雲を突き破り、雲同士の隙間に出ると、そこには発光する球体が浮遊していた。
『来たわね……ボイト、誘導開始!ツガイは右、フィーネ中尉は左に着いて!私は後ろに回り込む!』
『『『了解!』』』
2人と一緒に散開し、自身もネウロイへと接近するフラムを尻目に、ジャニスがホバリング状態でヘッドセットの横のボタンを操作する。すると、ストライカーの主翼の付け根付近に付いていたレーザー誘導装置が稼働し、レンズがネウロイの上部中央を捉えた。
《ネウロイの捕捉を確認。投下準備を開始します》
大尉が冷静に言うと、ネウロイが外装を展開し始めた。回転速度が上がり、白い光の光度が少しずつ高まっていく。それを見て、4人が息を呑む。
『くっ、こっちの作戦もお見通してってことかしら!』
《3……2……1……投下》
短いカウントダウンが終わり、F-15FSIから小さな投下音と共にGBU-28が放たれる。ネウロイの上空約10000メートル、F-15の実用限界ギリギリの高度から放たれた鉄槌は、位置エネルギーによってぐんぐんと加速していく。
『F-15はアレを受けても飛べるんですか!?もう……』
『耐えられても一度が限界だった筈です。それ以上は飛行に支障が出ます!』
『大丈夫、間に合う!』
『3人とも後退!爆発に巻き込まれたらひとたまりもないわよ!』
フラムの叫びに、フィーネとレイが慌ててネウロイから距離を取る。高速で回転するネウロイはライトのように夜空で輝き、ウィッチだけでなく、上空から飛来するGBU-28すらも照らしていた。
装甲が大きく分散した後、合体するのとほぼ同じタイミングでネウロイにGBU-28が命中。大爆発が発生する。その光景を上空でギリギリまで眺めていた游隼は、爆発の直前、昼間と同じように白い光が放出されるのを見ていた。
「カニンガム、ネウロイは?ってダメだ、インカムが壊れてるんだった!アナ?」
白い光をやり過ごした游隼が叫ぶが、耳に流れ込むのは雑音ばかり。アナに目をやると、苦々しい表情で下を見ながら呟いた。
「……ネウロイは、まだ生きてるみたい」
游隼も目下の空を見ると、そこには確かに球状の白い光が浮かんでいた。途端に、游隼の背中に冷たい汗が生じる。
「ど、どうしよう?」
「そんなの決まってる。もう一発落とす」
多少なりとも焦っているのか早口で言い、機体を傾けて下を眺めていた石井中尉のF-15のキャノピーへと接近するアナ。機体が動かせていることに一瞬安堵する游隼だったが、すぐさまアナを追う。
「どうやって誘導するの?」
「目視で」
「そんな、無茶だよ!」
「百も承知。それに、游隼にも手伝って貰う」
「えぇ!?」
背中からかけられる游隼の声に答えつつ、コクピットの中尉にジェスチャーで何かを伝えようとするアナ。そして無事に何かが伝わったのか、2、3度頷き、主翼下部に搭載されていたもう一発のGBU-28の下につく。
「游隼、今から
「……わ、わかった!いくよ!」
アナのあまりに無茶苦茶な内容の叫びを受け、游隼の思考は僅かな間停止したが、すぐにその頼みを理解し、コクピットの横へと移動する。ヘルメットのゴーグルを上げていた石井中尉に指を3本立てて頷き合い、1本ずつ指を曲げる。
「3!2!1!今っ!」
そして、最後の1本が曲げられたタイミングで、F-15からGBU-28が投下される。それを、重量挙げの選手のように両の二の腕で受け止めるアナ。
「くぅっ……!」
しかし、GBU-28の重さは約2.2トン。いかに人並外れた膂力の持ち主であるウィッチであっても、その重量は軽いものではない。ぐらりと体が前に倒れ、そのまま落下していく。
「アナ!」
「いや、これでいい……!」
GBU-28をしっかりと両腕で抱きながら位置を調整し、一緒に直下の発光体へと落ちていくアナ。その落下速度は、つい先程投下された1発目よりも圧倒的に早かった。
(「位置エネルギーに、私のストライカーと『加速』で運動エネルギーを上乗せする……さっきは電磁場の乱れと同時だったから落とせなかったのかもしれないけど、これならいけるはず……!」)
狙い通りにぐんぐんと加速し、降下していくアナ。音の壁を突き破り、風に流されないように位置を調整しながら、ネウロイへと突撃する。
「喰らえ!」
音のない世界で、ほんの小さな光からあっという間に巨大化したネウロイに、槍投げの選手のようにGBU-28を真っ直ぐに投げつけるアナ。軽くなった体を捩り、ギリギリでネウロイの横を通り過ぎた瞬間、アナの背後で2度目の大爆発が起きた。
強烈な力の奔流からは逃げ切れず、アナの体がぐらぐらと揺れ、きりもみのような状態に陥る。「加速」を解除し、速度を落としながら、なんとか体勢を安定させるアナ。間髪入れず、今しがた横を通り過ぎたネウロイのいる空を見上げる。
そこでは、バラバラにちぎれた球体の欠片が、高速回転していた時に劣らぬほどの白い光を放ちながら、虚空に消えていた。
「ふ、ぅ……」
それを見て、安心したように俯いて深く息を吐くアナ。そして、上空から飛びついてくるであろう仲間を迎え入れるために再び顔を上げると、遥かな高空にあるものを見つける。
宇宙の手前を優雅に漂う緑色のカーテンは、同時にどこか神秘的で、実物を初めて見たアナは思わず呟いた。
「オーロラだ」
────後日、その日北海道の様々な地域でオーロラが観測できたのは、ネウロイが電磁場を乱した影響であることが判明。大規模な停電で暗く沈んでいた人々の記憶に、確かに強く残ったのだった。
前書きにある通り投稿ペースが落ちますので、今回話題に上がったクリスタの外伝回もかなり投稿に時間がかかると思います
ご容赦下さい