懐かしい人が出てきます。
「–––スグ……直葉……?」
キリトがリーファに向かっております囁いた私の知らない名前。
だが、リーファはその名前を聞いた瞬間、何かが壊れたように、その顔には悲痛な表情を浮かべている。
「……酷いよ……あんまりだよ、こんなの……」
「ス、スグ!」
キリトの呼び掛けに応えることなく、彼女はこの世界からログアウトした。
「ペルソナ、悪いけど……」
「行ってやれ」
「……すまない」
キリトもリーファを追うようにログアウトした。
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「驚いたな、貴様に妹がいたとは」
「そういえば、君には言ってなかったな」
戻ってきたキリトからリアルの話を聞かされた。
正確には、リーファは本当の妹ではなく、キリトの母親の妹の娘…つまり従妹だという。
キリトはとある事情から、幼い頃よりその家に引き取られており、リーファとは兄妹当然に過ごしていたらしい。
「貴様も色々あったわけか」
「ははは……でもまさかゲーム嫌いのあいつがVRMMOをやってるなんて、俺も驚いたよ」
「この後は、どうするつもりだ?」
「話は着けるつもりだ」
「そうか」
そうして彼は立ち上がり、リーファに指定したというテラスへと向かって飛び立った。
「……さて、私も動くとしよう」
キリトの姿が見えなくなったところで私は立ち上がり、彼とは逆に街の方へと足を運んだ。
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俺はリーファ……スグと話をつけて、今はどこかへ飛んでいってしまったお互いの剣を探しているところだ。
「そういえばさ、お兄ちゃん。戻ってきたらペルソナさん居なかったけど、どうしたの?」
「え?彼が居なかったのか?」
「うん。何故かレコンはいたけど」
「そうか……」
–––彼はときどき何を考えてるか分からない事があるが、急に居なくなるなんて何かあったのか?
その後、やっとの思いで剣を見つけた俺たちは、急いで世界樹の根元まで戻ると、そこにはスグの友達のレコンと、ペルソナの姿があった。
「話はついたようだな」
ペルソナは、俺たちを一瞥してそう言った。
俺たちは迷惑を掛けた事を謝り、ユイを呼び出して情報を整理してもらう。
–––このとき、プライベートピクシーを初めて見るレコンが興奮気味だったのに少し引いた。
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だが、まあ……
「異常なのはこちらも同じだ」
「はい。パパとペルソナさんの異常なスキル熟練度であれば、瞬間的な突破力だけなら可能性があるかもしれません」
ユイちゃんの言葉にキリトは考え込んだかと思えば、彼はすぐに真剣な表情で私たちを見た。
「みんなすまない。もう一度だけ、俺のわがままに付き合ってくれないか。なんだか、時間がない気がするんだ」
そのキリトの呼びかけに対し、リーファがいの一番に答える。
「あたしにできることなら何でもする。それと、コイツもね」
彼女はそう言いながら隣に立つレコンを膝で突付いた。
突付かれたレコンは困った顔をしながら情けない声を出すが、すぐに「リーファちゃんと僕は一心同体だし……」っとおかしな事を呟き、頭に拳骨を喰らっていた。
「頑張ってみよっ」
リーファが手を出すと、その上にレコンが手を置いた。その意図を察した私は更にその上に手を添える。
そしてその上にキリトが手を置き、最後にユイちゃんがちょこんと乗った。
「ガーディアンは俺とペルソナで引き受ける。後方からヒールし続けるだけなら襲われる心配はない筈だ……行くぞ‼︎」
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再びグランドクエストへ挑戦する俺たち。
予定通り、俺とペルソナがガーディアンの相手をしながら天蓋に向かって上昇を続ける。
だが、あまりにも数が多すぎる。二人で相手をするには桁違いの敵の数に、流石のペルソナもダメージを受けていた。
リーファとレコンは、俺たちのHPが減っているのを確認して、間髪入れずに発動させた治癒魔法でHPを回復させていく。
しかしそれと同時に、最も低空を飛行していたガーディアンの一群が二人に狙いを定める。
「な、なんで……⁉︎」
「恐らくそこら辺のモブとは違うアルゴリズムを与えているのだろ。初めからクリアさせる気のないクエストだからなっ!」
俺の疑問に答えながら、ペルソナは二人の方へ向かったガーディアンに向けて槍を投げ、その槍は三体のガーディアンを貫いた。
「さすが」
「今は目の前に集中しろ。来るぞ!」
天蓋への道を阻むべく、何度も壁の白く光る窓から現れるガーディアン。
そんな中、ヒール係を担当させていたレコンがガーディアンの群れ目掛けて突入した。
彼はガーディアン達を風の魔法でガーディアン達を斬り裂いていきながら、自分に注目を集めていく。
「レコン、もういいよ!外に逃げて!」
リーファの静止も気に留めず、レコンは新たに何かの魔法のスペルを唱え始める。
同時に彼の体の周りに大量の魔法陣が出現する。その魔法陣は回転しながらみるみる巨大化し、全方位から押し寄せるガーディアンの群れを包み込んでいく。
その直後、恐ろしい閃光が魔法陣から放たれ、同時に激しい爆音がドーム全体に轟いた。
そして爆発の余光が残るその場所には、もう
–––ナイスガッツ……。
彼の捨て身の行動を賞賛し、彼が捨て身の戦法で開けた大穴に、俺は勢いよく飛び込んだ。
「うおぉぉぉぉぉぉ‼︎」
破竹の勢いで飛翔する俺の行く手を、ガーディアン達はその分厚い肉の壁で阻む。
俺はあまりの数に圧倒され、ガーディアンの持つ無数の刃に押し返されてしまう。
更に、奥に控えているガーディアンが俺たちに向けて弓を引いている。
–––ここまでか……ッ!
俺は奴らが放つ無数の矢に貫かれるのを予期し、思わず眼を閉じた。
その時だ。
「ノーム隊、防御‼︎」
どこかで聞き覚えのある女性の声が背後から聞こえたかと思えば、俺の目の前にびっしりと広がった巨大な盾が、降り注ぐ光の矢を防いでいた。
「来たか」
そう呟くのは、いつの間にか隣にいたペルソナだった。
「これは?」
「念のため協力を要請していた。まあ、かなりの出費だったが……」
やれやれと後ろ髪をかく彼。リーファがログインした時に彼がいなかったのはこの為か。
「サラマンダーはガーディアンの排除、ウンディーネは回復急いで!」
また背後で聞こえた女性の声。声の方を振り返った俺は、その衝撃の人物に驚きの声を上げる。
「サチ⁉︎」
なんとこの大部隊のリーダーは、あの《月夜の黒猫団》にいたサチだった。
彼女の周囲には、ケイタやテツオなどの他の黒猫団のメンバーもいた。
「久しぶり、キリト」
「サチ、驚いたよ……君達がまだVRMMOをやっていたなんて」
「ペルソナさんがくれた資金のお陰で、何とか全員分の装備を整える事が出来たの」
「それに俺たちだけじゃないんだぜ!」
サチの言葉に便乗するように言ったテツオが、世界樹の入口を指差す。その先の世界樹の入口からは、シルフとドラゴンに乗ったケットシーのプレイヤー達が次々と姿を表す。
「すまない、遅くなった」
「ごめんネー、レプラコーンの
領主のサクヤさんとアリシャさんが大部隊……それも両種族かなりの大軍を率いてやって来てくれた。
「キリト」
あまりの光景に圧倒されている俺の肩を、ケイタがポンっと叩く。
ケイタと、その後ろでホバリングしている黒猫団の皆が、俺を見つめていた。
「なんで……」
俺は27層の一件後、《ビーター》である事を彼らに明かして《月夜の黒猫団》から脱退。一人、逃げるように最前線へと舞い戻った。
その時から俺は恐れていた。彼らに軽蔑されているかもしれない。本当の事を話さず、自分たちを危険に追いやった俺を恨んでいるのかもしれないと。
だが彼らは今、俺に手を差し伸べてくれている。力を貸してくれている。何故、俺を恨んでいないのか。そんな俺の疑問に答えてくれたのはケイタだった。
「俺たちは仲間だろ?仲間は助け合って当然だ。それにまだ二人には、助けてもらった礼、してないからな!」
ケイタはそう言ってガーディアンの大軍に突っ込んでいき、他の皆も続くように飛翔していった。
俺とサチがその場に残る。
「キリト……」
サチはまだ俺を見つめている。
「行こうキリト!アスナさんを助けるんでしょ」
サチの目は、初めて会った頃とは違い、彼女の覚悟をその目から感じた。
–––拒絶されていると思っていた。
でも違ったんだ。彼らはずっと俺を仲間だと思って信じてくれていたんだ。
俺はいつの間にか流れていた涙を拭う。
「ああ……行こう‼︎」
▼
そこから先は、まさしく激戦と言ったところだろう。
「ファイアブレス、撃てーーッ‼︎」
「フェンリルストリーム、放てッ‼︎」
飛竜の口から放たれる炎と、シルフ部隊が突き出した剣から放たれる雷光が守護騎士たちを蹂躙する。
領主の二人も自ら先陣を切って戦う。
その中でも黒の剣士と紫の青年は類を見ない活躍を見せていた。
目にも止まらぬ速さで、次々と騎士たちを切り落としていく。
そんな二人に続くように……否、その場に集結した全ての者が、一つのエネルギーとなり、守護騎士の壁を突き進んでいく。
そんな中、彼らは騎士たちの壁の向こうに、ゴールである事ドーム状の天頂を視認した。
その瞬間、二人の剣士は閃光となり、騎士たちの
「キリト君‼︎」
リーファが自身の長刀をキリト目掛けて投げる。
回転しながら向かってきた長刀の柄を、キリトは流れるように掴み取った。
負けじとあなたも懐から刀を抜刀し、重ねた二本の剣で眼前に広がる騎士たちを蹴散らしていく。
「「うおおおおおおおおおお‼︎」」
ドーム全体を震わせるような咆哮を放ち、ついに二人は守護騎士の分厚い肉壁を突破した。
▼
–––何故だ。
私とキリトが着いたにも関わらず、ゲートは全く開く気配がない。
到着したのはほぼ同時だ。世界樹は他種族と協力しても、最初に辿り着いた者の種族のみが成功した事になる。キリトを先行させたから、私よりコンマ1秒速くキリトがクエストを成功した事になってる筈だ。
「開かない⁉︎」
だが、キリトがゲートの向こうに誘われる様子も、彼の視界にクエスト成功のメッセージが浮かんでいる様子もない。
「ユイ、どういうことだ⁉︎」
混乱するキリトはユイちゃんを問いかける。
キリトの胸ポケットから飛び出したユイちゃんは、両手でゲートを塞ぐ石版に触れる。
そしてすぐに振り向き、
「パパ、この扉は、クエストフラグによってロックされているのではありません!システム管理者権限によるものです」
と早口で言った。
「つまり、私たちがこの扉を開けるのは不可能…という事か」
「……はい」
「なっ……」
あまりにも予想外な展開にキリトは絶句する。
私も流石にこの展開は……
–––いや、ここまでは想像できた。
逆に疑問だった。もし仮にプレイヤーがあの守護騎士の壁を突破した場合はどうなるのか。
–––これは、やはり何かを隠しているな。
これで、この先に世間に知られたくない「何か」がある事が確実なものとなった。
しかしどうしたものか。
ゲートは開かない。更に周囲のステンドグラスから騎士たちが出現し、押し寄せて来ている。
その時、思い出したかのようにキリトが胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
「ユイ、これを使え!」
ユイちゃんがカードに触れると、カードの情報が光の筋となって彼女の体へと流れ込む。
「コードを転写します!」
ユイちゃんはそう叫ぶと同時にゲートに触れる。
彼女が触れた場所からゲートにラインが走り、直後、ゲートそのものが光り始め、ゆっくりと開いていく。
「転送されます‼︎パパ、ペルソナさん、手を‼︎」
言われるがまま手を貸すと、たちまち、私の体は眩い光に包み込まれていく。
すぐそこに守護騎士が近づいてきている。奇声を上げながらその凶刃が振り下ろされる直前、私の体は完全に光に溶け、データの奔流となり引っ張られるようにゲートの中へと突入した。