「A隊C隊、スイッチ! 来るぞ!B隊、ブロック!C隊、ガードしつつスイッチの準備。今だ、交代しつつ側面を突く用意!DEF隊、センチネルを近づけるな!」
ディアベルの指示の元、ボス戦は順調に進んでいる。今のところ、死者は1人も出ていない。
「スイッチ!」
キリトがセンチネルのポール・アックスを跳ね上げると、アスナがソードスキルを発動して、センチネルのHPを一気にゼロまで削り取った。
「三匹目!」
キリトは、流石は“元βテスター”っと言ったところか、この世界での戦い方を熟知している。
アスナは、初めこそ若干の不安があったものの、彼女の剣の冴えは
「次、スイッチ頼む!」
「わかった」
私も両手剣でセンチネルを斬り裂く。
私がセンチネルを倒した直後、ボス部屋の中央でコボルトロードが咆哮したと同時に、奴の最後のHPゲージがレッドゾーンに到達し、持っていた斧と盾を投げ捨てる。
–––武器を持ち替える合図か。
「下がれ、俺が出る!」
普通なら、ここは全員で取り囲むのがセオリーなのだが、何故かディアベルはたった1人、前へと飛び出した。
ディアベルが前に出る途中、一瞬だけこちらに飛ばしてきた視線に違和感を感じつつも、私の目はある一点…コボルトロードの持つ武器に釘付けとなっていた。
–––あれは、タルワールじゃない!
コボルトロードが手にしている武器は“野太刀”という刀武器だ。βテストでは上層で刀を使うモンスターはいたが、その事を知るプレイヤーは私を含めても数人程度しか存在しない。
「駄目だ!全力で後ろに跳べ‼︎」
キリトもそれに気が付いたらしく、ディアベルに向かって叫ぶ。が、ディアベルは既にソードスキルを発動させており、動くことが出来ない。
「キリト、アスナ!お前達はセンチネルを頼む!」
「「了解!」」
コボルトロードはその巨体からは想像出来ないほど身軽に壁や天井を蹴っては、部屋中を縦横無尽に跳び回り、ディアベルに向かってその凶刃を今まさに振り下ろさんとしていた。
「間に合え‼︎」
野太刀がディアベルの胴体に当たるギリギリの所で、私は2人(正確には1人と1体)の間に割り込み、両手剣で野太刀の攻撃を防ぐ。
完全に防ぎ切れた訳ではないので、ディアベルと共に後ろの方へ吹き飛ばされたが、お互いにHPにはまだ余裕があった。
「ありがとう。助かった」
「気にするな」
なるべく短い応答をし、ポーションを飲みながらコボルトロードへと向かって走り出す。
「コボルトロード。貴様をこの手で殺せる日を、どれだけ待ち侘びたことか……」
両手剣を逆手に持ち、体の重心を低く保ちながら近づく私を視認したコボルトロードは再度咆吼し、野太刀を構えて私の方へと駆けてくる。
–––1対1か、面白い。
奴の放つ刀スキルに対し、こちらも両手剣スキルで応戦する。
初動のモーションから、相手の攻撃を予測し反撃。昔は良く呼吸をするような感覚でやってきた。
だからこそ、私が負けるなどあり得ない。
私は更に攻撃スピードを上げ、コボルトロードの放つ刀スキルの軌道を見切り、確実にダメージを与える。
「終わりだ」
最後の一振りで、コボルトロードの残りのHPを全て刈り取り、奴はポリゴン片となって爆散した。
【Congratulations!】という文字が浮かび上がると、その場にいた全員から歓声が上がった。
各々の前にこのボス戦での報酬が表示される中、私の前には【You got the last attacking bonus!】という文字が表示されている。
そしてボーナスアイテムの名前が書いてあるウィンドウが表示された。【ディスペアシリーズ】聞いたことの無い名前だが、名前からして今回のLAは装備一式のようだ。
「お疲れ様」
いつの間にか、キリトとアスナ、それに攻略会議で見たエギルが私の元へと歩み寄ってきていた。
「見事な剣技だった。Congratulation.この勝利はあんたの物だ」
エギルがその言葉を言った直後、彼らの後ろにいるプレイヤーから私に向けられて拍手が上がった。
「なんでや‼︎」
が、突如上がった大声で歓声はかき消され、ボス部屋は再び静寂に包まれる。声の主は、キバオウだ。
「なんでボスの情報を伝えんかったんや!」
「どういう事だ?」
「どうもこうもなか!自分はボスの使う技知っとったやないか!最初っからあの情報伝えとったら、ディアベルはんも危険な目に遭わずに済んだんや!」
「きっとあいつ元βテスターだ!だからボスの攻撃パターンも全部知ってたんだ。知ってて隠してたんだ!他にもいるんだろ。βテスター共、出てこいよ!」
キバオウに賛同するように、槍使いの男が真っ直ぐ私を指差してきた。
「待ってくれ2人とも。彼は俺を助けてくれたんだ。それなのに彼を責めるのは間違ってる」
「ディアベルはんは黙っといてくれ!」
「そうだ!お前を助けたのだって、あいつが信用を得る為の演技だって可能性もあるだろ!」
ディアベルが2人を抑えようとするも、今の状況じゃ何を言っても相手にしないだろう。
–––さて、どうしたものか。
このまま互いにいがみ合ったままでは攻略に支障が出るのは明らかだ。それに他のβテスターたちが、何かしらの被害を受けるのは避けたい。
私は今もなお目の前に表示されているLAボーナスのアイテムを見やってから、決意した。
「はぁ…これだから馬鹿の相手は疲れるんだ」
「な、なんやと⁉︎」
「確かに、貴様らの言う通り私は元βテスターだ。だから1つ言える事がある。βテストの時、コボルトロードはタルワールを使っていた!」
「っ⁉︎」
「これが何を意味するか分かるか?このSAOは、元βテスターでも予想外の事態が起こるという事だ」
「私はβテスト時、このアインクラッドの上層階で刀を使うモンスターと戦った事がある。だからボスの攻撃パターンを知っていた。他にも大量のレアアイテムがドロップする穴場や経験値が楽に上げられるクエストなど、他のβテスターが知らない事を色々知っている」
「な、なんやそれ……。そんなん、βテスターどころやないやんか!もうチートかチーターや!」
他のプレイヤー達も口々に罵声を私に向けて噴出させる。ベーターのチーターだからビーターという言葉も上がる。
「《ビーター》か……。良い名だな。そうだ、私はビーター《ペルソナ》だ。これからは“ただの”元テスターなんかと一緒にするな」
ウィンドウを操作し、黒く襟が立ったコートと仮面を装備、背中の両手剣も新しい物に変更する。
–––あの頃の私の姿と瓜二つだな。
第2層に続く階段へ足を向けた。
「待って」
ふと、その声に立ち止まって後ろを振り返ると、何故かアスナが私を追って来ていた。
「……どうした?まだ私に何か用があるのか?」
「貴方、戦闘中に私の名前呼んだでしょ」
「ああ、読み方違ったか?」
「どこで知ったのよ?」
そんな事をわざわざ聞きに来たのか。
「視界の左上に自分のHPゲージが表示されてるだろう?その下にもう2つHPゲージが追加されてる筈だ」
アスナは視線を少し上げて、しばらくその一点だけをじっと見つめた。
「キ、リ、ト……ペ、ル、ソ、ナ……。ペルソナ?それが貴方の名前?」
「ああ」
すると、彼女は突然笑い出した。
「なぁんだ、こんな所にずっと書いてあったのね」
初めて見る彼女の笑顔に少し微笑ましくなった。
「お前はもっと強くなれる。キリトとパーティを組んだまま行動するのもいいだろうし、もし、キリトと別行動するにしても信頼できる者からギルドに誘われた時は断らない方が得策だ。ソロプレイには限界がある」
「なら、貴方は?」
「私は死なない。この世界が私にとって現実である限り、私が死ぬことなど無い」
私はそう言い残し、パーティから脱退すると、再び第2層に続く階段をゆっくりと歩み始めた。
第1層のLAは、諸事情によって彼専用のチート装備に変更させました。詳細は下に記載しています↓
ペルソナの現在の装備
◇ディスペア・オブ・ファルシオン《両手剣》
持ち主のレベルに比例して攻撃力が上がる剣。耐久値が減らないかわりに、防具の【ディスペア・オブ・コート】とセットで使用しなければ攻撃力が大幅ダウンする。
◇ディスペア・オブ・コート《防具》
持ち主のレベルに比例して防御力が上がる防具。耐久値が減らないかわりに、【ディスペアシリーズ】の武器とセットで使用しなければ防御力が大幅ダウンする。
◇ディスペア・オブ・ペルソナ《アクセサリ》
【ディスペア】と名の付く武器及び防具のパラメータを上昇させる能力を持つ。 ただし視界が狭い。