メダロット5? すすたけ村の転生者   作:ザマーメダロット

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33'.初夏の夕暮れ

 夕暮れ時の北校舎前の外、クラス替え大会に向けた特訓の最中。学院から貸し出されたメダロットを使って6体での模擬戦をしていると、その1体がふと動きを止めて、よそ見をした。

 注意しようとしたら、続けて他のメダロットたちも同じ方を向いたから、わたしもそっちを見た。

 私服の男の子と目が合った。学内のコンビニのレジ袋を片手に下げた彼は、もう片方の手を軽く振った。

 

「ああ、おかまいなく。どうぞ、続けて続けて」

 

 それから彼が大会のゲスト校の部長だと聞いた時、胸の奥が冷たくなって、すぐにカッと熱くなるのを感じた。

 学院のルール、いかにわたしのメダロッターとしての全てがあの大会にかかっているかをまくし立てても、彼は、顔色一つ変えずに言う。

 

「なるほど。じゃ、辞めたら?」

 

 最初は、なにをバカな、と思った。いくら今が辛くても、強くなるチャンスを一度掴んだのに、それを手放すわけがないと。

 彼が"ろくな学校じゃない"と切り捨てようと、所詮は部外者。

 最強最高のメダロッターを目指す環境として、これ以上はない。みずうみ分校から転入して、2軍のリーダーにまでなって、今がある。そしてこの先、もっと強くなる。

 わたしがそう言っても、言葉がすり抜けたみたいに、彼はそのままそこにいた。ただわからないから確かめるという風に、続けて問いかけてきた。

 

「"だから、自分以外の誰かがパートナーを取り上げられてるのは仕方ない"って?」

 

 今の自分を……これまで費やしてきた時間、引き換えにしてきた物の重さを否定するような言い分を、わたしは受け容れられなかった。

 だから、激情のままに彼をただ怒鳴りつけた。

 

 それでも彼は退かなかった。わたしがそうするのを待っていたとでも言いたげに、不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「嫌なら黙らせてみればいいだろ、お得意のロボトルでさあ」

 

 互いにメダロッチを構えて、メダロットを転送した。わたしはスタメン3体。彼は、エントリーモデルのKBT型が1体だけ。

 レフェリーに"これで大丈夫"と言うのを見て、わたしの怒りはますます高まった。どうしてもめちゃくちゃにしてやらないと気がすまないと思った。

 

 勝負は一瞬。レフェリーの声と銃声が重なるような、信じられない早撃ちで、リーダー機のライジュウタが弾き飛ばされた。頭部を一撃で撃ち抜かれて機能停止したのをメダロッチで確認して、わたしは頭が真っ白になった。

 不正を訴えようと思いつきはしたけれど、学院生として叩き込んだ知識と経験が、そんなものはないと言っていた。

 

「なあ」

 

 そうやって口を開くこともできないでいると、彼が近づいてきて、先に声をかけてきた。

 

「勝てさえすれば"最高のメダロッター"なんて、そんなアホらしいことがあるか?」

 

 わたしは何も言えなかった。考えること自体できなかった。

 

「だったら"最高のロボトル"は何(なん)になる。こうやって圧倒的に大差をつけて勝つことか? これが? これがそうなのかよ?」

 

 しばらくしてからレフェリーに促されて、彼にパーツを1つ渡した。言葉は返せなかった。彼はしばらく、待つようにしてわたしの方を見ていた後、黙って去っていった。

 

 ひとりになって、ようやく体が動くようになった。同じように黙っていたメダロットたちをストレージに帰して、寮の部屋に帰った。

 メダロットや物に当たる気力はなかった。負けた、絶対に勝てない、大会の結果は決まった……そんな考えが頭の中で渦巻いていた。最悪の気分だった。

 シャワーを浴びて、冷たいお茶を飲んで、ベッドの上に仰向けになっても、天井がぐるぐる回っていた。

 晩ごはんを食べて、歯を磨いて、電気を消して寝ようとした時になって、じんわりと気持ちが落ち着いてきた。自然に、わたしは夕方のことを思い出し始めた。すると、彼がわたしに多くの疑問を投げかけていたことに気付いた。

 

『なんで転校しないんだ?』

 

 学院にいるのは、強くなるため。最強最高のメダロッターを目指すため。

 

『勝てさえすれば"最高のメダロッター"なのか?』

 

 ……わからない。

 

『"だから、自分以外の誰かがパートナーを取り上げられてるのは仕方ない"のか?』

 

 一気に目が冴えた。今その問いを前にして、答えを出すのに時間は必要なかった。

 いくら学校の教育方針だからといって、メダロッターからパートナーを取り上げるなんて正しいはずがない。

 

 それを当たり前だと受け入れるような人間が、"最高のメダロッター"を目指す?

 

『そんなアホらしいことがあるか?』

 

 そうだ、馬鹿げている。

 意識の目覚めが頭から体全体に伝わって、じっとしていられなくて飛び起きると、わたしは部屋を出た。

 

 外から吹き込む初夏の夜の冷たい空気を浴びながら、廊下の窓へ向かって、外を見た。彼とロボトルしたグラウンドを見た。

 誰もいない。当たり前のことだったが、それでも、すぐに彼と言葉を交わしたくなった。ようやくわかったと、ありがとうと、伝えたくて仕方なかった。

 

 その夜から、わたしが大会に向けて考えることは変わった。

 

 わたしが学院を出ていくことを、チームメイトに相談した。2人ともすぐにわかってくれて、それぞれが家族と話し合って、3人とも元の学校へ戻ることに決めた。

 学院に通う他のみんなのことも、一緒に考えた。きっかけになったロボトルを再現しようというアイデアが出た時、わたしは"これだ"と思った。学院を去るわたしたちの最後の役目として、最もふさわしいと思った。

 

 ……そして、わたしがひとりでいる時には、その時まだ名前も知らなかった彼のことを考えていた。

 毎晩、お気に入りの本を読み返すように、あの日のことを思い出した。

 そのうちわたしは、まぶたの裏に、あの夕暮れの中でわたしを待っている彼へと一歩踏み出して、彼が笑顔で差し出した手を握ってくれる……そんな"もしも"を夢見るようになっていた。

 

 

……

 

 

「……んん」

 

 体が固い。気がつくと、机に向かったまま寝ていたらしかった。パジャマを着ている。

 

「何してたんだっけ……」

 

 頭がぼんやりする中、付けっぱなしのモニターのバックライトが眩しくて、目を細める。

 時刻は夜。画面の真ん中には、コイシマルくんに宛てた、書きかけのメールがあった。宛先メールアドレスは、まだ、空欄だ。

 

「……えへへ」

 

 それを見て、コイシマルくんにメールアドレスを渡したことを思い出すと、わたしは頬が緩んでしまうのを抑えられなかった。

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