SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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予約投稿の設定をするのを忘れ、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。次回以降は気をつけたいと思います。


第6話 守り手の矜持

ジャニスが入隊して約二ヶ月が経過した、5月のある日の夕暮れ。5人は、2機のネウロイと戦闘を繰り広げていた。

「FOX2!」

掛け声とともにレイがAAM-5を発射する。空に白い筋が伸びるが、ネウロイは滑るような軌道でそれを躱す。外れてなおも誘導を続けようとしていたミサイルは、太いレーザーで消滅させられてしまった。

『命中せず』

「あ、よけられちゃったー!フラムちゃん、そっち行ったよ!」

「だーかーら、それやめなさいってば!」

文句を言いながらも、フラムが機関砲で迎撃を行う。咄嗟の判断だったが、フラムの射撃は正四面体型のネウロイのど真ん中に飛んでいった。が、あと1メートルで命中……というところで、ネウロイが5つに分離した。

「嘘でしょ!?きゃっ!」

機関砲弾が分離したネウロイの間をすり抜け、レイの放ったミサイルのように落ちていった。まさかネウロイが分離するなどと考えていなかったフラムは、再び射撃する暇もなく、自分に向かってくるネウロイに衝突しないように回避するので精一杯だった。

分離したネウロイは、それまでの倍近い速度で二人から離れていく。

「くっ……追うわよ、ツガイ!」

「らじゃー!」

「ボイド!そっちに5機!」

『多いよー!何してんのさー!』

無線越しに、ジャニスが不満げな声を漏らす。レイとフラムが二人で正四面体を引き付けている間、ジャニス・游隼・アナの三人は、逆方向にいる、Xの字のようなネウロイに攻撃を仕掛けていた。

「うっさいわね!分離したのよ!一つ一つは大したサイズじゃないから!」

『そうは言ってもさ〜』

『……アナ、今!』

『FOX3』

『命中。撃墜を確認』

フラムの視線の先で小さな爆発が起き、X型のネウロイが白い光に包まれ、落ちていく。が、それも束の間、5機に分かれた正四面体型が三人に襲いかかる。

「あ、ホントだ。ちっちゃくなってる」

「……コア、どこかな」

「呑気に構えすぎだよ……」

5機それぞれが一斉にレーザーを放つ。空に奔る赤い線を、三人はバラバラな方向に散開してくぐり抜けた。すれ違いざまにジャニスと游隼が機関砲を放ち、どちらも正四面体の一つに大穴を開けたが、すぐに復活し、反転する。

すると、それまでバラバラに放たれていた5本のレーザーが、空中のある一点に集約し、一本の太いレーザーに変化した。それはさながら、太陽光を虫眼鏡で収束させるような攻撃だった。

「お、ちょっと強そう」

「二人とも、私の後ろに来て!」

鋭く叫んだ游隼の背後に、ジャニスとアナが回り込んだ。バックパックに機関砲を引っ掛け、手を前に突き出す游隼。腕全体に力を込め、ぐっ、と一度拳を握ってから、勢いの増したレーザーが目前に迫った瞬間に開く。

「はぁあっ!」

ペールブルーの閃光が瞬き、三人の前に巨大なシールドが展開される。その直径は4mにもなろうか、長いストライカーの先から、背が高いアナの頭の天辺までをすっぽりとカバーしていた。

巨大な丸太の如き太さになったレーザーがシールドに当たり、游隼の腕が押される。だが、その場にいたウィッチは游隼ら三人だけではなかった。青と赤の光が混じり合っているのをはるかに見下ろす高度から、2つの影が落ちてきた。

「さっき壊れてたのは覚えてるわよね?」

「もちろん!こっちに気づいてないみたいだし、3機ともやっちゃおう!」

「右の2つはやるから、真ん中は任せたわよ!」

「うん!」

フラムが急降下し、少し遅れてレイが続く。ゴーグルに映る5つの四角のうち、右側の2つに赤い四角が重なるのを確認し、フラムが対空ミサイルのMICAを放つ。ほぼ垂直に降下して加速しているため、一瞬ミサイルを追い越すフラム。が、すぐにMICAが白い尾を引きながらネウロイに直進し、フラムを抜き去っていく。

レーザーを一点に集中させていたネウロイがミサイルに反応し、収束を中断する。ネウロイの攻撃範囲に死角はない。もちろん真上もその例に漏れず、MICAの一発がレーザーに焼き切られた。

「そんなのお見通しよっ!」

だが、ミサイルの爆風を貫いたレーザーを避け、フラムが機関砲を乱射する。雨のように降り注いだ弾丸が、5つの正四面体をガリガリと削っていく。

「ツガイ!」

レーザーを掻い潜って飛来したMICAがネウロイに命中し、崩れかかっていた2つの正四面体を完全に粉砕した。それでもなお、ネウロイはレーザーを放ち続ける。

「落ちろーっ!」

遮るものが無くなった中心の正四面体を、レイのFM61M3バルカンが穴だらけにした。弾痕から赤い光が漏れ、3つしか残っていなかったネウロイが、白い欠片となって空に消えていった。

『撃墜を確認、周囲にネウロイの反応は無し。お疲れ様でした』

「そう 。さあ、帰るわよ」

ゴーグルを収納し、基地の方角へと飛び始めたフラム。4人もそれぞれ収納し、フラムの後を付いていく。既に太陽は地平線に沈みかけており、空のオレンジの光も薄れ始めていた。

「うーん……」

「何よボイド。気になることでもあった?」

ジャニスの呻り声に気づいたフラムが、振り向きながら聞いた。

「いや、お腹空いたなぁって。戦闘も思ったより長引いちゃったし」

「私も私も!お腹ペコペコです!」

中腹部をさすりながら言うジャニスに、少し後ろにいたレイが手を上げて反応する。そのなんとも微笑ましい光景に、フラムは溜息を漏らした。

「……緊張感の欠片もないわね……」

 

 

 

 

「お疲れ様です、ボイド中尉」

「「「お疲れ様です!」」」

格納庫にゆっくりと侵入し、ストライカーを整備台に駐機させたジャニスの周りに、ぞろぞろと整備兵が群がる。6基の整備台がある中で、ジャニスの位置は右端だった。

「はーい、ありがとね」

「戦果の方は、いかがだったんですか?」

ジャニスがイコライザーと給弾パックを台車に下ろしていると、若い整備兵の一人が聞いた。よいしょ、とストライカーから足を引き抜き、苦笑いを浮かべて答える。

「うーん、ダメだったよ。アナと」

「はーい!はい!はい!私が落としました!私が!」

ジャニスの話に、格納庫の反対側の左端で同じように装備を外していたレイが食い気味で反応する。格納庫内に大声が響き渡り、その場にいたほぼ全員が顔をしかめた。

「うーるーさーいっ!もっと声量を調整しなさいよ!このバカツガイ!」

レイの2つ隣、中心左の位置にいたフラムが、レイの半分程度の声量で怒りの声を上げる。

「だって、嬉しいんだもん!私は1年かけてやっと20機撃墜だよ?ジャニスさんなんて、2ヶ月しか経ってないのにもう10機くらい落としてるじゃん!」

逆ギレ気味に反発するレイに、その倍以上のスコアを持つフラムは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言う。

「ストライカーは良い性能でも、使うウィッチが駄目なら輝けないってことね」

「うぐぅ……」

ストライカーを脱ぎ終わっても笑って二人のやり取りを見ていたジャニスが、隣にいた游隼に声をかけた。

「ははは……ん、どしたの游隼」

「うぇ!?あー、いや。晩ごはん、何作ろうかなって」

胸ポケットから手帳を取り出し、後半のページを立ち尽くしてぼんやりと眺めていた游隼が、驚き半分にジャニスに返す。

「「晩ごはん!」」

すると目の前のジャニスと、フラムに悔しげな視線を向けていたレイが反応し、目まぐるしいスピードで游隼に接近する。

「ささ、早く行きましょう!私、手伝いますから!」

「私も私も!」

「え?わ、あ、危ないから押さないでよ……レイ!どさくさにまぎれて胸揉まないでよぉ!ジャニスも!」

ギャーギャーと騒ぎながら格納庫から出ていく三人。それを、整備兵たちはにこやかに、フラムは頭が痛そうに眺めていた。

 

 

 

 

「おやすみなさーい」

「おやすみ〜」

游隼の作ったビーフシチューに舌鼓を打った6人は食堂を出て、近い部屋同士でそれぞれの部屋へと別れた。フラムはカニンガムと、游隼はアナと、ジャニスはレイと。部屋の前で止まったレイが若干眠そうに言い、ジャニスは軽く手を振って答えながら部屋に入る。

日は既に落ちていたので、ドアの横の照明のスイッチを点ける。靴と、制服代わりのジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけ、ジャニスは身を投げるようにしてベッドに横になる。

「…………」

ベッドの上で、何かを訝しむような表情で天井を見上げるジャニス。しばらくそうして何かを考えていたが、観念したように立ち上がって照明を消し、ベッドに寝転んで布団を羽織る。

 

 

 

 

「眠れない……」

何時間横になっていただろうか。ジャニスは妙に目が冴えてしまい、眠れなくなっていた。布団から這い出て、ジャケットとスニーカーを履く。スマートフォンを起動すると、時刻は11時過ぎ。特に何をする気も無かったが、なんとなくジャニスは部屋を出た。

夜の基地内は、とにかく静かだった。ジャニスの足音以外には物音一つ立たず、針が落ちる音でも聞こえてきそうな雰囲気が漂っていた。窓から仄かな月明かりが射し込み、廊下をぼんやりと照らしている。

「……?」

ジャニスが気の赴くまま歩き、雪がうっすらと残る外の景色を眺めていると、ほんの少しだけ青い光が見えた。自然のもたらす光とは違う、よく見慣れた輝き。

ジャニスは外へと走った。

 

 

 

 

「ふぅっ……今日も変わんないかぁ……」

突き出した両手を返し、掌を見る游隼。少しだけ赤くなっているが、普段とさして変わらない。あの時の、燃えるような赤色には程遠い。

「なーにしてんのー?」

「わあっ!」

游隼の背後から、ジャニスが声をかけるのと同時に抱きついた。突然の声と抱擁に、游隼が驚きの声を上げる。

「ジャニス……もう、びっくりしたよ」

「えへへ。ほら、これ。あげる」

「あぁ、ありがとう」

ジャニスが、持っていたスポーツドリンクのペットボトルを游隼に手渡す。

「ところで、さっき何しようとしてたの?まさか、人殺しを!?」

大げさな演技をしながら問うジャニス。それを見た游隼はしばらく黙っていたが、観念したように溜息を一つ吐き、そばにあった木箱に腰掛ける。

「まぁ、大体お察しの通りだよ。特訓さ」

「なんの?」

「シールドの」

「やっぱりね」

「わかってるじゃん」

「ストライカーも銃も無しにできる特訓なんて、固有魔法のかシールドのかくらいだよ」

格納庫の壁にもたれかかりながら、ジャニスが炭酸飲料を一口飲む。ふぅと息を吐き、話の続きを促すように游隼の顔を見ていた。それだけで満足するか、とでも言うように、ただじっと。

「夕方のさ、覚えてる?」

無言に耐えかねたのか、ぽつぽつと語りだす游隼。

「シールドのこと?初めて見たよ、あんなの」

「それそれ。私の固有魔法、シールド操作らしくてね」

ほら、と手を開く游隼。そこには、直径10cmほどのシールドが展開されていた。

「へぇ。大きさを調整できるんだ」

口笛を吹き、驚きの声を漏らすジャニス。

「ご明察。シールドを大きくできる、っていうか大きなウィッチは割といるでしょ?でも、任意でサイズを変えられて、特に小さくできるのは貴重なんだって。大きさを変える以外にも、ちょっと遠くに飛ばしたりとか色々できるんだけどね」

うんうんと游隼の言葉に頷きながら、ジャニスはそれなりに衝撃を受けていた。ウィッチのシールドというものはその名の通り盾であり、盾の大きさは一定だ。しかし、もし相手の攻撃に合わせて大きさを変えられれば、それはかなり汎用性の高い能力なのではないだろうか。

「普通に言ってるけどさ、凄いよ、それ。固有魔法の中でもかなり珍しい部類に入るんじゃない?」

「いや。私からしてみれば、みんなの方が凄いと思うんだ。私より全然強いし、シールドもほとんど使ってない。ジャニスなんて特に凄いよ、私が手も足も出なかったフラムに勝っちゃってるし」

自嘲気味な笑みを浮かべながら、游隼は話す。

「私にできることといえば、大して使えもしないサイズのシールドを張るか、料理を作ることくらい……もしかしたら、コックとしてここにいた方が役に立つんじゃないかな、って思ったりしてさ」

ペットボトルを両手で持って弄ぶ游隼。ジャニスは何も言わずに、その様子を眺めている。

「なーんてね……あはは、みんなより歳上なのに、みっともないよね。ごめん」

「昔、何かあったの?」

「えっ?」

静かにジャニスが問うた。意表を突く質問に、思わず聞き返してしまう游隼。

「ここに来る前、何かあったんじゃない?」

「……なんで、そんなこと聞くのさ」

「なんとなくだけど、游隼が無理してるように見えて」

「そんな、ことは……」

ジャニスが放った言葉に、あからさまに動揺する游隼。目はジャニスを向いているが、焦点が合っていない。

「前、おばあちゃんから教わったんだ。『人が自分を卑下するときは、他人のご機嫌取りをしたい時か、嫌なことを思い出した時だ』」

どこか誇らしげな声色で言うジャニス。

「『あとはそもそも悲観的な人が言うけど、そんなのはまともに受け取るな』ってさ」

「…………」

再び、ペットボトルに視線を落とす游隼。その表情は、諦めや悔しさが散りばめられたようなものだった。

「私は、昔游隼に何があったかは知らない……過去の出来事っていうのはさ、どうしようもないじゃん、やり直しがきくわけでもないし。だけど、今、現在の自分はそうじゃない」

「今、現在の、自分……」

「そう。そして、これからの自分なら変えられるかもしれないでしょ?過去に何があったって、ね……私は、游隼が『悲観的な人』だとは思ってないから」

そう言い残し、ジャニスは基地の中へ戻って行った。

「……そして、これからの自分、か」

空を見上げながら、ひとりごちる游隼。月が、雲の切れ間から顔を出していた。

 

 

 

 

「……ふぁあ……おはよ〜」

次の日の朝。寝ぼけ眼をこすりながら、ジャニスは食堂のドアを捻った。

「おはようございます!」

「おはよー。すぐ食べる?今日はパンだけど」

中では、レイとアナがテーブルの周りの椅子でくつろいでおり、キッチンで游隼がてきぱきと働いていた。

「ん〜……食べる……」

「はいよー」

ジャケットの前を開けっ放しにしているままのジャニスが、キッチンの游隼にふらふらと歩きながら答え、テーブルの周りの椅子に座る。

「おはよう」

コーヒーを片手に文庫本を読んでいたアナが、本を閉じ、隣に座ったジャニスに声をかけた。朝だというのに、少しの緩みもない声だった。

「はよ〜……」

「昨日何かあった?」

「なんで〜?」

アナとは打って変わって、欠伸を噛み殺しながら、のほほんとした声でジャニスが聞き返す。

「游隼が今朝から元気そうだから。レイは知らないみたいだし」

「特に何もないよ〜。夜たまたま会ったから、ジュース奢ってあげたくらい〜」

「ならいいけど」

果たしてそれで納得したのかどうかはジャニスにはわからなかったが、アナが無表情で頷き、何事もなかったかのように読書を再開したので、ジャニスもテーブルに突っ伏した。

「お待ちどうさま〜。熱いから、口の中ヤケドしないように気をつけてね」

アナの言う通り、昨日よりも幾分か明るい声を出している游隼が、数種類のホットサンドが盛られている皿を運んできた。食堂全体に広がる香ばしいトーストの匂いに反応し、ジャニスも体を起こした。

「ああ、朝からいい気分……」

「それじゃ、早速いただきまーす!」

「いただきます」

我先にと狐色の山にレイが手を伸ばし、アナもそれに引き続く。

「私も、いただきまー」

「ジャニス」

「あー……何?」

游隼に呼びかけられ、今まさにホットサンドを食べんと口を開けていたジャニスが、ピタリと止まる。

「……ありがとう」

真っ直ぐな眼でジャニスを見つめ、游隼は言った。たった5文字の言葉だったが、その一言にはしっかりと力が込められていた。

「ん?何のこと?いただきまーす」

さらりと游隼の言葉を受け流し、ホットサンドにかぶりつくジャニス。お互いにそれ以上語ることはなく、ジャニスは食事に勤しみ、游隼は一瞬微笑みを浮かべてキッチンへと戻った。




最近購入したPS4が楽しくて執筆が滞りまくってますが、なんとか遅れないよう頑張ります。
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