SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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次回から毎週月曜の午前0時に投稿します、たぶん。
活動報告に何もなかったら「ああ、忘れてんだな」と思ってください、間に合わなかったら活動報告か何かで言いますので。1週間音沙汰が無かったら死んだと思ってください。きっと死んでません。


第3話 48 seconds

「あー、もう!むかつくむかつくむかつく!何なのよあいつ!」

目をつぶったままぶんぶんと手を振りながら、フラムが叫んだ。

「お嬢様、あまり暴れられますと上手く洗えません。どうか落ち着いて」

「わ、わかってるわよ……」

それを凛とした声でカニンガムが制し、フラムの泡まみれの金髪を掻く。カニンガムの手付きは、その道のプロにも劣らないのではと思わせるほど手慣れており、フラムの緊張した身体も徐々にほぐれていった。

「ふへぇ〜……いやー、風呂って良いもんだね。疲れが吹っ飛ぶよ!」

「えへへ……そうですねジャニスさん……」

しかし、湯船に浸かっている2人の声が耳に届くと、再び身体が反応して強ばった。フラムが意識している相手とは、湯船で手足を伸ばしている、リベリオン生まれの金髪のウィッチ。ジャニス・ボイドその人だった。断じてジャニスの裸体に鼻の下を伸ばしているレイではない。

何故フラムがそんなにジャニスを意識し、憤慨しているのか。時は20分ほど前に遡る。

 

 

 

 

「ボイド中尉!あなたに決闘を申し込むわ!」

「はえ?」

6人が游隼お手製の料理を平らげ、食休みに没頭している時だった。レイらと一緒に昼の情報番組を見ていたジャニスは、フラムの突然の宣言に間抜けな声で反応することしか出来なかった。

「決闘、って何するの?早撃ち?切り合い?ゲームの勝負なら乗ってあげてもいいけど。楽だし」

「何言ってるのよ!ウィッチがウィッチに決闘を挑むんだから、空戦に決まってるじゃない!」

「えぇー?面倒くさいなぁ……」

いかにも怠そうにジャニスが言う。横にいるレイと游隼はその様子を好奇の眼差しで見ており、黒いブックカバーの本に目を落としていたアナも、若干の上目でフラムとジャニスを見ていた。

「心配はいらないわ、何かあればカニンガムがなんとかしてくれるもの。だから、私の決闘を受けなさい!」

「可能な限りはなんとかします」

特に変わった様子をするでもなくジャニスを見守っていたカニンガムが言う。

「まあ、いいけど……」 

周囲の視線が少し気がかりではあったものの、ジャニスは渋々承諾した。それを聞き、フラムは二度大きく頷いた。

「そうと決まれば早くやるわよ!もう準備はできてるんだから!」

「手が早い……」

意気揚々と歩くフラムをジャニスが追い、その後ろを4人がカルガモの子供のように着いていくという、なんとも微笑ましい光景が繰り広げられた後、6人は格納庫へと辿り着いた。

「ようジャニスちゃん。聞いたよ、決闘だってな」

「頑張れよ、インク弾でも当たると割と痛いぜ」

「髪に付いたらなかなか取れないからな、気をつけてな」

「はいはい、ご忠告ドーモ」

整備兵たちが飛ばしてくるヤジに、緑色のジャケットに手を突っ込んだまま返すジャニス。やっとこの基地に来てから1週間経ったくらいだと言うのに、まるで1年過ごしたかのように周囲に馴染んでいる。

「ルールは簡単。どちらかの体かストライカーにペイント弾を当てれば勝ち。シールドとミサイルは無しよ」

「ま、そういう風に落ち着くよね。んじゃ早速用意しよう、早く終わらせたいんでしょ?」

「ええ。あと、制限時間は30分。途中で負けを認める時は、『参った』って言いなさい」

「了解了解〜」

ストライカーを履きながら、のほほんと話すジャニス。バックパックにはオレンジ色のペイント弾が半分詰まっており、重さは実弾を満タンに詰めた時の3分の1ほどしかない。

「先に行くわよ」

フラムはさっさと格納庫を出てしまい、二重に響いていた静かなエンジン音が一つだけになる。

「……そうだ、カニンガム!」

「はい、なんでしょう」

「始まったら、これよろしく!」

唐突に声をかけられたにも関わらず冷静なカニンガムに、ジャニスがあるものを投げ渡し、ろくな説明もなしにそのまま格納庫を飛び出ていった。

「さて、見物だね。どっちに賭ける?私はフラムかな」

「ジャニス」

「……うーん、迷いますね。ジャニスさんで!」

「私はいつでもお嬢様と決まっています」

4人が口々に賭けの相手を話していると、周囲の整備兵達もぞろぞろと集まり、適当なテーブルに紙幣や硬貨が集められていった。

 

 

 

 

「ひとまずありがとう、ボイド中尉。私の決闘を受けてくれて」

フラムが軽く会釈をする。

「これは、他の皆ともやったことなの。私が言い出したけど、この部隊の通過儀礼みたいなものよ」

「へぇ。今のところの戦績はどうなの?」

(勝手な通過儀礼だなぁ)と思いながらジャニスが聞くと、フラムはさらりと答えた。

「2勝1分けよ。スリャーノフ大尉とは時間切れで引き分けたわ」

「なるほど。景品とかは無いの?」

「そんなもの無いわよ。でも、そうね……負けた方が勝った方の言うことを何でも一つ聞くってどう?ありきたりだけど」

「いいねいいね、そういうのがなくちゃ。うん、そっちの好きなタイミングで始めていいよ」

ジャニスがなんの気なしにそう言うと、フラムの浮かべていた余裕そうな笑みがゆっくりと消えていき、ゴーグルの下の目が、猛禽を想起させるような鋭いものに変わっていった。

「いくわよ……って、何してんの?」

「ほら、始めなよ」

「は?」

口では色々と言いつつも、実のところ彼女には少しだけ憧れのようなものを、フラムは持っていた。伝説のウィッチの孫娘であり、この基地に配属されてから半日も経たずに初戦果を上げた、ジャニス・ボイドに。

それが自分の目の前で反転し、無防備そのものの背中を晒している光景を受け入れられず、フラムは呆然としていた。

「早く始めちゃいなって、お互いにさっさと終わった方がいいでしょ」

「もしからかってるつもりなんだったら、今すぐ降参しなさい。ふざけた相手を嬲る趣味は無いわ」

「ふざけてなんかないよ、からかってもないし。真面目そのもの、やる気満々だね」

ジャニスは普段と変わらない様子で、明るく言う。それを聞き、徐々にフラムの声に苛立ちが混じり始める。

「私を馬鹿にするのも大概にしておきなさい。これが最後の通告よ」

「馬鹿になんかしてないって。これがもう、私の臨戦態勢なんだよ。そっちが仕掛けてきたら対応できる状態だから、早く始めなって」

「……やっぱり、あなたに少しでも期待していた私が馬鹿だったみたいね。こんな形で媚びを売られても、嬉しくも何ともないのよ!」

スッ、と訓練用のFM61M3をジャニスの背中に向けるフラム。怒りの声と共に引き金を引く一瞬前に、ジャニスが左手の指を鳴らしていたが、フラムは気づいていなかった。FM61から放たれたペイント弾は、真っ直ぐにジャニスの背中へと飛んでいき、ジャニスの背中をオレンジ色に染め──なかった。

背中に当たる直前、ジャニスが驚異的な速度で前に大きく体を倒した。それまでジャニスがいた空間を通り、ペイント弾は虚空へ落ちていった。

「はぁ!?」

「さ、スタートだね!」

あっけらかんと言い放ち、くるりと前に一回転して上昇するジャニス。目の前で行われた人間離れした動きに呆気にとられていたフラムだったが、すぐにジャニスを追いかけ始めた。

「よく動くなぁ。追いかけっこじゃ不利かも」

「余裕でいられるのも今のうちよ!吠え面かかせてあげるんだから!」

数秒間の上昇の後、大きく左旋回をするジャニスに、小回りのきくフラムが食らいつく。ぐんぐんとフラムとジャニスの距離が縮まり、射程に収める。

( 「もらった!」)

「おっと!」

ヴゥゥンという発射音に続き、ペイント弾がジャニスへと放たれる。射撃は2秒にも満たないものだったが、300発近く放たれた弾の軌跡はジャニスの飛行のそれと重なっていた。が、それも当たる直前に降下運動によって回避され、広大な大地へと落ちていく。

「なっ……なんで反応できるのよ!?」

「ほらほら、鬼さんこっち!」

「このッ、舐めないでよ!」

降下しながらの旋回やバレルロールをするジャニスに追従しながらフラムが何度か射撃を行うが、チラリと見られただけでどれもギリギリで回避されてしまう。

最初は20メートルほど離れていた2人だったが、ジャニスは回避をする度に徐々に距離を縮め、今や5メートルもないほど近付いていた。フラムは焦りからか、それに気づいていない様子だった。

「さあ、早く落としてみせなよ!」

「そういうのを、なんとかの一つ覚えって言うのよ!」

ジャニスの宙返りの動きに合わせ、フラムが減速する。ジャニスが円の頂点を描くとき、つまり最もエネルギーを失って速度を落とす瞬間を狙おうというのだ。

失速にあまり逆らわず速度を落とし、ジャニスの上昇に合わせて確実に狙いを定めるフラム。接近し、銃口をゆっくりと上げる。フラムのHUDの中心より少し上に、ジャニスの背中が捕捉された。

「これで、終わりよ!」

ヴゥゥゥン……という轟音と共に、FM61からペイント弾が無数に吐き出される。普段は抑えている猛烈な反動を逆に利用し、ひっくり返らんばかりの勢いで銃口を跳ね上げて射撃を行うフラム。

(「ボイドは射線上に捉えておいたし、たとえ多少動いたとしても弾が当たる方が早い!回避は不可能よ!」)

フラムは、銃を持った右腕はブレないように支え、真っ直ぐ上に振り上げた。1秒弱ほどの斉射の後、腕が真上を指したところで引き金から指を離すフラム。

斉射を終えたフラムの心中は、予想外の粘りを見せたジャニスに対する賛辞と、それを乗り越えた自分への称賛で満ち溢れていた。

「勝っ、たぁ……!」

「私が、ねっ!」

フラムの斜め後ろ上方から声がし、少し遅れて鳴り響いた鈍い発射音と共に背中と太腿を衝撃が襲った。べちゃりとインクが背中に広がる感覚と、ペイント弾が当たったことによるヒリヒリとした痛みが、フラムの背中に残っていた。

「は……?えっ……?」

『そこまで。 ボイド中尉の勝利です』

何が起きたのかわからず、か細い声を漏らすフラムの耳に、カニンガムの澄んだ声が届いた。

「よっし!上手く行ったぁ!」

フラムが振り返ると、勝ち誇った様子でジャニスが笑みを浮かべていた。そのストライカーにも体にも、ペイント弾が命中したらしき痕跡はまるで無く、飛沫の一つも見当たらなかった。

「な、なんでよ!なんで当たってないのよ!」

「いやー、結構ギリギリだったよ。しっかり狙われてたら避けられなかった」

危なかったなー、と胸を撫で下ろすジャニス。

「右で撃ってくるってのはわかってたから、エンジン全開にして左宙返りで避けたんだ。で、撃った。この子(F-35A)だからこそできる芸当だよね。いや、アナの35でもできるのかな?」

ジャニスがぽんぽんとストライカーを叩きながら言う。事実、ジャニスがそのような機動をできたのは、F-35の優れた機体制御システムとジャニスの腕前があってこそだ。ジャニスが挙げたアナのSu-35ストライカーには推力偏向ノズルが採用されており、そうでないストライカーで同じ軌道を描くのは、不可能ではないにせよ相当厳しいことだろう。

「じゃ、じゃあ!最後以外はなんであんなに避けられたのよ!完璧に外さないタイミングで撃ってたのに!」

「それは……まあ、撃ってきそうだな〜って思ってチラッと見たら、そのタイミングで撃ってきてくれてさ。結構素直な感じだったから避け易かったよ」

ジャニスの全くもって参考にならない理由を聞き、愕然とするフラム。もっとも、初めて戦う相手の攻撃を、一瞥しただけで察知して回避するという回答を聞けば、多くのウィッチが言葉を失いそうではあるが。

「ま、とりあえずお先〜」

「く、くっ……本っ当に、なんなのよ!ジャニス・ボイドーッ!」

ジャニスが早々と格納庫へと降下していったため、空に一人残ったフラムが叫ぶ。その声は、遥か遠い旭岳にも木霊したとかしなかったとか。

 

 

 

 

カニンガムは2人へのアナウンスをし終えると、自分の手の中のモノをじっと見つめていた。

格納庫から出ていく前にカニンガムがジャニスから渡されていたものは、小さなストップウォッチだった。彼女はフラムとの決闘に挑みつつ、自分の信条を守ろうという気だったのだ。

「凄い動きだったなぁ……さすがジャニスさん!カニンガムさんもそう思いますよね……って、それ何ですか?時計?」

まさかの事態に言葉を失い、シンと静まり返っていた格納庫で、振り返ったレイがカニンガムのストップウォッチを発見した。手のひらに収まるサイズのものだったため、レイからは少ししか見えなかったのだろう。しかし人一倍声の大きいレイの発言により、周囲の人々もそれに気づいてしまった。

「カニンガム、それって」

「何秒だった?」

游隼とアナに聞かれ、カニンガムは返事をする代わりに、ストップウォッチを持つ手を3人と周囲の人々に見せた。「別になんでもない」と言って隠し通すことも可能だっただろうし、いっそ記録を消してしまっても構わなかっただろう。しかし、それは闘い合った2人に失礼だとカニンガムは思った。その結果の行為だった。

翻された手に収まっていたストップウォッチの小さな画面には、「48sec」という表示が浮かんでいた。決闘のスタートが曖昧な中、カニンガムが時間を計り始めたタイミングは、ジャニスが指を鳴らした時だった。

不利というよりほぼ敗北が確定しているような関係から、ジャニスは徐々にフラムを追い詰め、そしてその背中とストライカーを撃ち抜いたのだ。

「……お嬢様には内緒にしておきましょう」

静寂に包まれた格納庫で、カニンガムが言った。

 

 

 

 

「もう少しで私が勝ってたのに!もう!」

「そうですね。お嬢様、流しますよ」

「わぷ……」

背中についた泡まで流されながら、フラムはぶつくさと述べる。全身を隈なく洗い、やっと髪についたインクも洗い流し終えた2人は、レイとジャニスが浸かっている湯船に入った。

「ってレイ、傷跡だらけじゃない!この脇腹のとことか特にひどいし……昔何かあったの?実は歴戦の勇士だったりして!」

「ちょっとした事故ですよ。どれももう治ってますし、大したことありませんから!」

「ちょっとした事故って言う割には多い気がするけど……何か私にできることがあったら言ってよ?」

「うーんと、じゃあ、後ろを向いてもらえます?」

「こう?」

「では、私の傷ついた心を慰めてくださーい!」

レイがいきなりジャニスの背中に飛びつき、胸を後ろから揉み始めた。急な行動に反応できなかったジャニスは、レイの手を引き剥がすのにも苦心し、くすぐったそうに身体をよじる。

「ちょ、ちょっとやめてよ……あははは!」

「手に丁度収まるサイズ、ハリもよし、いつまでも揉んでいたくなるような心地よい弾力……素晴らしいおっぱいです!」

「くすぐったいからやめ、はははは!」

バシャバシャと湯船で暴れまわる2人。少し離れた位置で肩まで湯に浸かっていたフラムを、波と水しぶきが襲った。

「はぁ、はぁ……く、くすぐったかった……」

「いい揉み心地でした……よし、次はカニンガムさんの番ですよー!」

「い……いい加減にしなさいよツガイ!」

しばらくはフラムも耐えていたが、ジャニスの胸は揉み飽きたのか、レイが標的をカニンガムに変えたときだった。ついに堪忍袋の緒が切れたのか、フラムが勢い良く湯船から立ち上がった。

「風呂でのマナーだのなんだの言うつもりはないけど、軍人としての自覚はないの!?大体いつもいつも私の言うことを聞かないし空気は読まないし……」

「うーん……フラムちゃんが言うの、それ?」

それは、レイの何の悪意もない一言だった。ただ単に疑問に思ったから聞いたという風な口ぶりだったし、事実レイは悪気も何もなく聞いただけだった。

だが、まくし立てていたフラムは、ぐっと押し黙らざるを得なかった。薄々ながらも、自分の行動について反省してはいるからだ。他人の言うことを聞かないことと、あまりその場の空気を読まず、感情的に行動することを。そのため、フラムはなんの反論もできなかった。

「う、うう……うるさい!上がるわよカニンガム!」

「はい」

怒り心頭といった様子で大浴場から出ていくフラムと、それを追うカニンガム。フラムが先に出ていったのを見計らって、レイはカニンガムに後ろから抱きつき、ジャニスのものより豊満な胸を揉みしだいた。

「この手からあふれ出るほどのサイズ感……やっぱり半端じゃないですねカニンガムさん……!」

「栂井少尉」

「はい?」

「私の胸を揉まれるのは構いませんが、節度というものを弁えていただけませんか。あの場であんなことをすれば、お嬢様でなくてもお怒りになられます」

「はい……」

冷静に告げられ、レイはしょんぼりしながら胸から手を離す。最初に掴まれたときは少しビクリと体が反応していたが、それ以降は特に反応しなかったカニンガムの胆力に、ジャニスは驚いていた。

「うーん、でも、なんでフラムちゃんは上がって行っちゃったんでしょう。そんなに怒ってたのかなぁ……ジャニスさんはわかりました?」

湯船に戻ってきたレイが、ジャニスに聞く。

「人間っていうのは、正論ばっかり言われていると嫌になるもんなのよね」

「?」

レイは未だにわかっていないようだったが、ジャニスはそこで話すのをやめ、大浴場のクリーム色の天井を見上げた。湯気が集まって水滴となり、ぴちょんとジャニスの顔に落ちた。

「あっ!」

「どうしました?」

それがきっかけになったのか、はたまたなっていないのか、ジャニスが何かに気づいて大きな声を上げた。

「何頼むか考えてなかった……」

明けた次の日の午後三時頃、ジャニスは少し高級な紅茶とガリアの菓子を口にしたのだった。




今回でわかったと思いますが、レイは宮藤のようなポジションです。フラムちゃん以外はレイより胸が大きいので、割と無節操にセクハラをします。閃乱カグラにおける葛城さんみたいなキャラですね。
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