「ふっ!」
私は今、攻略の最前線74層で片手剣と盾を持つリザードマンと対峙している。
私は一度、両手剣を背中に納め、リザードマンから距離を取る。そして距離を詰められる前に背中にもう一つ装備している槍を手に取り、リザードマンを牽制。再び距離を取った。
するとリザードマンはソードスキルを発動させ、一気に距離を詰めてくる。
「はあっ!」
リザードマンが剣を振るう瞬間、私は奴の懐に潜り込み、腰の刀を抜刀。リザードマンを撃破。
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これは当然のことだが、層が上がっていくにつれてモンスターも手強くなってきている。だが、70層を越えた辺りから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきているのだ。
それはまるで、この世界の終わりが刻一刻と近づいている事を暗示しているかのように。
–––誰か来る。
プレイヤーの反応が敵感知に引っかかっり、私は素早く物陰に身を隠す。
そして暫くすると、統一された装備のプレイヤー団体が歩いてきた。
–––《軍》か。
軍……正式名《アインクラッド解放軍》
25層で多大な被害を出した後、攻略よりも組織強化を軸に活動していると聞いていたが……。
連中は一直線に先へと進んでいった。かなり疲弊していたが、大丈夫だろうか。
「いや、流石に気にしすぎか」
本当に危険な状況になれば転移結晶で退却するだろう。私はそう思い、迷宮区の出口に向けて歩く。
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迷宮区の安全地帯近くまで来た私は、キリト達とばったり遭遇した。
「君か。さっき軍の奴らがここを通らなかったか?」
「もっと奥の方で集団の反応がして身を隠していたら、通り過ぎていったが」
「おいおい、アイテム使って帰ってないのかよ」
キリト達と共にいたギルド《風林火山》のクラインが、呆れた様子でそう言った。
「何があった?」
「いや、この先はボス部屋があるんだが、まさかと思ってな……」
キリトの言葉に私は先程通り過ぎていった軍の様子を思い出す。先頭を歩く隊長らしき男以外は殆どが疲弊していた。あの状態では、戦闘どころか偵察すらも危ういだろう。
「ボス部屋まで案内してくれ。なるべく早く」
「わかった」
嫌な予感がした私は、キリトに先導して貰い、ボス部屋へと向かった。
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キリトの最高スピードに合わせて走った為、風林火山の奴らは置いてきてしまったが、私とキリト、アスナの三人はボス部屋の前まで1分足らずで来ることが出来た。
部屋の大きな扉は既に開放されており、その先には地獄絵図が広がっていた。
山羊のような顔をした二足歩行型のモンスターが、軍のプレイヤーを蹂躙していく。
「何してる⁉︎早く転移結晶を使え‼︎」
部屋の外からキリトが叫ぶ。
「駄目だ!結晶が使えない!」
軍の一人が発したその言葉から、ここが《結晶無効化エリア》というトラップとボス部屋という最悪の組み合わせだという事がわかる。
「我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!戦え!戦うんだ‼︎」
部屋の中央で隊長の男が馬鹿げた事を言う。
「バカやろう……」
「おい、どうなってんだ?」
と、そこに風林火山が遅れてやって来た。キリトからの説明で状況を知ったところでどうにもする事が出来ない。
「何とか出来ないのかよ?」
クラインが情けない声を上げる。
–––仕方ない。
「キリト、少しの間だけ奴の気が別の所に向けば、軍の奴らを部屋から出す事は出来るか?」
「出来ない事は無いけど………まさか!」
「任せたぞ」
キリトが私を止める前にボス部屋の中へと入る。
走りながら装備、スキルの変更を並行して行う。すると、背中の槍と腰の刀が消え、両手剣だけが残った。
私はコートの裏に隠し持ったありったけの投げナイフを、ボスに向けて投げながら突進する。
《投剣スキル》が発動し、私が投げたナイフのほとんどは獲物へと突き刺さり、ヘイトが私の方へ向いた。
「来い」
私が背中から引き抜いた両手剣が、その刀身に黒く禍々しいオーラを纏う。
「ふん!」
キィン!という音が鳴り響き、我に返ったキリトとアスナ、風林火山のメンバーは次々と軍のプレイヤー達をボス部屋の外へと運んでいく。
「貴様も早く行け」
「何を言う!私は誇り高きアインクラッド解放軍、攻略隊の隊長だ!撤退など断じてあり得ん‼︎」
ボスの攻撃を抑えながら、足元にいる隊長の男に呼びかけるが、聴く耳を持たない。
「邪魔だ」
ボスの振るう大剣を弾くと、男のHPを減らさないように上手く力を調整しながら出口に向かって蹴り飛ばした。
………だが、それがいけなかった。
一瞬の隙を突かれ、ボスの大剣がモロに当たった私の体は宙に浮き、勢いよく地面と激突する。
「ぐっ…」
幸いにもHPはまだ三分の一残っていた。
私は直様立ち上がり、ボスから放たれるブレス攻撃を避ける。
ボスが二度目のブレス攻撃を放とうとした瞬間、キリトがボスの背中を斬り、攻撃を失敗させた。
私はヘイトがキリトの方へ向いている間に、ポーションを飲み干してHPを全回復させると、再びボスに向かって突進する。
アスナとクラインがボスの相手をして、後ろに下がったキリトがウィンドウを操作していた。
「良し、いいぞ!」
スイッチ!と叫びながら前に出るキリトの両手には黒と蒼の二つの剣が握られている。
「後ろがガラ空きだ」
私はボスを背後から斬りつけ、隙を作る。
前と後ろ、二方向から交互に振るわれる三つの剣がボスのHPを確実に削っていく。
「「はぁぁあああああ‼︎」」
雄叫びと共に繰り出された二つの斬撃により、HPが一気に削れたボスは、ポリゴン片となって消滅した。
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主がいなくなったボス部屋は静まり返り、その中央で二人のプレイヤーが気を失っている。
一人は私と共にボスと戦っていたキリト。もう一人はアインクラッド解放軍の隊長《コーバッツ》だ。
キリトは数秒程で意識を取り戻したが、コーバッツは眠ったままだ。
「ペルソナのお陰で軍の奴らは全員無事だった。たく、コーバッツの馬鹿野郎が……!」
クラインは悪態をつくが首を振り、笑顔を作る。
「それはそうと、おめぇなんだよさっきのは?」
そしてキリトに疑問を投げ掛けた。クラインの言う「さっきの」とは、先程キリトが使った二本の剣で攻撃するスキルの事だろう。
「………言わなきゃだめか?」
「ったりめぇだ!見た事ねえぞあんなの!」
「エクストラスキルだよ。《二刀流》」
二刀流の名前を聞いて、その場にいた者たちは「おお!」と感嘆の声を上げる。
クラインが出現条件を訊くが、キリトは気が付いたらスキルウィンドウに名前があったと答える。この事から二刀流はキリトの《ユニークスキル》だと言う事が判明した。
「君のも話してくれないか?あの黒いオーラ…明らかに普通の両手剣スキルじゃないだろ?」
あそこまで大胆に大勢の前で使ったんだ。もう言い逃れは出来ないだろう。
「……《暗黒剣》。エクストラスキルだ。貴様と同じようにいつの間にか名前があった。」
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その後、軍はコーバッツを連れて本部へ帰還した。今回あった事は包み隠さず上に報告するとのことだ。
これで良い意味でも悪い意味でも注目を集めてしまう。まあ、今までもそこそこ注目はされていたが……。
「ま、苦労も修行の内と思って頑張りたまえ若者よ」
「「勝手な事を……」」