2度目のサテライトスキャンで、ペイルライダーがダインを追っている事を知った。
もしペイルライダーが
途中、爆発音にも似た轟音が鳴り響き、戦闘が始まったかと思ったが、現場に着いた私が見たものは、私の予測とは全く異なるものだった。
青い迷彩服の男が、ボロマントの男にショットガンを突き付けている。だが次の瞬間、青い迷彩服の男が突然苦しみだし、そして光に包まれながらアバターが消滅した。
自発的なログアウトではない。アバターが正面した場所には、回線切断を意味する文字が浮かび上がっている。
–––キリトの言った通り奴が死銃か。
そこからは早かった。
ホルスターからマカロフを抜き、死銃に向けて発砲。不意打ちにも関わらず、いち早く私の殺気を気付き回避した事には素直に称賛したいところだ。
–––殺人犯じゃなければな……。
態勢を整えた死銃がライフルを鉄橋の上にいる私に向けると同時に、私は右手首の装置からワイヤーを射出。途中でワイヤーを切り、受け身を取りながらコートダブリスDを掴む。
そして一気に死銃との差を縮め、奴の胴体目掛けて紫色の刃を振り下ろした。
が、刃が死銃の身体に触れるよりも早く、奴は身を仰け反り、剣先が僅かに掠める程度のダメージしか与えられなかった。
「貴様は誰だ?」
そう問いかけると同時に見えたボロマントの中。
–––赤い目をした髑髏マスク……。
それが私の記憶を刺激する。
「その身のこなし……そうか。お前だな、ペルソナ」
どうやら奴は私の事を知っているようだ。
「お前も、憶えていないようだな。裏切者」
「…………」
「お前と、黒の剣士は必ず殺す。だが、今はまだだ」
そう言いながら後ずさる死銃。もちろん逃すつもりはないので、私は死銃に詰め寄る。
だが、同時に死銃がボロマントの中から筒状の物を取り出し、ピンを外して目の前に投げてきた。
「っ‼︎(まずい!)」
それがグレネードだと気づいた瞬間、私は咄嗟に地面を蹴って勢いよく後ろに退がるが、爆発まで間に合わない。ダブリスを体の前に構えて盾にし、ダメージを最小限にしようと試みる。
直後、強烈な閃光と爆発音に目と耳をやられた。
–––スタングレネードだったか……。
直接的なダメージは無いものの、視覚が回復するまでの間に死銃は姿を消していた。
「……逃げられたか」
その時、3度目のサテライトスキャンを知らせるアラームが鳴り、私は端末を開いて周囲のプレイヤーの位置を確認した。だが、
「死銃がいない?」
端末に表示されたプレイヤー情報は、私を除いて先程倒されたダインのものしかなかった。また、青い迷彩服の男は通信切断された(正しくは死銃に殺された)のが原因か、表示されていなかった。
だが、死銃の反応も無いのは明らかに不自然だ。例え奴が
–––いやそれ以前に、何故私を撃たなかった?
どういうトリックかは知らないが、死銃は仮想世界で撃った相手を現実世界でも殺すことができる。この目で見てしまったのだから信じるしかあるまい。
だからこそ、私を撃たなかったのが気がかりだ。
自惚れている訳では無いが、私はある程度の殺意を持った攻撃に対応することができる。だが、視覚と聴覚が機能しない状態で飛来する銃弾を全て捌くことはできない。
ザッザッ––––
「ッ!」カチッ
背後から足音が聞こえ、私はマガジン交換を行いながらマカロフを足音がした方に向ける。
「ストップ!俺だよペルソナ!」
「キリトとシノンか。驚かせるな」
話を聞く限り、どうやら彼らは先程の出来事を少し遠くから見ていたらしい。私が現場に駆け付けている途中に聞いた爆発音は、シノンのヘカートの弾丸が地面に着弾した時の音だったようだ。
▼
互いに情報交換しながら、私は死銃が潜伏している可能性が高い都市廃墟へと向かっている。
キリト達から得た情報を整理すると、死銃は黒いハンドガンで相手を撃つことで人を殺している。また、先程死銃に殺された青い迷彩服の男はペイルライダーだった。……候補が1人減ったか。
そして死銃のメイン武器は《L115A3》通称:
消音器で銃声が聞こえない為、銃弾が飛んできた方向から相手の場所を特定するしかない。
–––初弾でやられる可能性も否めないが……。
そんな事を考えている間に、都市廃墟に到着した。
スキャンの時間となり、私たちは手分けして死銃である可能性があるプレイヤー……《銃士X》と《ステルベン》を探していく。
「「……いた!」」
キリトとシノンの声が重なった。
街の中央、見晴らしの良い絶好の狙撃ポジションに銃士Xの名前を発見した。ステルベンはいない。
–––コイツが死銃。
「狙っているのは、多分……」
キリトが移動し続ける光点を指差す。表示された名前は《リリコ》。
リリコが今いる場所から他の場所に移動する為には、銃士Xの射線をくぐり抜けるしかない。狙うには打ってつけだろう。
「二手に別れるぞ。キリトはリリコを、私は銃士Xの相手をする。シノンは援護を頼む」
「了解。でも大丈夫なの? 銃士Xが死銃で、もし撃たれでもしたら……」
「心配するな。奴の動きはさっき覚えた。それにハンドガンの弾丸を捌くことなど造作もない」
「そう……」
シノンが何か言いたそうだったが、今は1秒でも時間が惜しい。私たちはすぐさま行動に移った。
▼
シノンside–––
ほとんど足音を立てずに走っていくキリトとペルソナ。
その背中が遠ざかるのを見つめながら、シノンは胸の奥にチクチクと奇妙な感覚が生まれるのを感じた。それは緊張や不安に似ている。そう、心細いのだ。
その事に気づいた瞬間、すぐに奥歯を噛み締めて強く自身を叱咤する。心臓の辺りのチクチクを無理矢理呑み下ろし、南西に面するビルに入ろうとした寸前に背筋に強烈な寒気を感じ、振り向くこともできずに路面に倒れた。
–––何……どうして……?
何が起きたのかすぐに理解できなかったシノンだが、撃たれたであろう左腕を見ると、腕には青白く発光した銀色の針のような物体が刺さっている。
–––電磁スタン弾⁉︎
それはペイルライダーを麻痺させた特殊弾そのものだったが、シノンは自分を撃ったのが“奴”だとは認められなかった。何故なら、スタン弾は通りの南側から飛来した。だが“奴”はペルソナ達が向かった北側のスタジアム外周にいる筈だ。さらに言えば、南側のプレイヤーはシノンを攻撃できない筈なのだ。
–––じゃあ誰が、どうやって?
その疑問に答えるように、スタン弾が飛んできた方から空間を切り裂くようにボロマントのプレイヤー……死銃が姿を現した。
–––メタマテリアル
それは装甲表面で光そのものを滑らせ、自身を不可視化する謂わば究極の迷彩能力。だが、それは一部の超高レベルボスモンスターだけが持つ能力であり、フィールドにMobが導入されたというアナウンスはなかった。
死銃は倒れるシノンにゆっくりと近づき、彼女から2メートルほど手前の所で停止する。
「ペルソナ。お前に教えてやろう、お前が裏切り、お前が殺した仲間たちの無念を。この女を殺し、お前にも、俺と同じ、想いをしてもらう」
シノンには、死銃の言葉が理解できなかった。だが、このままやられる訳にもいかない。そう思った彼女は何とか動きそうな右腕を動かし、MP7のグリップを掴む。
そして死銃がハンマーをコッキングする一瞬の隙をつき、MP7の全弾を撃ち込もうとした時、死銃が引き抜いた黒い自動拳銃を見てシノンは全身が凍りついた。
–––なんで、ここに、あの銃が……。
動揺のあまり、手からMP7を落とすシノン。
カチッ、と音を立ててハンマーが起こされる。
不意にボロマントのフードの内部に、シノンは1人の男の顔を見た。
–––“あの男”の眼……いたんだ。この世界に潜んで、わたしに復讐する為に。
死銃の指がトリガーに掛かり、キリリッと、トリガーが軋む音にシノンは瞼を閉じる。
そして、
–––ターンッ!!!–––
1発の銃声が轟いた。