仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第10話 真犯人

19層・十字の丘

 

 

「確かにコイツはデッカイ獲物だ。聖竜連合の幹部様じゃないか?」

 

 

フードを被って現れた三人組を前に、麻痺状態のシュミットは死を覚悟した。何故ならその三人組は、アインクラッド最悪のレッドギルド《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》の幹部三人だからだ。

 

 

「さて、どうやって遊んだもんかね?」

 

「あれ、アレやろうよヘッド!『殺し合って残った奴だけ助けてやるぜゲーム‼︎』」

 

「そんな事言って、お前結局残った奴も殺しただろうがよ」

 

「あー!今それ言っちゃゲームにならないっすよヘッド!」

 

 

男の言葉は、子供のような喋り方からは想像もつかないほど、狂気に満ち溢れていた。

 

 

「さて、取り掛かるとするか」

 

 

ヘッドと呼ばれた男がシュミットの近くに歩み寄り、その手に持つ包丁のような剣を振り下ろす。

 

 

が、途中で手を止め、斜め後ろにある林の方を見る。

 

 

「どけ、ジョニー‼︎」

 

 

男はジョニーと呼ばれたナイフ使いを突き飛ばし、襲撃者の剣を自身の剣で受け止めた。

 

襲撃者は剣と剣がぶつかった力を利用して、後方宙返りをしながら着地する。

 

 

「久しぶりだな、PoH(プー)

 

「相変わらず凄え殺気だな、ペルソナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

–––やれやれ、まさかこんな所で出会うとはな。

 

 

私の目の前にはPoHの他に二人の男、麻痺で動けなくなっているシュミット、そして生きていたヨルコ氏とカインズ氏の合計6名。

 

 

「貴様が先程突き飛ばしたのが《ジョニー・ブラック》、そしてもう一人が《赤目のザザ》といった所か。ラフコフ幹部が勢揃いとは、それほど暇なのかレッドプレイヤーというのは」

 

「いいや、今回は依頼さブラザー。ここに来ればデッカイ獲物を狩れるってメールが届いたんだよ」

 

 

–––どうやら、私たちの推理は正しかった訳だ。

 

 

私はそう思いながら、腰に掛かっている刀武器【ディスペア・オブ・サーベル】を握る。

 

PoHと他二名は警戒態勢をとるが遅い。私は刀を抜刀しながら三人の間を通り抜け、納刀と同時に二人の片腕がボトボトとその場に落ちた。…PoHには防がれたようだ。

 

 

「キサマ…!」

 

 

ザザが無事な右手で剣を持ち、剣先を私に向ける。

 

 

「ヘッド、あいつ俺がやっていい?いや殺るよ」

 

 

ジョニー・ブラックも無事な左手で投げナイフを持った。

 

 

 

 

 

 

一触即発の緊張状態。そんな中、馬の蹄が地を蹴る音が聞こえてくる。

 

 

「イデッ!」

 

 

馬に乗っていたキリトが振り落とされ、尻から勢いよく地面に落ちた。

 

 

「遅かったな」

 

「君が早過ぎるんだよ。なんで馬より早いんだ」

 

「馬は木や崖などの障害物がある場所では、本来のスピードを出すことが出来ないからな。迂回した貴様とは違って、一直線で進んだ私の方が早いのは道理だ」

 

「なるほどね。それより……」

 

 

キリトは剣を構えながらPoH達の方を向く。

 

 

「どうする?もうじき援軍が駆け付けるが、攻略組30人を相手にしてみるか?」

 

 

キリトの言う『攻略組30人』というのはもちろん嘘だ。推測だけで攻略組を動かす訳にもいかないしな。

 

 

「……行くぞ」

 

 

PoHの指示で二人は武器をしまい、三人のレッドプレイヤーは深い霧の中に消えた。

 

 

三人の反応が付近から消えたことを確認したキリトは、武器をしまってヨルコ氏らの方を向く。

 

 

「また会えて嬉しいよ、ヨルコさん」

 

「全部終わったら、きちんとお詫びに伺うつもりだったんです。と言っても、信じて貰えないでしょうけど」

 

 

–––全く、人騒がせにも程があるがな。

 

 

「キリト、ペルソナ。助けてくれた礼は言うが、なんで分かったんだ?あの三人がここで襲って来ることが」

 

「分かった訳ではない。あり得ると推測しただけだ」

 

 

シュミットの疑問に私が答えると、キリトは再びヨルコ氏とカインズ氏の方を向く。

 

 

「カインズさん、ヨルコさん。あんた達はあの二つの武器をグリムロックさんに作って貰ったんだよな?」

 

「……彼は最初は気が進まないようでした。もうグリセルダさんを安らかに眠らせてあげたいって」

 

「でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっと武器を作ってくれたんです」

 

「残念だが、貴様ら計画にグリムロックが反対したのは、グリセルダ氏の為じゃない。圏内PKという派手な事件を演出し、大勢の注目を集めれば、いずれ誰かに気付かれると思ったのさ。私たちも気付いたのは30分前だったがな……」

 

 

私は語り始める。この事件の本当の真相を。

 

 

 

 

 

 

時は30分ほど前に遡る。

 

 

「結婚相手が死んだ場合、共通化されたアイテムストレージに入っているアイテムはどうなるんだ?」

 

「グリセルダさんとグリムロックさんの事?そうね、一人が亡くなったら……」

 

「そうか!全てのアイテムがもう一人の物になる!」

 

 

キリトもそこに気が付いたようだ。

 

 

「という事は、グリセルダさんのストレージに入っていたレア指輪が、」

 

「結婚相手であるグリムロックのストレージに残る」

 

「指輪は奪われていなかった?」

 

「いや、奪われたと言うべきだ。グリムロックは自分のストレージにある指輪を奪ったんだ」

 

 

 

 

 

 

全てを語り終えると、三人は話が信じられないのか、唖然としていた。

 

 

「グリムロックが…あいつがあのメモの差出人。そしてグリセルダを殺したのか?」

 

「いや、直接手を汚しはしなかっただろう。多分殺人の実行役は、汚れ仕事専門のレッドに依頼したんだ」

 

「貴様らにしたようにな」

 

 

私とキリトの言葉にシュミットは絶句する。

 

 

「そんな…あの人が真犯人って言うなら、なんで私達の計画に協力してくれたんですか⁉︎」

 

「あんた達はグリムロックに、計画を全部説明したんだろ?ならそれを利用して、今度こそ指輪事件を永久に闇に葬ることも可能だ。シュミットにヨルコさんにカインズさん。その三人が集まる機会を狙って、纏めて消してしまえばいい」

 

「そうか。だから…だからここに殺人ギルドの連中が」

 

「恐らく、グリセルダさん殺害を依頼した時から、パイプがあったんだろ」

 

「そんな……」

 

 

ヨルコ氏は次々と明らかになる事実に倒れ込む。そんなヨルコ氏をカインズ氏が支える。

 

 

「居たわよ」

 

 

声が聞こえた方から、アスナが一人の男を連れてやって来た。恐らく奴がグリムロックだろう。

 

 

「やあ…久しぶりだね、皆」

 

「グリムロックさん。あなたは…あなたは本当に。なんでなのグリムロック!なんでグリセルダさんを…奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの⁉︎」

 

 

泣きながら抗議するヨルコ氏。

 

 

「ふ、ふふ……金?金だって…?」

 

 

突然、肩を震わせながら笑い出したグリムロック。

 

 

「私は…私はどうしても彼女を殺さねばならなかった。彼女がまだ私の妻である間に」

 

「……どういう意味だ?」

 

 

かつての私と同じような事を言い出すグリムロックに私は問う。

 

 

「彼女は現実世界でも私の妻だった……一切の不満も無い理想的な妻だった……可愛らしく従順で、ただ一度の夫婦喧嘩すらもしたことが無かった。だが…共にこの世界に囚われた後、彼女は変わってしまった。

強要されたデスゲームに怯え、恐れ、竦んだのは私だけだった。彼女は現実世界にいた時よりも、遥かに生き生きとして充実した様子で……私は認めざるを得なかった。私の愛したユウコは消えてしまったのだと。

ならば…ならばいっそ合法的殺人が可能なこの世界にいる間にユウコを…永遠の思い出の中に封じてしまいたいと願った私を、誰が責められるだろう?」

 

 

そう語る彼の目は完全に見開かれており、そんな彼の様子にヨルコ氏らは引いていた。

 

 

「……そんな理由で、貴様は自分の妻を殺したのか?」

 

「十分過ぎる理由だ。君にもいずれ分かるよ仮面の探偵君。愛情を手に入れ、それが失われようとした時にはね」

 

 

その時にはもう、何かを言うよりも先に、グリムロックに向けて刀を投げつけていた。

 

 

「ふざけるな。そんな物は愛などでは無い」

 

 

刀はグリムロックの少し上を通り、彼が被っていた帽子を串刺しにして後方の木に刺さる。

 

 

「妻が変わったから、愛した妻が消えたから殺す?そんな物、貴様の独りよがりに過ぎない!」

 

「彼の言う通りよグリムロックさん。貴方がグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ!」

 

 

私とアスナの言葉が効いたのか、グリムロックは力無くその場に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

その後、グリムロックの処遇はシュミットとカインズ氏ヨルコ氏のに任せ、三人はグリムロックを連れて主街区へと歩いていった。

 

 

「ねえ、もし君なら、仮に誰かと結婚した後になって相手の人の隠れた一面に気づいた時、君たちならどう思う?」

 

「どうした藪から棒に?」

 

「良いから答えてよ」

 

 

突然のアスナの質問に私はどう応えればいいか悩んだ。何せそんな事考えもしなかったからな。

 

 

「ラッキーだったって思うかな」

 

 

応えられない私の代わりに、キリトがアスナの問いに応える。

 

 

「だ、だってさ、結婚するってことはそれまで見えてた面は好きになってる訳だろ?だから、その後に新しい面に気付いてそこも好きになれたら、二倍じゃないですか……」

 

「ま、良いわ。そんな事よりお腹空いたわ。さっきも食べそびれちゃったし」

 

「そうだったな」

 

 

–––どうでも良かったならば何故聞いた?とは言わないようにしておこう。

 

 

「2日も前線から離れちゃったわ。明日からまた頑張らなくちゃ!」

 

「ああ、今週中に今の層は突破したいな」

 

 

「そうだな」と言って、その場から離れようとした私だったが、キリトとアスナに引き留められる。

 

 

「どうした?」

 

 

振り向いた私は信じられないものを見た。グリセルダ氏の墓石の隣で、ゆっくりと登る朝日をバックにローブを羽織った優しく微笑む女性の姿。

 

 

まさかと思い、キリトとアスナを見ると、二人とも口をぽかんと開けて呆然としている。

 

 

そして再び、グリセルダの墓石の方を見ると、そこには人影一つ見当たらなかった。

 

 

「ねえキリト君、ペルソナさん。フレンド登録しよっか」

 

「「えっ?」」

 

 

私とキリトの声がハモった。

 

 

「今までしてなかったでしょ?攻略組同士、連絡を取り合えないのも不便だわ」

 

「いや、俺はソロだし……」

 

「別にパーティ組めなんて言ってないでしょ?それに少しは友達作らないと」

 

「そうか?不便は無いけどぉ⁉︎」

 

 

キリトとついでに私まで叩かれた。かなり強めに。

 

 

「ご飯食べるまでに考えておいて。じゃ、まずは街に戻りましょうか」

 

 

そう言いながら街までの道を歩き始めるアスナ。そんな彼女を追うようにして、私とキリトも歩き始めた。

 

 

「というかアスナ、貴様口調変わってないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉がいけなかったのか、結局その後、アスナにフレンド登録するまで解放して貰えなかった。

 

 

 




◇ディスペア・オブ・サーベル《刀》
持ち主のレベルに比例して攻撃力が上がる刀。
他の【ディスペアシリーズ】の武器同様、耐久値が減らない代わりに【ディスペア・オブ・コート】とセットで使用しなければ攻撃力が大幅ダウンする。




これ以上、彼の武器を増やす予定はありません。


にしても、長かったなぁこの回。
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