少しくらいオリジナル要素を入れても良いよね。
檻の中に幽閉されていた謎の美女フレイヤを救出し共に王スリュムの元へ向かうこととなった私たちは今、2匹の狼が彫り込まれた分厚い氷の扉の前にいる。恐らく、ここが霜の巨人族の王がいる玉座の間といったところだろう。
私たちが近づくと、扉は自動的に左右に開き始め、奥から冷気とここまで戦ってきたボス達とは比べものにならないほどの威圧感が吹き寄せる。
アスナが全員の支援魔法を張り直し始めると、フレイヤもそれに加わり、HP上限を上昇させる謎の支援魔法を全員に掛けた。
互いにアイコンタクトを取り、部屋の中に一気に駆け込む。
内部はこれまでのものと同じ青い氷の壁や床、氷の燭台に青紫色の不気味に揺れおり、天井には同じ色のシャンデリアが並んでいた。しかし、真っ先に私たちの眼を奪ったのは、左右の壁際から部屋の奥まで連なる黄金の輝き。金貨や装飾品、剣や鎧、盾に彫像、家具に至るまで、無数の黄金製のオブジェクトが積み重なっていた。
「……総額、何ユルドだろ…」
無数の黄金を前にリズベットが呟き、クラインも欲望に突き動かされるように、ふらふらと宝の山の方に近づいていく。
「……小虫が飛んでおる」
広間の奥の暗闇から、威厳のある低い声が聞こえてきた。
「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」
氷の床が砕けるのではないかと考えてしまうほどの地響きを上げながら、巨大な影が目の前に現れる。
否、それは『巨大』という表現ですらおこがましいほどで、ヨツンヘイムを蔓延る人型邪神や、上層のボス邪神の数倍の体躯だ。
———まるで【
あまりの大きさに嘗ての同胞のことを思い出していると、その巨人は低い声で嗤った。
「ふっふっ……アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに唆されてこんな所まで潜り込んだか。どうだ、いと小さき者どもよ、あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ呉れてやるぞ?」
今の台詞からこの巨人こそが《霜の巨人族の王スリュム》であることは間違いないようだ。
そんな奴からの提案に真っ先に言葉を返したのはクラインだった。
「へっ!武士は食わねど高笑いってな!オレ様がそんな安っぽいにホイホイ引っかかって堪るかよ!」
そう言いながら愛刀を鞘から抜き放つクライン。「さっき宝の山に魅入っていただろ貴様」っと野暮なことは言わないでおこう。
残る7人も各々の武器を手に取るが、スリュムは不敵な笑みを浮かべたまま、最後尾にいる9人目の仲間に目を止める。
「ほう、ほう。そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がついたのかな?」
「は、ハナヨメだぁ⁉」
スリュムの言葉に裏返った声を上げて驚くクライン。
———決心も何も、鎖に繋がれていたのだから出られないのでは?
私がそんな疑問を抱いている間も話は続いている。
「誰がお前の花嫁になど!かくなる上は、剣士様たちと共にお前を倒し、奪われたものを取り返すまで!」
「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良いことよ。さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの……小虫どもを捻り潰したあと、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふふ……」
全年齢対象のゲームでギリギリ許される言葉に女性陣は顔をしかめ、前に立つクラインは左拳を震わせ憤慨していた。
「てっ、てっ、手前ェ!させっかンな真似!このクライン様が、フレイヤさんに指一本触れさせねぇ‼」
「おうおう、ぶんぶんと羽音が聞こえるわい。どぅーれ、ヨツンヘイム全土が儂の物となる前祝いに、まずは貴様らから平らげてくれようぞ……」
ずしん、とスリュムが一歩踏み出すと同時に、長大な3段のHPゲージが表示される。
「来るぞ!ユイの指示をよく聞いて、序盤はひたすら回避!」
キリトが叫び、天井近くまで高く振り上げた大岩の如き右拳を振り下ろした。
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スリュムとの戦闘は正しく激戦で、その圧倒的なまでの攻撃力と守備力に私たちは苦戦を強いられていた。
そんな中、1番スリュムのHPを削ったのはフレイヤの雷撃系攻撃魔法であり、彼女の魔法がスリュムを打ち抜く度に奴のHPは大幅に削られ、10分弱でようやく奴のHPゲージが1つ消えた。
彼女がいなければこんなに早く奴のHPを削れなかっただろう。
———今回ばかりはクラインの女好きに感謝だな。
だが喜ぶのも束の間、
「まずいよお兄ちゃん。メダリオンの光がもう3つしか残ってない。多分あと15分もない」
キリトの隣にいるリーファがそう叫んだ。
スリュムのHPゲージは3本。その内の1本を削るのに10分以上の時間を要してしまっている。あと15分で残りの2つを削りきるには時間がなさすぎる。だからと言って、金ミノタウロスの時のようにソードスキルやスキルコネクトの連撃で押し切るのも不可能だろう。
そんな私の思考を見透かしたかのように、突如スリュムが大量の空気を吸い込み始め、同時に発生した突風が私たちをスリュムの近くへと引き寄せようとする。
私は咄嗟に槍と両手剣を床に突き刺して体を持っていかれないように固定する。
スリュムの近くまで引き寄せられた5人は防御姿勢を取るものの、スリュムが広範囲に放った氷ブレスによって氷の像と化してしまった。
「ぬうぅぅーん!」
そこにスリュムが雄叫びと共に巨大な右足で床を踏み付け、それにより生まれた衝撃波が凍り付くキリト達に襲い掛かる。
5人のHPが真っ赤に染まる。だが、それと同時に彼らの体を水色の光が包み込み、HPを徐々に回復させていく。
———流石アスナ、完璧なタイミングだ。
しかしスリュムもあと一撃で倒れる相手を見逃がす訳がなく、回復途中のキリト達に向かって前進する。
———させるか。
私は第3層の百足からドロップした短剣を取り出し、キリト達に気を取られているスリュムの顔目掛けて投げつけた。
投擲スキルにより、私が投げたダガーは真っ直ぐスリュムの顔———それも奴の左目———に命中した。
「ぐぬうぅぅ!」
初めて自分の攻撃で苦しむ声を上げたスリュムの様子を見て思わず頬が緩む。どうやら、どんなに硬くてもそこは弱いらしい。
片目を潰されたことに腹が立ったのだろうスリュムは、私の思惑通りキリト達を放って私に進路を変えた。
私はスリュムの猛攻を躱しながらソードスキルでダメージを与える。
ソードスキル発動後の硬直で動けなった所をスリュムが殴ろうとするが、そこにシノンの援護射撃が入る。
GGOでも私が前に出て、シノンが後方支援という形で何度か共闘したことはあるからこそ私たちの連携は完璧だ。だが、流石にボスの猛攻を2人だけで凌ぐのには限界がある。
「うおりゃあああああ‼」
そこに、丁度良いタイミングで駆けつけたクラインが気合いの入った一撃を食らわせ、それに続くようにリズベットとシリカもスリュムに攻撃を加える。
「どうしたペル公、もうへばっちまったか?」
「フッ、そんな訳無いだろう。あとその呼び方はやめろ」
鼓舞しているのか煽っているのかわからないクラインの軽口にそう返し、ポーチから取り出した回復ポーションを飲み干す。
HPの完全回復まではもう少し掛かるが、今の状態でも問題ないだろうと判断し、私がリーファ達の加勢に向かおうとしたその時、
「みな……ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオオ‼」
突如として後方から聞こえた咆哮に振り返ると、黄金の小槌を持ったフレイヤが全身に雷を纏わせ、瞬く間にスリュムに並ぶ大きさにまで巨大化していく。
「「お、お、お……オッサンじゃん‼」」
そこにはクラインの武士道とやらを衝き動かした美女の姿は既になく、代わりに大木のように盛り上がった筋肉が付いた腕と脚を持ち、ごつごつとした逞しい頬から長い髭を生やした
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《雷神トール》……神話にそこまで詳しくない私でも聞いたことのある《オーディン》や《ロキ》と並んで有名な神の名だ。
「卑劣な巨人めが、我が宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそ贖ってもらうぞ!」
「小汚い神め、よくもわしをたばかってくれたな!その髭面切り離して、アースガルドに送り返してくれようぞ!」
トールの黄金のハンマーとスリュムが作り出した氷の斧がぶつかり、その衝撃波がスリュムヘイム全体を大きく揺らす。
私たちは暫くの間、唐突なフレイヤの巨人化の衝撃に唖然としていたが、すぐに我に返り、トールに加勢する。
「ぬぅおおおおおおッ!」
刀を振りかぶって突進するクラインを筆頭に、いつの間にかレイピアに装備を変えているアスナもスリュムの両足にソードスキルを叩き込んでいく。
「ぐ…ぬぅ……!」
流石の巨人族の王もソードスキルの猛攻に耐えられなかったのだろう。スリュムは唸り声を漏らし体を大きく揺らしながら左膝をついた。
そのチャンスを見逃すはずもなく、私たちは全員で最大の連続攻撃をスリュムに向けて放った。私たちの剣から放たれたエフェクトと、豪雨の如く降り注いだ無数の矢がスリュムの体を包む。
「地の底に還るがよい、巨人の王!」
トドメと言わんばかりにトールがハンマーをスリュムの頭に振り落とす。王冠が砕け、ついにスリュムは倒れた。
「ふっふっふっ……今は勝ち誇るがよい子虫どもよ。だが、アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ……彼奴らこそ真の———」
その言葉は最後まで紡がれる事なく、トールの容赦のない一撃が炸裂し、今度こそ巨人族の王は力尽きた。
「……やれやれ、礼を言うぞ妖精の剣士たちよ」
スリュムの屍から自慢のハンマーを持ち上げたトールは私たちの方に振り向いて言った。
———待て、何かおかしい。
どんな物でも、HPや耐久値が切れればポリゴン片となって消滅する。それはボスモンスターも同じだ。だが、何故HPが0になった筈のスリュムは消えていない。
———まさか!
違和感が確信になった瞬間、確かに力尽きた筈のスリュムの瞼が開かれた。
「皆、散れ‼」
私がそう叫んだ時には、復活したスリュムによってトールが吹き飛ばされていた。
「一体何が起きているんだ⁉」
キリトが驚きの声を上げるが、状況が状況なだけに驚くのも無理はない。今までボスが復活するといった現象は起きたことがない。全く予想外の出来事なのだ。
だが、ここから私は更に驚く光景を目にした。
復活したスリュムの左目の奥から”赤くて丸い何か”が浮き出てくる。
まさか目玉じゃないだろうなと考えている間に、その「何か」は肥大化し、それは正しく”核”と呼べる形になった。
———『侵食核』……⁉
私の驚きを掻き消すように復活したスリュムから混じりの咆哮を上げ、奴の周りに何処からか転移してきたように魚やヤドカリの様な姿のエネミーが現れ、私たちを襲う。
「っ!みんなもう一度度戦闘態勢を取るんだ!」
キリトが皆に指示をすると、皆各々の武器を構え直す。
———色々と考えるのはあとだ。今は目の前の相手に集中しろ。
復活したスリュムと水棲型モンスター。ALOの存亡の危機を掛けた最終決戦がが今再び始まった。
キャリバー編、次回ラストです。