仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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遂に世界樹を突破したペルソナ一行。


しかし彼らには大きな試練が待ち受けていた。


第26話 世界樹の真実

ゲートへ突入する際、あまりに強い光に視界が完全にホワイトアウトし、今は意識があるかも分からない。

 

「––––––。」

 

そんな中、一瞬だがハッキリと声が聞こえた。

 

言葉にならないほど悲痛で、弱々しい小さな声だったが聞き間違いではない。

 

 

–––何処だ。何処にいる。

 

 

「–––––ん」

 

 

私が問うと、また声が聞こてきた。だが最初に聞こえたのものとは違う。

 

 

「–––さん、–––ソナさん。ペルソナさん!」

 

 

その声の主は何度も私の名を呼んでいる。

 

聞き覚えのある声に目を開けると、先程までピクシー姿とは違い、SAO時代のワンピース姿のユイちゃんと、キリトがそこにいた。

 

どうやら、二度目の声の主はユイちゃんのようだ。

 

 

「目を覚ましてくれて安心したよ」

 

 

「……ここは何処だ」

 

 

「たぶん世界樹の上……だと思う」

 

 

キリトはそう言うが、辺りを見渡してもそこに広がっているのは眩いほど真っ白な通路だった。

 

 

ALOのイメージに反したその通路は、誰が見ても違和感を感じるような作りで、世界樹の上に広がっているという空中都市とは到底思えない。

 

 

「ユイ、アスナの場所はわかるか?」

 

 

「はい、かなり–––––かなり近いです。こっちです!」

 

 

白いワンピースを揺らし、素足で駆け出していくユイちゃん。

 

「––––––。」

 

そんな彼女を追おうとしたその時、再び聞こえたあの声に私は脚を止めた。

 

 

「ペルソナ?」

 

 

「すまないが別行動を取らせてもらう」

 

 

「なっ⁉︎急にどうしたんだよ」

 

 

「すまない説明している暇はなさそうだ。貴様は予定通りアスナの救出に向かえ」

 

 

自分でも何故そのような事を言うのか良く分からなかった。だが、意思でどうにか出来るようなものではない何かが、私を突き動かしていた。

 

 

「分かった。じゃあ、このカードを持って行ってくれ。きっと役に立つ筈だ」

 

 

「すまない。必ずアスナを救え」

 

 

「ああ、そっちも気をつけてな」

 

 

キリトからカードを受け取り、彼らとは反対方向へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリト達と分かれて数分が経過した––––

 

 

いくら走っても見えてくるのは白い通路。

 

キリトはもうアスナの元へ辿り着いただろうか。そんな事を考えながらも私は足を動かす。そして、

 

 

「実験体格納室–––」

 

 

その(いびつ)な部屋の前で足が止まった。

 

部屋の奥から溢れ出る言葉では言い表せない不快な感覚に襲われたが、意を決して部屋の扉を開く。

 

 

「––––––っ」

 

 

扉の先に広がる光景に思わず息を呑んだ。

 

部屋の中には無数の柱型のオブジェクトが均等に配置されており、それには人間の脳が映し出されていたのだ。

 

 

「–––––けて。たすけて……!」

 

 

映し出されている脳のホログラム、そこから私を導いたあの声が聞こえてきた。それも今度は言葉も鮮明に、そして一つではない。

 

 

「苦しい……やめてくれ、許して」

 

「来るな、くるなぁぁァァァ‼︎」

 

「イヤァァァァァァ‼︎」

 

「あ…ぁ…」

 

 

 

恐怖と苦しみ、絶望と言った負の感情がひしひしと伝わってくる。

 

まるでSAOがデスゲームとしてリスタートした時と同じ阿鼻叫喚の嵐を再び体感しているようだ。

 

 

「これはまさか、SAOの……!」

 

 

その瞬間、背中に悪寒が走った。だが時すでに遅く、気づいた時には触手ようなものに足を絡め取られていた。

 

 

 

「また誰か来てるよ。お前ちゃんとセキュリティ強化したの?」

 

 

「おかしいなぁ。確かに強化したのに……あれ?」

 

 

そんな会話を交わすのはピンク色のナメクジ。

 

その片方が触覚のような目を伸ばし、私の体をマジマジと観察し始めた。

 

 

「君、もしかしなくてもプレイヤー?」

 

 

「まさかそんな筈……確かにプレイヤーだな」

 

 

「………」

 

 

–––こいつら、確かに「プレイヤー」と言ったな。

 

 

「貴様ら何者だ。NPCではないな」

 

 

 

 

「その台詞、どちらかと言ったらこっちの何だけど……、まあ教えてもいいか。僕たちはここの管理者。あ、でもGMではないよ」

 

 

「おい、あんまりペラペラ喋るなよ」

 

 

「大丈夫、どうせ何も出来やしないさ。そうだろ?」

 

 

「………」

 

 

「それに何か変な事をしようとしたら、ここにいる奴等と同じ目に合わせれば良いだけさ」

 

 

「–––どういう意味だ」

 

 

私は威圧気味に管理者の一人に問いかけた。

 

 

「君も『SAO事件』は知っているよね?かの天才《茅場晶彦》によって引き起こされたデスゲーム。有名なテロ事件さ」

 

 

–––まあ、私もプレイヤーの一人だったからな。

 

 

「そのゲームはもう二ヶ月も前にクリアされている。そしてそのプレイヤー達はゲームクリアと同時に意識を取り戻した。一部を除いてね(・・・・・・・)

 

 

「まだ意識を取り戻していない一部のプレイヤーがいる。じゃあ、その一部はどうなっているのか……ここまで話せば分かるよね?ここにあるのは……」

 

 

 

「SAO未帰還者の意識データ……」

 

 

「そういう事。そしてここで僕たちはそのSAO未帰還者たちの頭を弄って色々な実験をしてるんだ。“ある計画”の為にね」

 

 

「“ある計画”……何だそれは?」

 

 

「おっと流石にそれ以上は教えられないな」

 

 

–––そこまで口が軽くはないか……。

 

 

だが、重要機密を次々と暴露したナメクジ(自称管理者)、ここまで語り尽くしても余裕なのは、自分たちが起訴される事は無いという絶対の自信からか。

 

 

「これは非人道的な人体実験だ。許される訳がない」

 

 

「誰が僕たちを許さないんだい?SAO未帰還者(かれら)かい?それとも君かい?でもそれは不可能だ。今の彼らに意識はない、君をログアウトさせるつもりもない。それに例え君が訴えても証拠が無いんじゃどうにもならないだろう?」

 

 

「貴様らこそSAO事件を知っているなら、総務省に出来た《仮想課》は知ってるだろ?私はそこの役人と繋がっている。私の身に何か有れば、その役人が全力で貴様らの尻尾を掴みに動くぞ」

 

 

私は少し脅すつもりで言った。

 

 

「無駄さ。仮に僕らのことに気づいても、その時にはもう僕たちを逮捕する事は出来ない筈だからね」

 

 

だが、管理者たちは全く動じなかった。

 

奴らの言っている事の意味は良く分からなかったが、恐らくそれも“計画”という物が関係しているのだろう。

 

 

「なあ、そろそろやっちゃまうよ」

 

 

「そうだな、ちょっと喋り過ぎたし……」

 

 

奴らはウィンドウを操作した直後、

 

 

「–––ぐっ⁉︎」

 

 

重力が何倍にも上がったかのような負荷が掛かり、私は地面に押さえつけられる。

 

 

「どうかな?今度のアプデで実装する《重力魔法》なんだけど、ちょっと強すぎるみたいだね」

 

 

 

ナメクジ達はうつ伏せの状態になっている私を無理矢理吊り上げ、大剣を奪い取ると、胸を一息に貫いた。

 

 

「ガハッー」

 

 

今までダメージを受けていていた時に感じた妙な不快感とは違う。実際に胸を貫かれた痛み。

 

その痛みに思わず口から血が吐きでたと錯覚し、その場にうずくまった。

 

 

「あれ?ペインアブソーバーのレベルが下がってる。須郷さん、もしかして籠の中の小鳥ちゃんとお楽しみ中かな?」

 

 

「籠…小鳥……?」

 

 

「須郷さんのお気に入りでね、茶色の髪と眼の綺麗な女の子なんだよ」

 

 

–––アスナだ。

 

私はすぐにそう確信した。

 

 

やはりアスナの意識を仮想世界に縛り付けていたのは須郷だった。

 

 

その須郷は今、籠?と呼ばれる場所にいるのならキリトと対峙している筈だ。状況が更に悪化した。

 

 

 

–––不味い、意識が……

 

 

『諦めるのか?』

 

 

謎の声が聞こえた。

 

 

–––誰だ……。

 

 

『君は彼と同じ。私にシステムを上回る人間の意思を可能性を知らしめた。この程度、君が経験した苦悩に比べれば、大した事は無いはずだ』

 

 

–––ああ、そうだ……まだ、やれる。

 

 

私は倍の重力下で鉛のように重い体を無理矢理起こす。そして胸に突き刺さる剣に手を掛け、力任せにそれを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっそ、あの状態で動けないでしょ普通」

 

 

管理者たちはあなたの行動に驚愕する。

 

 

強力な《重力魔法》を受けてもなお、立ち上がるあなたの行動は奇行と言っても仕方ないかもしれない。

 

 

 

あなたは素早くコートの中から小型ナイフを取り出し、管理者の二人に向かって投げつけ、眼を潰す。

 

 

二人は両目にナイフが刺さった瞬間、声にもならない悲鳴を上げながら悶え苦しんだ。

 

 

先程よりもペインアブソーバーのレベルが下がっているのか、二人はそのまま体を痙攣させて倒れ込み、不幸にも失神寸前まのところで意識を保っていた。

 

 

 

 

気絶していた方が、どれだけ幸せだっただろう。

 

 

《重力魔法》の効果が切れ、体の自由を完全に取り戻したあなたは彼らの近くへと歩み寄る。剣先を地面に擦りつけて甲高い金属音を立てながらゆっくりと近づいていく。

 

 

彼らはただ恐怖するしかなかった。近づいてくるあなたの音が聞こえなくなった瞬間、強烈な痛みが彼らを襲った。体のどこか分からない部分が次々と斬られていく痛みと、恐怖で精神状態が不安定だった。しかし、何故かアミュスフィアの緊急ログアウト機能は働かなかない。

 

 

 

広い部屋の中は、振り下ろされる剣が地面を叩く金属音と管理者たちの汚い悲鳴が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

管理者たちはしばらく痙攣していたが、すぐに緊急ログアウト機能が作動し、この世界から消えた。

 

 

奴等を打ちのめした時、不思議と何も感じなかった。

 

 

虚無……それが心をそして体を支配していた。

 

 

 

 

 

 

「……いつまで傍観しているつもりだ」

 

 

『気付いていたのか。流石だな』

 

 

先程と同じ聞こえた声がしたかと思うと、同時に周りが暗闇に包まれていく。

 

 

そして振り返った視線の先に、白衣を着た懐かしい男の姿があった。

 

 

『久しいなペルソナ君』

 

 

「やはり貴様か…茅場晶彦。見届けるだけじゃなかったのか?話が違うぞ」

 

 

『私もそうしたかったんだけどね。これは私…茅場晶彦の見せ場でもあるし、今キリト君が倒されるのは困るからね。干渉せざるを得なかったのさ』

 

 

「また物語か」

 

 

『本当は君にもGM権限を貸すつもりだったのだが。まさか少し鼓舞しただけで二人を打ち負かすのだから、まあ驚かされたものだよ』

 

 

口に手を当てて苦笑する茅場は「まあ彼らのアミュスフィアに少し細工をさせてもらったんだけど」と、何かとんでもない事を口走っている。

 

 

『それはそうと君に渡したいものがある』

 

 

すると、遥か遠い闇の向こう側から、輝く何かがゆっくりと降下してくる。私は反射的に手を伸ばすと、それは小さなサイズのデータの塊となって手の中に収まった。

 

 

「なんだこれは」

 

 

『それは言わば《苗床》だ。《あの世界》で人々が見て感じたものの記録、エネミーなどのデータがその中に詰まっている。キリト君には《種子》を渡しておいた。苗床(それ)が無くとも種子だけで充分な効力がある。使えばどのようなものか解るが、その後の判断は君たちに託そう』

 

 

「私がこれを破棄すると言ったら?」

 

 

『それもまた一つの道だ。しかし、もし君が、あの世界に憎しみ以外の感情を残しているのなら……』

 

 

茅場の声はそこで途切れ、しばらくの間沈黙する。

 

 

『–––では、私は行くよ。また会おう、ペルソナ君』

 

 

 

 

 

 

気がつくと部屋は元の状態に戻っており、茅場の気配も既に消えていた。

 

 

–––出来ることなら二度と会いたくないな。

 

 

 

 

私はコンソールらしき立方体に、キリトから受け取ったカードを差し込む。すると多くのウインドウとキーボードがコンソールの前に浮かび上がった。

 

 

一つ一つのデータを確認しながらコピー。そしてコピーしたデータを総務省へ匿名で送信。これで菊岡の方もすぐに動けるだろう。

 

 

その後、SAOプレイヤー達を一斉にログアウトさせた。明日の朝には残りのSAOプレイヤー達が意識を取り戻すはずだ。

 

 

 

 

やり残した事がないかを入念に確認した後、私は手慣れた動作でログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 




次回、《フェアリィ・ダンス編》完結。
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