仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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やっと上げられた。


タイトル通り、本戦直前です。BoB本戦は次回からになります。


第33話 本戦開始直前

 

辺りが暗くなり始めた日暮れ頃、私はバイクを走らせて昨日と同じ都立病院に赴き、受付で簡単な手続きをした後、昨日と同じ指定された病室へと向かう。

 

 

「やあ、いらっしゃい」

 

 

昨日と同様に病室にはナツキ氏がいて、和人も既にGGO内にログインしていた。

 

 

私も早速ログインしようと上着を脱ぎ、ナツキ氏に電極を貼ってもらっていると、突然、彼女は私の隣に座って問いかけてきた。

 

 

「なあ少年。何か悩んでいることはあるかい?今ならこの美人ナースの無料カウンセリング中だよ」

 

 

「いえ特には。何故そのような事を?」

 

 

「桐ヶ谷くんが何やら怖い顔をしてたからね。君にも必要かなと思ったんだけど、どうやら心配ないみたいだね」

 

 

そう言ってナツキ氏は安心したような、少し寂しいような笑みを浮かべながら腰を上げる。

 

 

私は電源を入れたアミュスフィアを装着し、ベッドの上で横になる。

 

 

「今日も2人の体は見ておくから、安心してね」

 

 

「ああ、行ってくる。リンク・スタート」

 

 

「はいな、行ってらっしゃい、《第二の英雄ペルソナ》くん」

 

 

–––何だと……?

 

 

そう思った時には、私の意識は現実世界から仮想世界へと誘われていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総督府前に降り立った私は、総督府ホールの端末で本戦のエントリー手続きを済ませ、タワーの地下1階の酒場に移動した。

 

 

「やあペルソナ。今日は早いんだな」

 

 

「貴様が言うか」

 

 

「ペルソナ。今日はよろしく」

 

 

「ああ、お互いにな」

 

 

運が良いことに酒場の入り口でキリトとシノンと合流し、私たちはそのまま酒場の奥へと進む。

 

 

酒場には多くのプレイヤーがいて、大会が始まる前から早くもお祭り状態と化していた。

 

 

移動中、私たちの方に注目するプレイヤーもいた。まあ無理もない。自慢じゃないが、GGOでそこそこ有名な私がBoBに出場し、本戦まで上がった。隣のキリトに至っては昨日ログインした新人にも関わらず、BoBに出場。GGOでは珍しく剣を使って本戦まで駒を進めたのだ。注目しない理由がない。

 

 

「おい、あれキリトちゃんじゃね?」

 

 

光剣(フォトンソード)で敵を滅多斬りだってな」

 

 

「クールビューティなバーサーカーかぁ。いいねぇ〜」

 

 

「いや、やっぱシノンちゃんでしょ!」

 

 

「俺もシノっちに撃たれたい派」

 

 

「オレ、斬られたい派」

 

 

シノンがGGO内で数少ない女性プレイヤーだということもあってか、周囲やからそんな会話が聞こえてくる。

 

 

まあ話の内容からして、キリトの事も女だと勘違いしているようだが。彼らがキリトの本来の性別を知ったらどの様な反応をするのか、興味があるな。

 

 

–––キリトが色んな意味で殺されそうだから止めておくが。

 

 

とその時、無言で歩いていたキリトが突然立ち止まり、談笑していたプレイヤー達の方を振り向く。

 

 

「きみたち………応援してね♪」

 

 

アイドルの様なポーズをして笑顔でそう言った彼の悪ふざけに、その場にいた男性プレイヤーは心を射抜かれ、彼に声援を送った。

 

 

 

なお、それを遠目に見ていた私とシノンは、

 

 

「……貴方、アイツとの関係を考え直した方が良いんじゃない?」

 

 

「そうかもしれん……」

 

 

冷めた目でキリトを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは奥まったブース席に腰を下ろし、ドリンクメニューからドリンクを注文する。

 

 

テーブルの中央から出てきたグラスを取り、半分ほど飲んだところでキリトが会話の口火を切った。

 

 

「……本戦のバトルロイヤルってのは、同じマップに30人がランダム配置されて、出くわすそばから撃ち合って、最後まで生き残った奴が優勝……ってことだよな?」

 

 

「やっぱりわたしに色々解説させようって魂胆じゃない」

 

 

「運営から送信されたメールを読んでないのか?」

 

 

「い、一応読んだんだけどさ……俺の理解が正確かどうか、確認しておきたいかなーって……」

 

 

「物は言いようね」

 

 

呆れた様子でそう言いながらも、シノンは丁寧にBoB本戦のルール説明を始めた。

 

 

本戦のマップは直径10キロ、円形の複合ステージ。参加者30人のプレイヤーは互いに最低1000メートル離れた位置にランダムに配置される。これにより、開始直後に他プレイヤーと遭遇という事は起きない。

 

 

だが、そうなると最後の1人になるまで隠れようとする輩も出るため、参加者には《サテライト・スキャン端末》というアイテムが自動配布される。

 

 

このアイテムはその名の通り、15分おきに上空を監視衛星が通過して参加者全員の端末にマップ内の全プレイヤーの位置が送信される仕組みになっている。その上、マップに表示される輝点(ブリップ)に触れると、そのプレイヤーの名前まで表示されるのだ。

 

 

これで死銃(デス・ガン)の名前が分かれば良いのだが、それと同時に私たちも奴に狙われる可能性は高くなる。 それに死銃(デス・ガン)はあくまで二つ名で、本来のプレイヤーネームでは無いと考えると、私たちの方から奴に接触するのは困難な事なのは間違いない。

 

 

「シノン、この中で知らない名前はあるか?」

 

 

私は運営からのメールにある選手全員の名前が載ったページをシノンに見せた。

 

 

私も見知っている名前はいくつかあったが、前回のBoBに出たシノンの方が私よりも他のプレイヤーには詳しいだろう。ここで選択肢は絞っておく必要がある。

 

 

「そうね……《銃士X(ジュウシエックス)》と《ペイルライダー》、それに……これは《スティーブン》かな」

 

 

シノンがぎこちなく読み上げた名前を確認する。《銃士X》が日本語表記、他の2人はアルファベット表記だ。ただ、ひとつ訂正をすると、

 

 

「これは《Sterben(ステルベン)》。ドイツ語だ」

 

 

「これドイツ語だったんだ……」

 

 

私はその3人の名前を脳内で反復させる。

 

 

–––こうして見ると全員怪しいな。

 

 

まず《銃士X》、Xを取って「銃士」を反対にすれば「シジュウ」と読む。が、こんなにも安直な物だろうか? 次に《ペイルライダー》、これはヨハネの黙示録の四騎士、死を司るとされる第四の騎士のことを指す。そして《Sterben(ステルベン)》、これはドイツ語で《死》を意味する。

 

 

–––ひとつに絞り込むのは難しいようだな。

 

 

「いったい何なのよ?さっきからわたしに訊くばっかりで、あんたは何も説明しないじゃない」

 

 

「ああ……うん……」

 

 

シノンの問いにキリトは曖昧な返事をする。そんなキリトの素っ気ない対応が気に入らなかったのだろう。シノンは更に険しい顔でキリトに問い詰める。

 

 

「……そろそろ本気で怒るわよ。なに?わたしを苛つかせて本戦でミスさせようって作戦だったの?」

 

 

「違うんだ。そうじゃなくて……」

 

 

そこで再びキリトは口籠る。

 

 

今ここでシノンに事情を話し、BoB本戦への出場を辞退してくれと頼んだところで彼女は退かないだろう。以前パーティを組んだ時にも感じたが、彼女がこの世界に掛ける想いは並々ならぬものではない。そんな彼女が有りもしない噂話を信じるとは到底思えない。

 

 

「もしかして、昨日の予選であんた達の様子が急におかしくなったことと何か関係あるの?」

 

 

先程までとは打って変わって、柔らかい口調で問いかけてきたシノンに私たちはしばらく言葉を失った。が、すぐに私はその問いに対する答えを口にした。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

「……俺は昨日、地下の待機ドームで、昔同じVRMMOをやっていた奴に声を掛けられたんだ」

 

 

私に続いてキリトがそう付け加える。

 

 

「そいつとは多少因縁があってな。今さっき君に聞いた3人の名前のどれかが、キリトが会った奴だ」

 

 

「友達、だったの?」

 

 

「いや、そんな優しいものじゃない。寧ろその逆……敵だ。本気で殺し合うような関係のな」

 

 

「……殺し合った……敵……それは、プレイスタイルが馴染まないとか、パーティ中にトラブって仲違いしたって事?」

 

 

私の言葉にシノンは両眼を瞠り、とても小さな声で囁くように問いかけてきた。

 

 

「違う。互いの命を懸けた、本当の殺し合いだ」

 

 

その問いに対し、キリトは反射的にそう答えた。

 

 

「奴は……奴のいた集団は絶対に許されないことをしたんだ。和解は有り得なかった。剣で決着をつけるしかなかった」

 

 

「だが奴は、今度はこのGGOで再び同じことを繰り返している。キリトはそれを調査し、止める為にこの世界にやってきた。そして私も今はそれを調査する為に動いている」

 

 

そこまで話終えると、シノンは何かを察し、それを確かめようとするように小さく唇を開いた。

 

 

「あなた達は……もしかしたら、あのゲーム(・・・・・)の中に……」

 

 

その問いかけは、全て言い終わる前に酒場の乾いた空気に溶けるように消えた。

 

 

「……ごめん。訊いちゃいけないことだったね」

 

 

恐らく彼女は私とキリトはが《SAO生還者(サバイバー)》であることを悟ったのだろう。その後、彼女に促されるまま、私たちは待機ドームに移動するべくエレベーターに乗った。

 

 

 

仮想の落下感覚と機械音で満たされた狭い空間で、シノンが小さな声を出す。

 

 

「あなた達にも、事情がある事は理解したわ。でも、私との約束はまた別の話よ。昨日の借りは必ず返すわ。だから、私以外の奴に撃たれたら許さないからね。ペルソナ、貴方もよ」

 

 

「「……わかった 。/ 良いだろう。」」

 

 

私たちがそう頷くと、彼女は指で銃の形を作り、不敵な笑みを浮かべながらこちらに向けた。

 

 

 

 

その後、待機エリアに到着した所で私とキリトはシノンと分かれ、本戦に向けて話し合った。

 

 

死銃(デス・ガン)が何者で誰を狙うか分からない以上、最初のサテライトスキャンで候補の3人を追跡、可能ならば合流という事で可決した。

 

 

その直後、待機ルームに女性の声が響き渡り、同時にカウントダウンが開始される。

 

 

モニターに表示された数字が小さくなっていく中、視界の隅に愛銃(ヘカート)を抱えるシノンが見えた。

 

 

 

–––願わくば、この事件に彼女が巻き込まれない事を祈りたい。

 

 

 

その祈りが天に届いたかどうかは分からないが、フィールドに転送された瞬間、鼻をついた荒野の匂いに私は思考を切り替える。

 

 

 

 

BoB本戦が今、始まる。

 





うちの主人公、何気にペイルライダーとかsterbenとかの意味知ってたけど、普通に生きてても知る機会無いから普通は分からないよな……。

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