SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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今回のサブタイは、DSの某ソフトからとらせていただきました。採用して再度思いましたが、色々と正直すぎるタイトルですよね。
あと、今回から本編の時間は現実からズレていきますのでご留意を。


第5話 いやす、なおす、むにむにする

「ふっ……ふっ……と、よーっし……いや〜、早いねアナ。周回遅れにされるとは思ってなかったや。ランニングには結構自信あったんだけどなぁ」

顔と、緑のジャケットを開いた胸元をパタパタと扇ぎながら言うジャニス。汗ばんだ肌から熱気が立ち上り、湯気のようになっていた。

「お疲れ。飲む?」

「うん、ちょーだい」

格納庫内に入ってきたジャニスに、スポーツドリンクが入ったペットボトルを投げ渡すアナ。数分ジャニスより先に休んでいたこともあってか、息は平常に整っていた。

「んー、美味い。さぁて、次は誰が来るかな……と。游隼、お疲れ〜」

ジャニスがスポーツドリンクをちびちびと飲んでいると、格納庫内にゆっくりと游隼が入ってきた。ジャニスの声に手を振りつつ、すとんと段差に腰掛ける。

「ふへぇ、疲れた……早いね、ジャニス。いっつもランニングじゃ2位の座は貰ってたのに、驚いたよ」

「次も頂くよーん」

同じくアナに投げ渡されたスポーツドリンクを飲む游隼。軽口を叩きはしたものの、游隼の呼吸が既に整っていたことに気づき、まだ肩で息をしていたジャニスは少しだけ驚きを感じていた。

「さて、ビリはどっちかな」

「マラソン向きなのはレイだと思うけど……あ、来た来た。今日はレイの負けだね」

格納庫の扉から顔をひょっこりと出した游隼が、長い金髪を振り乱しながら走ってくるフラムを見つけ、手を振った。走ることに精一杯なのかフラムはそれをスルーしたが、少し後ろを走っていたレイは手を振り返した。

「……いや、そうでもないかも」

「なんで?まだ結構リードしてるよ……あっ!」

「ほらね」

2人の視線の先でフラムが足をもつれさせ、ずでーんという音がしそうな勢いで転び、顔面から倒れる。よろよろと上げられたフラムの顔は擦り傷だらけで、額からたらりと血が流れた。

「ありゃりゃ、痛そ〜」

「言ってる場合じゃないでしょ!」

游隼が倒れたフラムへと駆け出し、ジャニスも少し遅れて走り出した。

「フラム、大丈夫?」

「勢いよくやっちゃったね。無理は良くないよ」

「うっ……うるさいわよ……!こんなの、なんともないんだから……いっ!」

「なんともなくないわけないでしょ。無理しないで、座ってなよ」

ジャニスが手を差し伸べるが、フラムはそれを無視して立ち上がろうとする。が、左足で踏ん張ろうとした時、力が抜けたように崩れ落ち、再びぺたりと座り込んでしまう。

「はっ……はっ、フラムちゃん、大丈夫?血、出てるし、他に、どこか痛いところ無い?」

「……こっちの、足首」

ぜえぜえと肩で息をしながら、走ってきたレイがフラムの横にしゃがみ込む。心配の声も、フラムちゃんと呼ばれたことも意に介してないのは、足に想像以上の痛みがあったからだろうか。苦痛に僅かに顔を歪ませながら、フラムが左足の足首を指した。

「わかった、ちょっと、待ってね……」

深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせるレイ。そして目をつぶり、右手を手首のあたりに添えた左手をフラムの足首に向けた。途端、レイの体が青い光に包まれ、ひゅるりと赤い犬の耳と尻尾が生えてきた。

「へぇ、レイって治癒魔法使えるんだ。凄いね!」

「レイのは効果も凄いんだけど、力が右手と左手で違うから使い分けもできるんだよね」

フラムを治療するレイを尻目に誇らしげに言う游隼に、ジャニスが口笛を吹いた。

「詳しいね、游隼」

「使うたびに説明されてれば、覚えもするよ」

「……自分で言おうと思ってたのにぃ」

ぶー、と目をつぶったままむくれるレイ。むくれながらも左手をフラムの体の色々な位置にかざし、細かな傷は右手で治していく。

「ふう……これでどうかな。まだどこか痛む?」

3分もかからずに、フラムの体から手を離すレイ。聞かれたフラムは顔や腕に軽く触れたり、左足首を軽く回したりしていたが、どれもスムーズな動きだった。

「痛みは無いわ……その……ありがとう」

「えへへ、どういたしまして。あ、でも、今日のうちはそっちの足はあんまり激しく動かさないでね。骨に問題はないと思うけど、一応」

「わかった」

少しふらつきながら立ち上がるフラムと、それを支えて一緒に歩くレイ。ジャニスと游隼もそれに連なって、ゆっくりと格納庫へと入る。

「遅かったね。何かあった……の」

カバーをかけた文庫本に目を落としていたアナだったが、レイの肩を貸りているようにして歩くフラムを見て、わずかに眉をひそめる。

「何でもないですよ!……それより、皆さんお風呂入りませんか?」

「汗流しておきたいし、いいんじゃない」

フラムを肩で支えながら、レイがあっけらかんと言った。座っていたアナがそれに賛同し、残った面々もそれに並ぶ。

「そうだね。このままだったら絶対風邪引いちゃうよ」

「フラムも入るよね?」

「ええ。でも」

游隼の問いに一度は頷きを返すも、若干言葉尻を濁すフラム。聞いた游隼やレイが怪訝そうな顔をするが、疑問が口にされる前にアナが言った。

「カニンガムには私が伝えておくから、先に行ってなよ」

「……頼んだわ」

「じゃ、行きましょっか」

アナと別れ、ふんふーん、と鼻歌交じりのレイを先頭に歩く4人。その日は4月9日。ジャニスが第201統合戦闘飛行隊に入隊した日である3月9日から、約1ヶ月が経過していた。

つい先程まで5人が行っていたのはジャニスの入隊1ヶ月記念の(レイ主催の)マラソン大会であり、基地周辺を15周走るというものだった。ネウロイがしばらく観測されていなかったことや、絶好の晴れの日だということで、特に滞りなくマラソン大会は決行されていた。

「でも、なんでマラソン大会にしたの?パーティーとかでもよかったんじゃない?」

ジャニスに得意げな顔を向け、ちっちっち、と舌を鳴らしながら指を振るレイ。

「パーティーしても、皆さんとお風呂に入れないじゃないですか!普段はシフトのせいでタイミング合わないし、私はジャニスさんを含めた全員と裸の付き合いができるこの時を待ってたんですよ!」

「そんな理由だったの……」

レイの力強く、また自分に正直すぎる発言にジャニスが唖然とした顔を浮かべるが、游隼とフラムは若干冷めた目をしているのみだった。

「ツガイの事だから、どうせそんなことだろうと思ったわ」

「1年一緒に居れば、慣れもするよね……」

「我々は軍人ですからね。トレーニングの一環と称せば、体を動かすことに関しての無理は案外通るんです。それにこれだけ汗をかいておけば、直前で『やっぱりやめた』とはなり辛いでしょう?」

「よくお考えなことで……」

笑顔を浮かべながら滔々と自分の計画を語るレイ。その表情は、普段のレイが浮かべる無邪気なものに比べて、狡猾な策士のように邪悪だとジャニスは感じていた。

複雑な心境の一行が大浴場に着くと、浴場の入り口でカニンガムが佇んでいた。

「カニンガム、着いてたんだね。アナは?」

「先に入られました。『レイの好きにはさせない』と仰られていましたね」

「くっ……アナさん鋭い……!」

冷静なカニンガムの言葉に、悔しそうに唇を噛むレイ。そのやりとりを見ていた游隼があることに気付き、ハッと息を呑んだ。

「そういえば、着替え持ってきてないや!一回戻んなきゃ!」

「確かに!こっちも思い通りにはさせないよ、レイ!」

ジャニスと游隼がハイタッチをし、二人でレイを指差す。レイから肩を借りていたフラムが離れ、壁に寄りかかった。

「……あれ?でも、それじゃ、アナは着替えも用意しないで入ったってこと?」

「カニンガムを呼びに行かなきゃいけなかったから、用意する暇がなかったとか?」

レイを指差したまま、首を傾げる2人。その間で、レイが何気なく言った。

「あ、言い忘れてました。皆さんの着替えとタオルは先に用意しときましたよ」

 

 

 

 

「ふぅ〜……染みますねぇ……」

「そうね……」

頭に畳んだ手ぬぐいを載せたレイとフラムが、湯船に浸かりながら緩んだ声を出す。理由自体は邪であったが純粋に入浴を楽しんでいるレイに、ジャニスが話しかける。

「ていうかさ、なんでレイはウィッチになったの?興味本位だから、無理に話さなくてもいいけど」

「そういえば、一年間一緒に居たけど今まで聞いたことはなかったわね。なんでなの?」

「……ありきたりな理由なんですけど、家族とか、友だちとか、せめて身近な人だけでも守りたかったから……ですかね。治癒魔法が使えるようになってからは、本格的にウィッチを目指し始めました」

「治癒魔法に限らないけど、固有魔法ってやっぱり使い魔と契約した時に使えるようになるもんなの?カニンガムとかどう?」

フラムの隣にいたカニンガムが思案顔を浮かべ、少しの沈黙の後に答えた。

「私の魔導針は契約した時から使えました。祖母が現役だった頃に使用できたらしく、その影響ではないかと聞かされています」

「私は、契約して少し経ってからですね。ちょっと、色んなことがあって」

「……そっか」

珍しくしおらしい口調で話すレイに何かを感じ取ったのか、ジャニスはそこで口を閉じる。が、そのまま、すすすとレイの背後に忍び寄り、胸に手を這わせた。

「えいっ」

「ひゃん!ちょ、ちょっとジャニスさん!?」

「んー……なるほど。レイもなかなか悪くないモノ持ってるじゃーん」

「く、くすぐったいです、あははは!」

以前の借りを返すとでも言うように、むにゅむにゅと胸を揉みしだくジャニス。レイは身を捩って逃げようとするが、ジャニスが腕を交差させて揉んでいるため、なかなか拘束から逃れられなかった。

「ツガイがあんな風にされてるの、なんか新鮮ね……」

「攻められるのは苦手なようですね」

「冷静に判断しないでくださ、っあははは!」

「うりうり〜」

 

 

 

 

「……面白いことになってそうだね。見に行く?」

大浴場の隅に位置するサウナで、游隼がアナに聞く。あまり広くないサウナ室の壁越しにもレイの声は響いており、浴室内の出来事は中の2人でもある程度察せているようだった。

「巻き込まれたくないからいい」

真っ白な肌に浮いた汗を拭いながら、アナが冷静に言う。レイの胸を揉む対象はカニンガムやジャニスだけでなく、自分よりも立派なモノの持ち主である人物、つまりここにいる2人も例外ではなかった。

「だよね」

自分も揉まれた経験がある游隼は、隣に座っていたアナの返答に苦笑いを浮かべ、口をつぐんだ。

「……でも」

「でも?」

「そろそろ暑い」

普段通りの表情をわずかに崩しながら、手でパタパタと顔を扇ぐアナ。それを見て、游隼が微笑む。

「そうだね。じゃ、出よっか」

 

 

 

 

一通り胸を揉まれ続けて暴れ疲れたのか、荒い呼吸をしながらジャニスにもたれかかるレイ。

「ふぅ。ひと月分くらいは揉めたかな」

「アンタは大して揉まれてないでしょうが」

「みんなの分だよ。これで多少は懲りた?レイ」

(フラムが1番揉まれてないじゃん)という核弾頭級の言葉を飲み込み、腕の中のレイに聞くジャニス。が、その問いに、レイは力強い光を湛えた目でジャニスを見つめ、言った。

「いえ……懲りません!そこにおっぱいがある限り、私は揉み続けます!」

「おぉ……」

「揺るぎませんね」

あまりにも堂々としつつ低俗な宣言に、フラムはあ然と称するのが相応しいように口を開け、ジャニスとカニンガムは感嘆の声を漏らしていた。

「ふぃ〜……」

「やっぱり、気持ちいい」

その横で、サウナから出た2人が水風呂に入り、気の抜けた声を出していた。それを見て、浴槽の淵で頬杖をついていたフラムが鼻を鳴らした。

「なんでわざわざお風呂に入って体を冷やすんだか。具合が悪くなりそうだわ」

「気持ちいいよ?フラムも入ればいいのに。サウナ出てから入ったら、もっと気持ちいいよ〜」

浴槽を手だけで動き回りながら、気持ちよさげに言う游隼。それを見て、ジャニスが聞く。

「そういえば、フラムがサウナ入ってるの見たことないね。水風呂も。苦手なの?」

「……別に。入ったって気持ちよくないものに、無理して入る必要はないでしょう」

痛いところを突かれたのか、やや不貞腐れたように答えるフラム。それを聞き、ジャニスの腕の中のレイが頷いた。

「まあ、フラムちゃんの言うことも一理ありますよね。私もサウナは苦手ですし、無理してまで入ろうとは思いませんから。自分が気持ちよくなれれば、それが一番ですよ!」

「……ふ、ふん。もう出るわよ、カニンガム!」

「はい。では皆様、先に失礼します」

耳を赤く染めたフラムが勢いよく立ち上がり、ザブザブと浴槽から出る。それに続いてカニンガムも立ち上がって浴槽から出ていき、4人に会釈をしてから風呂場を後にした。

「……フラムちゃん、顔赤かったですね。のぼせちゃったんでしょうか?」

「さあね〜」

腕によるレイの拘束を解いていたジャニスが、とぼけたような声で言う。

「ふ〜……みんな、まだ入ってる?そろそろ上がろうと思ってるんだけど」

フラム達が出てから数分後、游隼が聞いた。

「私は当番ですし、最後にしようと思ってました」

レイの言う当番とは、この部隊で決められていた洗濯当番のことである。入浴後にはそれぞれの脱いだ衣服を集めて洗濯機に入れるという仕事があるため、当番の人物は決まって最後に出ることになっていた。

「私も出ようかなーって思ってたよ」

「同じく」

「じゃ、上がろっかー……満足した?レイ」

浴槽から出て、体の水滴を手拭いで拭きながら游隼が聞いた。何かを感じ取ったのか、すすすと移動し、自分とレイの間にジャニスを挟むように位置するアナ。

しかし、レイはアナの想像のような不埒な行動には出ず、満面の笑みを浮かべて言った。

「はい!やっぱり、お風呂は皆さんと入るのが一番ですね!」

 

 

 

 

「レイって、そのリストバンドずっと着けてるよね。そんなにお気に入りなの?」

ドライヤーでレイの艶のある黒髪を乾かしながら、ジャニスが聞く。レイの右手に着けられている、妙に年季の入った水色のリストバンドが気になったようだった。

「そうですね。気に入ってるのもあるんですけど、結構昔から使ってる物なので、若干御守りみたいな感じになっちゃってて」

くしゃくしゃと髪を掻かれながら、レイが答える。

「外しづらくなっちゃったみたいな?」

「そんな感じですね。だから、失くしたりしちゃうと不安になっちゃって、大変なんですよね」

自分の右手首を眺めながら、レイがどこかしみじみと言った。そんな様子を眺めていたジャニスが、その仕草に首を傾げる。

「お姉さんから貰ったんだっけ、それ」

すると、2人の後ろから表れた游隼が、瓶の牛乳を片手に持ちながら言った。早々に浴場から出ていったらしく、アナの影は見えなかった。

「そうです!お姉ちゃんが水色が好きで、お揃いのものを作ってくれたんです。お姉ちゃん、すごく器用で。そういえば、ジャニスさんはご兄弟は」

「三個上にお兄ちゃんが1人いるよ。『運動は嫌いだ』って、軍には入らないつもりみたいだけどね」

そう言いながら、ポケットから取り出したスマートフォンを2人に見せるジャニス。その画面には、満面の笑みを浮かべ、ピースサインをこちらに向けているジャニスの隣で、背の高い大人しそうな青年がはにかんでいる写真が写っていた。

「ってことは、私とアナ以外は皆きょうだいがいるんだね。フラムにはお姉さんがいるし、カニンガムには弟さんがいるらしいし」

「妹がメンバーの半分を占める部隊って風に言うと、なんだか面白いね」

「よくよく考えてみると、結構珍しくないですか?」

「確かに!」

ジャニスが言い、3人は笑い合う。笑いが収まり、ふと腕時計に目をやった游隼が、あっと声を上げた。

「って、忘れてた!晩ごはんの準備しなきゃ!ジャニス、ちょっと一緒に来てくれない!?」

「オッケー!レイ、悪いけど後は自分でお願い!もうちょっとで乾き終わると思うから!」

慌てて上着を羽織って浴場を出ていく游隼と、レイにドライヤーを渡し、游隼を追うジャニス。

「待ってよ游隼ー!」

「行ってらっしゃーい」

ひらひらと2人に手を振り、受け取ったドライヤーの熱風を髪に当てるレイ。しばらくそうして髪を掻き、髪型を整えてから、それぞれの脱衣籠に残った衣服を運ぶ。

「お兄さん、かぁ」

両手一杯に抱えた衣服を縦型の洗濯機に放り込みながら、レイが呟く。洗剤を入れてスイッチを押すと、洗濯機が音を立て始めた。近くの椅子に腰掛け、半ば無意識に右手のリストバンドを撫でるレイ。

「元気かな、お姉ちゃん」

「ツガイがそんな風にしてるの、珍しいわね」

そんなレイの背後から、フラムが声をかける。

「うわぁ!?い、いつから居たの、フラムちゃん!」

突然の襲来に、椅子から転げ落ちんばかりの反応をするレイ。その慌てぶりを見て、フラムが小さく笑った。

「今来たばかりよ。ちょっとした忘れ物」

「そうだったんだ……フラムちゃんが忘れ物するのも、珍しいね」

落ち着きを取り戻したレイが言い、壁に寄りかかったフラムが鼻を鳴らす。

「そうかもね。まあ、私だって人間よ。忘れ物の一つや二つくらいするわ」

「そっか。そうだよね」

笑みを浮かべながら言うレイだが、そこで再び口をつぐむ。2人の間に沈黙が漂い、洗濯機の音だけが響く。

「……あーもう!なんか調子狂うわね!」

その空間に耐えきれなくなったのか、フラムが頭を乱暴に掻き、レイに詰め寄った。

「何かあったんだったら言いなさいよ!黙ってウジウジしてないで!」

「うーん……フラムちゃん、手って温かい?」

詰め寄られたレイが、平然とした様子でフラムに聞く。想像とはかけ離れた問いに、フラムが戸惑いを隠しきれないように自分の手を眺めて言う。

「は?手?……別に、冷たくはないと思うけど」

「じゃあさ、ちょっと握ってもいい?」

フラムの訝しげな表情など気にも留めず、レイが両手を差し出す。どこか不満げながらも、右手をレイに向けるフラム。

「……別に、いいわよ」

「ありがとう!じゃあ、早速」

白くすべすべとした手を、両手で包み込むように握るレイ。しばらくの間体温を確かめるように握る力を強弱させ、フラムの手が軽く汗ばみそうになった頃、ぱっと手を離した。

「うん、満足した。ありがとう、フラムちゃん」

「……結局何がしたかったの?ツガイ。手もそう冷たくなかったし」

「なんでもないんだ。よし、元気出た!もうウジウジしないよ、フラムちゃん!」

終始困惑の様子だったフラムに、椅子から立ち上がって両手をぐっと握り、普段のような明るさを取り戻した表情でレイが言う。

「まあ、そう言うなら良いけど……って、フラムちゃんって呼ぶなって言ってるでしょ!ツガイ!上官命令でもう一回15周走らせるわよ!」

「ぶーぶー!職権乱用だー!」

火を吹かんばかりの勢いで叫ぶフラムと、それを受けてどこか楽しげに言うレイ。どうやら、元気が出たという先程の言葉は偽りではないようだった。

「まったく……でも、今日だけはさっきの借りもあることだし許してあげる。感謝しなさいよ!」

「はーい。じゃあ、そろそろ行こっか、フラムちゃん」

「……許すのは今日だけってこと、覚えておきなさいよ!」

ビシリと力強く指さしながら、フラムが言う。駆け出していたレイは、返事の代わりに満面の笑顔を返した。




3話後書きにてレイを「宮藤のようなポジション」と書いたのは、実はネタバレでした。治癒魔法使えたんです(最初は主人公だったし)。本来なら今回の後書きでそう書くべきだったなと反省しています。
また、一応説明しておくと、レイの治癒魔法は左手側の出力がかなり高く、宮藤のそれのように命に関わる大怪我も治すことができます。反面、右手側は軽度の裂傷や擦過傷などを治すので精一杯……というような能力になっています。左右で能力に違いがあるのは後天的な理由からだったりするので、今後どこかで明らかにしていければと思います。
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