仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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偶には原作と同じサブタイトルにしても良いかも。



第40話 ファントム・バレット

 

キリトとシノンの二人と別れた後、私は見晴らしの良い砂丘に立っている。

 

 

私は死銃(デス・ガン)からの狙撃に備え、全神経を集中させる。シノンに死銃の位置を特定させるために一度銃撃を受けなければならない。自分で提案した作戦だが、全くどうして自分から面倒な役割を受け持ってしまったのか。

 

 

とは言え、私が役割を果たさなければシノンや、恐らく闇風と戦闘を始めているであろうキリトに申しわけが立たないからな。

 

 

———ッ!

 

 

殺気を感じ、咄嗟にコートダブリスDを自身の前で振る。文字通り目と鼻の先まで迫っていた弾丸が、コートダブリスDが纏う濃い紫色の光刃によって両断され、顔の横を掠めた。

 

 

同時に私は銃弾が飛んできた方に向かって疾走する。

 

 

成るべく姿勢を低く保ち、狙いづらくしているのだが、流石の技術といったところか。奴がいるであろう場所から伸びてくる赤い弾道予測線(バレット・ライン)は私を捉えている。

 

 

視界の遥か先で微かに光るものが見えると同時に、私は再びダブリスを振るい、飛んでくる弾丸を斬り落とす。

 

 

だが、あとどれだけ死銃の狙撃を捌けるかはわからない。弾丸が飛んでくる間隔が段々短くなっている。着実に死銃に近づいている証拠なのだが、それは同時に私が奴に撃たれる可能性も高くなっているという事でもある。

 

 

そして三度、弾道予測線が私を捉えた瞬間、突如として鳴り響いた轟音と共に私を狙っていた赤い線が消滅した。

 

 

———良くやったシノン。

 

 

シノンが死銃のライフルの破壊を成功させた。あとは私が奴を倒せば全てが終わる。

 

 

「はぁぁああああああ!!」

 

 

私は更に加速し、勢いを活かした刺突攻撃を繰り出す。

 

 

ダブリスの剣先は、死銃の胸に吸い込まれるように真っすぐ伸びていく。

 

 

恐らく、中継を見ていた誰もが「決まった」と思っただろう。だが死銃はタイミングを読んでいたかのように私の攻撃を避け、刹那、奴の手の内にキラリと光る何かが見えた。

 

 

その直後、細長い針のような物が私の左肩を貫いた。

 

 

私はすぐに後ろへ飛び退け、死銃と距離を取る。

 

 

「エストック……珍しい武器だな。というより、GGOに金属剣があるとは初耳だ」

 

 

「お前にしては、不勉強だな。《ナイフ作製》スキルの、上位派生、《銃剣作製》スキルで、作れる。長さや重さは、このへんが、限界だが」

 

 

「悪いがエストックには興味がない。貴様を殺すにはこの剣があれば十分だ」

 

 

「そんなオモチャで、あの頃よりも、腕が落ちたお前に、出来るのか?昔のお前が見たら、失望するぞ」

 

 

「違いない。だが、それは貴様も同じことだろう。それとも貴様は、未だに《ラフィン・コフィン》の一員でいるつもりか」

 

 

「そういうお前も、まだ《スター・ナイツ》の、一員でいる気か?裏切者」

 

 

「……やはり、貴様も」

 

 

「そうだ。あのギルドにいた。と言っても、俺が、あのギルドに、入ったのは、あの人に、誘われてからだがな」

 

 

その時、記憶の断片が呼び起こされた。

 

 

居た。いつの日かPoH(プー)が連れてきた2人の男。その内の1人はエストックを使っていた。つまり、奴だ。

 

 

「思い出したか。俺が、誰か」

 

 

「段々とな。だが、貴様に裏切者呼ばわりされる覚えはない。先に裏切ったのは貴様らの方だろ」

 

 

「お前には、分からない。あの人の、思想さえも、理解出来ない、お前にはな」

 

 

「『あの人』?……PoHのことか」

 

 

「あの人は、言っていた。お前は、俺たちと、同じだと」

 

 

「ふざけるな。貴様らと同類扱いは御免だ」

 

 

私の心情に呼応するように、ダブリスがその刀身に細いスパークを散らせる。

 

 

「忘れたとは、言わせないぞ。あの日、お前は、攻略組の奴等と共に、俺たちを、壊滅させた。あの戦いで、お前は、多くの仲間を、手に掛けた。その中には、嘗ての、お前の仲間も、居た」

 

 

「………」

 

 

「あの戦いで、お前だけが、躊躇なく、仲間を殺した。お前は、俺たちと、何も変わらない」

 

 

死銃の言っている事は全て事実だ。掃討作戦で、討伐隊のプレイヤーは奴らを斬ることを躊躇した。

 

 

だが私は違った。隙を見せれば自分が死ぬ。そんな状況で躊躇などしていられる筈がない。

 

 

「お前は、黒の剣士とは、違う。奴は、恐怖に駆られて、生き残るために、仲間を殺し、そのことを、忘れようとした、卑怯者だ。俺たちのような、本物の、殺人者(レッド)ではない」

 

 

「キリトを侮辱するな。それに、貴様もうレッドじゃない。ゼクシード、薄塩たらこ、ペイルライダーとそしてもう1人をどうやって殺したのか、見当はついている」

 

 

「ほう?」

 

 

「それに貴様は知らないだろうが、総務省には、全SAOプレイヤーのキャラクターネームと本名の照合データがある。貴様の昔の名前が分かれば、本名も住所も、貴様が犯した罪も全てが明らかになる」

 

 

「……なるほど、なら、予定変更だ」

 

 

緊迫した空気の中、先に仕掛けてきたのは死銃の方だった。

 

 

「お前が、オレの昔の名前を、思い出す前に、お前を倒す。そして、あの女を殺す‼︎」

 

 

「させると思うか」

 

 

死銃の放つ連続突きが、私の体を抉る最中、私は奴のエストックを斬り落とさんと、ダブリスを振り上げ、互いの間に火花が散る。が、

 

 

–––斬れない⁉︎

 

 

どういうわけか、死銃の剣は少し焦げた程度で、その形をしっかりと保っていた。

 

 

「クックック。こいつの、素材は、このゲームで手に入る、最高級の金属だ。宇宙戦艦の、装甲板、なんだそうだ」

 

 

–––どうやら、一筋縄では行かなそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルソナ!」

 

 

シノンの視界の先、遠く離れた戦場では、2人の剣士が凄まじい剣技の応酬が行われている。最早、シノンの眼では追えないほど戦闘は激しさを増していた。

 

 

2人の戦いはほぼ互角だ。ペルソナも死銃も互いに真紅のダメージエフェクトの光を零しているが、明らかにペルソナの方が多くの傷を負っている。

 

 

–––スコープさえ無事なら……!

 

 

ヘカートのスコープは、狙撃に気づいた死銃がシノンに向けて放った銃弾によって破壊されてしまった。

 

 

遠視スキルを持つシノンには2人の姿がはっきりと視認できるものの、スコープ無しでの狙撃はペルソナに当たる危険もある。

 

 

それでも、シノンは自分に出来ることをしたいと思った。

 

 

自分を支えてくれたペルソナの力に今度は自分がなりたいという一心から、彼女は今の自分に出来ることを模索し、そして、1つだけ自身の行える最も有効的な《攻撃》を思い付いた。

 

 

どれほどの効果があるかは分からないが、やってみる価値はある。そう考えたシノンは、大きく息を吸い、彼方の戦場を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———強い……いや、私が弱くなったのか。

 

 

今の私は、前世でマトイを殺す(救う)ために自分を殺すことを厭わなかったあの頃ほど非情じゃない。SAOの時のように現実の死に繋がるような状況というわけでもない。

 

 

だが、負ける訳にはない。ここで私が敗れれば、死銃は確実にシノンを殺す。いや、シノンだけではない。ここで死銃を逃がせば、奴は更に多くの被害者を生む。それはGGOというひとつの世界(VRMMO)だけに留まらず、ALOやその他のゲームでも被害者が出てしまうかもしれない。やがて、その魔の手はアスナたち仲間の元にも及ぶだろう。そんな事は絶対にさせない。

 

 

とはいえ、現状は私の方が劣勢。偶にこちらの攻撃が当たってはいるものの、どれも決定打になるようなものではない。

 

 

死銃のエストックも極細で、さすがの私でも全ての攻撃を弾くことは不可能だ。

 

 

———せめて、ほんの一瞬だけでも、隙を作れれば。

 

 

そんな事を考えている間も、死銃は攻撃の手を緩めない。

 

 

放たれた三連続技の一撃が私の仮面を掠め、ピシっと嫌な音を立てて仮面にひびが入る。

 

 

その時、死銃の赤い両眼が激しく光るのが見えた。

 

 

———赤い目……。

 

 

そう言えば、PoHが連れてきた男も、カスタマイズだろうが赤い眼をしていた。そしてラフコフにいたエストックを使うあの男……奴も。

 

 

奴も目の前の男同様に赤い眼をした髑髏マスクだった。

 

 

カチッ、カチッと記憶のピースが繋がっていく。

 

 

「……XaXa(ザザ)

 

 

零れ出た単語は、今にも私の胸を貫かんとしていた鋼鉄の針の軌道を狂わせた。

 

 

———そうだ思い出した。こいつの名は……‼

 

 

「《赤目のザザ》。それが貴様の名だ!」

 

 

名前を看破された事で動揺したのか、死銃(ザザ)は攻撃を止めて距離を取る。

 

 

直後、何処からか音も無く飛来した一本の赤い線がザザの体を突き刺した。

 

 

本能的に大きく後方へ飛ぶザザ。

 

 

これは予測線による攻撃。シノンが己の経験と閃き、そして闘志のあらん限りをつぎ込んで放った幻影の一撃(ファントム・バレット)

 

 

彼女の意図を悟り、私は力強く地面を蹴り上げる。

 

 

それと同時に、奴もシノンが撃つ気がないことに気が付いたのだろう。マスクの下で小さく舌打ちをし、すぐに光歪曲迷彩を使って姿を消そうとする。

 

 

———逃がすものか!

 

 

私はホルスターからマカロフを引き抜き、トリガーを絞る。

 

 

マガジン内の残弾はひとつ残らず発射され、その中の何発かが虚空に命中し、激しくスパークを散らしながらザザが姿を現した。

 

 

だがここで素直にやられるほど奴は甘くなく、すぐに態勢を立て直して無数の連続突きを放ち、そのほとんどが直撃して恐ろしい勢いでHPが減少していく。

 

 

———まだだ、まだ倒れるわけには……!

 

 

『そうだよ負けないで!』

 

 

「ッ……うぉぉおおおお!!!」

 

 

何処からか聞こえてきた声に呼応するかのように、ダブリスの紫色の刀身がエメラルドグリーンの輝きを放ち、私は更に大きく一歩踏み込んだ。

 

 

そして、弾丸の如く体を回転させながら標的に突進する。

 

 

この世界では私のみが知る技。ダブルセイバーPA(フォトンアーツ) 《トルネードダンス》

 

 

青緑色の刃は、ザザの身体に深く喰い込み、そのまま胴体のホルスターに収められていた黒い拳銃ごと切り裂いた。

 

 

 

 

 

分断されたアバターは宙を舞い、少し離れた場所に落下した。

 

 

「まだ、終わら…ない。終わら…せない。あの人が…お前達を……」

 

 

言い終える前に【DEAD】のタグが浮かび、アバターは活動を停止する。

 

 

「いや終わりだ、ザザ。共犯者もじきに捕まる。貴様らラフィン・コフィンの殺人は、これで完全に終わる」

 

 

動かなくなったアバターにそう言い放ち、私はその場を離れる。

 

 

しばらくの間砂漠の中を歩き続けてると、前方からスコープが無くなったヘカートを抱えたシノンが歩いてきた。

 

 

「終わったのね」

 

 

「ああ」

 

 

「貴方の仮面、ボロボロになってるわよ」

 

 

シノンに指摘され、初めて仮面の左側が割れていることに気が付いた。ザザの攻撃でひびが入ったのには気付いてはいたが、恐らく最後の攻撃の勢いに耐え切れなかったのだろう。

 

 

割れていては防具としての意味を持たないため、私は仮面を外した。

 

 

「あら、意外と良い顔してるのね」

 

 

「世辞はいい。そう言えばキリトは?」

 

 

「ああ、アイツなら闇風と相打ちになってたわ」

 

 

「そうか。それはそうと……」

 

 

私はシノンに顔を近づけ、耳打ちをする。

 

 

「こっちで死銃が倒され、共犯者は君の部屋から居なくなっているはずだ。が、念のため警察を呼んだほうがいい」

 

 

「でも、何て説明するの?VRゲームで殺人を企んでる人が……て言ってもすぐには信じてもらえるとは思えないけど」

 

 

「私とキリトの依頼主は公務員だから奴に動いてもらう手もあるが、ここで住所を聞くわけにもな」

 

 

「良いわよ。今更そのくらい……」

 

 

あっさりとそう言って、私の耳元まで唇を近づけたシノンは自分の住所と本名を教えてくれた。

 

 

「驚いたな。私がダイブしている場所の目と鼻の先だ。……ログアウトしてすぐ私が向かった方が早いかもな」

 

 

「別に来てくれなくても大丈夫よ。近くに信用できる友達が住んでるから。その人、お医者さんちの子だから、いざって時はお世話になれるし」

 

 

「そうか。ログアウトしたらすぐに依頼主に連絡して成るべく早く警察を向かわせるようにする。念のため警察が来るまでドアの鍵を閉めておけよ」

 

 

私がそう伝えると、シノンは「分かったわ」と言って私から離れる。

 

 

「さて、そろそろ大会を終わらせないとね。ギャラリーも苛ついてるだろうしね」

 

 

「それは良いが、どうやって決着を付ける?昨日キリトとやってたみたいに決闘形式で勝負するか?」

 

 

「止めとくわ。何発撃っても全部斬り落とされそうだし」

 

 

「だが降参する以外だと、どちらかのHPが0にならないと勝者は決まらないだろ。どうするつもりだ?」

 

 

「第1回BoBは、2人同時優勝だったんだって。理由は、優勝するはずだった人が《お土産グレネード》に引っ掛かったから」

 

 

「お土産グレネード?」

 

 

シノンは少しイタズラっぽく笑うと、ポーチから取り出した黒い球体を私の手に乗せた。

 

 

「な⁉ これは!」

 

 

それがグレネードだと気付いた時には、私はシノンに抱き着かれ、彼女に渡されたグレネードを投げることが出来なかった。

 

 

なるほどこれは……

 

 

「……一本取られたな」

 

 

 

 

直後、発生した強烈な爆炎と共に、第3回BoBは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 





気付いたら普通に5000文字超えてたので驚きました。
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