「……んー…んん……?」
ある日の昼下がり。スマートフォンの発した着信音に反応し、むくりと起き上がるフィーネ。
「ふわぁ……なんだろ……」
<フィー、元気にしてる?>
<テジャスには慣れた〜>
「先輩たち?……怪しい」
寝ぼけ眼を擦りながら愛用しているメールアプリを開くと、それはインドの先輩ウィッチ達とのグループからのメールだった。
最後にスマートフォン越しに連絡を受けた日がいつかも思い出せないような相手なだけに、眠気の覚めてきたフィーネはその唐突かつ当たり障りのないメールの内容に、どこか裏を感じていた。
『どうしたんですか急に』
『まあ元気です、テジャスにも慣れました』
<それはよかった。こっちは毎日平和なままだ>
<相変わらず、実験ばっか>
と、全体が鈍い銀色のストライカーの周囲に、フィーネと同じ制服に白衣を羽織っているという、謎のスタイルの数人が笑顔で並んでいる写真が、すぐさま送られてきた。
「ふふ……おっと、いけない」
懐かしい面々のそれにつられて笑顔を浮かべたフィーネは、すぐに表情を戻してスマートフォンを指先で叩く。
『それで、何か用でもありましたか』
『帰還命令ならしばらくは受け付けませんからね』
<そんなのじゃないよ!全然、もっと楽〜なヤツ>
<そっちにちょっとした新装備を送ったから、実戦も含めた使い勝手を確かめてきて欲しいんだ〜>
やっぱりな、とフィーネは小さくため息を吐いた。
『今度は何ですか』
<これ!>
返事と共に、三枚の写真がスマートフォンに表示される。木箱の中に細長いシルエットのなにかが写っている写真をタップしてみると、それはどうやら刀剣の類いのものらしい。
『説明してほしいんですが、これ!ではなく』
<勘の鋭いフィーネなら、もう気づいているんじゃないのか>
<何に、見える>
薄々もう自分がその装備の正体に気づいているであろうことを見越した返信に、フィーネは先輩ウィッチ達の、ある種たちの悪さを改めて認識した。
『タルワール、ですか』
<その通り!>
<やはりな>
<さっすが〜>
<勘、鈍ってないね>
『早く本題に入ってください』
『先輩達に合わせてたら日が暮れます』
全く変わっていない自分以上のマイペースさ加減に辟易しつつ、説明を急かすフィーネ。
<わかってるとは思うけど、これは普通の刀じゃないの〜>
<過去に扶桑皇国軍で使用されていたものの製法を我が軍が再現し、改良したものの試作品だ>
<使いこなせれば、フィーネの固有魔法にも適してる、はず>
『そっちで一回でも使ってみました?』
<一応、仕様通りの効果を発揮することは確かめてあるから安心して!>
<そこは実証済み、あとは実戦で使えるかどうか>
「仕様通り?効果?」
不可解な文面に疑問符を浮かべていたフィーネの耳に、かすかに大型機のものらしきエンジン音が届いた。大型機は基地に降りるらしく、徐々に重低音が大きくなる。
「ん、そういえば」
『この装備、いつ届くんですか』
<もうすぐじゃないかな?>
<昨日輸送機に積んでもらったから〜>
「じゃあ、昨日教えてくれればいいのに……」
と呟くものの、相手がそんな性格の持ち主達ではないことがわかっていたフィーネは、黙ってスマートフォンをスリープさせる。脱いでいたベルトと制服を手早く着ながら、急ぎ足で格納庫へと向かった。
「こんにちは、フィーネ中尉」
「ん、起きたんだ。フィーネも暇つぶし?」
格納庫には、先客としてジャニスとカニンガムがいた。
「こんにちは、2人とも。いえ、少し気になる品が運ばれてくるようでして」
「気になる品?」
「ほう」
「これです……よい、しょ」
首を傾げる2人を尻目に、積まれていたパーツや弾薬の入った木箱のうち、長細い箱の蓋をベリベリとこじ開けるフィーネ。
「……なにこれ?刀みたいだけどなんか曲がってるし、引き金みたいなのも付いてるし」
箱の中には、ホチキス留めされた書類の束と奇妙な刀が収まっていた。その刀は鞘が反り返っている上に、柄の先のつばの下に、銃器のそれのようなトリガーが付いており、どこか異様な雰囲気を醸し出している。
「フォルムは、扶桑刀というよりサーベルに近いですね。これが『気になる品』なのですか?」
「はい。どうやら何らかの機能があるようで、私のいた実験部隊から試験用に送られてきました。この形は、インドに古来から伝わるタルワールという刀を模したものですね」
そう言いながら、なんの躊躇いもなく刀を持つフィーネ。鞘を掴んでゆっくりと刃を引き抜くと、その刀身にはぐにゃぐにゃと奇怪な模様が入っていた。
「変わった模様だねぇ」
「ダマスカス鋼という、特殊な製法の合金が使われているからでしょう」
「ふむ……では、残るはこの引き金だけですね」
3人が全体をしげしげと眺めるが、刃の模様と形状に説明がついた以上、カニンガムの言うように謎のトリガーの他に視覚的な特徴は見当たらない。
「確かにね。これが説明書かな……えー、『試作新型近接戦闘用装備について』と。ふむふむ……」
すると、ジャニスが木箱の書類を持ち、標題を読み上げる。1枚目の書類を早々に流し読みし、2枚目の半ばほどまで目を通したところで、おっと声を上げた。
「『柄のトリガーを引くと、魔法力を吸収して刀身に集束させる機能が作動する』『また、刀身は魔法力を増幅させる機能を有する』『魔法力を刀身に集束させた状態でトリガーを離し、高速で刀を振ると、魔法力の塊を同方向に発射することが可能』……だってさ!凄いじゃん!ちょっと使ってみて……んぁ?」
楽しげに話すジャニスの手から書類を取り上げたカニンガムが全体に目を走らせ、2枚目のある点を見て眉をひそめる。
「……『注。魔法力の塊は貫通性・速度が共に非常に高く、軌道上に物体がある場合(特に屋内)の使用は非推奨』とあります。試用は構いませんが、格納庫の外で行いましょう」
「そうしますか。では……行きましょう」
カニンガムに答えたフィーネの全身から青い光が滲み出し、黄と黒の混じった虎の耳と尾が生える。そのまま格納庫の前に行き、両手で柄を握って1秒ほど目を閉じると、刀も同じように光に包まれた。
「この状態でトリガーを引く、と。おお……?」
そして、カキンと柄の引き金を引くと、刀身に刀全体がまとっていた光が集まり、青白く発光した。ゆっくりとフィーネが動かすと、刀身が幾本にも増えたかのように残像が残る。
「こりゃーほんとに凄いね……SF映画みたいだ」
一つ口笛を吹き、呆気に取られたように言うジャニス。
「本当ですね……これほどはっきりと視覚化されていると、少なからず衝撃を受けてしまいます」
こちらも興味深げに、発光する刀を見ていたカニンガムが言う。
「では、振ってみましょうか。とりあえず空に向けて振りますけど、空は大丈夫ですよね?」
トリガーを離しても光り輝く刀を、ゆらりと上段に構えて聞くフィーネ。魔導針を展開したカニンガムが、フィーネの確認に答える。
「はい。どこまでも飛んでいくのなら確証は持てませんが、恐らくそこまでの射程ではないでしょう。少なくとも10km圏内にそれらしき飛行物体はありませんので、安心して放って下さい」
「わかりました。じゃあ、行きますよ……えいっ!」
フィーネの軽い気合いと共に、刀が振り下ろされる。その瞬間、刀身の辿った軌跡をかたどったような、大きく外にカーブした青い三日月が音もなく放たれた。三日月は猛烈な速度で飛び、空に溶けるようにして消えていく。
「ひゃー……あんな速さだったら、小型相手にも通用しそうだね」
「射程は200m前後といったところですが、直接斬りつける以外に攻撃方法があるのは便利ですね。近接武器としては十分な使い勝手では」
「そうですね。使った感じでは魔法力の消費もあまり多くないですし、飛行中にも連発できそうです」
手持ち無沙汰なのか、剣舞のように刀をゆっくりと振るいながら、フィーネが言う。
「
「まだほんの少し使っただけなのですから、そう言い切るのは些か早計かと。何かしら重大な欠陥が見つかるかもしれませんよ」
ジャニスに聞かれ、冷静な回答をするカニンガム。
「長時間使うと魔法力を全部吸い取られちゃったり?」
「それは恐ろしい」
「何回も連続で使ったら爆発するとか?」
「それは危険ですね」
「ネウロイを切りすぎたら、いつの日か刀自体がネウロイを求めて空を飛ぶように!?」
「我々の仕事が減りそうですね」
「ごほん……後の2つはともかく、魔法力を吸収する機構が壊れたら、全て吸い取られる可能性もゼロではないでしょうね。刀を手放せばいいだけの話ですけど」
ジャニスとカニンガムのやり取りに、咳払いをして割り込むフィーネ。
「ええ……先程の言葉も裏を返せば、欠陥があってもその欠陥を克服できれば有用な装備になるということでもあります」
「ま、それは実戦で使って追々って感じかな。んで、これはそのままフィーネが使う流れ?」
ジャニスがどちらにともなく聞き、2人は顔を見合わせる。
「インド空軍からの任務ですし、フィーネ中尉のお好きなようにしていただいて構いませんよ」
「実験自体は他の方にしてもらっても構わないんですが……私が使いたいので、使わせていただきます。いいですよね?」
はっきりと、強い意志を感じさせる語調で言うフィーネ。それを見て、ジャニスはにこりと笑い、カニンガムも目を閉じて頷いた。
「んじゃ決まり!あ、ネウロイ倒した後とかでいいから時々貸してね〜」
「いいですよ。変な使い方をして壊さないと約束していただけるなら」
フィーネの言葉に、心外だというようにジャニスが言い返す。
「そ、そんな事するわけ無いでしょ!大体、変な使い方って例えばどんなのさ?」
ふうむ、と少し考え、フィーネが指を立てて言う。
「十数回連続で使用して爆発させたり」
「しないよ!そんな使い方も、爆発も!」
そして、その日の夜。夜間哨戒任務で夜空を飛ぶフィーネの腰には、タルワールが機械的なアタッチメントで固定されていた。
「……確か、腰に差してるのがサムライで、背中にかけてるのがニンジャだったわよね?」
腰のタルワールを指差し、フラムが聞く。事実、バックパックに懸架されている機関砲を除けば、タルワールの柄に手を置くフィーネの姿は武士のそれに見えなくもなかった。
「実際にどうだったのかは不明ですが、そのイメージが強いですね。レイの言う所では、昔の扶桑のウィッチの中には扶桑刀だけを手で持って戦場に向かう方も居たらしいですよ」
「ほんと?うーん……血気盛んな人たちばかりだったのかしら」
フィーネの伝え聞いた扶桑のウィッチの印象が意外だったのか、首を捻るフラム。
「達人揃いだったのでしょう。今ほど魔法力の研究も様々な技術も発展していなかった時代に、刀一本でネウロイと渡り合うというのは、並外れた実力とそれに裏打ちされた自信がなければ到底不可能な話です」
「なるほど……扶桑、流石サムライの国ね」
感嘆のため息をつき、得心したように頷くフラム。その耳に、軽い電子音が届く。
『お嬢様。フィーネ中尉。ネウロイの反応を検知しました。方位295、高度12000フィート。距離、97マイル。全長約22mの中型ですが、現在マッハ1.1で南南西に航行中です。予想会敵時間、7分後』
「サイズと速度から察するに、戦闘機タイプでしょうか。取り逃がすと面倒ですね」
「そうね。あのタイプは勝負を仕掛けてくるパターンが多いし、こっちから近づいて仕留めましょう!」
そう言って、HUD上のレーダーに表示された光点の方向に針路を取り、増速するフラム。
「了解」
フィーネもそれに効って増速し、フラムの後を追う。
「そろそろね……フィーネ中尉、わかってると思うけど実験は二の次、三の次よ。まずは自分が生き残って、次にネウロイを倒すことを優先して」
オホーツク海上に出たところで静止したフラムが言う。それに対し、フィーネは右手に持った機関砲を肩に預けて答えるが、すぐにそっぽを向く。
「もちろんわかっています……相手の脅威度にもよりますが。私自身、
「……ま、中尉ならその辺りの判断は任せても大丈夫か。とりあえず、私が近づいて気を引くから、中尉は隙を見て攻撃を仕掛け……ってぇ!?」
フィーネに語りかけるフラムの語尾が、突如上ずる。その理由は、2人の正面方向から猛烈な速度で物体が飛来し、フラムが咄嗟にシールドを展開してそれを防いだからだった。
「これは……長距離砲ですね。それも、実体弾の」
衝撃でシールドに貼り付くように広がった黒い物質を見て、冷静に分析するフィーネ。それを聞き、フィーネの横でHUDと正面の空とを交互に見ていたフラムが苦々しげに言う。
「遠くから聴こえるほどの発射音もない、発射した時に発光もしない、その上弾速はかなり速い……厄介な相手ね」
「攻撃を仕掛けてきたということは、相手が我々をターゲットとして認識した証左です。もう逃げられはしないでしょうし、一先ず雲の上に出ましょう」
「そうね。月の光があれば、っ!?……この弾も、もう少し見やすくなるはず!」
少しの間隔を置いて再度放たれた弾がシールドに命中したのを確認し、2人は急上昇して雲の上に出る。部分的に千切れているものの、2人の目下の海は雲の絨毯に覆われていた。
「さあ……撃ってきなさい」
フィーネと互いに距離を取り、HUDに四角く表示されたネウロイの大まかな位置を睨むフラム。すると、四角の上にあった雲に穴が空き、高速で飛来した弾が2人の間の空間を切り裂いていった。
「フィーネ中尉、今の見えた?」
「辛うじて。固有魔法無しで、至近距離で発射されて防げる確率は……良くても3割くらいでしょうか」
フラムが無線で聞きながら目をやると、フィーネは肩をすくめる動作をしながらそう返す。
「こっちも多分そのくらいね……でも、もしかしたら、避けるのはそう難しくないかもしれないわ。少し試してみたいことがあるから、中尉は下がってて。必要なタイミングで呼ぶから」
「無理は禁物ですよ」
指示に従ってバックしながら、フィーネが言う。それに、背中越しに返すフラム。
「わかってるわ」
HUD上の四角が上昇し、それに連なって2人の正面下方の雲が突き破られる。正体を表したネウロイは、フィーネの予想通り戦闘機のような容貌をしていた。それも、かなり独特な。
機首にあたる部分はフランカー系列と似た細長い形ではあるが、デルタ翼に近い奇異な主翼や斜めの垂直尾翼とエアインテークなど、機首以外の造形はむしろF-22やF-35などのステルス機のそれを感じさせる。
東西の技術や設計思想を適度なバランスで纏めあげたような漆黒の機体は、接近しつつ左に旋回する小さなシルエット──フラムを、エンジンから紫炎を吐き出して追い始めた。
(「武装、じゃなくて攻撃方法は……」)
フラムがちらりと背後に目をやった直後、両カナード翼の付け根が赤く光り、フラムの左右に二条のレーザーが伸びる。
「まあ、あるわよね……くっ!」
交互に襲い来るレーザーを紙一重で避け、急降下するフラム。旋回を織り交ぜながら雲の切れ目から切れ目に移るように動き、月光の下でネウロイの姿を補足し続ける。
(「正面にいるのに、レーザーばかりでさっきの高速弾を撃ってこない……条件は何?」)
フラムが、レーザーを回避しつつネウロイの姿を確認して考える。高速戦闘の中、フラムがそこまで思考を巡らせられることには、一つの理由があった。その理由とは、背後に迫るネウロイの機動だった。
これまでフラムが対峙してきたネウロイ達は、多くがまともな生物では到底真似できないような滅茶苦茶な機動をしていた。しかし、中には例外もあった。
存在すら不確かなネウロイの意思が働いているのか、はたまた模倣したものの残留思念でも読み取ったのか……世に実在する物の姿をコピーしたネウロイは、その模倣元の動きから大きく外れた行動をしないことが多かったのだ。
事実、フラムを追っているネウロイも高速ではあるものの、実際の戦闘機の機動に似た動きをしていた。エンジンのような部分が生んだ推力を使い、あくまで機首方向にのみ攻撃をする、という機動を。
フラムはその習性を早々に見破っていたため、ネウロイに追われながらも多少の余裕を持つことができていた。
(「一か八か……ここっ!」)
それまで降下の動きだけをしてきたフラムがエンジンの出力を全開にし、弾かれるように垂直方向に上昇。直進していたネウロイはその動きに対応できず、フラムと前後が入れ替わろうとする。
刹那。漆黒の機体の主翼上部が二箇所、六角形に盛り上がり、雷轟の如き破裂音が短く響く。次の瞬間、上昇していたフラムの背中に、2つの針のような弾丸が突き刺さる──直前で、既に展開されていた
「……やっぱりね。今まで撃ってこなかったのは、発射口が機体の上にあって、私がずっと降下して射線に重ならなかったから……中尉!」
「ドンピシャ、って感じですね!」
オーバーシュートしたネウロイに、フラムと入れ替わるように接近していたフィーネが、後方上部から機関砲を斉射する。主翼の盛り上がった部分には命中しなかったものの、機関砲弾がエンジン部に無数の穴を空け、確実に機動性を削ぐ。
「あの実体弾射撃、チャージに時間がかかるみたい!一気に攻め立てるわよ!」
「……いえ、待って!何か撃ちました!」
機体の下部から追っていた2人のいる後方へと無数の円筒が勢いよく放出され、自分たちへと向かってきているのを見て、フィーネが鋭く言う。
「あれは……子機!?もう!次から次へと、しつこいのよ!」
「私が本体を追います!フラムは援護射撃を!」
「ちょ、ちょっと待って……中尉!後ろ!」
遠ざかる機体を全速力で猛追するフィーネの背後から十数個の円筒が迫り、フラムが叫ぶ。が、フィーネは正面を向いたまま振り返らない。
「フラム、離れて!」
円筒が近づく中、そう言ってミサイルを2発放つフィーネ。小型エンジンが点灯する前のそれを手で掴み、背後にぽいぽいと投げる。ミサイルは直進する円筒の一つに命中し、発生した火球で円筒を呑み込んでいった。
そうこうしている間にも、片肺の修復を済ませたネウロイとフィーネの距離は縮まり、先程と一転してフィーネがネウロイに攻撃を仕掛ける。
バレルロールやポストストール機動を駆使して逃げるネウロイだったが、追われる立場になっては分が悪い。なんとか距離を取ろうとするのを細かく移動方向を牽制して速度を活かさせず、直接機関砲でのダメージを狙えるほどの距離まで接近するフィーネ。
そこで、何を思ったか腰のタルワールを抜刀した。左手で後方に向けつつトリガーを引き、魔法力を刀身に纏わせる。
「なっ!フィーネ中尉、なんで今そのタイミングでそれを使うのよ!?」
時折機体下部から放たれる円筒型の子機を撃墜していたフラムが、刀を抜いたフィーネを見て言う。
「私の勘が言っているからです!今に、
不規則に回避行動を取るネウロイを追いながら、フィーネが答える。その手に握られたタルワールの刀身は青を超えて白く輝いており、多大な魔法力が集約していることを表していた。
「でも、これで……」
右手だけで機関砲を制御し、ネウロイの主翼中央からエンジンにかけて撃ち抜くフィーネ。推力が生まれなくなったことで残っていた運動エネルギーが消費され、速度が急激に落ちたネウロイに、フィーネが刀を左脇の下に通す。
「チェックメイト!」
ぐるん、と水平に体を回転させ、左薙ぎに刀を振り払おうとするフィーネ。人体の構造上、一度背後に向けられた眼が再度正面に戻った時、ネウロイはそこにいなかった。
「中尉!う……」
しろ、と言うフラムの声は圧縮された時間の中で引き伸ばされ、低く濁った音としてフィーネの耳に届いた。
「残念、お見通しなんです……よっ!」
そう言って体にもう半回転を加え、トリガーを離して背後に目をやるフィーネ。背後には、ネウロイと、ネウロイが今まさに放った2本の実体弾が十分に加速した乗用車ほどの速度で、フィーネへと向かっていた。
回転の勢いそのままに刀を横に振って、2本の針ごとネウロイを切り裂くために魔法力の塊を放ち、ダメ押しと言わんばかりに縦にもう一度タルワールを振り下ろすフィーネ。刀身から滲み出した魔法力が刃へと変わり、白光する十字架のようにネウロイへと向かっていく。
(「……全く、最後の最後で『戦闘機』を捨てるとは。ネウロイらしくはありますが、潔いとは言えませんね。どうせするなら、もっと早くやれば良かったろうに」)
自分の背後に回り込んでいたネウロイに、シールドを展開しながら心の内で語るフィーネ。彼女の言う通り、ネウロイはフィーネに横一文字に両断される直前、それまで一切用いていなかったエンジン以外の推力、ネウロイ特有の現代科学では説明のつかない力によって機体を動かし、フィーネの背後に位置どっていた。
そうして、無防備な背中へと必殺の実体弾を放つ直前。時空流制御によって最後の足掻きすらも無効化され、ネウロイは斜めに十字に切り裂かれる運命を辿ることになったのだった。
訪れた制限時間によって平常の速度の世界に戻ったフィーネは、バラバラになったネウロイをシールドで受け流し、落ちていった破片にしっかりと目を凝らした。
「にネウロイが……って、うわぁ!?えっ!?……まさか、フィーネ中尉、抜刀した時からこうなるって読んでたの?」
天へと飛翔していく青い十字架と、海へと落下していく光の欠片にそれぞれ驚きつつ、フラムが聞く。それに対し、真剣な顔つきで納刀していたフィーネはけろりとした表情で答える。
「いえ?言ったじゃないですか、勘ですって」
「えっ」
「回転の最中から、時空流制御は使っていました。だって、ネウロイが背後に回り込んできていても、そうでなくても、確実に倒せるでしょう?……方法は予想が付きませんでしたが、どうにかして切り札に相当するあの実体弾射撃を最後にやってくるだろうと思っていたんです。結果から見ると、的中してましたね」
フィーネの長広舌を聞き、納得したようなしていないような微妙な顔で頷くフラム。
「な、なるほど……まあ、撃墜できたから良しとしましょうか。その刀、使い心地はどうだった?」
タルワールを指差して聞くフラムに、柄に手を置きながらフィーネが答える。
「悪くないですね。最後に切ったのは実体弾でしたが、過去の事例では魔法力でレーザーも切ることができるそうですし……これ一本で戦うのは流石に厳しいでしょうが、副兵装には向いていると思います」
「魔法力の消費とかは?」
「その点もまずまずといったところですね。私の固有魔法と併用しても大丈夫でしたし、少しチャージした位ならあと何度か使っても戦闘を続けられそうです」
そう言って、タルワールを抜くフィーネ。全体に魔法力を纏わせてから指でトリガーを引き、魔法力を刀身に集めようとした。
「ん?……うわっ」
すると、バチバチと放電するような音が鳴り、刀身で青い光が明滅する。そして、ふっと光が消えたと同時に破裂音がし、柄頭から白煙が上がった。
「……壊れた?」
「まさか、私が壊してしまうとは……ジャニスにどう顔向けしたものか……」
2人は茫然とした顔で、細い煙を吐き出すタルワールを眺めていた。
ネウロイの元ネタがCFA-44であること以外本当に言うことがないです