カウントが0になった瞬間、私は全力で地を蹴り、絶剣に向かって剣を振り下ろす。
絶剣――ユウキは私の攻撃を自身の剣で防ぐ。金属音が鳴り響き、火花が激しく散る。
――今のを止めるとは……実力は本物というわけか。
一度距離を取り、息を整える。今の一太刀で彼女の実力はある程度わかった。そして同時に面白くなってきた。確信はないが、彼女ならば私も全力で戦える。何故かそう感じたのだ。
今度はソードスキルを発動させて斬りかかる。だが彼女は焦った様子は一切見せず、大きく体を捻って私の剣を避ける。そして一瞬生まれた隙を見逃さず、無防備な私に向かってソードスキルを放つ。
かなりの痛手を受けた私のHPは大きく減少する。
私が体勢を整えるよりも早く彼女が追い打ちを掛けてくるが、私は彼女の剣が当たる寸前で弾き、大きく崩れた所に反撃の一撃を加えた。
その時、初めて彼女が驚愕の表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ってまた恐るべき速度で剣を振ってくる。だが、先程までの笑顔とは違う。恐らく彼女も私と同じ、楽しいのだろうと受け止めた彼女の剣越しに理解した。
「強いな、君は」
「お兄さんもね。ボク今凄いワクワクしてるんだ!お兄さんとなら全力でぶつかり合える気がするんだよ!」
「私も初めてだ、こんなに面白い戦いは」
「そうなんだ!嬉しいなぁ!じゃあお兄さん、ここからは……」
「ああ。ここからは……」
「「手加減なしだ(なしで行くよ)‼」」
私とユウキの声が重なると同時にお互いの剣が眩く輝き、初めよりも強くそして激しく剣がぶつかり合う。
私と彼女の体から赤いダメージエフェクトが飛び散るが、私達はそんな事は気にも留めず、ただ互いの全力を相手にぶつけていた。
お互い、残りHPの事など最早頭になかっただろう。
ただこのひと時が永遠に続けばいい。剣を交えるたびに彼女の思いが伝わってくる。無論、私も心が躍るような戦いを終わらせたくはない。だが、私達の思いとは関係なく、決着の時はすぐそこまで迫っていた。
「「はあッ‼/やあッ‼」」
一体どちらが先だったか、それとも同時か。彼女の持つ長剣の刀身が青紫色に輝き、対照的に私の両手剣の刀身からは赤紫色の輝きが溢れる。
本能的に彼女がOSSを使ってきたと察し、私もOSS《イグナイトパリング》で応戦する。
彼女が放つ最初の5連撃を完全に防ぎ、最後の一撃を絶剣に与える。しかしそれでも彼女の剣は輝きを失うことはなく、追撃の5連撃が突き刺さる。
彼女は尚も輝き続けている剣を引き戻す。まだソードスキルは終わっていない。
絶剣の11連撃……これまでデュエル中に使用したのはアスナとのデュエルのみ。それを使ってきたということは私も彼女の好敵手として認められた証だろう。
全てを出し尽くし最後の一撃を避ける余裕はない。この一撃を受ければ私のHPは消し飛び、私は初めての敗北を味わうだろう。だが悔いはない。これほどの強者と戦えたことに満足感すら覚えた。
――でも、それでも……!
それは負けたくないという醜い意地か、それとも最後に一泡吹かせてやろうと思ったのか、剣を持つ手に力が入り、刀身がこれまでにない程、強く眩い輝きを放つ。
「「だああああああッ‼/やああああああッ‼」」
刹那、巨大な閃光と衝撃で土煙が上がる。
土煙が収まると、私の眼に映ったのは私の胸板を貫く寸前で止まっている彼女の剣先と、首元に刃を当てられているのにも関わらず笑顔のままの少女の顔だった。
「……何故、トドメを刺さなかった」
「お兄さんだって、止めてなかったら初めて
「別に有名になりたいわけじゃない。ただ「決着をつけたくなかった」っ⁉」
「やっぱり!お兄さんもそうだったんだね‼」
武器を下ろしながら、彼女はデュエル前に見せた無邪気な笑顔を浮かべながらそう言い、嬉しそうに大きく頷くと言葉を続ける。
「お兄さん凄い強いし、お兄さんに決ーめた!お兄さん、まだ時間大丈夫?」
「え?別に平気だが、それが一体……」
「じゃあ、ちょっとボクに付き合って!」
突拍子もない彼女の言動に理解が追い付かないでいると、彼女は突然私の手を引き、翅を出現させるや否や体を浮かせる。
私も急いで翅を出すと、それを見た彼女はまるでロケットのような勢いで急上昇を始め、私は引っ張られながらキリトの方を振り向くと、彼はまるでこの展開が予測していたかのようにニヤリと笑みを浮かべていた。
――あいつ、あとで絶対問いただしてやる。
私はそう思いながら先に立つ絶剣を追う。
▼
絶剣に連れてこられたのは新生アインクラッド第27層の主街区《ロンバール》。SAO時代から変わらぬ暗闇に覆われた場所だ。
「どうして私をここに連れてきたんだ?」
「その前にボクの仲間に紹介するよ!こっち!」
そう言って私の問いに答えることなく、彼女は再び私の手を取って駆けだす。
暫くして辿り着いたのは宿屋と思われる店の前だった。
戸口を跨ぎ、居眠りする白髭の店主の横を通って、奥にある酒場兼レストランに足を踏み入れた途端――
「お帰り、ユウキ!見つかったの⁉」
はしゃぐような少年の声が絶剣を出迎えた。
酒場の中央のテーブルには種族がバラバラの5人のプレイヤーが陣取っており、他に人影はなかった。
「あれ?1人足りないや。ごめんお兄さん、ちょっと待ってて!」
ユウキはそう言ってウインドウを操作して誰かにメッセージを送った。話を聞く限り相手は今ここにいない仲間の1人だろう。
そして少し待っていると、宿の入口からバタバタと慌ただしい足音を立てながら、聞き覚えのある声の人物が入ってきた。
「ユウキ!協力してくれる人見つかったってほんとってエエエエエエエエ⁉」
「アスナ⁉」
驚くべきことに現れたのはアスナだった。
――確か今日は用事があるとキリトが言っていたが……。
「え、お兄さんアスナの知り合いだったの?」
「知り合い……というか、いつも一緒にプレイしてる仲間かな」
「そうなんだ!じゃあ改めてよろしくねお兄さん!」
「……何をだ?」
ユウキが笑顔でそう言ってきたが、その言葉の意図が理解できず私がそう聞き返すと、彼女は,きょとんとした顔をしてから小さく舌を出した。
「そう言えばボク、まだ何も説明してなかったし、みんなの事も紹介してなかった!」
ずこっーとアスナと5人のプレイヤーが盛大によろけた。
アスナが「またぁ?」っと言っていたが、前にも同じことがあったのだろうか。
「それじゃあ紹介するよ。ボクのギルド《スリーピング・ナイツ》の仲間たち」
ユウキはテーブルの方に歩み寄って右手を大きく横に伸ばしながらそう言うと、今度は半回転して私の方を手で示す。
「で、このお兄さんが――……」
そこで言葉に詰まるユウキ。どうしたのだろうと思っていると、彼女は再び舌を出した。
「ごめん、まだ名前もちゃんと聞いてなかった」
再度よろける6人。サラマンダーの少年が「またかよー」っと呆れ、照れくさそうに後ろ髪を掻くユウキ。その光景に思わず笑みがこぼれる。
「私はペルソナ。インプだ」
私が名乗ると、先程のサラマンダーの少年が勢いよく立つ上がり、元気な声で叫ぶ。
「俺はジュン!ペルソナさん、よろしく!」
その隣のノームの巨漢が突き出た腹を無理矢理引っ込めるように頭を下げ、のんびりした口調で名乗った。
「テッチって言います。どうぞよろしく」
続いてひょろりと痩せ、丸眼鏡を掛けたレプラコーンの青年が立ち上がる。
「ワタクシは、タルケンって名前です。よろしくお願いします」
その次が、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がったスプリガンの女性。
「アタシはノリ。会えて嬉しいよペルソナさん」
そして最後にアスナと同じウンディーネの女性がふわりとした動作で立ち上がり、落ち着いた声で自己紹介をした。
「初めまして。私はシウネーです。ありがとう、来て下さって」
「んで、」
5人の隣に並んだ絶剣が瞳を輝かせ、改めて自己紹介を行う。
「ボクが一応このギルドのリーダーのユウキです!ペルソナさん……ボクたちに手を貸してくだい!」
「手を貸す?」
一体何に?っと私は首を傾げる。見たところこのギルドのメンバーは全員が相当な手練れだ。一挙一動からフルダイブ環境でのアバター操作を熟知しているのが分かる。武器を取れば、その強さは絶剣と呼ばれるユウキと同等だろう。
そんな実力者集団に――既にアスナという協力者がいて――今更私1人を加えて何をするつもりなのだろうか。
「あ、他のギルドとの戦争ってわけじゃないですから大丈夫ですよ」
私が思考を巡らせていると、アスナがそう補足した。
なら尚更、私に協力してほしいこととやらの検討が付かない。
「では一体、何に手を貸せばいいんだ?」
私が聞き返すと、ユウキは唇をはにかむようにして上目遣いで予想外の言葉を口にする。
「その、ボクたち……笑われるかもしれないんだけど……ボクたち、この層のボスモンスターを倒したいんだ。ボクたちとアスナとペルソナさんの8人で」
「……確認だが、ボスモンスターってのは迷宮区の最奥にいるやつのことか?イベントや特殊なクエストで出現するようなやつとは違う」
「うん、一回しか倒せないアレ」
「……。」
私はどう答えるか悩んでいた。理由は単純だ。本来フロアボスというのは1パーティーで挑むような相手ではない。それはSAO時代から当たり前の話だ。それに新生アインクラッドに配備されているフロアボスは、全てSAOのときによりも強化されている。慎重に作戦を練れば死者を1人も出さずに攻略できた昔とは違い、8×6の最大レイドが全滅するという話も珍しくない。
故に、たった8人でボス攻略というのは無茶、無謀もいいところなのだ。
――アスナもその事は理解しているはずだが。
すると、アスナが私の前に出てきて頭を下げてきた。
「ペルソナさん。私からもお願いします。彼女たちに力を貸してくだい」
アスナがここまでするとは、相当な事情があると察し、取り敢えず何故こんな無謀な挑戦をするのか理由を聞いた。
シウネーの説明によると、彼女たち6人はとあるネットコミュニティで出会ったという。様々な世界を渡り、様々な冒険を楽しんでいたが、春頃からは各々忙しくなりこうして全員で集まること出来なくなる。だから解散する前に、無数に存在するVRMMOの中から1番楽しく、美しく、心躍る世界を探し、そこで力を合わせて何か一つの事をやり遂げようとあちこちでコンバートを繰り返し、辿り着いたのが
アルブヘイムにアインクラッド、ALOでの冒険はギルドの皆が永遠に忘れる事は無いだろうとシウネ―は語る。そして願わくば、自分たちの足跡を残したいと。
そこで彼女たちはアインクラッド第1層《はじまりの街》の黒鉄宮にある《剣士の碑》にギルドメンバー全員分の名前を残すことにしたのだが、そのためにはどうしても1パーティーのみでフロアボスに挑む必要がある。25層と26層も6人で奮闘したそうだが、あと少しで力及ばず、彼女たちがリベンジする前に他のギルドに攻略されたとのこと。このままでは埒が明かないので、6人の中でも最強のユウキと同等またはそれ以上の実力を持つプレイヤーを探し、協力を得ようと例の辻デュエルが行っていたそうなのだ。
そうして最初にユウキが選んだのがアスナ。パーテイー上限は8人。アスナは確実にボスを攻略するためにあと1人協力してくれる人を探すことを提案し、他のメンバーもそれを了承。そして今日、私に白羽の矢が立ったというわけだ。
「大体の事情は分かった。私で良ければ力になろう」
「引き受けて頂けるんですか⁉」
「断る理由もないからな。この際、乗り掛かった舟だ。やるだけやってみよう」
私が二つ返事でそう答えると、ユウキが顔を輝かせながら両手で私の手を強く包み込んできた。
「ありがとうペルソナさん!やっぱりボクの眼に間違いはなかったよ!」
「ペルソナでいい」
「じゃあボクもユウキで良いよ!」
「ああ、よろしく頼むユウキ」
「うん!よろしくねペルソナ!」
その後、我先にと手を差し出す5人と握手を交わし、新たに注文した大ジョッキで乾杯し、明日の午後1時、早速ボス攻略を始めるためにこの場所に集合する約束をした後、解散した。
▼
解散後、私とアスナは談笑しながら転移門に向かっていた。
「そう言えば、どうしてキリトは選ばれなかったんだ?アイツの強さなら十分ユウキの助けになると思うが」
「それ私もユウキに聞いたんですけど、何でも『ボクの秘密に気付いたから、あの人はダメ』だそうです」
「ユウキの秘密?」
「それが何なのか私には良くわからないですけど、ただキリト君言ってました。『絶剣は完全にこの世界の住人だ』って」
――ユウキがこの世界の住人?
何か引っかかるその言葉に、それはどういう意味かと聞き返そうとしたとき、アスナはその場から姿が消えていた。
もしや何か事件に巻き込まれたと思い、急いでフレンドリストを確認すると、アスナはログアウトしていた。
ただ彼女はログアウト前は律義に挨拶をする。こんな急に消えるようなことはしないはずだ。恐らく彼女の母親が彼女の頭からアミュスフィアを外したかコンセントを引き抜くかしたのだろう。SAO事件後、VRに厳しくなったとアスナが話していたからな。
――何もなければいいが。
私はアスナの事を心配しながらその場でログアウトした。
しつこいと思われるかもしれませんが確認のための改変ポイント説明
原作では1パーテイー7人だったのをこの小説内では8人にしています。
これはオリ主の枠を作りたかった以外の大した意図はありません。
NEW 新しい改変ポイント
原作では1レイド7×7の49人だったのに対し、この小説内では8×6の48人にしています。
これは↑の1パーテイーの上限人数を変更したのを考慮した上での改変で、物語的には何の問題はありません。
長々と失礼しました。また次回もよろしくお願いします。