アインクラッド編が少し駆け足気味にやってたので、文字数が少なかったってのもあるからでしょうね。
そんなこんなで、フェアリィ・ダンス編完結です。
時が流れ、季節は巡り、秋から冬、冬から春へと移り変わろうとする今日この頃。
私はふと大学の窓から晴天の青空を眺めていた。
世界樹の上で行われていたことは、私を含めごく一部の者しか知らない。
あの後、総務省に匿名で送られてきたというデータから須郷の悪事は暴かれ、キリトが病院でナイフを持った須郷に襲われたと通報したことが決め手となり、須郷は逮捕され、実験に関与していたとされる奴の部下も同様に逮捕された。
菊岡から聞いた話によると、目を覚ました300人のSAOプレイヤー達は実験の事を何も覚えていないそうだ。
–––彼らにとってはそちらの方が幸せだろう。
それに今回の件は私も他のSAO生還者サバイバーにも決して他人事ではない。菊岡から聞いた話では、実験台となった300人のプレイヤー達(アスナ以外)は全員ランダムに選ばらたらしい。もしかすると私も……やめておこう。想像しただけで気分を害する。
《ブーーー》
と、ポケットに入れていたスマホが揺れた。キリト…和人からのメッセージだ。
–––ああ、そういえば今日だったな。
▼
放課後、
「よっ」
「「こんにちは」」
和人の軽い挨拶とは違い、女性陣は礼儀正しくお辞儀した。私も適当に返しておく。
–––それにしても……
「貴様ら本当によく似ているな」
「そうか?」
「ああ、一瞬キリトが女に見えた」
「ぶっ!」
「やっぱりそう思います?お兄ちゃん、あたしと外に出ると姉妹って良く間違われるんですよ」
後ろで明日奈が口に手を当てて必死に笑うのを我慢していたが、直葉の話を聞いて吹き出してしまった。
その様子を見ながら和人はやつれた顔をしていた。ふむ、女顔の話は他の連中には黙っておこう。
しばらくして、ようやく明日奈の笑いがおさまった所で和人が満を持してドアを開けた。
驚くべき事に、店内には他の参加者が集まっており、手に飲み物が入ったグラスを持って盛り上がっていた。
「–––おいおい、俺たち遅刻はしてないぞ」
呆気に取られながらも和人がそう言うと、皆を代表する様にリズベットこと篠崎里香が進み出てきた。
「主役は最後に登場するものですからね。あんた達にはちょっと遅い時間を伝えてたのよん。さ、入った入った!」
彼女とはSAOではあまり面識がない。そもそも壊れない武器という物を持っていた私には、鍛冶屋は必要なかったのだから知るよしもないのだが。
彼女は和人の手を引っ張り、店の奥にある小さなステージの上に立たせると、スポットライトが和人を照らす。
「それでは皆さん、ご唱和ください。せーのぉ!」
『キリト、SAOクリア、おめでとー‼︎』
唱和と同時に『Congratulations!』と書かれた白い幕が和人の頭上から落ちてきて、追い討ちの様にクラッカーが盛大になり響き、多くの拍手が彼に送られる。
私は取り敢えず、いつの間にか渡されていたグラスを上げた。
▼
多くの者が笑い合い、思い出話に花を咲かせている中、彼女…桐ヶ谷直葉は店の隅でその様子を見つめていた。
「詰まらないだろ。知らない者の集まりは」
突然声をかけられ直葉はピクッとした。そして声がした方を向くと、そこには彼…ペルソナがいた。
「……いえ、あたしが勝手についてきただけですし、それに皆さん仲良さそうでなんだか入りづらくて」
「皆、こうして会うのも久しぶりだからな。羽目も外したくなるのだろう」
彼はそう言いながら、直葉の相席に座る。そして彼女の目を
「キリトの事か」
「えっ?」
「キリトの事を考えてただろ」
「……凄いですね、なんで分かったんですか?」
「昔から観察力は良い方でな。何か悩みでもあるなら言ってみろ。聞くことぐらいならできる」
その言葉に直葉は少し口をつぐんだが、彼の奥に見える和人の姿を見て、寂しそうに語り始めた。
「悩みとかじゃないんですけど……あたし、あんな楽しそうなお兄ちゃん見るの初めてで……あたし達、本当は血が繋がっていないって事、ペルソナさんには話しましたっけ?」
「………いや、初耳だ」
彼はすでに和人から聞いている為知ってはいたが、敢えて知らないふりをした。
「あたしもお兄ちゃんがSAOに閉じ込められてから初めて知ったんですけど、お兄ちゃん、お母さんのお姉さんの子供だったんです。お兄ちゃん小さい頃にその事を知って、ちょうどその頃から少し距離を置かれてる気がしたんです」
「………」
「お母さんはその事は関係ないって言ってくれて、お兄ちゃんも戻ってきてから昔と変わらずに接してくれたんですけど……でも今のお兄ちゃんを見てると、近くにいるはずなのに何処か遠く感じて……お兄ちゃんのいる場所にあたしが居て良いのかなって思っちゃったんです……」
「そうか……」
「すみません。暗い話しちゃいましたよね」
「………」
「……私は、君にも一緒に居て欲しいがな」
「ふえっ⁉︎」
意味深な言葉に直葉は驚きの声を上げた。他の者たちが騒いでいたお陰で、幸いにもその声が第三者の耳に入る事はなかった。
「キリトならそう言う」
「あ、ああ……なるほど」
「それにあまり気にしない方が良いと思うぞ。私はSAO以前の《桐ヶ谷和人》は知らないが、今のあいつは知っている。君の知るあいつとは、かなり変わったかもしれないが、あいつの本質は何も変わっていない筈だ」
彼は一息にそう言うと、ぐいっと水を飲み干す。
「もしそれでも不安があるというのなら、本人とも直接話してみると良い。期待通りのものでなくとも、良い答えを見つけることが出来るだろう」
「……最後に一つ、後悔するような選択はするな」
そう彼は言い残し、その場を立ち去っていった。
▼
世界の種子……私とキリトは話し合った結果、私が渡された《苗床》を土台として芽吹き、瞬く間へと世界中に拡散した。
《ザ・シード》と呼ばれるそれは『環境さえ整っていれば、アイディア一つで誰もが簡単に新たなVRMMOを創造出来る』という言わば夢のプログラムであり、《苗床》はモンスターやアイテムなどに関するサンプルプログラムが入っていた。
更にザ・シード上で創造されたゲームは他のMMOと繋がり、キャラクターデータの移行…『コンバート』を可能とした。
これによりVRMMOというジャンルはこれまで以上に大きな発展を遂げていくだろう。
▼
世界樹上部《イグドラシル・シティ》–––––
夜空を見上げる私の視線の先に、息を合わせて美しく踊る黒と緑の妖精の姿が見えた。
遠くて良く見えなかったが、私はすぐにキリトとリーファだと気付いた。
分厚い雲海が流れてきてすぐ二人の姿は見えなくなったが、数分間、私はその優雅な踊りに魅了されていた。
「『後悔するような選択はするな』……か」
私はほんの数時間前に彼女に言ったその言葉をそっと呟いた。
「ふっ、私が言えた立場か……」
後悔し続けてきた。
絶望して後悔してその果てで今の私がある。
だが、それを否定するつもりはない。
そのお陰で私は今、新たな仲間と出会えた。
–––だから今は……。
その時、鐘の音と共に巨大な影が月光を遮った。
上を見上げると円錐状の巨大な浮遊城。
「《アインクラッド》」
アインクラッドが月の光よりも眩い輝きを放ち、同時に私の頭の上を妖精たちが通り過ぎていく。
「おーい、置いてくぞペルソナ!」
その妖精の中から声を掛けてくるクライン。
その後ろから続くエギル、リズベット、シリカ、そしてアスナとユイちゃん。SAO……いや、キリトを通じてできた新たな仲間たち。これからも私は彼らと在り続けるだろう。
「さて……と」
そっと背中に力を入れ、羽根を出現させる。
–––どう生きるかはこれから決める。
そしてまた「君」に会うことができたら……
「それまでに、最高の土産話を用意しておこう」
私は地を蹴り、新たなアインクラッドへと向かって飛び立つ。
「さあ、まずはこの城の攻略からとしようか!」
次回の投稿はだいぶ遅くなると思います。