ますたーは 幼児化 してしまった! 作:あたらんて
ハンティングクエストで大騎士勲章が来ることを願って…!
「aa―a、ア、リツ、カ――?」
「うん、どーしたの?おかーさん」
母と子が仲良くのんびりと暮らしている。
ティアマトはかつての頭脳体、ファム・ファタールの姿で藤丸立香の頭を撫でていた。
手足は拘束されておらず、言葉はまだたどたどしいが、目は確かに子への愛情に満ちている。
それは絵画のように美しい母と子の絆が見える風景であった。
「ふふ…おかあさん、へんなのー」
「ソウ、ネ――」
ティアマトはぼんやりとした頭でこれまでのことを振り返っていた。
神話時代に、夫より子たちを取り、その子たちに裏切られ虚数空間に落とされ、その虚数空間で長い間ただ悲しみと憎しみも持って生きていたが確かに愛情は持ち続けた。
そしてあの魔術王に呼び起され、ビーストとして顕現し、愛と憎しみが暴走して子たちを滅ぼしてまた母として世界に君臨しようとした。
しかし、生きている子たちに阻まれて、遂に倒された。なぜ生き残れたたのか不思議なくらいの重症を負ったが、子からの愛を受け取らぬ限り、死ねなかった。
しかし自身の命ももはや風前の灯火のようなもの。無理とわかっていても最後にまた人類を新人類で塗り替えようとしようと思っていた矢先、この子が現れた。
ティアマトは藤丸を見つめる。
「んー?どしたのー」
「フフ…ナンデモナイ、ノヨ…」
何故この子がこんなにも愛おしいのか。ティアマトは覚えている。この子こそが自分を打倒せしめた者たちの一人だと。なのに何故―――
「おかーさん、だいじょうぶー?こわいかおしてるよ」
「a―ア、ナンデモナイッタラ…」
「だいすきなおかーさんがそんなかおしてたらやだからね!」
ああ、そうだ。私は、愛されたかった。そして、愛したかった。自分を捨てようとなんだろうと、自らの子であるならば…私は、愛すべきなのだ。
かつてはこの子も滅ぼそうとしていた。今は私の子であると強く感じられる。そして私の愛を受け入れてくれる。私を愛してくれる。ならば―――
「リツカ、アイシテ、イルワ―――」
「うん、 ぼくもだよ!」
ああ、この時間をもう少しだけ、味わっていよう。
「リツカ、スコシ、イッショニネムリマショウ?」
「いいよー」
「ホラ、ヒザヲ、カシテアゲルワ…」
ああ、もう少しだけ―――
その光景はどこにでもありふれている母と子の日常であるが、それと故にかけがえのない貴重な光景でもある。
母は子の寝顔をみつめ、聖母の如き笑みを浮かべて、子は母の膝に無上の安心感を覚え、すやすやと眠る。
果たしてこれが、この2人にとってどれだけの幸せであるか―――
「アア、モウ、イカナクチャ…」
ティアマトの体は限界であった。かつての最終決戦においてつけられた傷は決して癒えず、最後の戦力として女神を一柱、子の牛若丸に求められるまま召喚したのだ。もう終わりであろう。
ティアマトの体が光りだす。段々、立香を膝で支えるのも辛くなってきた。
もう限界だと知っていたからこそ最後に一足掻きしようとしたのだが、これではどのみち無理であっただろう。
もう息をするのも辛くなってきたが、決して膝は崩さない。母としての意地がある。
最期まで、この子を、少しでも…
「おかー、さん…」
「!」
藤丸立香は知っていた。子は時にひどく聡くなるものである。この母の命がもうすぐなのもなんとなく悟っていた。
藤丸立香は泣いていた。子は親を強く、強く求めていた。この母の膝の上でもう少し眠っていたかった。
「アア、ナカナイデ…ダイジョウブ、ダイジョウブ、ダカラ…」
子を抱きかかえる手も弱々しい。
「おかー、さん…また、あえる…?」
母は、少しも悩まず即答した。
「エエ、キット、アエルワ…ダカラ、モウ、ナカナイノ…アナタハ、ツヨイコ…」
母は知っている。子は、親離れをしなければいけない。かつての自分はそれがわかっていなかった。
なれば今度こそ、今度こそ最期の言葉は伝えねばなるまい。
ティアマトの体が光の粒となって消えてゆく。
「おがー、ざん……!!」
「私は…あなたを、愛していたわ」
黄金の粒子となってティアマトは消え去った。
ここに、第二の獣は完全に倒された。