仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第13話 隠しダンジョン

突然だが、私ことペルソナは第1層《黒鉄宮》にある《生命の碑》の前に来ている。

 

 

この生命の碑には、全SAOプレイヤーのキャラクター名が記載されており、既に死んだ者の名前には横線が引かれている。

 

 

「………」

 

 

私はその中から、見覚えのある名前を見つけた。その中には生きてる者がいれば、死んでいる者もいる。

 

 

大した関わりも無い者ばかりだと言うのに、私は最近、無性に彼らの安否が気になってしまい、良くこの場所に来るようになった。

 

 

 

「ペルソナ?」

 

 

そうしてボーッと碑を眺めていると、聞き覚えのある声が聞こえ、声の方を向くと、

 

 

「キリトにアスナ、それと…誰だ?」

 

 

キリト、アスナと共に、一人の少女と、女性プレイヤーがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

四人について行きながら、良識のありそうな女性プレイヤー…ユリエール氏から、大体の事情を聞いた。

 

 

軍…アインクラッド解放軍は元々多くのプレイヤーに、情報や食料や資源を均等に分配しようというギルドであったと、ユリエール氏は語る。

 

 

だが25層のボス攻略の際、軍は大きな被害を出してしまい、それまでリーダーを務めていたディアベルは、責任を感じてか自ら軍を脱隊、当時サブリーダーだった《シンカー》という男がリーダーになった。

 

 

 

しかし、シンカー氏がリーダーになった直後、手に入れたアイテムの横行、粛清、反発などが相次ぎ、更にリーダーが放任主義という事もあり、次第にその指導力を失っていった。

 

 

軍というのは元々、ディアベルの考えに賛同した者たちの集まりでもあった為、そのディアベルが居なくなれば、集団性が崩れてもおかしくない。

 

 

そんな混乱の中、《キバオウ》を台頭した複数の幹部プレイヤーたち《キバオウ一派》が恐喝まがいの行為を始めた。その一例として《徴税》と称し、街区圏内でプレイヤーから金を巻き上げているらしい。

 

 

 

「ですが、キバオウ派は資財の蓄積にうつつを抜かし、ゲーム攻略をないがしろにし続けた為、市民の怒りは爆発。その不満を抑えるべく、キバオウはある無茶な博打に出ました」

 

 

「それがあの74層で起きた無謀なボス攻略さ」

 

 

私はユリエール氏に続いて、キリトの発した言葉から、あの日の出来事を思い出す。

 

 

今思えば、キバオウがそんな無謀な作戦を考え出さなければ、私のユニークスキルが知られる事も、ヒースクリフに決闘を申し込まれる事も無かった訳だ。

 

 

「しかし、いかにハイレベルと言っても、もともと我々は攻略組の皆さんに比べれば力不足は否めません。……あの時だって、彼らを助けたという攻略組の助力が無ければ、最悪の結果は免れなかったでしょう」

 

 

ユリエール氏は話を続けた。

 

 

74層の事もあり、キバオウはその無謀さを強く糾弾され、追放まであと一歩のところまで追い詰められた。

 

 

「それで、リーダーのシンカー氏を騙し、回廊結晶を使いこの隠しダンジョンに丸腰で転送…か。そんな事をしてもキバオウが軍の体制を立て直すのは難しい。本末転倒も良い所だ」

 

 

あのキバオウの言う事を簡単に信じてしまうあたり、シンカー氏と言うのは相当人がいいのだろう。

 

 

 

 

 

そんな事を思っていると、目の前に新たなモンスターが出現した。

 

 

「またか」

 

 

出現したモンスターを攻撃し、ポリゴン片へと変える。数は多いが、レベルはそれほど高くない為、私とキリトが前に出るだけで片がつく。

 

 

私とキリトの無双っぷりに、ユリエール氏は目を丸くして驚いており、アスナは呆れた顔をしていた。

 

 

「やっぱりすごいな君は」

 

 

「お兄ちゃん、すごい!」

 

 

「ユイ、パパもすごいだろ?」

 

 

キリトとそんな会話をするのは、アスナと行動を共にしている《ユイ》という少女。

 

 

「パパもかっこよかった!」

 

 

この子は何かありそうだが、今は何も聞かないでおく事にしよう。

 

 

「先を急ぐぞ」

 

 

 

 

 

 

 

途中、キリトがドロップしたカエルの肉をアスナに捨てられたり、アスナがゴースト系モンスターに怖がるなどあったが、ついにダンジョンの奥までやって来ることができた。

 

 

「プレイヤーが一人、グリーンだ」

 

 

「シンカー!」

 

 

走り出したユリエール氏をの後に続くように、私たちも走り出す。

 

 

「ユリエーーール‼︎来ちゃだめだーーっ‼︎」

 

 

その時、ユリエール氏が走る通路の先から、ボロマントを羽織った死神が現れる。

 

 

 

–––まずい、気づいてない!

 

 

 

私は一瞬でユリエール氏の元まで移動し、両手剣を構え、ユリエール氏に振り下ろされた鎌を防ぐ。

 

 

「くっ…!」

 

 

受け止めた鎌はかなり重い。だが、耐えられない程のものでは無い。

 

 

「っらぁああ‼︎」

 

 

多少強引ではあったが、私がなんとか死神の鎌を押し返すと、死神は素早く後ろへ退いた。

 

 

「この子と一緒に安全地帯に退避してください!」

 

 

放心状態だったユリエール氏は、アスナの言葉で我に返り、ユイちゃんを連れて安全地帯へと走る。

 

 

「こいつ、強いぞ」

 

 

「そうみたいだな。俺の識別スキルでもデータが見えない。強さ的には多分90層クラスだ………」

 

 

死神は私たちにヘイトを向けている。

 

 

「キリト、貴様はアスナと共に結晶で脱出しろ」

 

 

「何を⁉︎」

 

 

「あの少女には貴様らが必要だ。殿(しんがり)は私は務める。その間に貴様らはさっさと行け!」

 

 

そう言い放ち、死神へ突進する。

 

 

死神は近づいて来た獲物の命を刈り取るように、その鎌を振り下ろしてくるが、

 

 

 

「遅い」

 

 

 

私はスライディングの応用で地面を滑って鎌を避け、死神の下を通過しながら両手剣でダメージを与える。

 

 

 

止まるなと自分にそう言い聞かせ、すぐに跳びあがり、《抜刀》でマントごと死神の頭を斬る。

 

 

すると、死神が被っていたフードが消滅し、骸骨のような頭が姿を現した。

 

 

 

奴もやられっぱなしではいられないのか、鎌を振り回してくる。

 

 

「チィッ!」

 

 

私は刀で攻撃を往なし、直撃を避けながら装備を槍に持ち替え《無限槍》で死神の頭に無数の連撃を与える。

 

 

死神のHPが凄まじい勢いで削れていく。

 

 

 

 

 

戦闘が有利に進み、このまま倒せると思った矢先、左半身に強い衝撃が走った。

 

 

死神の鎌が、私の身体にえぐり込まれたのだ。

 

 

「ガハッ⁉︎(しまった…!)」

 

 

 

ぐるぐると回転しながら何度も地面に叩きつけられ、安全地帯の手前まで吹き飛ばされた。

 

 

左腕が切断され、HPは一気にレッドゾーンまで削り取られた。意識が朦朧とする。

 

 

「私とした事が…油断した」

 

 

「ペルソナッ、いまい」

 

 

「来るな!」

 

 

安全地帯から出て、私の助太刀をしようとするキリトを私は止める。

 

 

「私のことは構うな。早く逃げろ」

 

 

「何言ってるんだ、君の方こそ逃げろ!」

 

 

「そうよ!バカな事言わないで‼︎」

 

 

「いいから黙って指示に従え!!!」

 

 

私は先程よりも声を荒げて、二人に向かって叫んだ。

 

 

「貴様らが居なくなったら、その子が悲しむだろ!それに貴様らを必要としているのはその子だけじゃない。この世界にいる全てのプレイヤーの為にも貴様らは生きろ!」

 

 

「貴方だってこの世界にいる人々の希望です!こんな所で死なせる訳には…!」

 

 

「安心しろ、死ぬつもりはない」

 

 

私はそう言いながら回復結晶を使い、HPを全回復させる。

 

 

–––さっきの攻撃で槍と刀が落ちて、残ったのは両手剣だけ。左腕も回復するまで時間がかかる。

 

 

易々と安全地帯に入れてくれるとも思えない。

 

 

「ふっ…後に引けないというのなら、突き進むまで!」

 

 

両手剣を片手で持ち、再び死神に突進する。

 

 

死神は鎌を大きく振りかぶった。

 

 

「…っ!」

 

 

 

 

一瞬で彼の姿は消え、死神の鎌は空を斬る。

 

 

「彼は⁉︎」

 

 

「あ、あそこ!」

 

 

アスナが指差す先には、器用に鎌の柄の上に立っている彼の姿。

 

 

 

「やれやれ、流石に今のはひやっとしたな」

 

 

死神は私の存在を視認すると、テーブルクロス引きのように鎌から私を落として、すぐに鎌を突きだす。

 

 

「はあっ!」

 

 

私は突き出された鎌の刀身に両手剣をぶつけ、その衝撃で少し上に乗り出して直撃を回避。

 

 

「だぁあああ‼︎」

 

 

そのまま死神の骸骨頭を両手剣で叩く。

 

 

死神は初めて痛みに苦しむような仕草をすると、その紅く染まった眼で私を睨みつけてくる。

 

 

「来い」

 

 

左腕が回復し、スキル《暗黒剣》が輝く。

 

 

私は鎌の刀身に両手剣をぶつけ、今度は根本から鎌をへし折った。

 

 

死神は鎌が壊された事に動揺しているのか、手から折れた鎌(今はただの棒でしかない物)を落とす。

 

 

「貴様に教えてやろう。私を相手にするという事が、どれほど愚かな事かを」

 

 

私は無抵抗な死神を何度も両手剣で斬りつけた。《暗黒剣》で攻撃力を底上げし、滅多打ちにする。

 

 

そして………

 

 

 

 

–––パリィイイン–––

 

 

 

 

 

死神はポリゴン片となって消滅した。

 

 

 

 

 

深い沈黙の最中、

 

 

「…全部、思い出した………」

 

 

少女の呟いた言葉が、静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

キリトはユイちゃんに言われるがまま、黒い岩が磨かれて出来たような立方体に彼女を座らせる。

 

 

シンカー氏とユリエール氏は空気を読んで転移結晶を使い、先に街へと戻った。

 

 

 

 

二人が戻って数分後、ユイちゃんは悲しそうな表情のまま語り始めた。

 

 

 

彼女は《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》MHCPの試作1号だと自白する。

 

 

–––何かあるとは思ったが、まさかAIだったとは……驚いた。

 

 

彼女が言うには、MHCPは本来プレイヤーのメンタルケアを行う筈だったのだが、SAO正式サービス開始日、SAOを制御している巨大システム《カーディナル》から予定にない命令が下された。

 

 

 

 

プレイヤーへの干渉禁止

 

 

 

その結果、彼女は本来の役目であるプレイヤーのメンタルケアが出来ず、恐怖、絶望、怒りといった負の感情を見続け、エラーが貯まっていく一方だったと彼女は言う。

 

 

そんなある日、キリト、アスナの感情に惹かれたユイちゃんは、彼らに会いたいが為に、壊れた状態のまま22層の森を彷徨ったらしい。

 

 

そう語る彼女の瞳からは、涙が次々と流れていく。

 

 

「ユイちゃん。君のその感情は決して偽物なんかじゃない、本物だ」

 

 

私がそう言うと、ユイちゃんは驚いた顔をして私の方を向いた。

 

 

「だって君は泣いているじゃないか。例えその涙でさえプログラミングされた物だとしても、それは君が心から感じたままを表している本物の感情だ」

 

 

「そうだよユイちゃん……あなたは、本当の知性を持っているんだよ」

 

 

「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない。自分の望みを言葉にできるはずだよ。

ユイの望みはなんだい?」

 

 

私の言葉に続いてキリト、アスナの言葉を聞いたユイちゃんはその細い腕をいっぱいに伸ばして、

 

 

「わたしは……ずっと、一緒にいたいです……パパ……ママ……!」

 

 

ハッキリと、そう言った。

 

 

その言葉を聞いたアスナは、目から涙を流しながらユイちゃんの元に駆け寄り、彼女の小さな体をぎゅっと抱きしめる。

 

 

「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん」

 

 

「ああ……ユイは俺たちの子供だ」

 

 

そしてキリトが二人を優しく包み込む。

 

 

 

心温まる瞬間だが、二人に抱きしめられているユイちゃんは、すぐに悲しい顔をして、もう遅いんですと静かに告げた。

 

 

ユイちゃんは壊れた状態だった為、カーディナルから放置されていたが、彼女が今座っている石…GMの緊急アクセス用コンソールに触れ、記憶を取り戻したが為に、カーディナルがユイちゃんの存在に注目してしまったとのこと。

 

 

「わたしは異物と判断され、すぐに消去されてしまうでしょう」

 

 

「そんな、なんとかならないのかよ!」

 

 

ユイちゃんは黙って微笑する。

 

 

「パパ、ママ、ありがとう。これでお別れです」

 

 

「嫌!そんなのいやよ‼︎」

 

 

アスナはユイちゃんを離さないように力強く抱きしめるが、時の流れとは無情なもので、彼女の小さな体は光の粒子となって飛び散り、消えていった。

 

 

 

「ふざけるなよ、カーディナル!」

 

 

私はコンソールに表示されているキーボードを素早くタイプする。まだGM権限が生きていたのが何よりの救いだ。

 

 

「キリト、貴様も手伝え!」

 

 

「わかった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私とキリトが協力し、管理者権限が切れる寸前にユイちゃんのプログラムを切り離す事に成功した。

 

 

彼女のデータはゲームがクリアされても、キリトのローカルメモリに保存されるようになっている。

 

 

それまでは涙の形をしたクリスタル状のオブジェクトアイテムとして、アスナが持っている事となった。

 

 

 

–––疲れた。恐らくこの人生で一番……。

 

 

 

今日は宿のベッドで静かに休むことにしよう。私はそう思いながら宿を目指して歩いて行くのだった。

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