仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第17話 スイルベーン

一瞬でサラマンダーを一人倒したキリトは、振り向き、もう一人の身体を斜めに斬り裂いた。

 

 

「どうするアンタも戦う?」

 

 

キリトは最後の一人に尋ねる。

 

 

「やめとくよ。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ。デスペナが惜しい」

 

 

「正直な人だな。そちらのお姉さんは?」

 

 

「あたしも良いわ。今度はきっちり勝つわよ」

 

 

「君ともタイマンでやるのは遠慮したいな…」

 

 

サラマンダーはそう言い残すと、そのまま遠くの空へ飛んでいった。

 

 

サラマンダー達が死んだ場所には、まだ紅い炎が燃えている。炎は《リメインライト》と言い、プレイヤーのHPが0になっても、リメインライトが残っている間はその場に意識が留まっていると、シルフの女性は教えてくれた。

 

 

しばらくして、リメインライトは消えた。

 

 

 

「で、あたしはどうすれば良いのかしら。お礼を言えば良いの?逃げれば良いの?それとも戦う?」

 

 

「俺的には正義の騎士がお姫様を助けたって場面なんだけど……涙ながらに抱きついてくる的な……」

 

 

「「バカじゃないの⁉︎/馬鹿か貴様」」

 

 

「冗談、冗談だって。君も本気にしないでくれよ」

 

 

私とシルフの女性のツッコミに対し、キリトは笑いながらそう返す。

 

 

「そうですよ!そんなの駄目ですよ!」

 

 

そんな声が聞こえ、焦ったキリトは自分の胸ポケットを必死に抑える。

 

 

だが抵抗むなしく、キリトの胸ポケットから一人のピクシーが飛び出てくる。

 

 

「パパにくっついて良いのはママとわたしだけです!」

 

 

「パ、パパ⁉︎」

 

 

ユイちゃんの言葉にシルフの女性は困惑するが、取り敢えず《プライベートピクシー》と誤魔化した。

 

 

「それは良いけど、インプの貴方はともかく、何でスプリガンがこんな所をウロウロしてるのよ?」

 

 

「俺、コイツとこの近くの街で落ち合う約束しててさ、でも土地勘がなくて少し不安だから迎えに来てもらったら、君が襲われてる所を見たって訳なんだ」

 

 

「ふーん……」

 

 

シルフの女性は疑うような目をしていたが、命の恩人ということもあり、納得はしてくれた。

 

 

 

 

 

彼女はリーファと名乗り、今はキリトに補助コントローラーを使わずに飛行する《随意飛行》をレクチャーしている。

 

 

「止めてくれぇぇえええ‼︎」

 

 

–––不安だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトの後、私もリーファから丁寧に随意飛行の方法を教えてもらい、今私たちはシルフ領の《スイルベーン》に向けて飛んでいる。

 

 

途中でキリトがリーファを煽り、最高スピードで飛んだ為、あっという間にスイルベーンに到着した。

 

 

スイルベーンは流石シルフの領地だけあってか、緑色を基調とした街が、夜景に美しく輝いている。

 

 

「真ん中の塔の根元に着陸するわよ」

 

 

リーファが着陸する為にスピードを緩めるが、そこで一つ問題が起こった。

 

 

「キリト君、ペルソナさん、君たちランディングのやり方わかる?」

 

 

「「……わかりません(らない)」」

 

 

そう、私とキリトはまだどのようにして着陸するのか、その方法を知らないのだ。

 

 

「ええっと……ごめんもう遅いや。幸運を祈るよ」

 

 

リーファは先に着陸する。

 

 

「そんなバカなぁぁああ‼︎」

 

 

私の前を飛んでいたキリトは叫びながら塔に勢いよくぶつかった。

 

 

私もあと数秒で塔にぶつかるだろう。だが、キリトと同じ目に遭いたくない私はギリギリまで減速し、塔を両足で思いっきり蹴ると、くるくると回りながらゆっくりと降下、着地に成功する。

 

 

「凄いですね!普通出来ませんよあんな動き!」

 

 

「少しな…それよりもキリトを」

 

 

私がそう言うと、リーファがキリトに回復魔法を使ってHPを回復させる。キリトは初めて見る魔法に驚いていたが、先程、キリトが塔にぶつかった音で周りに人が集まっている。注目されるのは苦手だ。出来るだけ早くここから離れたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とキリトは、リーファのオススメの店でぶどう酒(VRなのでアルコール分は無い)を奢って貰っている。

 

 

その前に《レコン》とか言うリーファのフレンドと会ったが、別にそれは話すほど大した事では無かったので記憶から抹消しておこう。

 

 

「さっきの子はリーファの彼氏?」

 

 

「恋人さんなんですか?」

 

 

全くこの親子はデリカシーという物が無いのだろうか。質問されたリーファも驚いたがすぐに「ただのパーティメンバーで同じ学校の同級生」と否定した。

 

 

その後改めて乾杯をすると、キリトはリーファから色々な情報を聞き出した。

 

 

リーファが言うにはサラマンダー達はもうすぐ世界樹の攻略に差し掛かろうのかもしれないようだ。

 

 

世界樹攻略はこのALOのグランドクエストでもあるそうで、一番最初に世界樹の上に辿り着き、妖精王オベイロンなる者に謁見した種族が《アルフ》と呼ばれる高位種族に生まれ変わることができ、滞空制限がなくなりいつまでも自由に空を飛び回ることが出来るという。なんとも魅力的なだ。

 

 

それなら種族間で争いが起きるのも合点がいく。空を飛ぶのは中々面白い体験だった。唯一不満があるとすれば滞空制限がある事。だが、その不満を解消することが出来るならば、皆それを目指してぶつかり合うのは当然のことだ。

 

 

「運営も考えたな。種族同士でぶつかり合っていては目的を達成する前に共倒れするのがオチだ。本気で世界樹を攻略するのであれば他種族との連携は必須だが、ALOはその可能性を初めから潰している」

 

 

「いい勘してますね。矛盾してるとしか言えませんよね、1種族しかクリア出来ないクエストを他種族と一緒に攻略しようなんて」

 

 

「じゃあ、事実上世界樹を登るのは不可能って事なのか……」

 

 

思わずキリトは肩を落とす。

 

 

「あたしはそう思う。最近は水妖精族(ウンディーネ)の女の子を筆頭に、他種族合同のグランドクエスト攻略ギルドが作られてるけど、それも時間が掛かるだろうし……でも諦めきれないよね。一旦飛ぶことの楽しさを知っちゃうと、例え何年かかってもきっと……」

 

 

「それじゃ遅すぎるんだ!」

 

 

キリトは少し身を乗り出しながら叫ぶが、すぐにハッとなり、冷静さを取り戻した。

 

 

「ごめん…でも俺、どうしても世界樹の上に行かなきゃいけないんだ」

 

 

「…何でそこまで……」

 

 

「人を…探してるんだ」

 

 

「どういう事?」

 

 

「簡単には説明できない」

 

 

その場に重い空気が漂う。そしてまるでその空気に同調するかのように、酒場の明かりも少し暗くなった。

 

 

「ありがとうリーファ。色々教えてもらって助かったよ」

 

 

キリトの言葉にリーファは何も言わずに俯いており、私とキリトはその場から離れようとする。

 

 

だがリーファがキリト腕を掴み、それを阻止した。

 

 

「待ってよ。世界樹に行く気なの?」

 

 

「ああ、この目で確かめないと」

 

 

「無茶だよそんな……物凄く遠いし、強いモンスターもいっぱい出るし、そりゃ君も強いけど……」

 

 

リーファなりに私たちを止めようと必死に説得してくれているのだろう。初対面の人間にも気を使ってくれる彼女の優しさには申し訳ないが、私たちには世界樹に行かなくてはならない。

 

 

そうしてキリトが酒場の扉に手を掛けたその時だった。

 

 

 

 

「じゃあ、あたしが連れてってあげる!」

 

 

リーファの思い掛けない一言に、キリトだけではなく私も驚いた。

 

 

「いやでも、会ったばかりの人にそこまで世話になる訳には……」

 

 

「世界樹までの道のりは知ってるの?ガーディアンはどうするのよ?」

 

 

「まあ、何とかするよ」

 

 

キリトは精一杯の反論をしたのだろうが、実際のところリーファの指摘にぐうの音も出ない状態だ。

 

 

事実、私たちはこの世界のことを全く知らない新人だ。彼女の案内があると無いとは大違いだろう。

 

 

「良いの!もう決めたの!」

 

 

「キリト、ここは彼女の誘いに乗るべきだ」

 

 

「……わかったよ」

 

 

キリトは諦めたかのように頭をかきながら、彼女の同行を承諾した。

 

 

「あの、明日もイン出来る?」

 

 

「あ、うん」

 

 

「私も午後からなら大丈夫だ」

 

 

「じゃあ午後三時にここでね。あたしもう落ちなきゃいけないから。ログアウトには上の宿屋を使ってね。じゃあ、また明日」

 

 

「あ、待って!」

 

 

ログアウトしようとするリーファをキリトが呼び止める。

 

 

「ありがとう」

 

 

リーファはその言葉を聞くと、すぐにログアウトした。

 

 

「……さて、リーファも居なくなった事だ。聞かせてもらうぞキリト。アスナに、何があった」

 

 

 

 

 

 

 

 

ログアウトした私はナーヴ・ギアを外すと、ログアウト前にキリトから聞いた話をゆっくりと振り返った。

 

 

前日、キリトは依然として目を覚さないアスナの見舞いに行った際、「須郷」なる男と会ったと言う。

 

 

キリトの言う話では、須郷はレクト……即ちALOを運営している会社の研究所の所長を務めており、結城家の養子となる事で、アスナと戸籍上の婚約を果たそうとしているのだと言う。

 

 

そこで私は合点がいった。もし、アスナを含めた300人近くのプレイヤーが目覚めていないこの状況が偶然ではなく人為的行いによる物だとしたら?世界樹の上にいる女性が仮に本物のアスナだとしたら?それを裏で操っている者は須郷であると言う見解に辿り着いた。

 

 

とは言え、まだこれと言った確証がない。それを見つけるまでは警察に何と言おうが鼻で笑われるがオチだろう。

 

 

 

–––やはり世界樹を攻略し、あの女性が本物のアスナかどうかを確かめる必要があるな。

 

 

私はそう思いながら棚の上にあるデジタル時計を見る。時刻は午後の5時30分、外は既に日が落ちて暗い。

 

 

明日のことは、また明日考えることにしよう。

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