メダロット5? すすたけ村の転生者 作:ザマーメダロット
弁当(おにぎり2個)をさっさと食べ終えて席を外し、北側校舎へ向かう。グラウンドでもその外でも、遠巻きにこっちを見てくるようなのはいるが、直接絡んでくる勇気のあるやつはいない。
校舎に入ると、人通りはまばらだった。話し声なんかもあまり聞こえてこない。せいどう生の多くが食堂に行ってるからか?
「あんまりいい目立ち方じゃなかったかな」
「反則したわけじゃないんだ。堂々とするよ」
当事者のベーデンにそう返しながら、階段を上がる。2階に出て右手にある教室を覗き込むが、誰もいない。
メダロッチで時計を見ながら、さらに数分待ってみる。
「ここに何かあるの?」
「いや、ちょっとな」
が、誰も来ない。
……大会の昼休み、ここでシナリオイベントがあるはずなんで、確認しに来たんだが。ここも流れが変わっちまったか?
「ここにいたか。コイシマルくん、ちょっといいかな」
どうしたかなと考えていると、背中から声をかけられた。振り返ると、ヒコオがいた。軽く手を上げて挨拶する。
「ああ、タマヤスか。決勝ではよろしく」
「そのことで話があるんだ。時間は取らない、そこの教室で話そう」
ヒコオは答えも聞かずにさっさと教室に入っていった。オレも後に続いていき、お互い廊下から見えない位置で立って向かい合う。
「実際に見ていたわけじゃないが……2回戦と3回戦、キミは同じパーツを使っていたが、明らかにメダロットの強さが違ったらしいね。ということは、違うメダルを使ったんじゃないかな?」
「そうだけど、それが?」
「理由を聞かせてくれ」
「たまたま3回戦になって、急遽、個人的な事情が入っただけだ。元々あいつを出す予定はなかった」
「なぜだい? 最初からそのメダルを出していれば、もっと楽に勝てたはず」
「それは、これがチームロボトルで、オレたちが……」
じっとヒコオが見つめてくる前で、オレは一旦口を閉じ、言葉を選ぶ。
「オレたちが、つい最近集まったメダロット部だからだ。お前らせいどう生と違って、オレたちは勝利至上主義じゃない。あんな勝ち方を続けて、みんなが"またやりたい"なんて思えるはずがない。現にオレ自身、3回戦が終わって、これっぽっちもいい気はしてない」
「つまり、ロボトルの目的が違うということだね。この大会では特にそうだが、ボクたちはとにかく結果を求められる。そこのところ、キミたちにとって、勝つことが最も重要というわけではないと……」
頷く。
「わかったよ。でも、ボクとしては決勝戦でそのメダルを使って欲しいんだ」
「なんで?」
「そうだな……キミにそのつもりがなかった以上、説明が必要か」
ヒコオが手近な椅子を引き、そこににかけたので、オレもその隣の椅子を引いて座った。机の上にはこのクラスの生徒の私物が乗ったままだ。
「例年、この大会には外部の強豪校がゲストとして招かれているってことは、キミも知ってると思う。それが今年になって突然、無名のキミたちがやってきた。それでただ勝ち抜くだけならまだしも、うちの2軍を一瞬で倒してしまった。今、大会に出ているみんなの間ではちょっとした混乱が起きている」
「混乱? 大番狂わせってことか?」
「いいや、それ以上の問題さ」
ヒコオは首を振った。
「"せいどうの教育方針は正しいのか"……3回戦のインパクトで、そんな不信感を抱く生徒が出てきているんだ。上を目指すという意味でも、メダロッターとしての姿勢という意味でもね」
「一時的なもんだろ。ほっとけばいい」
「そうはいかないのさ。ボク自身もそうなのだから」
穏やかな笑みを浮かべるヒコオに、オレはどうリアクションしていいかわからなかった。
「ボクは知りたい。ボクとキミ、本気でぶつかって、どちらが勝つのか」
「大会の後にでも1対1でやればいいだろ」
「ボクだけならね。でも、この舞台でやってこそ、みんなが納得して結論を出せると思うんだ」
「じゃあ、オレが勝ったとして、どうなるんだよ」
「それは人それぞれだ。場合によっては、この学院を去る生徒も出てくるかもしれないね。それだけ、ここにいるみんなは本気でロボトルに打ち込んでいる」
冗談という風ではないが、それにしては軽く言っているようなのが目についた。
「お前、面白がってないか?」
「まさか。むしろ、この状況を重く見たからこそ、わざわざキミを探して来たんだ」
「……」
息を吐く。原作との状況の変化、ヒコオの提案に乗るしかないという気付き、その両方への嘆息だった。
「せいどう1軍は2軍とも水をあけた強さだ。ベーデンを出さなかったとしたら、ハンデでもつけない限り勝ち目はほぼない。2・3番機のパーツとメダフォースの使用を禁止して、やっと対等になるかどうか。オレはそう見てる」
「ほう……」
「コイシマル!?」
ルートの悲鳴に近い声が教室に響いた。
このハンデは原作でヒコオが実際につけたハンデそのまんまだが、今日、大会を観戦していてもそれが妥当だと思えた。
ゲームと違って1日が無限に続いたりしないし、すすたけ村に来る前のように超長期の準備期間があるわけじゃない。ここまでにルートをネクウと対等に育てることは、元から不可能だった。
「ボクも同意見だ。キミたちは勝つことが目的ではないが、まともなロボトルにするには、ハンデが必要だろうね。3回戦の話を聞くまでは、勝ち上がってきた時にそうするつもりだった」
「要するに、もうそのつもりはないんだな」
「そうだ」
「わかった。本気でやろう」
「キミのその言葉が聞けてよかった。いい試合にしよう」
「おう」
それは何の意味もこもらない生返事だったが、ヒコオは満足そうに教室を出ていった。オレはひとり、他人の机に頬杖をつく。
「コイシマル、なんであんなこと言ったの!?」
天板に置いた左手首から、再びルートがオレを非難した。
「やる気と戦力評価は別なんだよ。それに、さっきあいつが言ってたのはな。"楽しくロボトルさせるつもりはない"って意味なんだ」
「じゃあ、ヒコオって子は楽しくてロボトルやってる子じゃないってこと?」
「普段どうかは知らないけど、今だけはそうだな。本気同士で決着をつけるためのロボトルなわけだから」
そう言うとルートは、んー、と唸り始める。
「……楽しくロボトルするのって、実は難しいのかな? ロボトルってみんな本気でやってるから楽しいんだと思ってたけど、ベーデンみたいにすると、確かに楽しくないもんね」
「当事者としても否定はしないよ」
ストレートに言われてベーデンが怒るのではと思ったが、そんなことはなかった。ここはちょっとくらい怒ってもよかったんじゃなかろうか。
「ローカルルールとか、ハンデとか、ロボトルに限らずいろんな遊びには、楽しむための方法が考えられてきてる。まあ、ルートは細かいことは気にしなくていい。大会に出る機会はこれからもあるしな」
「今度は最後までロボトルさせてくれる?」
「おう」
「約束だからね!?」
「おう。じゃ、ちょっと考え事するから音切るぞ」
一言断って、オレはメダロッチの音声をオフにした。鼻息が抜け、教室が静かになる。
実のところ、せいどう1軍に関していえば、ベーデンを出せば勝てるというものではない。
むしろ、ベーデンの存在込みでも、ハンデ前提で勝ち方を考える相手だった。
観戦していて感じたが、せいどう生の中で、2軍1軍は飛び抜けてレベルが高い。
ゲームでも、2軍リーダー辺りは他のやつらとメダルのレベルが二回り違う。そこからさらに二回り以上違うのが、1軍リーダーのヒコオ機だ。
この時点でメダルを最終進化済みという突拍子もないスペックは、事実上の3対1というハンデがあるのにも拘らず強ボスとして語られた実績がある。それがそのまま現れていると考えていいだろう。
2軍まではベーデンの開幕ヘッドショットが通用するだろうという目算があった。
だが、ヒコオ――ネクウについては確信が持てない。事前に戦って確かめる機会もなかったしな。
今回はそれが、本気で向かってくる。
格闘タイプのネクウは攻撃後の隙が大きな弱点になるはずだったんだが、そこで問題になるのが、残りの超高装甲の護衛機の存在。
他のメダロットを攻撃から庇う援護タイプのパーツは、相手の攻撃のタイミングやコースを高精度で予測し、一時的な推進力強化でもって確実に受けに行くという原理だ。
生きたオートガード盾、とでも言えばいいか。
援護パーツが一度始動したら、そいつがよほどまずい位置取りでもしない限り、こちらがいかにスピードのある攻撃を繰り出したところで、狙う相手には届かない。
メンバーを100%盾として運用し、リーダーが目一杯暴れる余地を作って、一体ずつ仕留めていく……ワントップの最適解と言える戦術だ。
普通に戦えば、直接攻撃できるチャンスは開幕の1度だけ。それを過ぎれば、2・3番機が絶え間なくカバーしてくる。
そして、開幕ではネクウ自身の防御が間に合う可能性がある。そうなればせいぜい腕一本で済まされて仕留め切れず、結局は援護機の始動を許してしまう。
対する我がすすたけ小メダロット部は、戦術的な組み立てではなく単なる持ち寄り……悪く言えば寄せ集めだ。ワントップ戦法を真似できるだけの下地が、練度的にも物資的にもない。
「……作戦なしじゃ詰むかあ、これは」
オレはメダロッチを見て、昼休みの残りを確認した。
……
オレは席に戻った後、部員が全員集まるのを待って、対ヒコオでは作戦が必要になることとその理由、そして具体的な作戦をを説明した。
それ以外のややこしいことについては言及しなかったが、オサムとアサヒは聞きかじったようだった。
せいどう学院の生徒の間で動揺が広がっていて、食堂ではそこかしこでその話題が挙がっていたらしいから、さもありなんといったところではある。
説明の終わり際に昼休み終了の放送があり、後は呼び出しを待つのみとなった。
「これといって欠陥も見当たらないし、詰めるだけの時間もない以上、その作戦で行くしかないわね」
サキが、腕を組んで首を傾げて言った。
「どうせ手柄を譲るならオレにくれてもよかったんじゃないか?」
「あらオサムちゃん、決勝戦で出番が貰えるだけじゃご不満かしら?」
「うっ……」
「シッテンだな、オサム」
「それを言うなら失言でしょ。本気では怒ってないから、気にせず頑張ってらっしゃい」
ちょっとは怒ってるんだ……と、オレとヤマトは顔を見合わせた。
「譲るって言っても、結果そうなるってだけで、別にサキに贔屓したわけじゃないからな?」
「それ、わたしの前で言うこと?」
『これより、4回戦を行います。せいどう1軍チームとすすたけ小学校メダロット部チームは入場して下さい』
放送に遮られたサキはピタッと固まった後、表情を引き締めて立ち上がった。オレとオサムもそれに続き、3人互いに目配せをする。
「みんな、頑張ってね!」
「トチるなよ!」
「悔いのないようにね」
ヤマトたちに見送られ、オレたちは入場口へ向かった。