仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第49話 ボス攻略

 

「ユウキとジュン、テッチが近接前衛型(フォワード)、タルケンとノリが中距離型(ミッドレンジ)、シウネ―が後方援護型(バックアップ)ってことね」

 

 

アスナは武器防具を装備した《スリーピング・ナイツ》の面々を見回する。

 

 

ログインするなり早々、アスナが昨日、突然ログアウトしたことを謝罪してきたが、逆に彼女の方は大丈夫だったろうか。

 

 

尋ねると本人は大丈夫だと言っていたが、笑顔が引きつっていたのを見る限り、無理しているのは一目瞭然だった。

 

 

「ってことは、わたしも後衛に入った方が良いみたいね」

 

 

――と、今はボス攻略に集中すべきか。

 

 

改めて全員の装備を見返す。パーティーとしては全体的なバランスは取れているが、ボス攻略をするにしては支援役が弱いようにも思う。私が前衛に加わるとして、バランスを考えてアスナは後衛に入るしかない。

 

 

「ごめんねアスナ。あれだけ剣が使えるのに後ろに回って貰っちゃって」

 

 

「ううん、どうせわたしじゃ盾役は出来ないし、その代わりジュンとテッチにはバシバシ叩かれて貰うから、覚悟してね」

 

 

そう言いながら笑みを浮かべつつ重装備の2人を見る。

 

 

ジュンとテッチは一瞬顔を見合わせた後、同時にアーマーを付けた胸を叩いた。

 

 

「お、おう、任せとけ!」

 

 

威勢は良いが、どこかぎこちないジュンの台詞に全員が笑い声をあげる。

 

 

ウインドウを操作し、レイピアからワンドに装備を切り替えるアスナ。彼女が装備し直した杖は、先端に葉を1枚残した生木そのままという貧相な見た目だが、実は積乱雲に囲まれた世界樹の上にある枝を切ったものらしい。

 

 

何故そんな所に行ったのかは聞かなかったが、どうせキリトがまた馬鹿な事を言い出したのだろう。

 

 

「じゃ、ちょいとボス部屋覗きに行きますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンバールの宿屋を飛び出し、ボス部屋を目指して迷宮区の回廊を駆ける。

 

 

予めマップデータを購入していたが、最短でも3時間は掛かるだろうという私とアスナの予想に反し、僅か1時間弱でボス部屋の前に到着した。

 

 

――流石、何度もボス攻略に挑んだだけの事はある。

 

 

「本当にわたしたち必要だったのかなあ?あなたたちを手助けできる余地なんて、ほとんどないような気がするんだけど……」

 

 

「とんでもない!アスナさんの指示があったからトラップも一度も踏みませんでしたし、戦闘もペルソナさんのお陰で早く終わって凄く少なくて済みましたし。前の2回では遭遇する敵ぜんぶと正面から戦っちゃったので、ボス部屋に着くころには随分消耗しちゃって……」

 

 

「そ、それはそれで凄いけどね……」

 

 

後ろで行われるアスナとシウネ―の会話に耳を傾けながら、私はボス部屋の扉へと走るユウキ達を追いかける。

 

 

「……3人とも、少し待て」

 

 

が、すぐに妙な違和感を感じ、私は3人を呼び止めた。

 

 

3人が訝しそうに振り向く中、私はコートの裏に仕込んでいる投げナイフを取り出し、一定間隔で並び立つ円柱の1つ目掛け、投擲スキルを発動させて投げた。

 

 

「イタッ!」

 

 

虚空に跳んで行ったはずのナイフが空中に刺さり、その場所から声が上がると、先程まで何もなかった円柱の奥から忽然と3人のプレイヤーが姿を現した。

 

 

――あのギルドタグ……確か23層以降の迷宮区を立て続けに攻略している大規模ギルドの……

 

 

現れた3人組を観察しつつ私は武器を構え、驚いていたユウキ達も同様に武器を構え直す。

 

 

「ストップストップ! 戦う気はない!」

 

 

突然、3人組の1人が慌てた様子でそう叫んだ。

 

 

焦った口調は演技には見えなかったが、迷宮区で周囲にエネミーがいない状況での隠れ身(ハイド)、PKの常套手段だ。警戒はまだ解けない。

 

 

「ならば武器をしまえ」

 

 

3人はすぐに各々の武器を収める。

 

 

「PKでないなら、何故隠れていた?」

 

 

「待ち合わせなんだ。仲間が来るまでにMobにタゲられると面倒なんで、隠れてたんだよ」

 

 

もっともらしく聞こえる言い分だが、迷宮区の最奥まで来れる実力の持ち主が、わざわざ隠蔽魔法を使ってまでモンスターとの戦闘を避けるとは到底思えない。

 

 

だがここで大規模ギルドとトラブルになるのも面倒だ。あくまで私達の目的はスリーピング・ナイツのメンバーと共にこの層のボスを攻略することだ。他のギルドとの抗争ではない。

 

 

「解った。私達も見てのとおりボスに挑戦しに来た。そちらの準備がまだなら私たちが先に挑んでも良いな?」

 

 

「ああ、もちろん。俺たちはここで仲間を待つから、まあ頑張ってくれや」

 

 

随分すんなりと身を引く3人組。仲間の1人が慣れた口調で詠唱を行い、たちまち3人の姿は見えなくなった。

 

 

私は暫く3人が消えた方を見ていたが、すぐに肩をすくめてユウキ達の方を向き直る。彼女はというと、先程のやり取りに気分を害した様子はなく、目を輝かせたままじっと私の方を見て首を傾げていた。

 

 

「……取り敢えず、予定通り1度中の様子を見てみましょう」

 

 

アスナがそう言うと、ユウキは笑いながら頷いた。

 

 

「うん、いよいよだね!がんばろ、2人とも!」

 

 

「様子見と言わず、ぶっ倒しちゃうくらいの気合で行こうぜ」

 

 

威勢のいいことを言うジュン。確かに一発クリアが理想だが、変に無理してアイテムを消費することはない。例えやられてもすぐに戻らずに全滅するまでボスの攻撃パターンなどを観察。ロンバールへの帰還は全滅してからと話をまとめ、シウネ―が全員に支援魔法を掛け直したタイミングで私達はボス部屋へ突入する。

 

 

全員が決めたフォーメーションにつき、武器を構えると同時に黒のキューブ状のポリゴンが出現し、みるみるうちに2つの頭と4本の腕を生やした巨人型のボスモンスターへと変化した。

 

 

赤く光る4つの眼で私達を視認すると、巨人は轟くような咆哮を上げ、上側の手に握る2つのハンマーを高く振り上げ、下側の2本の腕で太い鉄鎖を床に打ち付けた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああああ、負けた負けた!」

 

 

最後に転移してきたノリがタルケンの背中を叩きながら喚く。

 

 

27層のボスの猛攻にあえなく全滅した私達はロンバール中央広場のセーブクリスタル周囲に転送された。

 

 

「ううー、頑張ったのになぁー」

 

 

無念そうに肩を落とすユウキ。だが、今はそんな事している場合ではない。アスナがユウキの襟首を掴み、広場の隅に移動する。

 

 

「みんなも早くこっちきて!」

 

 

私がすぐにアスナを追うと、ポカンと口を開けていたジュン達もその後を駆けだした。

 

 

アスナは周りにプレイヤーがいない場所に皆を集め、早口で捲し立てる。

 

 

「のんびりしている余裕ないわよ。ボス部屋の前にいた3人、覚えてる?」

 

 

「ええ、はい」

 

 

アスナの問いにシウネ―が頷く。

 

 

「あれはボス攻略専門ギルドのスカウトだわ。同盟ギルド以外のプレイヤーがボスに挑戦するのを監視してるのよ。たぶん前の層でも、その前でも、みんながボス部屋に入るところを彼らに見られているはずだわ」

 

 

「えっ……まるで気付きませんでした……」

 

 

「恐らく目的はボス攻略の邪魔じゃなくて情報収集ね。スリーピング・ナイツのような小規模ギルドの挑戦を露払いにして、ボスの攻撃パターンや弱点位置を割り出しているんだわ。そうすれば、自分たちはデスペナルティもポーション代も払わなくて済むから」

 

 

アスナがそこまで言うと、タルケンが指先まで伸ばした手を上げて口を開いた。

 

 

「でも、ワタクシたちがボス部屋に入った後、すぐに扉が閉まったですよ。情報収集と言っても、ほとんど戦闘そのものは見られなかったのでは?」

 

 

「いや、実は戦闘の終盤になってジュンの足下に灰色のトカゲがいるのに気が付いた。他のプレイヤーに使い魔を付けて視界を盗む闇魔法《盗み見(ピーピング)》だ。すまない、私も完全に油断していた」

 

 

「ペルソナさんのせいじゃないですよ。わたしも最後の方まで見逃してましたし、一応スペルを掛けられた瞬間、1秒だけデバフのステータスアイコンが表示されたはずだけど……」

 

 

「え、参ったな。全然気づかなかった」

 

 

アスナの補足説明を聞いた途端、ジュンがバツの悪そうな顔をするが、彼は何も悪くない。きっとシウネ―が支援魔法を掛け直している途中に紛れ込ませたのだろう。余計なものが一瞬混じっているのに気付かなくても仕方ない。

 

 

「……ってことはもしかして、25層と26層でボク達が全滅した後、すぐにボスが攻略されちゃったのは偶然じゃなかったのかー!」

 

 

眼を丸くしたユウキの叫びが常闇の広場に響き渡った。

 

 

 





今回はここまでです。また次回もよろしくお願いします。
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