仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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長くなるから分けようかなっと思ったけど、結局ひとつに纏めました。

なのでいつもより長めです。





第14話 世界の終焉

第75層《コリニア》転移門広場

 

 

現在、この場所に多くのプレイヤーが集まっている。

 

 

今日、75層のボス攻略があるのだ。

 

 

「よお、やっぱりお前さんも参加するんだな」

 

 

一人、ぼーっと立っていた私にエギルが話しかけてきた。その横にはキリト、アスナ、クラインの三人もいる。

 

 

「ああ、貴様が参加するのは意外だったがな」

 

 

「意外とはなんだ。さっきキリトにも言ったが、こっちは商売を投げ出して加勢に来たんだぞ。もう少し感謝の意ってものを見せたっていいだろ」

 

 

そんなくだらない話をしながら、ボス戦前の緊張を(ほぐ)す。

 

 

 

 

そして午後1時ちょうど、ヒースクリフと血盟騎士団の精鋭部隊が転移門から出現した。

 

 

ヒースクリフの使った【回廊結晶(コリドークリスタル)】によって出現した光のゲートを通り、ボス部屋の前に転移した私達プレイヤーは最後の準備を行う。

 

 

「準備は良いかな?基本的には血盟騎士団が前衛で攻撃を喰い止めるので、その間に可能な限り攻撃パターンを見切り、柔軟に反撃してほしい。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。–––解放の日の為に!」

 

 

ヒースクリフは振り返り、ボス部屋の扉を押す。

 

 

「死ぬなよ」

 

 

扉がゆっくりと開く中、武器を構えるキリトが言った。

 

 

「へっ、お前こそ」

 

 

「今日の戦利品で一儲けするまで、くたばる気はねぇぜ」

 

 

クライン、エギルの両名が彼に言葉を返した。

 

 

 

 

扉が開ききると、ヒースクリフの合図で私たちは一斉にボス部屋へとなだれ込んでいく。

 

 

部屋は広いドーム状で、灯りはついておらず、依然としてボスはその姿を現さない。

 

 

「上よ‼︎」

 

 

アスナの声に、はっとした私は上を向く。天井には全長十メートルほどありそうな巨大骸骨百足がいた。

 

 

「《The Skullreaper》」

 

 

私はボスの名前を呟くように読み上げる。

 

 

 

骸骨百足は天井から落下すると、逃げ遅れた二人のHPを一撃で刈り取り、ポリゴン片へと変えた。

 

 

–––どうやら《骸骨の刈り手》という名は、ただの虚仮威(こけおど)しではないようだな。

 

 

一撃で二人を消したそれは、体勢を整えると逃げ遅れたもう一人のプレイヤー目掛けて突進する。

 

 

再び骨鎌を高く振り上げる骸骨百足その真下にヒースクリフが飛び込むと、巨大な盾で鎌を防ぐ。

 

 

だが、鎌はもう一本あり、奴はヒースクリフを攻撃しながら左の鎌を彼の後ろにいたプレイヤーに向けて突き出す。

 

 

その動作を先読みしていた私は、瞬時に奴の前に回り込むと、突き出された鎌を両手剣で防いだ。

 

 

骸骨百足は私たちを通り過ぎると、未だ恐怖で凍りついているプレイヤーの一団に突進、突き立てた鎌は飛び出したキリトが左右の剣で受け止めるものの、その重い一撃は彼の肩の半分くらいまで食い込んでいた。

 

 

キリトは膝をつき、そのチャンスを見逃す事なく、骸骨百足は右の鎌をキリト目掛けて振り下ろす。

 

 

と、その鎌をヒースクリフと私が、キリトが受け止めている鎌をアスナが押し返した。

 

 

「二人同時に受ければ––––いける! わたしたちならできるよ!」

 

 

「––––よし!」

 

 

彼らは動きを合わせ、正面から鎌を受け止める。

 

 

「鎌は俺たちが食い止める!みんなは側面から攻撃してくれ‼︎」

 

 

その声に、先程まで凍りついていた者たちが一斉にボスへ向かって動き出す。

 

 

数発の攻撃が初めてボスのHPを減少させる。

 

 

しかしその直後、複数の悲鳴が上がり、悲鳴の数のプレイヤーが死んだのが見えた。

 

 

それでも私は攻撃の手を緩めない。両手剣でキリトたちと共に鎌を防ぎ、隙を見ては《抜刀》と《無限槍》、《暗黒剣》を使い分け、ボスに確実にダメージを与えていく。

 

 

少しずつ減っていくボスのHPには目もくれず、私は鎌を受け止め、反撃、その動作を延々と繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

もうどのくらい攻撃を繰り返しただろう。

 

 

多くのプレイヤーが死に物狂いで、気が遠くなるほど長い間戦っていた。

 

 

全プレイヤーの総攻撃でボスのHPは0になり、その巨体はポリゴン片となり四散した。

 

 

 

ボスが消え、静かになった部屋の中で、生き残ったプレイヤー達は座り込んだり、仰向けに転がっている。……私とて例外ではない。

 

 

「何人–––––やられた……?」

 

 

「–––––十四人、死んだ」

 

 

キリトが口にした死人の数に、その場にいた者たちは絶句する。

 

 

ようやく4分の3だ。あと25層も残っているというのに、この犠牲の数は、ただでさえ少ない攻略組からすれば多大な被害である。

 

 

このペースで進めば、ラスボスと対峙する時に生き残ったのはたった一人っという事になりかねない。

 

 

–––もしそうなった場合、生き残るのは……。

 

 

私はその可能性を持つ男の方を見た。その男は他の者たちが床に伏す中、たった一人姿勢を崩さず、毅然と佇まっている。

 

 

刹那、私はその男に違和感を感じた。いや、前々から感じていたのだ。その違和感のせいか、私の手は自然と腰の刀を掴んでおり、静かに抜刀の構えをとる。

 

 

–––やってみる価値はあるか。

 

 

周りを見渡すと、愛剣を握り、今にも走り出しそうなキリトと目が合った。

 

 

お互いに合図を出し、ほぼ同時に走り出す。私の方が僅かに早くヒースクリフの首目掛けて刀を振る。

 

 

ヒースクリフは咄嗟に盾で刀を防いだが、もう一方から放たれたキリトのソードスキルによる攻撃が奴の胸に突き刺さる寸前、剣が目に見えない障壁に激突し、紫の閃光が炸裂する。

 

 

そして、キリトとヒースクリフの間に浮かび上がる紫色のシステムメッセージ。

 

【Immortal Object】

 

それはシステム的不死である事を意味する文字。

 

 

 

その文字を見た瞬間、周りが騒めき始める。

 

 

「やはり、貴様が茅場晶彦だったか」

 

 

私の発言に一連の流れを見守っていたプレイヤーたちが一斉に驚きの声を上げる。

 

 

「……なぜ気付いたのか、参考までに教えてもらえるかな……?」

 

 

「……最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも早過ぎたよ」

 

 

ヒースクリフ…茅場の問いにキリトが答える。

 

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君たちの動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

 

紅衣の聖騎士はゆっくりとプレイヤーたちを見回し、静かに笑みを浮かべると、

 

 

「–––確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

 

皆の前で自身が茅場晶彦である事を宣言した。

 

 

 

 

 

 

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスか」

 

 

「なかなかいいシナリオだろう?……最終的に私の前に立つのは君かペルソナ君、またはその両方だと予想していた。《二刀流》スキルは全てのプレイヤー中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が勇者の役割を担うはずだった。

ペルソナ君の持つ《暗黒剣》《無限槍》《抜刀術》もまたそれぞれ特殊な条件下で出現する。一人のプレイヤーが一つ習得するのを想定して作られた《ユニークスキル》を三つも手にした彼もまた、勇者としての可能性を秘めていた。

だが、君たちは私の予想を超える力を見せた。まあ……この想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな……」

 

 

そう言って、茅場は見覚えのある薄い笑みを浮かべながら肩をすくめる。

 

 

その時、血盟騎士団の幹部を務める男がゆっくりと立ち上がった。

 

 

「俺たちの忠誠–––希望を……よくも……よくも……」

 

 

彼は巨大な斧槍(ハルバード)を握り締め、

 

 

「よくもーーーーッ‼︎」

 

 

絶叫しながら地を蹴り、重武器を大きく振りかぶる。

 

 

だが、茅場晶彦は彼よりも速い動きで左手(・・)を振り、出現したウインドウを操作する。

 

 

すると、茅場に突撃した男の体は空中で停止し、勢いよく床に落下した。男は麻痺状態になっていた。

 

 

茅場はそのままウインドウを操作し続ける。

 

 

次の瞬間には、俺と茅場以外のプレイヤーが麻痺状態で地面に倒れていた。

 

 

 

 

 

 

気付けば、キリト以外のプレイヤーは茅場晶彦によって麻痺状態にされてしまった。

 

 

私も麻痺状態にされて地面に伏している。

 

 

 

「キリト君、君には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう」

 

 

「チャンス?」

 

 

「今この場で私と1対1で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」

 

 

なんと、茅場晶彦はここで自分と戦い、キリトが勝てばゲームをクリアした事にすると言い出したのだ。だがそれは……

 

 

「よせキリト、これは罠だ。現に私たちが麻痺状態にされていることから、邪魔が入らない中で貴様を確実に消すつもりだ」

 

 

「ペルソナさんの言う通りよキリト君……!今は……今は退いて……!」

 

 

私とアスナがキリトを説得しようと試みるが、

 

 

「いいだろう。決着をつけよう」

 

 

キリトは茅場の提案に乗り、戦う事を選んだ。

 

 

 

「キリト!やめろ……っ!」

 

 

「キリトーッ!」

 

 

クラインとエギルもキリトを引き止めようとするが、今の彼は恐らく何を言っても止まらないだろう。

 

 

キリトはクラインとエギルにまるで別れの言葉のようなものを告げる。

 

 

そして私の方を向いた。

 

 

「ペルソナ。思えば俺は君に助けられてばかりだった。《はじまりの街》の第1層攻略会議の時、君が俺に言ってくれた言葉のお陰で、俺は少し気持ちが楽になった。第27層で君がいなかったら、俺は彼らを救えていなかった。君には感謝してもしきれない。君とはもっとたくさん話がしたかった」

 

 

キリトは決意したような顔をしている。

 

 

–––やめろ、その顔は私の一番嫌いな顔だ。

 

 

「そう思うのならば勝て!茅場晶彦を討ち倒し、この世界を終わらせろ!その剣で‼︎」

 

 

「ああ、解った。現実世界(あっち)で会ったときは、君の話を聞かせてくれ」

 

 

私の言葉にキリトは小さく頷き、アスナの顔を少しだけ見ると、茅場晶彦の方へと振り向く。

 

 

茅場晶彦はウインドウを操作すると、赤色のシステムメッセージが奴の頭上に表示された。

 

 

【changed into mortal object】

 

 

不死属性を解除したという意味のそれが表示されると、二人の間の緊張感が高まっていく。

 

 

 

そしてキリトが力強い呼気を吐き出しながら床を蹴り、一瞬で間合いを詰めると、彼の右手の剣と茅場の左手の盾がぶつかった。

 

 

茅場はこの世界のソードスキルをデザインした張本人。連続技は全て防がれ、反撃を喰らうだろう。

 

 

キリトもそれを解っているのだろう。だからこそ彼は敢えて《二刀流》を使わず、凄まじい速度の連撃をシステムアシスト無しで繰り出している。

 

 

だが、茅場はキリトの猛攻を正確な動きで防いでいく。それはまるで剣の達人が、初めて剣を持った子供を弄ぶかのように……。

 

 

キリトは焦りからか、遂に《二刀流》スキルを発動してしまった。その剣撃は前に彼が使った《スターバースト・ストリーム》よりも遥かに速く、重みのある連撃。

 

 

 

しかし茅場はそれを待っていたとでも言うように、キリトの放つ連撃を次々と受け流していく。

 

 

そして最後の一撃が茅場の盾に命中し、キリトの持つ白い剣が甲高い音を鳴らしながら砕け散った。

 

 

「さらばだ––––キリト君」

 

 

茅場は動きが止まったキリト目掛け、深紅に輝く長剣を振り下ろす。

 

 

 

その時だ。振り下ろされる長剣と立ち尽くすキリトの間に、凄まじいスピードでアスナが飛び込んだ。

 

 

驚くべきことに、彼女は麻痺状態であるにもかかわらず、両手を大きく広げ、キリトを守るようにして茅場の前に立ち塞がったのだ。

 

 

茅場も彼女の思いがけない行動に驚きの表情を見せるが、斬撃が止まることはなく、長剣はアスナの体を一閃し、彼女のHPが消える。

 

 

アスナはキリトの腕の中に崩れ落ちると、体が光に包まれ、無数のポリゴン片となって弾けとんだ。

 

 

全てが消え去り、アスナがいつも愛用していた細剣だけがその場に残っている。

 

 

「これは驚いた。自力で麻痺から回復する手段はなかったはずだがな……。こんなことも起きるものかな」

 

 

茅場は表情を歪めると、大袈裟な身振りで両手を広げながら面白そうにそう言った。

 

 

キリトは折れた剣の代わりにアスナの細剣を掴み、不格好に前進しながら剣を突き出す。

 

 

–––何故だ。何故私は見てるだけなんだ!

 

 

私は力拳を床に打ち付けた。麻痺のせいで目の前で起こっている事を見ている事しか出来ない自分に苛立ちを覚える。

 

 

–––いや、麻痺などただの言い訳だ。さっきのアスナを見ただろう!

 

 

私は自分に鞭を打つ。全身の力を振り絞って立ち上がると、茅場めがけて全力で走る。

 

 

今、茅場は戦意喪失しているキリトの剣を吹き飛ばし、突きの構えをとっている。

 

 

–––させるかッ‼︎

 

 

先程のアスナと同じように茅場の前に立ち塞がった私の胸に、茅場の長剣が突き刺さった。

 

 

そして同時に長剣を持つ茅場の手を掴む。うまく力が入らないが、この手だけは絶対に離さない。

 

 

「ペルソナ……っ!」

 

 

「何をしている。私ごと茅場にトドメを刺せ!死んでいった者の……アスナの気持ちを無駄にするな!」

 

 

「でも、それじゃあ君まで!」

 

 

「どのみち私のHPはあと数秒で尽きる。それが何の意味も持たずにただ無駄死にするだけか、この世界を終わらせるための糧となるか、それだけの違いだ。さあ、早くしろ!これが正真正銘、最後のチャンスだ」

 

 

キリトはアスナの細剣を強く握りしめると、絶叫し、私と茅場晶彦を貫いた。

 

 

茅場のHPは減少を始め、やがて消滅する。茅場は目を閉じ、全てを受け入れていた。

 

 

–––ようやく解放されるのだな……。

 

 

私がそう思った直後、私と茅場の体は眩い光に包まれ、同時にポリゴン片となって飛散する。

 

 

遠ざかっていく意識の中でキリトが私に何か言おうとしていたが、その言葉すらもう聞こえない。エギルとクラインが私の名を呼んだ気がしたが、彼らの声に重なって無機質なシステムアナウンスが聞こえてくる。

 

 

『11月7日、14時55分、ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました––––』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと私は、空の上に立っていた。

 

 

目の前には空を美しく彩る夕焼け。

 

 

軽く右手を振ってみると、すっかり耳慣れた音と共にウインドウが出現する。

 

 

–––少なくとも、まだSAOの中か……。

 

 

【最終フェイズ実行中 現在55%完了】

 

 

開いたウインドウにはそう表示されていた。それが何を意味するかは解らなかったが、どうせ私は死ぬのだと思い、考えることをやめてウインドウを消すと、皮肉な程に美しい夕焼けを眺め続けた。

 

 

「なかなかに絶景だな」

 

 

不意に横から声が聞こえ、そちらに視線を向けるといつの間にかそこには一人の男が立っていた。

 

 

「茅場晶彦」

 

 

聖騎士ヒースクリフの姿ではなく、SAO開発者としての本来の姿である茅場晶彦がそこにいた。

 

 

「君とは少し話をしたかった」

 

 

「まさか人生最後の時を貴様と共にするとはな。最悪な気分だ」

 

 

「まあそう言わないでくれたまえ。前の人生よりは幾分かマシな終わり方だろう?」

 

 

私は茅場が言った「前の人生」という言葉に驚く。

 

 

「そんなに驚くことかい?……いや、そもそも転生などと言うものは君たちの世界ではあり得ないというより、考える暇すら無かったのかな」

 

 

茅場はひと呼吸して、驚きの言葉を発した。

 

 

「実はね、私も君と同じ転生者なんだよ」

 

 

「っ⁉︎」

 

 

「正確には、この『茅場晶彦』という人物に憑依した《憑依者》だけどね」

 

 

茅場の話に頭がついていかない。だが茅場はそんな事はお構いなしに話を続ける。

 

 

「βテストの時、君の存在に気付いた私は、君のナーヴギアを使って君の記憶の一部をリサーチした。そしてその情報から生み出されたのが君の持つ《ディスペアシリーズ》。第1層のボスを倒すのは君だと信じて、LAボーナスに設定しておいた」

 

 

「何故、私にこの装備を与えた」

 

 

「RPGとは、常に予想外の事態が起きてこそ面白いものさ。流石に三つもユニークスキルを手にしていたのは予想外すぎたがね。それにその装備は、君が持つべきだと判断した。ただの気紛れだよ」

 

 

茅場は体ごと私の方を向き、少し微笑む。

 

 

「正式サービスが開始してからも、私は君の記憶のリサーチを続けた。そして君にとって決して忘れることの出来ない記憶へと辿り着いた。君が時折見ていた夢は、私が君の記憶を見ていた証拠でもある」

 

 

「人の記憶を勝手に覗くのは、あまりいい趣味とは言えないぞ」

 

 

「その事については謝罪しよう。君のプライバシーに関わる事だからな」

 

 

そして少し沈黙。

 

 

「この結末は、貴様のシナリオ通りか?」

 

 

「いや、初め私はこの世界が私のよく知る小説の世界と似ている事と、自分が茅場晶彦である事に気づいた時、本来のものとは別の結末を迎えようと動いていた。私がキリト君を倒し、魔王として君臨する未来を……。だが君の存在を知った時、私は見てみたくなった。君が彼らと共に歩んでいく未来を。

……となると、この結末も私のシナリオ通りと言うことになるな」

 

 

「貴様はこれからどうするつもりだ」

 

 

「私は既に死んでいる。今の私は魂をデータに変換した茅場晶彦のコピーのようなものだ。これから私は、君たちが紡ぐこの世界の行く末を静かに見届けさせてもらう事にするよ」

 

 

いま一度ウインドウを開くと、ゲーム開始からずっと消えていたログアウトボタンが復活していた。

 

 

「それは私からゲームクリアの報酬さ。キリト君たちの所に行くが、何か彼らに伝える事はあるかい?」

 

 

「私が生きている事だけを伝えろ」

 

 

「了解した。では改めて、ゲームクリアおめでとうペルソナ君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで長い夢を見ていた気分だ。だが、頭の物に触れると、今までおこった事が現実のものだったという事をいやでも思い知らされる。

 

 

 

私は驚くほど痩せ細り、弱々しくなった手でナーヴギアを取り外す。

 

 

2年間、私をあの世界に繋ぎ止めていたそれは、塗装が剥がれおち、2年前の新品のような輝きも今では嘘のように感じてしまうほど、ぼろぼろに傷ついていた。

 

 

–––ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年11月7日、一人の天才的ゲームデザイナーが起こした史上最悪の事件、通称:『SAO事件』はその幕をおろした。




アインクラッド編が終了致しました。

次回からはフェアリィ・ダンス編になります。
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