メダロット5? すすたけ村の転生者   作:ザマーメダロット

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20.水浴びて地固まる

林を抜けて公園に戻ると、ベンチに座っているのはアサヒだけだった。周囲を見回しても、オサムの姿はない。オレが林から出てきたのを見て、アサヒはベンチから立ち上がってこちらへ歩いてくる。

 

「オサムどこ行った?」

 

「お前が滝の方に行ってすぐに帰っちまったよ。メダロッチもあいつが持ったままだ」

 

オサムのことを話すアサヒの平坦な口調からは、このようなことには慣れているという親友らしさが感じ取れた。それを裏付けるように、オサムの機嫌を特に気にかける様子のないまま、視線がオレが手に持っているパーツに移る。

 

「で、それが滝に落ちてたやつか?」

 

「おう。他になければな」

 

「ちょっと貸してみろよ」

 

言われるままパーツを手渡すと、アサヒはそれをメダロッチとペアリングして、メダロッチにパーツの情報を表示した。視線がある一点で止まり、アサヒは目を細めた。

 

「左腕パーツ"パワーアーム"、DRV型……DRVってなんだ?」

 

「なんで知らないんだ?お前かオサムが落としたパーツじゃないのか?」

 

「うっ」

 

指摘されて口ごもるアサヒに、オレは苦笑する。

 

「まあいいけど。だってそれ、多分盗品だしな」

 

「盗品!?」

 

「DRV型なんて機種は発売されてないだろ。それにちょうど最近、発売前のメダロットが江戸紫の研究所から盗まれたらしいし」

 

顔を上げて大声を出したアサヒに、盗品、それも研究所から盗まれたとする根拠を挙げてやるにつれ、アサヒは真に受けて顔を青くする。

 

「ま、マジかよ……これ持ってたら捕まるんじゃ」

 

「研究所に知り合いいるし、オレから連絡入れとこうか?」

 

「あ、そうなの?」

 

フォローを入れると、アサヒはすぐに元気を取り戻す。

 

「なら任せるけど、なんで引っ越してきたばっかのやつが研究所に知り合いいんだよ」

 

「秘密」

 

「んだよケチ」

 

パーツを返してもらいながら、互いの軽口に笑い合う。友達になったという感じがして、気持ちがいい。

 

「オサムの家知らないだろ?連れてくよ」

 

「おう、ありがとう」

 

「って言っても、こっからすぐ近くだけどな」

 

アサヒに連れられ、オレも公園から南に歩き出した。

 

 

……

 

 

公園の南に向かって、容赦なく建てられた住居たちを横目に長い坂を降りると海岸に出る。ちょうどここは、執事と戦った商店街を抜けた先でもある。そこから更に南に進むと、台地のように盛り上がった地面の上に一軒家が立っていた。

 

辺りは小さな船着き場や松の木がある他は平らで何もない海岸なのに、その中にドンと家とその土台があるというのは、風情があるような滑稽なような、なんとも言えない景色だ。

 

南側まで回り、踏み均された土の階段を上ると、アサヒはすぐに引き戸をがらがらと開け、そのまま玄関へ入った。

 

「オサムー!」

 

家の中に大声を響かせつつもその動きは止まらず、靴を脱いで床まで上がり込む。

 

「お邪魔しまーす」

 

その後に続いて敷居をまたぐと、釣り竿やクーラーボックス、タモがいくつも壁際に並べて置いてあった。靴を脱いで向きを直す時に、長靴も目に入った。流石は漁師の家。アサヒの足音が遠ざかっていく方を見ると、階段を上がっていくのが見えた。

 

階段へ向かいつつ左右を見回すと、ちょうど畳敷きの居間から出てきた女性と目が合った。オレの母やオサム本人ほどではないが細目で、一見目元や口周りも動かずクールな感じだが、オレを見るなり小さく首を傾げ、口を開けて一瞬だけ固まる。

 

「あら、オサムの友達?」

 

遅れて出てきた声の調子まで一本調子で、少し怖い。

 

「テンサンです。ちょっと用があってヒョウモンと来ました」

 

「そう。オサムなら2階の自分の部屋にいるから」

 

来訪者の正体を確認して満足したのか、それだけ言って、オサムの母親(名前忘れた)は居間へ戻っていった。

オレは小さく鼻からため息を吐いて、2階に向かった。

 

 

……

 

 

2階に上がってすぐ左側、白い木の引き戸が開いている部屋の中で、アサヒとオサムはカーペットに座っている。カーペットの上にはメダロットのパーツが並べられている。メンテナンスでもしていたのか、磨き布やドライバー、折りたたまれた新聞紙が転がっている。

 

オレが部屋に入ったのに気付き、二人してオレに視線を向けてくる。しかしオサムのそれが、外で会った時のような嫌悪の籠もったものではなかったので、オレはのけぞった。

 

「そんな目で見るなよ……悪かったって」

 

「どういう風の吹き回しだよ?パーツは取ってきたけど、それで機嫌が直ったわけじゃないよな」

 

「こいつらに話を聞いたのさ」

 

オサムが手を差し出す。そこにはオレのメダロッチが乗っていた。

 

「おかえりー!」

 

「コイシマル、お疲れ様」

 

「おう、ただいま……話って?」

 

メダロッチの中から声を発するルートとベーデンに軽く返す。それを受け取って腕に巻きつつ、オサムに詳しく話すよう促すと、オサムは得意げに腕を組む。

 

「お前がいいマスターかどうか試してやろうと思ったんだ。アッちゃんにロボトルに勝ったっていっても、メダロットに無理させて出した結果かもしれないからな」

 

「まったく。オレはちゃんと"実力で負けたんだ"って、何回も言ったのによー」

 

「ごめんごめん」

 

アサヒの声は明朗で、ここでも怒っていないことがわかる。オサムも口では謝っているが、顔は笑っている。

 

「それでコイシマル、パーツが盗品って本当なのか?」

 

オサムが声のトーンを落として問いかける。ある程度はアサヒから話を聞いたようだ。

 

「売ってない機種なんだし、盗品だろ」

 

「そっか……それさ、ウスモン先生が、誰かに頼まれて滝に沈めたみたいなんだ」

 

「誰かって?」

 

「わかんねー。ニット帽とサングラスとマスクで顔は見えなかったし……」

 

黒マントこと、村長秘書の"アラクネ イト"のことだ。今の所はゲーム通りに暗躍しているらしい。

 

「じゃあいいや。で、メダロット部にはちゃんと入ってくれるのか?」

 

オレが訊くと、オサムはゆっくり頷いた。

 

「ああ、おれも約束は守るよ。ごめんな、寒かったろ」

 

「今もちょっと寒い」

 

「……マジでごめん」

 

「済んだ話だ。気にすんなよ」

 

寒中水泳のことを引きずって欲しくないオレは、笑顔を作って右手を差し出す。オサムも笑って右手を出し、オレたちは握手した。お互い満足して手を離したところで、アサヒが両手をぱんぱんと叩いて口を開く。

 

「いやー、よかった、よかった。これであと1人か」

 

「あれ、言ってなかったっけ。オオムラも入部したからサメハダで5人目だぞ」

 

「マジで!?あいつ弓道部の部長だろ!?」

 

信じられないとばかりにアサヒが上げた大声に、オレとオサムが顔をしかめる。

 

「人ん()で叫ばないでよ」

 

直後にオサムが抗議し、アサヒは目を見開いたまま口を閉じ、落ち着いてから再び開いた。

 

「おう、すまねえ……で、どうやったんだよ?」

 

「兼部だよ。弓道部優先ってことにしてある」

 

「はー、なるほどねえ」

 

「でも5人だと対戦ペアを作る時によくないよな。もう1人欲しくないか?」

 

「まあ、とりあえず廃部の危機は脱したから。あと1人はゆっくり探すよ」

 

……と、真面目に提案してくれたオサムには誤魔化しておいたが、実際はコノハを勧誘することに決まっている。本当はそちらで5人目のつもりだったので、最悪コノハは勧誘に失敗しても大丈夫になったわけだ。

そういう意味でも、この段階でオサムが仲間になったのは嬉しい誤算だ。

 

「わりい、トイレ借りるぜ」

 

立ち上がったアサヒが了承も得ないまま部屋を出ていく。

 

入部意思を確認できて安心したからか、急に疲れが来た。ぐっと伸びをすると、ふと窓の外に水平線が見えた。

 

「なあなあ、コイシマル」

 

「ん?」

 

いいとこ住んでるな、と思っているところに、オサムが声をかけてきて、オレは伸びたまま振り向いて返事をした。

 

「上がってくる途中に、おれのお母ちゃん見たか?」

 

「挨拶はちゃんとしたぞ」

 

「美人だろ?」

 

「そうだな」

 

内心、何言ってんだこいつ、と思いつつ、表情は崩さずに答える。

 

「へへっ、ありがとう。そうそう、おれのお父ちゃんは今遠くまで漁に出ていないんだけど――」

 

 

……

 

 

オサムの親バカならぬ子バカ話に付き合わされたり、戻ってきたアサヒから、すすたけ小の教師たちについての噂を聞かされたり。くだらない、子供らしい話に、オレたちは時間を費やしていった。

 

窓の外が暗くなり、オサムの母親に帰るよう言われてようやく、オレとアサヒはそれぞれ家に帰った。




新発売の"感情類語辞典(増補改訂版)"買いました。この手の本を買うのは初めてで、偶然このタイミングで増補改訂版が出ることを知ってポチりました。

"プロってすごいんだなあ"と思いました。そして、つらい。

辞典部分とは別に、45ページに渡って、キャラクターの感情の表し方、つまりよりよい地の文の書き方について語られています。
例文も交えてあり、わかりやすいのですが、それがいかに難しいことかを突きつけられもします。
"この通りにやるとすると、台詞補完用の地の文1行書くのにどれだけ苦労するんだろう"、といった感じで。
無論それは質を上げるための苦労であり、読み終わった後に自分の書いた文章を読んでるとチープだなあと感じさせられます。連載はやめませんが。

辞典部分は130種類の感情にそれぞれ2ページずつ使って、その感情から発生する動作、その感情を隠している時の様子、その感情を想起させる動詞、とかが詰め込まれています。
正直しばらく使いこなせる気がしませんが、絶対にこれは便利なはず。

ここに書いて宣伝になるかはわかりませんが、作品書かれてる方におすすめしたい一冊です。
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