メ ン タ ル ヘ ル ス 秒 読 み ド ク タ ー   作:pilot

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第12話

いつも見ている、見慣れすぎた光景。

喜びが産まれ、悲しみが溢れ、終わりが訪れ、再開する、そんな場所。

ロドスは医療機関だから、当然ですけど。

でも、でもそこに今居るのは、もう二度とここでは見たくないと思っていた人物で、そして。

 

「アーミヤ。」

 

そして、この人物は、私の知ってるその()()とは変わり果てている、そう伝えられた。

 

私は定期的に()()()()()()()()()の精神ケアと、また機材の操作のためにこの部屋を訪れなければいけません。

ドクターの容態は最重要機密、接点はなるべく減らしつつ、なおかつ信頼性を獲得し、更に自らはその恐ろしい精神構造に呑み込まれないようにしなければいけないのです。

 

「アーミヤ?」

 

そう、こうやって呼び掛けられていると言うのに、その言葉は全てが特異な人格から生じるまやかしで、紛い物だというのです。

ケルシー先生の言うことですから、きっと、万に一つも間違いではないんでしょう。

 

だけど、それでも私には、そうは思えないんです(別にそうだとしてもいい)

だって、この人はあのドクターですよ?

私に全てを与え、私のことなら何でも知ってたドクターなんですよ?

 

私の耳のように長い長い時間、こんなことばかり考えては浮かび上がったその諦念を振り払う。

呑まれてはいけない。

ここで止まってはいけない。

ドクターをあるべき姿に戻すと、もう一度頭に叩き込む。

 

恐ろしくもあるのだけれど、私はいつか諦念に呑み込まれてしまうのではないかという思考が何度も脳をよぎるたびに、そちらの方がどれだけ楽だろうなと、そう何度も感じてしまう。

 

白い病床の上に、いつもの黒い服装のドクターが佇んでいて、私の方に話しかけてくる。

いいや、ドクターじゃない。

この人はドクターじゃない。

 

「アーミヤ、君はいつも考えすぎだ。」

 

本当のドクターじゃないんだ。

その暖かな言葉を紡ぐ口腔は、いまはきっと虚無で埋まっているに違いないんです。

だから私は口を紡ぐ。

 

「きっと君は私の、記憶喪失という事実に負い目を感じているんだろう?」

 

この人は、私の心の中を見透かすように口を開いている。

でも、絶対に本当のドクターじゃないんだ。

ケルシー先生がそうおっしゃっていたではないですか。

気をしっかり持たないと、私。

あまり入れ込んではいけない。

 

「何も、気に病むことはない。

事実というものは一人で受け止めるにはあまりにも大きい。」

 

この人はドクターじゃない。

この人はドクターじゃないんです。

 

きっと、きっとこの人は鏡のようなもの。

惑わされてはいけません。

ケルシー先生がそうおっしゃっていたではないですか。

そうだ、何度も何度も思い出さなくちゃ。

 

こんなにも優しくて、心に入り込んでくる言葉を紡いでも、私の心の綻びを突くような声を発していても、違う。

私にはそう思えなくても、違うはず。

違うはずなのに、私は早くもそう思えなくなっている。

 

不味い。早く仕事を終わらせないと。

でも、私はもっとこの人、いやドクターと話していたい。

そんな欲求が、たちどころに大きくなってくる。

だけど相変わらず私の口は全くもって開いてなかった。

 

すこしでも口を開けて、そして会話してしまえば、もう後戻りができない気がしたから。

 

「背負うことは悪くないんだ。

だって、それが君の決意なら、無下にはできないよ。

でも、私にも背負わせてくれ。

君だけしかいない、そんなロドスじゃない。」

 

「ド......クター......」

 

だめだ。

声色、動き、雰囲気、そのどれもが他人の心を主体にしてるからこそ、その向き合う人の望む通りに、隙間に流れ込んでくる。

何も感じないからこそ、真の意味で他人の為に動ける。

そう思い知らされる。

本当に、中毒性が高いのかもしれない。

 

その目が何者も写していないのはわかっていたけれど、もうそれでもいいのかもしれない。

 

「私が倒れてからも色々あったんだろ?

私にも、色々教えてほしいな、アーミヤ。」

 

ああ、私は弱いな。

この短時間で、わだかまりがなくなった。

失くしてしまった。

もうなにも、わからない。

 

「は......い。」

 

私は、私からの視点しか持ち得なかった。

将来ロドスや、私や、感染者の為になるのなら、ドクターがドクターじゃなくてもいいのかもしれない。

薄情ものですよね。

 

 

 

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