メダロット5? すすたけ村の転生者 作:ザマーメダロット
廃部回避が決まった翌日。午後のホームルームが終わった後。
「よう」
声が聞こえて、自分の席に座ったまま振り向くと、アサヒが軽く手を上げている。その隣にはオサムもいる。
同じく気付いたヤマトは鞄を置いて立ち上がり、机を回り込んでアサヒの前へ。オレ、アサヒ、オサム、サキ、ヤマトで円ができた。
「お疲れ。ここにいる5人が現状の部員全員だな」
「ああ、最後の一人ってやっぱりオサムくんだったの」
オサムの入部を伝えるが、サキやヤマトに驚く様子はない。
「もしダメだったらと思ってたけど、ちゃんと入部してくれてよかった。これで5人だね」
「入って当たり前みたいな言い方しやがって」
頷くヤマトを見て、オサムが肩を落とす。
そして今日も、サキは「じゃあ私、弓道部に行くから」と言って出ていった。
「で、なんか用事?」
「"なんか用事?"って……部室に行くんじゃないのかよ?」
改めて尋ねると、アサヒに訊き返された。
「いや、今日こそは図書室に行かないと」
「なんで?オバケ退治に行くのか?」
転校当日に聞いた、学校にいるオバケの話らしい。
「図書室にオバケがいるのか?」
「オレもコノハから"いる"って聞いただけだけどよ」
「1組の女子に退治するよう頼まれて放っといてるって、その話か」
「うっ」
これまた転校初日に聞いた情報をぶつけてみると、アサヒは言葉を詰まらせた。オサムも何も言わない。
「……オレ、オバケとか、そういうの苦手なんだよ」
「オバケかぁ……いやだなぁ、出たらどうしよう?」
「いや、ヤマトは一回神社で見てるだろ」
「なにっ!?見たのか!?」
実際に見たという話を出すと、アサヒが大声を出す。周囲の生徒の視線が集中するが、アサヒ本人は気付いていない。
大声に怯んだヤマトが、少し置いてから話し始める。
「えっと……こないだうちの神社にオバケが出てたんだけど、どうもメダロットだったみたいで。その時はコイシマルくんが追い返したんだ」
「メダロットだぁ?誰かのイタズラってことかよ」
「イタズラにしては手が込んでるというか、長く続きすぎな気がするけどね」
ヤマトの指摘は正しく、イタズラではない。イトが表立って動けばバレるリスクが高まるから、メダロットを使ってあれこれ工作――というには乱暴だが――しているというのが事実だ。
「でも、神社のオバケと学校のオバケって同じなのかな?」
「オレが来る前からいたみたいだけど、出始めた時期はどうなんだ?同時期なら同じと見ていいと思う」
「うーん、じゃあ同じなのかな?」
「ただのメダロットってことなら怖くともなんともねえな。ちゃちゃっと用事済ませようぜ」
いまいちピンと来てなさそうなヤマトをよそに、アサヒはすっかりメダロットだということにして話を進め、教室を出た。
そのすぐ後にはオサムが続き、オレとヤマトも、鞄を持ってアサヒを追いかけた。
……
「きゃあ!」
1階の廊下の東端。アサヒを先頭に図書室に近づくと、中から女子の声がした。
「コノハか!」
反応してアサヒがドアに手を伸ばしかけるが、その前に勢いよく開き、オバケメダロット3体が、足音もなく飛び出す。オレがいつも見るやつらだ。
「うわああっ!?」
アサヒは飛び退いて、素早くオレの後ろに隠れる。ヤマトとオサムは固まっている。オバケメダロットたちはその間に、オレたちを避けて隣の部屋に飛び込んでいく。アサヒの叫び声に隠れて、鍵を開ける音が聞こえる。
あらかじめ分かっていたオレは、アサヒを押しのけて、オバケメダロットたちを追う。
開け放されたドアの中へ駆け込み、ベーデンを転送しようと手首を口元まで上げようとしたそのとき。
「コイシマル!危ない!」
ルートの声がし、目の前には本棚が倒れてきた。慌てて数歩後ろに走る。
部屋の入口付近で、背中が誰かにぶつかって、二人とも尻餅をつく。
本棚が倒れ、ゴンッと鈍い音が立った。中に並べられていた本がいくらか散らばる。思っていたより遠かったようで、元々オレがいた場所までも届いていない。
手の甲で額の汗を拭い、隣を見ると、どうやらぶつかったのはオサムらしい。
「な、なにがどうなったんだよ?」
「悪い、本棚がな」
オサムは、オレが邪魔で前が見えず、何が起こったかよくわかっていないようだ。一言謝ってから立ち上がり、改めて部屋の中を見る。
図書室の隣の部屋は書庫か何からしい。本棚がびっしり配置されているのに、貸し借りを行うカウンターとか、読書・自習に使う机がない。
本棚は、目の前の一つ以外にも、そこかしこのが倒されている。
「くそっ、マジかよ……」
ゲームでは、箱を押して並べると本棚が上に持ち上がって出口が現れる、というギミックがあったのだが、流石にそんなものはないようだ。
代わりに、右奥にはドアがあり、これも開け放されている。オバケメダロットたちは、オレが本棚に驚いて止まっている間に、まんまと逃げおおせたようだ。
何にせよ、わかっていたのに逃げられてしまったのが悔しい。まさか、こんな三原則スレスレの手を使ってくるとは。
「うーわ、本棚倒れてるじゃん」
立ち上がったオサムが、惨状にため息をついた。
「オバケが逃げるためにやったんだろうな。オレたちだけじゃ片付けられないし、先生呼んできてくれるか?」
「わかった」
ドアの外に出てみると、校舎裏だった。オバケメダロットの姿はない。塀の近くに、本が数冊落ちている。オバケメダロットは塀を飛び越えて、学校の外へ逃げて行ったのだろう。
落ちていた本を拾って、一冊一冊ページをめくって砂を落としてから部屋に戻ると、40代くらいの男の先生が来ていた。先生は、本棚から散らばった本を拾って、壁際に積んでいる。オレが入ると、すぐにこちらに気がついた。
「テンサンくんだね。サメハダくんから事情は聞いたよ。この部屋のことは先生に任せておきなさい。危ないからね」
「わかりました。あと、そのサメハダがどこにいるか知りませんか?」
「タテハさんと図書室へ行ったよ」
「ありがとうございます」
……
廊下側に出て、改めて図書室に入ると、ヤマト、アサヒ、オサム、コノハがいた。立ち話をしているようだ。
図書室の本棚はどれもスカスカだ。オバケメダロットが盗んでいったからだろう。
「オバケ、いた!?」
入るなり、コノハがサッとこちらを向き、鋭い声で問う。
「いたけど、中の本棚を倒して逃げてった。あっちも慌ててたみたいで、塀の近くにこれが落ちてた」
拾った本を手渡すと、コノハはそれを近場のカウンターに置く。緊張が解けたのかなんなのか、頬が少し緩んでいるように見える。
「ありがとう。何かお礼をしなくっちゃね」
「それならメダロット部に入ってくれ」
オレに向き直り礼を言うコノハに対して、入部を要求する。コノハは躊躇ったり嫌がったりせず、表情を変えない。その横にいるヤマトは小さくガッツポーズしている。
「あら、それでいいの?」
「それはこっちの台詞なんだけど、タテハがいいなら」
「そう」
コノハは両手を前で重ねてお辞儀する。
「よろしくお願いします」
「これで部員が6人になったね。じゃあ、みんな部室に案内するよ」
ヤマトが両手をパンと打ち合わせて言う。
「待って。わたし、ここの戸締まりをしなくちゃ」
「あと、ヤマトは結局本借りられたのか?」
オレが訊くと、ヤマトは首を横に振る。
「ううん。探したけれど、見つからなかったんだ。オバケが持っていったんだと思う。コノハちゃんの方はコイシマルくんが後から連れてきてくれる?ぼくは先にアサヒとオサムを部室に連れていくから」
「わかった」
「じゃあ、行こうか二人とも」
ヤマトはどういうわけか、アサヒに対して、もう苦手意識はないようだった。
「また後でな」
アサヒもオレとコノハにに一言かけてから、文句一つ言わずついていく。オサムもこちらに向かって軽く手を上げてから、その後に続いた。オレのいない間に何かあったのか?
「コイシマルくん?もう窓も閉めたから、外に出てちょうだい」
ぼーっと考えていると、コノハに声をかけられた。
「あ、ごめん」
コノハが図書室の鍵を閉め、オレたちは部室へ向かった。