仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第32話です。



第32話 《笑う棺桶》

 

–––2024年8月

 

 

その日、私たち攻略組はアインクラッド第56層にある聖竜連合の本部に集まっていた。

 

 

その目的は、殺人ギルド《ラフィン・コフィン》通称《ラフコフ》の討伐に向けた作戦会議だ。

 

 

なんでも奴らの中から密告者が出たらしく、その情報を元に何度も偵察を行い、洞窟ダンジョンの安全地帯が本拠地であることが判明。

 

 

総勢50人程の大規模な討伐部隊が結成された。

 

 

聖竜連合の幹部がリーダーを務め、血盟騎士団や他の有力ギルドからも多くの実力者が参加し、アジト強襲に向けた準備は順調に進んでいった。

 

 

圧倒的な戦力差があり、奴らを無血投降させることは充分可能だと、その場にいた誰もが疑わなかった。

 

 

だが、私だけはその状況を好ましく思えず、寧ろイヤな予感すらしていた。

 

 

そのことを言えばよかったのだろうが、ソロプレイヤーであり《ビーター》として悪名が立っていた当時の私の言葉に耳を貸す者は居なかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして襲撃当日、イヤな予感は的中した。

 

 

 

 

 

強襲部隊がダンジョンに突入した時、ラフコフのメンバーは誰1人としてアジトである安全地帯の中にはいなかった。

 

 

逃亡したのではない。奴らはダンジョンの枝道に身を潜め、私たちの背後から襲ってきた。

 

 

強襲部隊が逆に強襲されるという何とも情けない事になったが、こういう突発的な事態に対応出来ないほど、攻略組は甘くはない。

 

 

すぐに態勢を立て直し、反撃を開始する。

 

 

 

しかし、ラフコフのメンバーはどれだけHPを削られようとも降参せず、討伐部隊の者たちの方も誰ひとりとして、トドメの一撃を振り下ろす覚悟はしていなかっただろう。

 

 

ラフコフのメンバーの1人が、自身を取り囲んでいた攻略組の数名を殺し、そこからは正に大混戦と言ったところだろうか。

 

 

 

戦闘が終わった時、討伐部隊からは8名、ラフコフからは20名近くのプレイヤーが消滅。

 

 

私の剣はそのうち15人を消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻ってGGO内のBoB予選・待機エリア

 

 

 

奴らの死者・捕縛者の中にリーダーであるPoHの名は無かった。キリトの話が確かならば、死銃はPoH……いや、奴のやり方はこんなものじゃない。となると、あの戦闘で捕縛されたプレイヤーの誰かだろう。

 

 

 

–––せめてもう少し情報があれば……。

 

 

そうは言っても、直接接触したキリトは完全にダウンしている。これ以上彼に負担を掛ける訳にはいかない。

 

 

「……なんて顔してるのよ」

 

 

聴き慣れた女性の声が背後から聞こえ、振り向いた先にはシノンがいた。

 

 

「あ……い、いや、何でも……」

 

 

キリトは無理に笑みを浮かべて彼女にそう返す。

 

 

「そう。それにしても、貴方がいたのは意外だったわペルソナ。あとそいつ男だから、ナンパしようとしても無駄よ」

 

 

やはり街でシノンが共に行動していたという女性プレイヤーとはキリトの事だった。

 

 

どうやら,私が他の男と同様にキリトに対して下心を持っていると思われているようだ。

 

 

「……キリトが世話になったそうだな。色々と振り回されなかったか?」

 

 

「貴方コイツの知り合いだったの⁉︎……友達は選んだ方が良いわよ。コイツ、女の演技がかなり堂にいってたわ」

 

 

シノンが私の腕を引き、キリトに聞こえないように小声で耳打ちをしてきた。

 

 

–––キリト貴様、一体何したんだ……。

 

 

そう思いながら私は再びキリトの方に目をやる。

 

 

キリトは依然変わらずダウン状態。

 

 

–––今はそっとしておくか。

 

 

その時、転送エフェクトが私を包み込んだ。どうやら次の対戦相手が決まったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送エフェクトが収まるとそこは荒野フィールド。

 

 

 

もし死銃がラフコフの生き残りだとしたら、私が止めなければならない。

 

 

 

そこに無数の弾丸が私のすぐ近くを通り過ぎた。

 

 

 

–––だが今はまず、本戦に進むことだけを考えろ。

 

 

私は両剣を手に取り飛来する弾丸を切り落としながら進む。

 

 

そしてキリトが1回戦目でやっていた直突きを見よう見真似で相手に叩き込んだ。

 

 

貫かれたアバターは、やがて無数のポリゴン片となって消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も2回戦、3回戦、……と順調に駒を進め、私は無事BoB本戦への切符を手にした。

 

 

 

現実世界に戻ると和人の方が先に戻っていたようで、彼が使っていたベッドは空だった。

 

 

「少しくらい待ってあげても良いのに」とナツキ氏が止めたらしいのだが、聞く耳を持たなかったらしい。

 

 

–––かなり参ってるな。

 

 

かく言う私も連戦でかなり疲労していたようだ。家に帰った途端、そのまま自室の布団で寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは霧の多い森の中だった……

 

 

『諦めるな、もう少しだ』

 

 

『は、はい……』

 

 

とある事情により、私たちはラフコフの追手から逃げていた。

 

 

結晶アイテムは奴らに奪われ、ポーションも残り僅か。絶望的な状況だ。

 

 

行動を共にしているのは、共に逃亡したプレイヤーの最後の生き残りだ。

 

 

『ペルソナさん、リーダー達は……』

 

 

『もう全員やられてるだろうな』

 

 

『っ……!』

 

 

『……私が代わりに残っておけば、私以外は無事に街まで着いたのだろうがな……』

 

 

『そんな!ペルソナさんは俺たちの希望なんです!みんなアナタが生き残る為に……!』

 

 

そう叫ぶ彼の肩に私は手を乗せて落ち着かせる。

 

 

–––私が希望…か。

 

 

『私にはそんな大役は似合わない。ただ他より力があるだけだ。いくら力があっても大切なものを守れなければ意味がない。この状況が良い例だ』

 

 

『………』

 

 

『急ぐぞ、街はすぐそこだ』

 

 

その時、私は僅かな殺気を感じ、隣の男に注意を促そうとした。……が次の瞬間、彼の首が飛んでいた。

 

 

何が起きたか理解するのにそう時間は掛からなかった。

 

 

そして、

 

 

『よう、ブラザー』

 

 

背筋が凍るような気味悪い声が耳元で聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ‼︎」

 

 

 

最悪の目覚めだ。

 

 

全身からは大粒の汗が溢れ、体が冷え切っている。

 

 

–––今日はBoB本戦だと言うのに……。

 

 

私はシャワーで汗を流し、ゼリー飲料を口の中に流し込んでから日課の早朝ランニングに出た。

 

 

ランニングをしている間も、先程の夢の事や、掃討作戦の際に私が殺したラフコフのメンバー、かつて仲間だった者たちの顔が脳裏に焼き付いて離れず、調子は悪くなる一方だった。

 

 

 

「にゃ〜」

 

 

「……貴様か」

 

 

いつの間に家の前に戻っていたのか、塀の上から白猫の鳴き声が聞こえたかと思うと、白猫は塀から飛び降りて私の足元に擦り寄ってきた。

 

 

足元に来た白猫を抱き上げると、白猫は頰を舐め、「どうしたの?」とでも言いたげに首を傾げる。

 

 

キリトの事を参っていると言ったが、私もこんな猫にも気を使われるほど参っていたのだろう。

 

 

「心配掛けたな。だがもう大丈夫だ」

 

 

そう言って白猫を降ろすと、白猫は心配そうな顔でこちらを見た後、隣の家に帰って行った。

 

 

「……やれやれ、まさか猫に心配されるとはな」

 

 

「あ、やっと帰ってきた!あんたに電話きてるよ!」

 

 

母が私の携帯を持って家から出てきた。

 

 

母が持ってきた携帯の画面には「桐ヶ谷 直葉」と表示されていた為、私はすぐに母から携帯を取り上げ、応答ボタンを押して耳元に当てる。

 

 

『あ、もしもしペルソナさん?すみません朝早くから電話掛けちゃって』

 

 

「いや問題ない。どうした?」

 

 

「なになに?もしかして彼女?」

 

 

「違う、友人の妹だ。……ああ、今のは母だ。気にしないでくれ」

 

 

『仲良いんですね。あ、それでペルソナさんもお兄ちゃんと一緒にBoBに出るんですよね?』

 

 

GGOに行くことやその経緯については、妹の直葉には話していないと和人は言っていたが、彼女曰く、《MMOトゥモロー》に載っているGGOの記事から《Kirito》のキャラクター名を見つけたらしい。

 

 

『でもお兄ちゃん昨日帰ってきた時、すごい怖い顔してたんですよ。何か知ってますか?』

 

 

「……すまない。私も心当たりがないな」

 

 

『そう、ですか……』

 

 

「ああ…」

 

 

–––本当にすまないな。

 

 

殺人犯の疑惑がある奴に接触する。など、言えるはずもない。しかもそれがラフコフの生き残りかもしれないのだ。奴等のことを知る明日奈たちに心配を掛けるわけにはいかない。

 

 

『それじゃあ2人のこと応援してるので、頑張ってください!あと今度GGOの話を聞かせてもらえますか?』

 

 

「ああ構わない。それではまたな』

 

 

私はそう言い残して電話を切る。

 

 

「あんた、また何かの事件に巻き込まれてるの?」

 

 

通話が終わるのを待っていた母に突然そんな事を言われ、私は少し驚いた。

 

 

「何となく分かるんだよそう言うの。昨日怖い顔して帰ってきたと思ったらすぐに寝ちゃうもんだから、『これは何かあったな』てね。まあ無理に話さなくても良いよ。やらなきゃいけない事なんだろ?」

 

 

「ああ、すまない」

 

 

「気にしないでいいよ!でも、ちゃんと無事に帰ってくるんだよ。あんたの家にね」

 

 

そう言いながら母は背中を強く叩く。

 

 

「わかった。約束する」

 

 

「さあ!朝ごはんできてるから、冷めちゃう前に早く食べちゃいな」

 

 

その後、いつもと変わらない味のする母の作った朝食を食べ、昼頃まで大学の課題を片付けておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





やっとBoB本戦に行けるのは良いのだが、ペルソナの戦いをどんな風に書くか……。戦闘描写は未だに苦手な作者です。
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