仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。マザーズロザリオ編です。


マザーズ・ロザリオ編
第47話 絶剣


 

年も明け、正月の行事も終わって余裕が出てきた頃――

 

 

「ちょっと、アンタに電話来てるよー!」

 

 

部屋で作業をしていると、母から呼び出された。

 

 

それにしても誰からだろうか?和人たちや学校関係者なら直接携帯に連絡がくるはずだし、最近知り合った人で連絡先を交換しなかった人はいない。

 

 

母から電話を替わると、聞こえてきたのは穏やかな男の声だった。

 

 

『こんにちは、突然すみません。僕は横浜港北総合病院の倉橋です」

 

 

今にして思えば、この電話が始まりだったのだろう。

 

 

私と彼女たちの物語の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルソナは《ゼッケン》って知ってるか?」

 

 

「ゼッケン?何だそれは?」

 

 

新生アインクラッド第22層にあるキリトの家で彼の勉強を見ていると、急にキリトがそんなことを言ってきた。

 

 

「通り名だよ。絶対の絶に剣と書いて《絶剣》」

 

 

ここ数日はリアルの方が忙しく、なかなかログインできなかったので、その絶剣なる人物の存在は認知していなかった。

 

 

「それで、その絶剣とはどんな人物なんだ?」

 

 

「一週間くらい前から噂になっててな。MMOトゥモローの掲示板に対戦者募集の書き込みがあって、ALO初心者のくせに生意気だって30人くらいが押しかけたらしいんだが」

 

 

「まさか全員……」

 

 

「ああ見事に返り討ちさ」

 

 

驚いた。恐らくコンバートしたのだろうが、それでも絶剣に挑んだ30人は長いことALOをプレイしてきたプレイヤー達のはずだ。それが全員返り討ちにされたというのだ。その絶剣というプレイヤー、どうやら只者ではないようだ。

 

 

「もしや絶剣はSAO生還者(サバイバー)か?」

 

 

「いや、絶剣はサバイバーじゃない」

 

 

絶剣とやらが元SAOプレイヤーなら、ALOに来てすぐに30人ものプレイヤーを返り討ちにしたという話も頷けたのだが、キリトはあっさりとその可能性を否定した。

 

 

「何故そう言い切れる?」

 

 

「実際に戦ってみて感じたんだ。もし絶剣があの世界にいたなら、《二刀流》は俺じゃなくアイツに与えられていたはずだからな」

 

 

確か二刀流スキルは全プレイヤーの中で最も高い反応速度を持つ者へと与えられるとヒースクリフ……茅場昌彦は言っていた。 実際に二刀流を使っていたキリト自身がそこまで言うということは、絶剣の力は私達サバイバーにも匹敵するということだ。

 

 

まあ、あの茅場は私と同じ転生者で、この世界の"物語"とやらを知っていた。仮に絶剣がSAOにいたとしても、GM権限でキリトに二刀流スキルを与えていたかもしれないが。

 

 

「しかし、それほどの強さを見せつけられれば対戦者もいなくなるんじゃないのか?デュエルのデスペナルティは相当だろう?」

 

 

「実はそうでもないんだ。なんせ、絶剣は《オリジナル・ソードスキル》を賭けてるからな。それも必殺技級の」

 

 

「なるほど、それは対戦者も減らないわけだ」

 

 

オリジナル・ソードスキル……通称《OSS》。最近実装されたプレイヤーが自ら編み出し、登録することができるソードスキル。だが、習得には厳しい条件をクリアする必要がある。

 

 

まず、単発技は既存のソードスキルに全てのバリエーションが存在するため、必然的に編み出すソードスキルは連続技であること。

 

 

次に、OSSを登録する際、本来システムアシスト無しには不可能な速度の動きをアシスト無しに実行しなければならないということだ。

 

 

その過酷さに耐え切れずOSS開発を諦めた者も多くいたが、中にはOSSの開発に成功し、《○○流》という冠のついたギルドや、街に道場を開いた者もいる。

 

 

かく言う私も前世で使っていた《フォトンアーツ》を参考に3つのOSSを習得したわけだが、リズベットやクライン辺りに化物呼ばわりされるわ、他のプレイヤーからOSSを賭けて(私には何の得も無い)勝負を挑まれたりと散々だった。

 

 

「しかも11連撃だぜ!」

 

 

「11連撃……!」

 

 

キリトが言ったその連撃数に私は驚愕する。私が持つ3つのOSSの中でも最大で6連撃、ALO中最も連撃数が多かったのはサラマンダーの将軍《ユージーン》の8連撃だ。だが、絶剣はそれすらも遥かに超える11連撃のソードスキルを編み出すという偉業を成し遂げたというのだ。

 

 

「でも、実際にそのソードスキルを使わせたのはアスナだけだけどな」

 

 

「アスナも戦ったのか」

 

 

「ああ。結構惜しいとこまでいったんだけどな」

 

 

「そう言えばお前も戦ったと言っていたな。まさかとは思うが……」

 

 

私が最後まで聞くまでもなく、キリトは頭を掻きながら苦笑し、「負けました」と言った。

 

 

「流石に二刀流じゃなかったけど、本気だったよ。でも最後の攻撃が躱しきれなくてさ、反則だろあのスピード……」

 

 

反則級なスピードというなら貴様も大概だろうっと私は思いつつ、キリトを倒したという絶剣という剣士に少し興味が湧いてきた。

 

 

「戦ってみるか……」ボソッ

 

 

その呟きを聞いたキリトが目を輝かせており、明日の午後、私が絶剣と戦うのを見に来ると言い出した。…別にギャラリーは必要ないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログアウトした私はアミュスフィアをベッドの隣の棚に置く。

 

 

私がいるのはいつもの自分の部屋ではなく病室だ。

 

 

別にどこか悪いわけではない。だがある事情があり、私は横浜港北総合病院に入院している。

 

 

――コンコン――

 

 

扉をノックされ、私が「どうぞ」と言うと、縁の太い眼鏡を掛けた30代前半くらいの男性医師……倉橋氏が病室内に入ってきた。

 

 

「どうですか調子は」

 

 

「特に問題ないですね。それより彼女たちは」

 

 

「……2人とも、まだ受けたくないと」

 

 

「そうですか」

 

 

 

……ここで話を冒頭に戻そう。

 

 

数日前、私の元に一本の電話が掛かってきた。電話の相手がこの倉橋氏だ。

 

 

何でも、とある双子の姉妹のために私の骨髄を提供してほしいとのこと。

 

 

去年、両親からドナー登録だけでもしておくようにと口うるさく言われ、一応登録だけはしたのだが、まさかドナーとして選ばれるとは、本当に人生は何が起きるか分からない。

 

 

これは同じ大学の医学部に通う友人に聞いた話だが、血縁者以外でHLA型(白血球の型)が合うのは数万分の1らしい。 しかも拒絶反応が全くない。正に奇跡だと倉橋氏は言っていた。

 

 

しかし現実は非情だ。患者のプライバシーに関わることなので詳しい事は聞けなかったが、肝心の姉妹は特殊な施術方法で状態を安定させているため、予断を許さない状況にあるらしい。 しかも骨髄移植は患者への負担も大きい。その負担に耐え切れず…ということもある。

 

 

姉妹の方にもドナーの話はしたそうなのだが、妹の方が「手術を受けたくない」と言い、姉も「妹がやらないのなら自分も」と手術拒否をしたのだ。

 

 

無理にリスクが高い手術を受けるよりも、このまま静かに余生を過ごすのも選択肢の一つだ。最終的にそれを決めるのは患者の意志であり、そこに医者や私のような部外者が口出ししていいものではない。だが、無理のない範囲で説得を試みるようだ。

 

 

そしていつでも連絡が取れるように連絡先を交換してその日は帰宅したのだが…

 

 

「入院の準備をしろ」

 

 

帰宅し、両親にこの話をした後の父の第一声がそれだった。

 

 

そして淡々と準備は進み、私の入院生活が始まった。

 

 

本来なら検査のために手術の前日に入院するのだが、母からは「その子たちがいつ心変わりしてもいいようにしておきなさい」と言われ、父からも「金はあるから家の心配はするな」と言われた。

 

 

本当に、私の両親はこういう事になると何故か暴走する傾向にある。

 

 

――嫌いではないが。

 

 

 

 

 

そして今に至る――――

 

 

「すみません。わざわざ早めに入院していただいたのに」

 

 

「いえ、両親が勝手にやったことなので気にしないでください。大学の方も必要な単位は取ってるので支障はないですし」

 

 

――逆に私の入院で病院側に迷惑になっていないかが心配なのだが……。

 

 

そんな会話をしている内に検診も終わり、倉橋氏は病室から出ていく。

 

 

その後、特にやることもない私は薄味の病院食を食べ、明日の絶剣とのデュエルに向けて早めに就寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新生アインクラッド第24層――――

 

 

大部分が水面に覆われたそのフロアに浮かぶ小島、そのひとつ、大樹の根元に多くのプレイヤーが輪を作っている。既にデュエルが始まっているのだろう。

 

 

「参った!降参、降参だ!」

 

 

シルフの男が叫ぶとデュエル終了のファンファーレが鳴り響き、同時に周囲のギャラリーからも拍手と歓声が上がる。

 

 

シルフと戦っていた絶剣は私と同じインプで、想像よりも小柄で華奢だった。長いストレートの髪は濃い紫色、全身の装備も紫色に統一している。

 

 

絶剣が芝居のような仕草でお辞儀をすると、ひときわ大きな歓声と口笛が周囲の男性プレイヤー達から上がる。それを聞いた絶剣はすぐに体を起こし、眩しいほどの満面の笑顔と共に先程とは打って変わって無邪気な動作でVサインを作って見せた。

 

 

「おい、キリト」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「絶剣って女だったんだな」

 

 

絶剣は少女だった。しかも見た目は私やキリトよりも年下だ。

 

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

 

「ああ。まさかとは思うが貴様が負けたのは……」

 

 

「いや、女の子だからって手を抜いたとかじゃなくて、超マジでした。……少なくとも途中からは」

 

 

キリトの必死な言い分に私は少し訝しんだが、追及するのも面倒だし、今は絶剣との戦闘に集中したいので放っておこう。

 

 

「次に対戦する人、いませんかー?」

 

 

私は周囲を見渡し、他に対戦希望者がいないのを確認してから一歩前へ出る。

 

 

絶剣の少女は私が近づくのに気が付くと、無邪気な笑顔のままこちらに向き直る。

 

 

「お兄さん、やる?」

 

 

「ああ」

 

 

「おっけー!」

 

 

彼女の問いに私がそう短く答えると、手慣れた動きでウインドウを操作していく。

 

 

「あ、ルールは何でもありだからお兄さんは魔法もアイテムもばんばん使っていいよ。ボクはこれだけだけど」

 

 

《ボク》という一人称がよく似合う少女は一度手を止め、自身満々にそう言いながら剣の柄を軽く叩く。恐らく彼女はこれまでも同じ条件で勝利してきたのだろう。流石、絶剣と呼ばれることはある。

 

 

「お兄さんは地上戦と空中戦、どっちが好き?」

 

 

「私が選んでも良いのか?」

 

 

聞き返すと、彼女は笑顔のまま頷く。なら、素直に甘えさせてもらおう。

 

 

「地上戦で頼む」

 

 

「おっけー。ジャンプはあり、でも翅を使うのは無しね!」

 

 

確認の後、彼女が再びウインドウを操作すると、私の視界にデュエル申し込み画面が表示される。

 

 

【Yuuki is challenging you】

 

 

ユウキ…それが彼女のアバター名。その名が何故か彼女にピッタリだと感じながら、私はOKボタンを押すとデュエル窓が消滅し、代わりに10秒のカウントダウンが開始される。私と絶剣――ユウキは同時に互いの武器を勢いよく抜き放った。

 

 

ユウキは長剣を中段に構えているのに対し、私は両手剣を顔の高さまで上げ刀を持つように構える。瞼を閉じて呼吸を整えると、自然と周りの歓声も遠ざかっていく。

 

 

 

 

そしてカウントが0になると同時に、互いの剣が甲高い金属音と火花を散らしてぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。
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