ますたーは 幼児化 してしまった! 作:あたらんて
次の日のことである。
「わ…わんわん、わん…」
「かーま、もっといぬっぽくー」
「わ、わんっ!わふっ、わふっ!わ、わおーん!」
「カーマ、計画を実行しますよ」
「うひゃあああっ!」
学習しないポンコツ女神である。遠坂の血を引くだけのことはある。
「もう、ですか…」
「ええ。このままだと彼女がまた暴れだします」
「わかりました…。じゃあリツカ、外に行きましょう」
「う、うん。わかったー」
そこにはとんでもなく厳重に封がされた扉があった。
そして、その脇に立っているのはかつてカルデアと激戦を繰り広げた後、消滅した筈の黒化した牛若丸であった。
「おや…ようやく来ましたか」
「ええ。準備は全て完了しました」
「そうですか。それでは――こちらへ」
牛若丸が扉を解放する。中は暗く何も見えない。
「それじゃあリツカ、あなたはこれからこの中にいる人のところへ行かなければなりません」
「え…?」
「さあ、行きなさい―」
そう言っていつになく冷たい表情でカーマはマスターの背中を押し扉を閉め始める。
「なんで、こわいよ…」
「甘えるならば、中にいるあなたたちの母に甘えなさい」
そう冷たく言って、カーマは扉を閉める。
扉の中の暗い世界でマスターは泣き叫ぶ。
「やだよぉ…こわいよぉ…」
そんな中、奥から歌声が響いてくる。
「だれか、いるの…?」
マスターは奥へ向かって、フラフラと歩いていった。
「カーマ、随分と辛そうですね」
扉の外でパラケルススが口を開く。
「そうですね…。今はそっとしておいてください」
「まあ、できる限りの手は尽くしたので大丈夫だと思いたいですが…。マスターからの提案とはいえ…心配ですね」
「おや、これは藤丸殿の提案だったのですか?」
牛若丸も会話に参加する。
「ええ。彼女の話を聞いたらどうにかしたいと必死に考えられまして…。カルデアに伝えれば殺害の方向になるだろうと言われてこの方法を思いついたのですよ」
「そういえば、そもそも何で彼女やあなたは生きているのですか?私の知る限りじゃあ、完全に消滅した筈では?」
ある程度立ち直ったのかカーマが疑問を挟む。
「ああ、それは私にもよくわからんのですよ。いや、私のことならかつて冥界にもいたように唯の残滓で済むのですが…。
彼女のことは推測ですが恐らく、あのエレシュキガル神と同じ感じではないでしょうか。彼女も神であるならば――彼女を覚えているものがある限り、消滅は難しいのでしょう。まあただ…私も彼女も所詮は残滓。権能はほぼ消え去りました。回復するにはそれこそ聖杯がいくつも必要でしょう。今では彼女も精々この特異点の1割を滅ぼして終わりです」
「へえ…まあ、あのマスターさんが考えた方法で本当に彼女を救えるのかしらね…。
私は本当に人類のことを考えるなら今すぐ退治した方が良いと思いますけど」
「それは彼次第ですが…。彼は正義の味方です。ええ。絶対に成し遂げるのでしょう」
パラケルススは自信を持った表情で、そう言い切った。
「A―――Aaaaa、aaaa――――」
そこには母がいた。
子に裏切られた母がいた。
かつて子を滅ぼそうとした母がいた。
子の愛を求めた母がいた。
子を愛した母がいた。
其は創世の女神、原初の海、かつての人類悪―そして、生命の母であった。
「おかー、さん…?」
「a――a、aa―ア、ア、ア―?」
カルデアでの色々なサーヴァントとの接触によって子供としての概念を強め、またカーマとの生活によって愛を受ける者という概念を強め、かつて彼女が放ったケイオスタイドを原料としたパラケルススの薬によって彼女の子であるという概念を強めた。
彼は彼女を母と認識し、彼女は彼を子と認識する。
そして、ビーストという性質が消え去った今、彼女は理性を取り戻す。
メソポタミア神話における原初の女神―ティアマトがそこにはいた。
作中でも述べていますが冥界のメリークリスマスで黒化牛若丸がいたりエレシュキガルがいたりとティアマトの生存はこじつければ可能なんじゃないかと思います。
異論は認めます(自信なし)