ユイがプレイヤーの反応は無いと言うが、彼はその視線に一抹の不安を抱くのだった。
再出発した私たちは数分間飛行し、《ルグルー回廊》という洞窟の中を進んで二時間が経過した。
道中のオークの群れとの戦闘を難なく切り抜け、リーファが予め仕入れていたマップのお陰で順調に先へと進んでいる。
暫く歩いていると、リーファの元に街で別れたレコンからメッセージが届いた。
内容は「やっぱり思った通りだった!気を付けて、s」で途切れている意味不明な内容だった。
その時だ、キリトの胸ポケットからユイちゃんが顔を出して、
「パパ、接近する反応があります」
と警告した。
「モンスターか?」
「いえ–––プレイヤーです。多いです……十二人」
「じゅうに……⁉︎」
ユイちゃんの言った十二人という数字に絶句するリーファ。だが、すぐに隠れてやり過ごす事を提案し、彼女の使った隠蔽魔法が私たちを隠す。
「喋るときは最低のボリュームでね。あんまり大きい声出すと魔法が解けちゃうから」
「了解。便利な魔法だなあ」
キリトは眼を丸くして風の膜を眺めている。
対して私は先程まで自分たちが通ってきた道の方を見ていると、怪しげに光る何かを見つけた。
「あれは……赤い、コウモリ?」
私がそう呟くと、突然リーファは風の膜から飛び出し、同時に隠蔽魔法が解除される。私もキリトも、リーファの突然の行動に戸惑いを隠せない。
「お、おい、どうしたんだよ」
「あれは、高位魔法のトレーシング・サーチャーよ‼︎潰さないと‼︎」
リーファが放った攻撃魔法は宙を漂っていたコウモリを貫き、それを確認したリーファは身を翻して私とキリトに向かって叫ぶ。
「街まで走るよ‼︎」
「え……また隠れるのはダメなのか?」
「トレーサーを潰したのは敵にももうばれてる。とても誤魔化しきれないよ。それに……さっきのは火属性の使い魔なの。ってことは、今接近しているパーティーは……」
「サラマンダーか」
私たちは更にスピードを上げて洞窟を走り抜け、大きな湖が広がっている場所に出た。
湖には石造りの橋が一本だけかかっている。
「どうやら逃げ切れそうだな」
「油断して落っこちないでよ」
キリトとリーファが短く言葉を交わしながら、橋の中央に差し掛かった瞬間、二つの光点が私たちの頭上を高速で通過。そして十メートルほど先にある街の門の前に落下したかと思うと、光点が落下した場所に巨大な壁が出現し、私たちの行く手を阻んだ。
私とリーファは足を止めるが、キリトは走る勢いを緩めずに大剣を引き抜くと、そのまま岩壁に突進する。
「あ……キリト君!」
反射的にリーファは叫ぶが、その時には既にキリトは岩壁めがけて大剣を振り下ろしていた。
だが、大きな衝撃音と共に弾き返され、橋に尻餅をつく。壁には傷ひとつ付いていない。
「……ムダよ」
「もっと早く言ってくれ……」
さて、面倒な事になった。目の前の岩壁は攻撃魔法を連発すれば破壊できるらしいが、そんな時間は無い。橋を飛んで回り込むことも、湖に飛び込んで泳いでいくことも出来ない。
「どうやら、戦うしかないようだな」
「それしかない……んだけど、ちょっとヤバイかも。サラマンダーがこんな高位の土魔法が使えるってことは、よっぽど手練のメイジが混ざってるんだわ……」
リーファがそう言いながら長刀を引き抜くが、それを見たキリトが彼女の方を見て言った。
「リーファ。君の腕を信用してないわけじゃないんだけど……ここはサポートに回ってもらえないか」
「え?」
「俺たちの後ろで回復役に徹してほしいんだ。そのほうが俺も思い切り戦えるし……」
キリトの言葉にこくりと頷いたリーファはそのまま岩壁ぎりぎりまで退いた。
「私が突っ込む。取り残しを頼む」
「分かった!」
私とキリトは全力で地を蹴り、みるみる内に先頭で盾を構える三人のサラマンダーとの距離を詰めていく。
「ふっ!」
そして気合の入った一閃。
「スイッチ!」
「セイッ‼︎」
私の後に付いてきたキリトも強力な横薙ぎをサラマンダー達に叩きつける。だが、サラマンダー達のHPは僅か三割しか減少していない。
私がそれを確認した直後、三人の前衛の体が水色の光に包まれHPは元通りフル回復していく。
更にその後ろから次々と火球が発射され、私とキリトの立つ場所に降り注ぎ、炸裂した。
私たちのHPが急速に減っていく。
–––なるほど…コイツは厄介だな。
私は燃え上がる炎の中、サラマンダーの陣形を確認する。
前衛には先程の重戦士が三人、中衛にメイジが三人、後衛に残りのメイジが六人……前衛の三人がダメージを受けると中衛の三人がダメージ分の回復を行う。そして前衛と中衛が時間を稼いでいる間に後衛にいる残りのプレイヤーが遠距離上位魔法で攻撃。
考え込まれた戦術に私は感嘆し、同時にこの戦術を攻略する方法を思いついた。
「キリトよく聞け……」
私は未だ私たちの体を包み込むように燃えている炎の中でキリトに作戦の内容を伝えた。
「本当に大丈夫か?その作戦」
「さあな。だが、やらなければこっちが殺られるだけだ。そうなれば今までの努力が全て水の泡だぞ」
「そうだな………よし、やろう!」
炎が薄れ、私とキリトのHPをリーファが回復魔法を使ってある程度回復する。作戦開始だ。
「うおおおおっ!」
雄叫びと共にキリトが前衛に突っ込み、盾と盾の間を無理矢理こじ開けてできた隙間に大剣を突き立てる。
「くそっ、なんだコイツ……!」
キリトの思い掛けない行動に一人のサラマンダーが戸惑いの声を上げる。
さすがの私もあそこまでやるとは思ってなかったが、前衛部隊の気を引いてくれたので別に良い。
キリトが重戦士たちを抑えている間に、私は彼らの身体の上を跳び越えると、前衛でキリトの攻撃を防いでいるサラマンダーの一人を背後から突き刺し、リメインライトに変える。
前衛に出来た隙間からキリトも重戦士たちの背後に回り込む。そして相手が片手剣を構えるよりも早く、自身の大剣で切り捨てた。
その間に詠唱を済ませ発射された炎の魔法を、私は生き残っていた重戦士を投げ飛ばし、盾にすることで魔法攻撃を防ぐ。
「意外とエグいことするな君は……」
私の戦い方にキリトが少し引いているが、今はそんな事はお構いなしだ。
私とキリトは中衛の回復部隊、そして流れるように後衛の魔法攻撃部隊を蹂躙していった。
▼
「さあ、誰の命令で動いていたのか、あれこれ説明してもらうわよ‼︎」
捕まえた最後の一人にリーファが剣を向ける。
「こ、殺すなら殺しやがれ!」
「この……」
私は長刀を振り下ろそうとする彼女を止める。せっかく殺さないように最大限努力して捕まえたんだ。このまま何の情報も得ずに殺すのは惜しい。
「いやー暴れた暴れた、ナイスファイト」
先程までの緊迫した雰囲気をぶち壊すように、のんびりとした口調でそう言って近づいてきたキリトは唖然としているサラマンダーの肩をポンと叩いた。
「いい作戦だったよ。俺一人だったら速攻でやられてたなあー。さて、物は提案なんだがキミ」
彼はそのまま左手を振ってトレードウインドウを出すと、男にアイテム群の羅列を示す。
「これ、今の戦闘で俺がゲットしたアイテムと
ニヤリと笑みを浮かべるキリトの言葉に、男はキョロキョロと周りを見回した後、再び彼の方に向き直る。
「……マジ?」
「マジマジ」
そんな会話と共に、にやっと笑みを交わす両者を見て、リーファが思わずため息を吐く。
「男って……」
「なんか、みもふたもないですね……」
「………」
隣でそう呟く女性二人の言葉に、私は何とも言えなかった。