そもそも集中力が無いにも等しいくせに、一、二時間で完成する訳ねえだろってんだ。
そんな事を思いながら書き上げました。
私たちは現在、蝶の谷の上空を飛行している。
「プレイヤー反応です!前方に大集団–––68人、これがおそらくサラマンダーの強襲部隊です。さらにその向こう側に14人、シルフ及びケットシーの会議出席者と予想します。双方が接触するまであと50秒です」
かなり急いで飛んできたが、すでにサラマンダーの大軍は会談近くに迫っていた。
「–––間に合わなかったね。ありがとう、2人とも。ここまででいいよ。キミ達は世界樹に行って……短い間だったけど、楽しかった」
リーファは笑顔でそう言ってくるが、キリトは、
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
不敵な笑みを浮かべ、猛スピードで会談場所へと向かって飛んでいった。
「ちょ……ちょっとぉ‼︎なによそれ‼︎」
「キリトはああいう奴なんだ。リーファ、君はシルフとケットシーを頼む」
私はリーファに向かってそう言い残し、キリトの後を追う。彼のことだ。とんでもないことを考えているに違いない。
「双方、剣を引け‼︎」
▼
私はキリトの後ろに降り立つ。
リーファは領主たちの方へと出向く。どうやら、ぶつかり合う直前にギリギリ間に合ったようだ。
「指揮官に話がある!」
キリトが再度叫ぶと、サラマンダー部隊の奥から指揮官らしき大柄な男がゆっくりと前に出た。
「–––スプリガンにインプが何をしている。どちらにせよ殺すには変わらないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」
「俺の名はキリト。スプリガン、インプ同盟の大使だ。この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」
–––なんと無茶苦茶な……。
流石にサラマンダーの指揮官も驚いていた。
「インプとスプリガンが同盟だと……?護衛の一人もいない貴様がその大使だと言うのか」
「いや、後ろにいるインプの彼が俺の護衛だ。この場にはシルフ・ケットシーとの貿易交渉に来ただけだからな。だが会談が襲われたとなればそれだけじゃすまないぞ」
貴様の嘘に私を巻き込まなと言いたかったが、そんな事を言える状況ではないので今は黙っておく。
「たいした装備も持たない貴様の言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな」
–––まあそうだろう。
「貴様らのどちらかが、オレの攻撃を30秒耐え切ったら、貴様らを大使、その護衛として信じてやろう」
「ずいぶん気前がいいね」
そう言いながら男の方へと行こうとするキリトを私は止める。
「大使であるあなたの身を守るのが護衛たる私の役目です。ここは私が」
私は「巻き込んだ事、あとで覚えておけ」と小さく付け足し、サラマンダーの男と同じ高度まで上昇する。
「貴様が相手かインプ」
「ああ」
背中から大剣を抜き放ちながら、短く返事をする。
「名はなんと言う」
「ペルソナ。貴様は?」
「オレはユージーンだ。貴様の実力がどれ程のものか見せてもらおうか」
▼
俺はリーファの下に駆け寄り、今まさに戦いを始めようとする二人のプレイヤーを見守っている。
「まずいな……」
リーファの隣にいるシルフの女性(リーファ曰く《サクヤ》というらしい)の言葉を俺は聞き逃さなかった。
「何がまずいんだ?」
「あのサラマンダーの両手剣、あれは《魔剣グラム》……ということはあの男が《ユージーン将軍》だろう。知ってるか?」
俺は首を横に振るが、リーファは息を呑みながら名前だけならっと頷いた。
サクヤさんは話を続ける。
「サラマンダー領主《モーティマー》の弟……リアルでも兄弟らしいがな。知の兄に対して武の弟、純粋な戦闘力ではユージーンのほうが上だと言われている。サラマンダー最強の戦士……ということはつまり……」
「全プレイヤー中最強……?」
「ってことになるかな……とんでもないのが出てきたもんだ」
「……キリト君、ペルソナさん大丈夫かな…」
「大丈夫。彼なら心配いらないよ」
彼の心配をするリーファに俺はそう答えた。
彼のことを心配していない訳ではない。たが、俺は彼がそう簡単に負けるとも思っていない。
何故なら彼はあのヒースクリフ…茅場晶彦と互角に戦えるほどの強さを持っている。
自惚れかもしれないが、彼の反応速度は俺と同等だ。もしかしたら《二刀流》は俺ではなく彼の手に渡っていたかもしれないとも思ったこともある。
雲が流れ、差し込んだ光が奴の剣の刀身に当たり、反射したその瞬間、彼に斬りかかっていった。
彼は咄嗟に両手剣を掲げ、防御態勢をとるが、ここで驚くべきことが起きた。
魔剣グラムが彼の剣をすり抜け、、強力な一撃を浴びた彼の身体は轟音と土煙を上げ、地面に突き刺さった。
「な……なんだあれ⁉︎」
「魔剣グラムには、《エセリアルシフト》っていう剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ!」
驚愕する俺とリーファにそう答えたのは、ケットシーの領主《アリシャ・ルー》さんだった。
その次の瞬間、土煙が切り裂かれ、その中から姿を現した彼はゆっくりと上昇する。
HPは…少し減ってたが、どうやら心配する必要はないみたいだ。
▼
「ほう……よく生きていたな!」
「面白い剣だな、正直少し驚かされたぞ」
余裕の表情でこちらを見るユージーンという男。
どうやらコイツの力はあの剣にあるようだ。だが、それ以上に奴は強い。かなりの技術を持っている。このゲーム…ALOの戦い方を熟知している。
–––面白い。
今度は私から攻撃を仕掛ける。が、奴の剣に防がれ、反撃と言わんばかりに剣を振り下ろしてくる。
私は身を捩らせて剣を避けると、空いている脇腹に攻撃を当てる。
「もう30秒過ぎたんじゃないのか」
そう言う私に対してユージーンは不敵に笑う。
「悪いな、やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ」
「そうか、なら……もう手加減はなしだ」
その瞬間、彼の動きが変わった。
「っ⁉︎」
一瞬の間にユージーン将軍の身体に複数のダメージエフェクトが刻まれる。
斬られたことに驚くユージーンだったが、私は攻撃の手を止めない。コートの中に隠しておいた刀を引き抜き、回転しながら確実にダメージを与えていく。
「ぬ……おおおお‼︎」
だがユージーンもただ黙ってやられる訳もなく。スキル、もしくは防具の特殊効果か、雄叫びと共に薄い炎の壁が半球状に放射、爆発し、私の体をわずかに押し戻した。
押し戻され動きが止まった私をユージーンは見逃さず、勢いよく両手剣を振り下ろしてきた。
奴の剣は顔の前に突き出した両手剣を透過し、時間が一コマずつ進むにつれてゆっくりと迫りくる。
「ふっ‼︎」
放たれた斬撃が首元に当たる寸前、左手の刀がそれを受け止めた。
「……どれだけ相手の防御をすり抜けても、相手に攻撃を当てる時は必ず実体化する。その瞬間を狙えば、貴様の攻撃を防ぐことなど容易い」
「調子に乗るなああああ‼︎」
小細工なしの大振りが放たれる。
だが、そんな単調な攻撃で倒される私ではない。
素早く横にスライドすると、隙ができた奴の胴体を何度も斬りつける。
自身の目にも止まらぬ速さでユージーンを斬り続け、最後の一撃が奴の身体を斬り裂く。
ユージーンは断末魔を上げ、斬り裂かれたその身体は巨大な炎に包まれ、燃え崩れた。
▼
その後、サラマンダーの中に先日リーファと相対していたプレイヤーがいて、サラマンダー達は私たち(正確にはキリト)の話を信じ、その場を去っていった。
そしてリーファから領内に裏切り者がいるという話を聞いたサクヤ氏は、アリシャ氏に《月光鏡》という闇魔法を使ってもらい、裏切り者のシグルドを領地から追放。一件落着したわけだが……
「ねえキミ、フリーならケットシー領で傭兵やらない?三食おやつに昼寝つきだヨ」
「ペルソナ君と言ったかな–––どうかな、個人的興味もあるので礼を兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」
何故か領主二人が抱きついてきて、所有権の言い争いを始めた。
私は内心呆れながら、ニヤニヤとこっちを見ている真っ黒剣士に早く助けろコールを送る。
キリトが領主の二人に事情を説明し、私はなんとか領主二人から解放された。
二人と話をしていくにつれ、今回のシルフとケットシーの同盟が世界樹攻略のためだと知った私たちは、どうにかその攻略に同行できないか頼み込んだ。
だが、世界樹を攻略しようにも攻略メンバー全員分の装備を整えるのに、相当な金と時間を費やすらしい。それも一日、二日でどうにかなるようなものではないという。
「あ、そうだ」
何か思いついたのか、ウインドウを操作し、大きな革袋を取り出したキリト。
「これ、資金の足しにしてくれ」
そう言って差し出した袋には、多額の金が入っていて、それを見たサクヤ氏とアリシャ氏、リーファまでもが目を丸くして驚いた。
「十万ユルドミスリル貨……これ全部……⁉︎いいのか?一等地にちょっとした城が建つぞ」
「構わない。俺にはもう必要ない」
キリトは何の躊躇いもなくそう答える。
アリシャ氏がキリトから受け取った金を、サクヤ氏のウインドウに格納すると、夕焼け空へと姿を消した。
「……行っちゃったね」
ふと、リーファが呟いた。
「ああ、私たちも先を急ぐとしよう」
「そうだな、とっととアルンまで飛ぼうぜ!日が暮れちゃうよ!」
翅を広げ、地を蹴る。
世界樹を目指して再び私たちは飛び立った。