仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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何とか年内に上げられた……。




第30話 荒野の戦闘

菊岡から依頼を受けた日の夜–––ALOにて

 

 

「入るぞ」

 

扉を開けると、そこには既にキリトとアスナ、そしてユイちゃんの姿があった。

 

 

「ペルソナさん!」

 

 

私が部屋に入ってすぐにユイちゃんが飛びついてきた。彼女にこれほど懐かれる事になるとは、当時の私は思ってもいなかっただろうな。

 

 

–––別の仮想世界の話をしただけなのにな……。

 

 

「ペルソナさんはパパが調査しに行くGGOをプレイしているんですよね?」

 

 

今日ここに来たのはその事について説明する為だったのだが、どうやら私が来る前にキリトがほとんど説明してくれたようだ。

 

 

「ああ。悪いが暫くキリトを借りる事になる」

 

 

「いえ!パパのことを宜しくお願いします!それで……」

 

 

「どうした?」

 

 

「迷惑でなければ、GGOの話を聞かせてくれませんか?」

 

 

私は少し不安そうにして尋ねる彼女の頭を撫でた。

 

 

「そう改まる必要はない。頼んでくれればいつでも話をしてあげよう。そうだな、これは数日前のことだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GGO・荒野フィールド–––

 

 

 

高層建築の廃墟にて、私は周囲の偵察を行いながらSAA(シングル・アクション・アーミー)の手入れをしていた。

 

 

ザッザッ–––

 

 

「!」カチッ

 

 

複数人の足音が聞こえた方へと銃を開けると、先頭を歩くカーボウイ風の男が手を挙げた。

 

 

「待った!待った!俺だ、ダインだ‼︎」

 

 

「……貴様か」

 

 

現れたのは私に共闘依頼を要請してきた男と、そのスコードロンだった。

 

 

私が銃口を降ろすと、ダインはホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「まったく、いきなり銃口を向けるなよ」

 

 

「警戒していた。仕方ないだろ」

 

 

「相変わらずクールだな〜」

 

 

少し軽口を叩いたが、奴はすぐに真剣な表情をした。

 

 

「それで、奴らは来たか?」

 

 

「今のところまだだ。このままだと夜戦を覚悟した方がいいかもしれないな」

 

 

「そうか。あとは俺たちで見ておく。お前は武器の手入れでもしてな」

 

 

「そうさせてもらう」

 

 

ダインの仲間に双眼鏡を渡して後ろの方へ向かう。

 

 

「あら、久しぶりね」

 

 

「君は……あの日以来だなシノン」

 

 

懐かしい声が聞こえたと思えば、そこには一度戦ったシノンがいた。

 

 

「覚えててくれて嬉しいわ」

 

 

「君が言ったのだろ。覚えておけと」

 

 

「ふふ、そうだったわね」

 

 

シノンは笑いながらそう言った。話を聞くと、どうやら彼女も私と同じでダインに雇われたらしい。だが彼女ほどの狙撃手が味方になってくれるとは、これほど心強いことはない。

 

 

「期待している」

 

 

「ありがと。わたしも今回の貴方の動きを勉強にさせて貰うわ。今度会った時に貴方を倒すためにね」

 

 

指で銃の形を作ってこちらに向けるシノン。その目は私との再戦に燃えていた。

 

 

「–––来たぞ」

 

 

ふと、私と入れ替わりで偵察を行っていたスコードロンのメンバーが声を上げ、その場に緊張が戻る。

 

 

シノンも首元のマフラーを上げて顔の半分を隠し、その目は狙撃手の目に戻っていた。

 

 

「ようやくお出ましか」

 

 

ダインは偵察を行っていたメンバーから双眼鏡を受け取り、敵戦力の確認を始める。

 

 

「……確かにあいつらだ。7人……先週より1人増えてるな。光学系ブラスターの前衛が4人。大口径レーザーライフルが1人。それに……おっと、《ミニミ》持ちが1人。こいつは先週は光学銃だったから、慌てて実弾系に持ち替えたんだろうな。狙撃するならこいつだな。最後の1人は……マント被ってて、武装が見えないな……」

 

 

最後の1人が気になり、私は予備の双眼鏡を取り出してレンズに眼を当てる。

 

 

ダインの言う通り、レンズ越しに7人のプレイヤーの姿が確認できた。《FN・MINIMI(ミニミ)》を装備したプレイヤーも視界に入り、そして問題のマントを被ったプレイヤーは隊列の最後尾を歩いていた。

 

 

かなりの巨漢であるその男は、背中に大型のバックパックを背負っているのか、マントが派手に膨らんでいる。

 

 

–––見たところ運び屋と言ったところか。だがなんだ?この妙な感じは……。

 

 

「あの男、嫌な感じがする。最初に狙撃するのはマントの男にしたい」

 

 

シノンもマントの男から何かを感じたようだ。

 

 

「何故だ?大した武装もないのに」

 

 

「いや、彼女の意見も一理ある。あの男からは他の奴等とは違うただならぬ何かを感じる」

 

 

「それに不確定要素だから気に入らない」

 

 

「それを言うなら、あのミニミは明らかに不安要素だろう。あれに手間取ってる間にブラスターに接近されたら厄介だぞ」

 

 

ダインの言い分ももっともだ。光学銃による攻撃は防護フィールドによって防ぐことができるが、その効果は距離が縮まるにつれて減少する為、至近距離での撃ち合いでは実弾銃よりも弾数の多いブラスターに圧倒される危険がある。

 

 

仕方なく、狙撃はミニミ持ちからにすることとなり、マントの男は次弾で狙うこととなった。

 

 

「おい、喋ってる時間はそろそろないぞ。距離2500だ」

 

 

索敵担当の男が双眼鏡を覗きながら言った。ダインは頷き、私たちアタッカーの方に振り向いた。

 

 

「よし。俺たちは作戦どおり、正面のビルの陰まで進んで敵を待つ。シノン、状況に変化があったら知らせろ。狙撃タイミングは指示する」

 

 

「了解」

 

 

短く答え、シノンはライフルのスコープに右眼を当てて狙撃の準備を整える。

 

 

そして私はダイン達と共に持ち場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦通りの配置につき、すぐに攻撃へと転じれるようSAAを構える。

 

 

全員が配置に着いたところで、ダインがシノンに無線で連絡を入れた。

 

 

「–––位置についた」

 

 

『了解。敵はコース、速度ともに変化なし。そちらとの距離400。こちらからは1500』

 

 

「まだ遠いな。いけるか?」

 

 

『問題ない』

 

 

「……よし。狙撃開始」

 

 

『了解』

 

 

 

短いやり取りが終わり、緊迫した空気が周囲を包み込んでいく。

 

 

数秒後、ターゲットとなっていた男の頭が吹き飛び、その体はポリゴンとなって砕け散った。

 

 

少し遅れて銃声が聞こえ、男の持っていたミニミが砂地に転がった。

 

 

–––やはり見事なものだな。

 

 

私は彼女の狙撃を見て感嘆した。狙撃の腕が以前よりも各段に上がっているのは一眼で分かった。

 

 

仲間がやられて動揺している中、シノンが2発目の狙撃を行う。

 

 

第2射は敵の最後尾にいた男に向けて放たれた。だが弾道予測線(バレット・ライン)が表示されていた事と、男が落ち着いていたこともあり,大きく横に動いて避けられた。

 

 

『第一目標成功(クリア)。第二目標失敗(フェイル)

 

 

「了解。アタック開始……ゴーゴーゴー‼︎」

 

 

ダインの掛け声と共に私たちは攻めていく。

 

 

敵のスコードロンは光学銃で対抗するも、防護フィールドによって我々へのダメージは0に等しい。

 

 

味方の1人…《ギンロウ》が最前線で敵を1人、また1人と撃破していく中、例の大男が羽織っていた迷彩マントを剥ぎ取った。

 

 

「っ……‼︎」

 

 

マントが取れたことにより、背中に担がれていたものが露わになった。

 

 

誰もがアイテム運搬用のバックパックだと思っていた物体は、6本もの銃身が束ねられた巨大な重機関銃だった。

 

 

大男が獰猛な笑みを浮かべ、砲身を突き出す。

 

 

「退けギンロウ!やられるぞ‼︎」

 

 

先行していたギンロウに向かって叫ぶ。刹那、6本の弾道予測線に沿って、高速回転する砲身から弾丸の雨がコンクリートの壁ごとギンロウのアバターを貫く。

 

 

私はすぐさまその場に伏せて弾丸をやり過ごし、追撃が来る前に後方のコンクリート壁まで下がった。

 

 

一息つき、直ぐにダイン達と共に先程ドロップしたミニミで応戦するも、敵の方も石柱などの遮蔽物に身を隠し、こちらの弾切れを今か今かと待ち続けている。

 

 

–––このままじゃ袋のネズミだな。

 

 

そう思った矢先、視界の隅にこちらへと向かって来る小さな影が映った。

 

 

「シノン……!」

 

 

自身よりも大きなライフルを抱え、シノンは一直線に走ってきていたのだ。

 

 

敵も彼女の接近に気が付いたようで、アタッカーが彼女の方へ銃口を向けた。

 

 

敵の注意がシノンへ向いた一瞬の隙に、私は彼女へ銃を向けるアタッカーに向けて発砲する。

 

 

ミニミの残弾は無くなったが、1人は倒すことが出来た。

 

 

弾丸の行き交う中を通り抜け、シノンが私とダインの前に飛び込んできた。全く、無茶なことを……。

 

 

「……奴ら、用心棒を呼んでやがった」

 

 

「「用心棒(だと)?」」

 

 

ダインの呟きに私とシノンの声が重なる。

 

 

「知らねえのか、あのミニガン使いだよ。あいつは《ベヒモス》っていう、北大陸を根城にしてる脳筋(マッチョ)野郎だ。金はあるが根性のねえスコードロンに雇われて、護衛の真似事なんかしてやがるんだ」

 

 

「護衛か……」

 

 

–––私と同じだな。

 

 

そう思ったが口には出さない。代わりにシノンがぎりぎり味方全員に聞こえるボリュームで話し始めた。

 

 

「このまま隠れていたらすぐに全滅する。ミニガンはそろそろ残弾が怪しいはず。全員でアタックすれば派手な掃射は躊躇うかもしれない。そこを突いてどうにか排除するしかない」

 

 

「ムリだ、ブラスターだって2人も残っているんだぞ。突っ込んだら防護フィールドの効果が……」

 

 

「ブラスターの連射は実弾銃ほどのスピードじゃない。半分は避けられる」

 

 

「無理だ!突っ込んでもミニガンにズタズタにされるだけだ。残念だが諦めよう。連中に勝ち誇られるくらいなら、ここでログアウトして……」

 

 

ダインは頑なに繰り返し首を振りながら言った。

 

 

だが、今ログアウトしてもアバターはフィールドに残る。魂の抜けたアバターは依然として攻撃対象になるし、装備もドロップする。

 

 

その事をシノンが指摘した途端、ダインは喚いた。

 

 

「なんだよ、ゲームでマジになんなよ!どっちでも一緒だろうが、どうせ突っ込んでも無駄死にするだけ……」

 

 

「なら死ね!」

 

 

シノンは反射的に叫び返すと、戦意喪失したダインの胸ぐらを掴む。

 

 

「せめてゲームの中でくらい、銃口に向かって死んでみせろ!」

 

 

ダインから手を放し、こちらに振り向いたシノンは早口で指示を出す。

 

 

「3秒でいい、ミニガンの注意を引きつけてくれれば、わたしがヘカートで始末する」

 

 

「……わ、わかった」

 

 

緑髪の男がつっかえながらもどうにか応え、残りの2人も頷いた。

 

 

「よし、二手に分かれて左右から一斉に出る」

 

 

私はシノンとダインと共にコンクリート壁の端まで移動し、シノンの合図で一斉に飛び出した。

 

 

すぐに目の前を複数の弾道予測線が横切り、ブラスターのエネルギー弾が頰を掠める。

 

 

私はSAAのトリガーを引き、もう片方の手でハンマーを倒す。トリガーを引きっぱなしにしている為、倒したハンマーが戻り、弾丸が発射される。

 

 

2人のブラスター使いは壁に身を隠したが、発射された数発の弾丸が奴らの体を捉え、数秒だが時間を稼ぐことができた。

 

 

「援護!」

 

 

シノンが叫びながら地面に身を投げる。

 

 

同時にヘカートⅡを構えてトリガーを引く。

 

 

凄まじい轟音が轟き、閃光が空間を貫く。だが、放たれた弾丸はベヒモスの頭の隣を通過した。

 

 

ベヒモスは不敵な笑みを浮かべたままシノンにミニガンの銃口を向ける。

 

 

私はシノンを援護すべくSAAでベヒモスを撃とうとしたが、その直前、別方向からベヒモスの体に銃弾が撃ち込まれた。

 

 

ダインだ。奴は片膝立ちの姿勢でアサルトライフルを構え、ベヒモスを狙い撃ったのだ。

 

 

しかしダインが立ち上がる前に、再び姿を現した2人のブラスター使いが奴に容赦のない射撃を行う。

 

 

あまりにも距離が近すぎた為、防護フィールドはその効果を発揮せず、その体に熱線が次々と突き立った。

 

 

「うおおっ‼︎」

 

 

最後の力を振り絞るように叫び、光弾の雨を掻い潜りながらブラスター使いの方へと走る。

 

 

そしてHPが全損する直前にプラズマグレネードを投げ込み、自らの命と引き換えに敵を道連れにした。

 

 

–––良くやった。

 

 

退場したダインを心の中で称賛し、戦場を見渡した。

 

 

左翼から飛び出した味方はミニガンに殺られたのか、その姿を確認することは出来なかった。

 

 

 

 

土埃が晴れ、見えてきたのはベヒモスがミニガンを上向けていた姿だった。

 

 

奴の行動をすぐには理解出来なかったが、奴がミニガンを向けた方向にシノンがいると気づいた瞬間、私はSAAのトリガーを引いた。

 

 

同時にベヒモスもミニガンを発射し、ぎりぎりのところで廃墟ビルの窓から飛び出したシノンは左足が吹き飛んだ。

 

 

私が放ったSAAの弾丸によりベヒモスの注意が散漫したところで、目と鼻の先まで落下したシノンがヘカートⅡのトリガーを絞る。

 

 

終わりよ(ジ・エンド)

 

 

そんな呟きが聞こえたか否か確認する間も無く、ベヒモスの眉間から撃ち込まれた弾丸が胴体まで大孔を穿ち、爆発音にも似た衝撃音と共に、その巨大はポリゴンとなって消滅した。

 

 

「やったな」

 

 

私は片足を失ったシノンに肩を貸し、そのままグロッケンへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、こんな感じで何とか勝利する事は出来たわけだが……寝てしまったか」

 

 

膝の上で私の話を聞いていたユイちゃんはいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

「ふふっ♪」

 

 

そんな様子を見てアスナが微笑んだ。

 

 

「どうした?」

 

 

「あ、すみません。2人が兄妹みたいに見えて」

 

 

「そうか?」

 

 

「はい。ペルソナさん、頼れるお兄さんって感じがするんですよね。ね、キリト君」

 

 

「ブラスターにアサルトライフル、スナイパーライフルか。銃と言っても色々なのがあるんだな。何を選べば……」

 

 

そう言いながら尚も微笑むアスナ。その横でキリトが私の話を参考に、GGOでの戦闘スタイルについて考えていた。

 

 

「もう、キリト君てば」

 

 

「え?悪い、何か言ったか?」

 

 

「も〜、ちゃんと話聞いててよ」

 

 

そんな2人のやり取りに自然と笑みが溢れる。

 

 

「まあアスナ、そう言ってやるな。キリト、そんなに難しく考える必要はない。皆、自分のステータスに合った装備を選ぶものだ。迷わないように私が同行するのだから心配するな。それとお前達、明日も学校だろう?キリトは兎も角、アスナはもう落ちた方が良いんじゃないのか?」

 

 

私の言葉にアスナは慌てて視界の隅にある時間を見る。時刻はもうすぐ23時を迎えようとしていた。

 

 

「いけない、またお母さんに怒られちゃう!それじゃあキリト君、ペルソナさん、おやすみなさい」

 

 

「それじゃあ俺も落ちるか。じゃあまたな」

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

 

2人がログアウトした後、1人残った私はMMOストリームからGGOの情報が書かれた記事を見る。

 

 

 

–––次に死銃(デス・ガン)が標的にする者がいるとすれば……。

 

 

 

その記事に書かれているのは、過去2回行われたGGO最強のプレイヤーを決める大会……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《バレット・オブ・バレッツ(BoB)》」

 

 

 

 

 




これで今年は書き納めとなります。


それでは皆様、良いお年を。
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