メ ン タ ル ヘ ル ス 秒 読 み ド ク タ ー 作:pilot
呼んでる。
誰か、はわからないけれど、レッドを、呼んでる。
ロドスは、平和だった。
ちょっと前までは、ドクターが消えて、少しだけ騒がしくなったけど、今はまた、戻ってきたから。平和な筈だった。
嫌な匂いだ。荒んだ匂い。
ドクターが帰ってきてくれたからもたらされた平和は、でも、やっぱり、ドクターだけに頼ってる。
ドクターが倒れてから、皆おかしくなった。
ドクターも、すこし、様子がおかしい。
なんだか別の匂いが、する。
混ざりきった、雑多な、何か。
助けなきゃ。
レッドも、助けられたから。
きっと、この声は、泣いてる。
レッドは、そんなに頭は良くない。
でも、だから、できることがある気が、する。
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匂いが、強い。
人の数、多分たくさん。
でも、派閥は少ない。
ざっと、二つ。
外の人間と、内の人間。
それだけ。
けれど、皆ロドスなのに。
皆、同じ人間なのに。
少し前、配られた資料は、外の人間に見せるなって、ケルシーがいってた。
でも、おかしい。
レッドには難しいこと、わからない。
だけど、ドクターが大変なのは、わかった。
だったら、外の人にも、知らせてあげるべき。
人垣を、お構いなしに、進む。
変な目で見られても、無視する。
もう、慣れた。
ちょっぴり悲しい、けど。
そんなことより、大事なものは沢山ある。
すり抜けていく。
こんなところで、レッドの技が役に立つのは、とても意外。
外に締め出されている、この人垣は皆外の人間。
そういえばここは、ドクターが居るらしい病室の近く。
人垣を抜けきると、そこにはシルバーアッシュと......テキサス、そしてアーミヤ、あとロドス内部のオペレーターが居た。
すごい剣幕。
柄にもない、というのか?
とにかくレッドは、レッドにしては珍しく、怖いと思った。
戦場で何度も死にかけたけど、そのどれよりも、怖かった。
「これだけの数の人間がロドスのやり方に不信感を持ってるのだぞ。
アーミヤ、いい加減に選択をするべきだ。
我々にハッキリと、君たちは信用ならないといい放つか、あるいはドクターの情報を我々にも開示するか、だ。」
ギロッ。
そんな音が聞こえそうな程、シルバーアッシュの目は鋭い。
ケルシーが本気で怒ったときと、いい勝負かも、しれない。
「現在開示できる情報は全て開示しました。ドクターの件に関しての要求はこれ以上呑めません。」
でも、アーミヤは引かない。
あの目は、何度も見たことがある。
暗い、けど真っ直ぐ。
決意の、目。
あのアーミヤは、絶対引かない。
シルバーアッシュもそれはわかってるのか、はじめからアーミヤを折るつもりはなさそう。
「そうか。だが我々は「ドクター」の指揮で動くという契約の下このロドスへ来ているのだ。まさかあの、部屋から一歩も出れぬような容態で指揮を執れるわけではあるまい。
ということはつまり、我々は今動けんということだ。
これが何を意味するかわかるな?
個人の感情ではない。安全面でもそうだ。
ドクターの下なら安全に戦える。そう信じてここへ来たのだ。それが、言えぬ理由で別の人間に指揮を任せる、だと?
それは旧態依然とした軍部でならば通用したかもしれんが、ここ
レッドの苦手な、理論だ。
理屈を立てて、意見を通す。
感情や、常識に左右されない。
レッドには難しいことはわからないから、あまり好きじゃない。
流石のアーミヤも、一瞬怯んだように見えた。
けれど直ぐ考えを纏めたようで、毅然と答えた。
「わかりました。皆様にも情報の開示を行うことを約束しましょう。
ですが、今ではありません。ケルシー先生とも協議しなければならないので。」
シルバーアッシュは未だに厳しい目付きだったけど、その言葉を聞いてから一人、また一人と人垣の人間が離れていく。
信じたんだろう。アーミヤを。
最後にシルバーアッシュ本人が居なくなって、アーミヤはほっ、とため息をついていた。
「あっ、レッドさん......」
こっちを、みた。
疲れきっていた顔をしてたのに、直ぐにまた笑顔を作る。
漏れた笑みじゃなくて、作ったんだ。
「恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね......」
無理、してるのは分かってる。
アーミヤ、責任感が強い。
このままじゃ、いつかきっと壊れてしまう。
「全然、アーミヤ、頑張ったと思う。」
口下手なレッドだけど、すこしだけでも、力になりたい。
「そう......ですか......?」
きっと、そう。
次はレッドも頑張らなくては。
ドクターが、呼んでる。
いつのドクターなのか、それはわからないけれど。