仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第39話 決戦準備

 

シノンside

 

 

死銃(デス・ガン)には共犯者がいる」

 

 

「そしてその共犯者が、奴の銃撃に合わせて現実世界で無防備に横たわっているプレイヤーを殺した」

 

 

ペルソナの話をわたしは理解できなかった。……いや、理解しようとしなかったと言った方が正しいかもしれない。

 

 

「でも待ってくれ。仮に共犯者がいたとして、住所はどうやって突き止めたんだ?」

 

 

キリトがそう言うと,ペルソナは「簡単な事だ」っと言って話を続ける。

 

 

「2人とも、BoBへの出場登録をした際に、住所を入力する項目があるのを覚えているか?」

 

 

「ああ。大会の成績に応じて景品が貰えるってやつだな。俺は死銃の調査が目的だったし、時間もなかったから登録はしなかったけど……」

 

 

「シノンは?」

 

 

「わたしは……したわ」

 

 

「……まずいな」

 

 

わたしの返答に対し、ペルソナは頭を抱えた。

 

 

「これは推測だが、死銃はメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を使って端末に入力されたプレイヤーの住所を盗み見た。そうして入手した情報を元にターゲットを決めているのだろう。シノン、君は一人暮らしか?」

 

 

「えっ?ええ。少し古いアパートだけど……」

 

 

「扉の鍵はどんなタイプだ?ドアチェーンは?」

 

 

「ええと……鍵そのものは初期型の電子錠で、チェーンもあるけど……今日はしてない、かもしれない。ねえ、それがどうかしたの?」

 

 

いつもの彼とは何かが違う。少し焦った様子の彼に、わたしはそう聞き返す。

 

 

「被害に遭ったゼクシードとたらこは2人とも一人暮らしだった。ドアの鍵は初期型の電子錠だった。君と同じな。そして君はさっき死銃に撃たれそうになった。つまり……」

 

 

そこから先、彼が何を言おうとしているか気付いてしまった。

 

 

–––駄目、その先は言わないで。

 

 

そう思うが、彼は言葉を紡いだ。

 

 

「今、死銃の共犯者が君の部屋に侵入して、君があの銃に撃たれるのを待っている可能性がある」

 

 

そう告げられた瞬間、見慣れた自分の部屋が脳裏に浮かび上がる。わたしが眠るベッドの傍らに立つ黒い人影、その手には致死性の液体を満たした注射器。

 

 

「嫌……いやよ……そんなの………」

 

 

喉が塞がる様な感覚。耳鳴りがして、体から魂が抜けて–––––

 

 

「–––ン!シノン‼︎」

 

 

しまう寸前、耳元で叫ばれ、無理矢理アバターの中に意識が引き戻された。

 

 

「落ち着け。今、自動切断して共犯者と鉢合わせする方が危険だ。それに共犯者も君が奴に撃たれない限りは何もしないはずだ。仮想世界の銃撃で現実世界の人間を殺したように見せる。それが奴らが自分で決めたルールだからな」

 

 

無我夢中で彼の体に抱きつくと、彼はわたしを落ち着かせるように背中に手を回し、もう片方の手がわたしの髪を撫でてくる。

 

 

–––温かい。懐かしい感じがする。

 

 

その後もペルソナは、わたしが落ち着くまでずっとそうして包み込んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペルソナside

 

 

 

一体どれほどの時間が経過しただろうか。この洞窟に入ってから少なくとも30分は経った筈だ。

 

 

シノンもいつもの調子を取り戻し、私たちはこれからどうするか話し合いを始めた。

 

 

「俺とペルソナが2人で死銃と戦う。俺たちは自宅からログインしている訳じゃないし、すぐ近くに人もいるしな。ペルソナの推理通りなら、奴のあの銃で俺たちを殺すことは出来ないはずだからな」

 

 

「それが最善だな。だが何が起こるかわからない。最悪を想定してシノンにはここで待機していてもらいたいのだが……」

 

 

「いいえ、わたしも戦うわ。この洞窟だっていつまでも安全だとは限らない。それに、ここまで貴方たちと組んできたんだもの。最後まで一緒に戦わせて」

 

 

「……でも、君があの銃に撃たれたら……」

 

 

「あんなの、所詮旧式のシングルアクションだわ。それにわたしが撃たれても貴方たちがその剣ではじき返してくれれば良いじゃない」

 

 

キリトの言葉に被せてそう言い返してくるシノン。彼女の性格からしてここで引き下がるつもりはないだろう。

 

 

「……分かった。だがシノン、君はスナイパー……遠距離からの狙撃が最大の武器だ。次のサテライト・スキャンで私だけが外に出る。死銃は必ずライフルで狙撃をしてくるはずだ。初弾で奴の居場所を割り出して君が奴を撃つ。これでどうだ?」

 

 

「自分が囮になって観測手(スポッター)になるつもり?」

 

 

「簡単に言えばそういう事だ」

 

 

シノンの問いに対して私がそう返すと、呆れた様子で「あなた、キリト(こいつ)に似て強引なのね」と言われた。……心外だ。

 

 

「分かったわ。でも、最初の一発で一撃死とかやめてよね」

 

 

「善処する。が、もしそうなった場合は、キリト頼んだぞ」

 

 

「急に押し付けてくるなよ。俺も最大限努力するけどさ……」

 

 

そう返しながら、キリトは自身の視界の隅に注目していた。

 

 

「あの……それはそれとして、さっきから変な赤い丸が点滅してるんだけど……」

 

 

視界の隅を確認すると、キリトの言う通り赤い丸が視界の右下で点滅している。

 

 

「ああ、しまった。油断したわ……」

 

 

どうやらシノンはこれが何のマークなのか理解しているようで、ため息を吐きながら彼女が見つめる先には、奇妙な円形のオブジェクトが浮いていた。

 

 

「ライブ中継のカメラよ。普通は戦闘中のプレイヤーしか追わないんだけど、残りの人数が少なくなってきたからこんなとこまで来たのね」

 

 

「まずいな。私たちの会話を聞かれている可能性が……」

 

 

「大丈夫、大声で叫ばなければ声は拾わないから」

 

 

それを聞いて安心した。もしも先程の会話を死銃の共犯者に聞かれていたら、証拠隠滅を図られる恐れがあったし、何よりシノンの身に危険が及ぶかもしれなかったからな。

 

 

「それとも、この映像を見られて困る相手でもいるのかしら?」

 

 

「別にそんな相手はいないが、色んな奴らに恨まれそうだな。どちらかと言えば私よりも君の方がこんな場面見られて大丈夫なのか?変な噂が流されるかもしれないぞ」

 

 

シノンはようやく自分が置かれている状況を理解したのだろう、酷く顔を赤らめた。

 

 

「べ、別に良いわよ!それにそういう噂が流れてくれたほうが、面倒なちょっかいも減るだろうし……あ、消えた」

 

 

ライブカメラの視点を現すオブジェクトが消えると、シノンは一息ついて上体を起こす。

 

 

「そろそろ時間だわ」

 

 

「分かった、行ってくる」

 

 

「……気をつけてね」

 

 

後ろから投げかけられた言葉に対し、私は片手を挙げて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった、状況は?」

 

 

「生き残っているのは私たち3人と死銃、そして闇風の5人だけだ」

 

 

私が洞窟内に戻ってくると同時に訪ねてきたシノンに私は簡潔に答えた。

 

 

「あとたった5人……問題なのは闇風ね」

 

 

「ああ、厄介な奴が残ったな」

 

 

「聞き覚えある名前だけど……強いの?」

 

 

緊張感の無い表情で訪ねてくるキリトに、私とシノンは呆れ果てる。情報収集くらいはしてきて欲しいものだ。

 

 

「前回の準優勝者でAGI一極ビルドのプレイヤーだ。実際に戦ったことはないが、とにかく速いらしい。前回のBoBではゼクシードのレア装備に競り負けたらしいが、実力は奴のほうが上だという話だ」

 

 

「それって、日本サーバーで最強ってことじゃ……」

 

 

「まあ、そうなるな」

 

 

実際、ここまで勝ち残っているんだ。強いのは当たり前だろう。

 

 

「ねえ。提案なんだけど、この際、闇風にも囮になってもらえばいいんじゃない?使えるものは何でも使っておくべきよ」

 

 

シノンの言っていることは最もだ。闇風ほどのプレイヤーと言えど、見えない敵からの狙撃を避けるのは至難の業だろう。だが……

 

 

「残念だが、その方法は使えない」

 

 

「どうしてよ?」

 

 

「さっきのサテライト・スキャン。何度確認しても生存者と退場者の合計が2人足りなかった。1人はペイルライダーだと考えても、もう1人足りない。恐らく……」

 

 

「まさか、死銃がまた誰か殺したって言うの⁉ そんなの不可能よ!だって共犯者はわたしを狙っているんでしょ?現実世界で離れた場所に素早く移動できるわけないじゃない」

 

 

「その通りだ。だが、共犯者が2人以上いれば話は別だ」

 

 

私がそう言うとシノンは息を呑み、信じられないとでも言いたげな顔をしながら小刻みに震えていた。

 

 

「キリト。奴らはどれほどの時間、牢獄に閉じ込められていた?」

 

 

「え?確か……半年くらいだったはずだけど」

 

 

「半年か。奴らは10人以上メンバーが生き残っていたが、その中の何人かがこの事件に関わっている可能性があるな」

 

 

「そんな……なんで、そこまでしてPK(プレイヤーキラー)で居続けなきゃいけないの?せっかく、デスゲームから解放されたのに……」

 

 

意味にも消えそうなほど震える声を溢すシノン。彼女の静かな問いに答えたのは、以外にもキリトだった。

 

 

「……もしかしたら、俺が《剣士》であろうとし、君が《狙撃手》であろうとするのと同じ理由なのかもな」

 

 

キリトの言葉を聞いたシノンの体は震えるのを止め、代わりにその瞳の奥にはいつものように強い光が宿っていた。

 

 

「……だとしたら、そんな奴らに負けてられない。わたしさっき《PK》って言ったけど取り消すわ。意識のない人間を毒薬で殺すなんて、そんなのPKじゃない。ただの人殺しよ」

 

 

「その通りだ。これ以上奴らの好きにさせないためにも死銃を倒し、共犯者ともども罪を償わせる必要がある」

 

 

 

早速私たちは作戦会議を始める。

 

 

闇風が死銃のターゲットである可能性がある以上、放置しておく訳にもいかない。闇風を死銃と接触する前に倒すには必然的に二手に別れる必要がある。それなら、

 

 

「キリト、闇風は任せた」

 

 

「え、俺が?」

 

 

「ああ。さっきのサテライト・スキャンで奴の端末に表示されたのが私だけなら、奴は間違いなく私を警戒してくるだろう。そこにお前が奇襲を掛ければ奴の意表をつける。それにお前はGGOに来てまだ日が浅い。BoBを光剣で勝ち抜いてきた美少女プレイヤーと話題になっていても、昨日今日で詳しい情報は集められないはずだしな」

 

 

私がそこまで話すと、キリトは「美少女って言うのはやめてくれ」と苦笑いして言いながら闇風の足止めを承諾してくれた。

 

 

 

「そしてキリトが闇風を抑えている間に私が囮になって死銃の場所を明かす。そこをシノン、君が狙撃するんだ」

 

 

「了解」

 

 

「まず私がバギーで飛び出す。お前たちは後から出て各々の持ち場についてくれ」

 

 

作戦を告げ終えると、二人は真剣な表情に戻り、コクリと頷き返す。

 

 

「さて、行こうか」

 

 

 

 

———ラフィン・コフィン、これ以上貴様らの好きにはさせない。

 

 

 

 

 

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