週一投稿が理想だけど、そう都合よくいかないなぁ。
戦闘が始まってから既に1分以上経っている。数倍の人数相手にスリーピング・ナイツは、正に獅子奮迅の戦いっぷりを見せるが、敵集団も容易には倒れない。後方に控えるメイジが回復魔法を絶えず詠唱しているからだ。
何度ダメージを与えてもすぐさまHPが回復していくその様に、ユウキも「ずるーい!」と声を上げていた。
私達のHPもじりじりと減少するものの、アスナとシウネ―が瞬時にHPを回復してくれるが、このままでは彼女たちのMPが切れて、私達が全滅するのも時間の問題だ。
――出し惜しみしてる場合じゃないな。
私は敵の数を減らすため、刀でOSS《シュンカシュンラン》を発動させる。
この技は少し特殊で攻撃しながら移動することが可能で、突き、横斬り、縦斬り、斬り上げで4人のプレイヤーをリメインライトへ変える。
「2人とも‼ 避けて‼」
「へ……?――わあ⁉」
硬直が解けた直後、聞こえたアスナの叫び声に振り向くと、慌てて飛びずさるユウキとレイピアを突き出して物凄い勢いで突進するアスナを視認し、私もすぐにその場から後ろに飛び退く。
一筋の彗星と化したアスナは、触れる敵全てを吹き飛ばしながら突き進んでいき、一瞬で最後方にいるメイジ隊の目の前で停止し、そのまま呆然としていたメイジ隊を虐殺した。
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アスナの特効によって回復部隊を全滅させられた敵部隊は、シウネ―に支援されたユウキ達の猛攻によりあっけなく壊滅した。
「さあ、ここからが本番だよ!行こう、ボスを倒しに!」
おう!と応じた6人と共に、私達はボス部屋へと入る。
「みんな、ポーションでHPMPを全快させておいてね。ボスの手順は打ち合わせ通り、序盤の攻撃パターンは単純だから落ち着いて避けてね」
アスナの言葉に小瓶を取り出す6人。私も同様にポーションを飲むが、皆が何か言いたそうにしているのに気が付いた。
「……さっきの人たち、ボクらを行かせるために……」
「……うん」
皆を代表して口を開くユウキに微笑みながら頷くアスナ。今頃、キリトとクラインのHPは0になり、セーブポイントに戻っているだろう。
ユウキたちは2人の事を気にしているようだった。
「気にするな。アイツらは自分の意志で私達に力を貸してくれたんだ」
「そうだよ。2人の気持ちには、ボス攻略成功の報告で応えよう」
「でもボク達、2人や2人の友達に助けられてばかりで……」
唇を嚙み、頭を俯かせるユウキの肩をアスナがポンっと叩く。
「わたしも、ユウキに大切なことを教えてもらったよ。《ぶつからなければ、伝わらないこともある》」
ユウキはキョトンっと眼を見開いたが、シウネ―達はアスナが何を言いたいかを悟ったように微笑み、頷いた。
その背後でかがり火が燃え上がる。
「さ、これがラストチャンスだよ!さっきのギルドは、きっとわたしたちが戦ってる間に態勢を立て直して回廊に最集合してくるわ。扉が開いた時、Vサインをプレゼントしてあげられるように頑張ろ!」
アスナが皆を鼓舞すると、視線の先で重低音を響かせながら四角いポリゴンが生成され、2つの頭を持つ四腕の巨人が姿を現した。
「よぉーし……もういっちょ、勝負だよ!」
ユウキの凛とした声に、全員の気勢と黒巨人の咆哮が重なった。
▼
「みんな、もうちょっとだよ!もうちょっとだけ頑張ろう!」
声を張り上げて叫ぶアスナ。が、その呼びかけに「おー!」と元気な声で応えたのはユウキだけ。彼女だけが、何十分経過しても息を崩さず、軽快なステップで巨人の槌と鎖をかいくぐり、的確にダメージを与えている。
新生アインクラッドのフロアボスはHPゲージが表示されない為、残りのHPはボスの挙動から推測するしかない。戦闘開始時はのろのろと動いていたボスが、今は暴走状態とでも言うべき動きをしていることから察するに、残りHPは少ないはずだ。
私も前回とは違い、両手剣、刀、槍を駆使しているが、ボスの防御が硬すぎる故に、ダメージがちゃんと入っているのか分からない。
そんないつ終わるかも分からない長期戦の中、突如として後方から飛来した数本の氷の柱がボスの2本の首の付け根に命中。ボスは悲鳴じみた雄叫びを上げ、ハンマー攻撃を中断して4本の腕を首の前で交差させて体を丸めて防御姿勢を取った。
――今のは、まさか。
「ユウキ!ペルソナさん!」
「アスナ、どうした?」
「あいつには弱点があるの。2本の首の付け根にあるクリスタル。あれを狙えば大ダメージを与えられるはずだわ」
「弱点⁉」
ユウキと共にボスの頭を見上げる。同時に上空から大樽のようなハンマーが降り下ろされ、私は両手剣でハンマーの直撃をいなし、続いて発生した震動波を垂直飛びで回避する。
「高い……ボクじゃ、ジャンプしても届かないよ!」
「大丈夫、わたしに考えがあるわ」
にっと笑いながら私の方を見るアスナ。彼女は急いで作戦内容を伝えた。
ボスは鎖を振り回した後、続けて2つの口から黒いガスを吐き出し、前衛に立つジュン達のHPを削る。だがすぐに、シウネ―が回復魔法で減った分のHPを回復させる。
それでもボスは攻撃の手を緩めず、上側の手に持つハンマーを振り上げる。
ユウキは腰を落とし、走り出すタイミングを見計らい、そんなユウキに向けてアスナは早口で檄を飛ばす。
「最後のチャンスよ、頑張れユウキ!」
「任せて、姉ちゃん!」
背を向けて応えるユウキ。アスナは自分が「姉ちゃん」と呼ばれた事に驚いていたが、そんなアスナをよそに彼女は地を蹴った。ボスがハンマーを叩き付けると同時に、私が床と水平に持つ
「っ、い……けぇ‼」
剣にユウキが乗った瞬間、私は彼女をボスの方へと投げ飛ばした。
「やぁーっ‼」
ユウキの気合の入った掛け声と共に、青紫色のライトエフェクトが迸る。
空中でソードスキルを発動させた場合、そこが飛行不可エリアだとしても、技が終わるまで使用者が落下することはない。アスナが提案した作戦はこのシステムを利用し、ユウキの11連撃で一気にたたみかけようというものだった。
鋭い剣先が急所を抉るたびに、ボスが悲鳴じみた絶叫を上げる。
クロスを描くように巨人の首元に叩き込まれた10発の突き技。ユウキが一度体を捻って放った最後の一撃は、エックス字の交差点にあるクリスタルを見事に貫いた。
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「ボス攻略成功を祝して……乾杯!」
あの後の話をしよう。
ユウキがボスを倒した後、すぐにボス部屋の扉が開いて大規模ギルドのレイドパーティーが入ってきた。が、彼らはボス部屋が明るいことに気付くと、驚愕と悔しさの表情を浮かべ、そんな彼らに私達はVサインを突き付けてやった。
その後、スリーピング・ナイツとは傭兵としての関係だった私とアスナは契約が終了すると思ってたのだが、シウネ―の提案でボス攻略の打ち上げをすることとなり、現在22層のアスナの家で山のように積み重なったご馳走を囲んでいる。
「それでねぇ、間違いなく最悪だったのはアメリカの《インセクサイト》ってやつだよー」
「ああ……あれねえ」
顔をしかめ、両手で体を抱くような素振りをするユウキにシウネ―が苦笑いを浮かべながら頷く。
「へえ……どんなやつ?」
「虫!虫ばっか!モンスターが虫なのはともかく、自分も虫なんだよ!ボクはまだ二足歩行のアリンコだったんだけど、シウネ―なんかデッカイ芋虫でさ!口から糸をぴゅーって」
そこで我慢しきれなかったのか、ユウキは噴き出すように笑い出し、シウネ―が口を尖らせると、アスナも一緒になって笑った。
「いいなぁ、みんなで色んな世界を旅してきたんだね……」
「アスナたちは?VRMMO歴、かなり長そうだけど」
「わたしは、ここだけなんだ。この家を買うのに随分時間掛かっちゃって……」
「私は少し前までGGOをやっていた。銃で互いに撃ち合うゲームだ」
「あー‼」
私がそこまで言うと、ジュンが何か思い出したように叫んだ。
「もしかして第三回BoB優勝者
「……ああ、私のことだ」
また話が盛り上がりそうになった途端、シウネ―がアッと声を漏らす。
「忘れてました!私たちアスナさん達にボス攻略のお手伝いをお願いする時に、ボスがドロップしたものを全部お渡しするって約束してましたよね。どうしましょう、こんなに買い込んじゃって」
「うわ、ボクもすっかり忘れてた!」
申し訳なさそうに肩をすぼめる2人。そんな二人にアスナは笑って口を開く。
「いいよ、少しだけ何か貰えれば。ううん――やっぱり……」
アスナはそこで口をつぐみ、大きく息を吸って表情を改めた。
「やっぱり何もいらない。その代わり、お願いがあるんだ」
「え……?」
「契約はこれで終わりなんだけど、でも、わたしユウキともっと話したい。訊きたいことがいっぱいあるの。――わたしをスリーピング・ナイツに入れてくれないかな?」
アスナが発したその言葉に、ユウキ達のみならず、私自身も驚いた。
ALOを始めてからいくつかのギルドからの勧誘は何度かあったし、キリト達とギルドを結成しようという話もあった。だが、何となくうやむやになっていたのだ。その理由は、ギルドに対する《怖れ》があったからだ。私もアスナも、そしてキリトだってそうだろう。
だからこそ、アスナが自らギルドに入りたいと言い出すとは思わなかった。
長い静寂の中、ユウキは無言でアスナを見ていたが、やがて動いた唇から発せられた声は、いつになく揺れていた。
「あのね……あのね、アスナ。ボク達はもうすぐ……多分、春までに解散しちゃうんだ。それからは、みんな、中々ゲームには入れないと思うから……」
「解ってる。それまでで良いの。わたし、ユウキと……みんなと友達になりたい。それくらいの時間はあるよね……?」
身を乗り出し、ユウキの瞳を覗き込むアスナ。だがユウキはそんなアスナから逃げるように視線を逸らし、小さく首を左右に振る。
「ごめん……ごめんね、アスナ。ほんとに……ごめん」
何度も「ごめん」と呟くユウキ。そんな彼女の様子にアスナもそれ以上何も言えなくなり、助けを求めるように私の方に視線を向けてきた。
――まあ、この空気は耐えられないな。仕方ない……。
「そう言えば、もうアレが更新されているところだろうな」
「『アレ…』…?」
何のことを言っているのか解らないと言いたそうに首を傾げるシウネー。
「……黒鉄宮の《剣士の碑》だ」
「そうか!」と大声で立ち上がったジュン。
――まさかと思うが、本来の目的を忘れてたんじゃないだろうな……。
「行こう行こう!写真撮ろうぜ‼」
「そうだね、行こ?」
アスナがそう言うと、俯いていたユウキも顔を上げ、小さく笑った。
▼
――やはり、ここに来るのはまだ慣れないな。
アインクラッド第一層《はじまりの街》の中央広場にある巨大な王宮《黒鉄宮》。今では観光スポットの1つとして多くのプレイヤーが出入りしている。
「あれか!」
剣士の碑を見ると同時にジュンとノリが走っていき、私も数秒遅れて近くまで来ると、その巨大な鉄碑を見上げる。
――もしSAOがデスゲームでなければ……。
剣士の碑のようにフロアボスを倒したプレイヤーの名前が記載されたのだろうかと考えたが、今になってその疑問の答えを確認する術はない。
「あ、あった」
不意にユウキが呟き、同時に私も鉄碑の中央、【Braves of 27th floor】の文の下に刻まれた私達の名前を見つけた。
「あった……ボク達の、名前だ……」
どこか呆然としたように呟くユウキ。その瞳は微かに潤んでいる。
「おーい、写真撮るぞ!」
後ろから響くジュンの声に振り向き、鉄碑の前に並ぶと、ジュンは《スクリーンショット撮影クリスタル》のタイマーを設定し、ユウキとテッチの間に収まる。
全員がピースサインをクリスタルに向けていたので、私も合わせてピースサインを作った。
写真を撮った後、アスナとユウキは振り返って再び剣士の碑を見上げていた。
「やったね、ユウキ」
「うん……ついにやったね、姉ちゃん」
そのユウキの呟きを聞き、アスナは笑みをこぼす。
「ユウキ、また言ってる」
「え?」
本人は無意識だったのだろう。ユウキは不思議そうにアスナの方を見る。
「わたしのこと『姉ちゃん』だって。ボス部屋でも言ってたよ。わたしは嬉しいけど……⁉」
その言葉は途中で途切れた。
それもそうだ。何故なら、先程まで笑顔だったはずのユウキが、口許を両手で覆い、目から大量の涙を流していたからだ。
「ゆ、ユウキ?」
「……ユウキ、どうした?」
明らかに普通ではない状況。流石に静観しているわけにもいかず、私もアスナと共に手を伸ばすが、ユウキは私達から距離を取るように後ずさる。
「ぼ、ボク……」
ユウキは溢れる涙を拭い、震える手で素早くウインドウを操作しログアウトした。
……その日を境に、《絶剣》ユウキがALOに現れることはなかった。