仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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第53話 新たな旅

 

藍子(ラン)木綿季(ユウキ)の手術から一週間後、手術後の経過観察のために入院していた私は退院。

 

 

退院後、私は何度も藍子たちの見舞いのために病院に足を運び、その度に倉橋医師から彼女たちの様子を聞いた。

 

 

日が増すごとにHIVウイルスの数は減少し、それに伴い彼女たちの体を蝕んでいた病原体も減少を始めている。今では一日中メディキュボイドの中にいなくても問題ないくらいには回復しているそうだ。物事は確実に良い方向に進んでいる。

 

 

しかし上手く行くことだけじゃないのが現実。手術前に症状が悪化していた藍子の眼はほとんど見えていない状態にあるらしく、現段階ではどうにもならないとのこと。

 

 

だが、それはあくまで《今の藍子》ではという意味で、この先、リハビリを続け、ある程度体力が戻れば手術を受け、視力を回復できる見込みがあるそうだ。まだ先の話になるが、希望とやらはそうそう捨てたものじゃない。

 

 

また、私の両親が藍子と木綿季の親権を巡って彼女たちの親戚と揉めているらしい。

 

 

というのも、これは以前、藍子から聞いた話だが、彼女たちの両親が亡くなった後、残った家のことで親戚中が大揉めしており、病気のことで現実では避けてきた叔母も、わざわざフルダイブしてまで遺書を書けと馬鹿げたことを言う始末。父親の遺産で10年は管理できる筈だからそれまで残してほしいという藍子の要求もあっさりと拒否されたそうだ。

 

 

その話を聞くや否や、激怒した我が両親。詳しいことは聞かされてないが、父は「裁判に持ち込んででも親権を奪ってやる」と言っており、母からも「こっちは私達に任せて、あんたは学校とあの子たちの事だけに集中してなさい」と釘を刺された。

 

 

――もはや相手の方に同情する。

 

 

恐らく相手の方には何も残らないどころか、今までの藍子たちに対する差別的行為を指摘され、それ相応の罰を受ける可能性も出てくる。……実際どうなるかは、その時になるまで分からないが。

 

 

 

 

 

 

さて、そんな話は置いておいて現状を説明しよう。

 

 

「藍子、視界の調子はどうだ?」

 

 

『はい、ちゃんと見えてます』

 

 

SAO帰還者学校、電算室。そこで私が目の前の椅子に座っている大学で研究中の人型ロボットの試作機――仮称・アンドロメダ――に話しかけると、スピーカー越しに藍子が凛とした声で応える。

 

 

私はインターンシップで、SAO帰還者学校のメカトロニクスコースの特別講師としてきており、和人たちメカトロニクスコースの生徒たちが興味深そうに私の作業を観察している。

 

 

事の始まりは木綿季が藍子と共に学校に行きたいと言い出したことだ。しかし、和人の双方向通信プローブは2人分用意することは出来ず、藍子と木綿季が日々入れ替わって通う形にはなっているものの、姉と共に学校へ行くという木綿季の本来の望みを叶えることが出来ない。どうしたらいいかと、和人から話が来たのだ。

 

 

都合よく私の大学ではインターンの時期で、私としても授業の一環としてアンドロメダの試験運用、調整ができるから助かるのだが、

 

 

「……良し。調整はこれで終わりだ。仕上げに……」

 

 

私がPCのキーを押すと、アンドロメダは人の姿へと変わる。ナノマシンを利用した形状変化だ。周りの生徒たちからは「おーっ!」と感嘆の声が上がるが、正直なところ作った私ですら普通の人間との見分けがつかない。

 

 

――明らかにこの世界にはオーバーテクノロジーなんだよな……。

 

 

「凄いな。これ全部きみが作ったのか?」

 

 

「いや、私が担当したのは基本的なプログラムと内部のマイコン。そしてナノマシンの作成だ。ボディの設計は機械専攻の、腕や足といった部位の人工筋肉は化学専攻の知り合いに担当してもらってな。医学専攻の知り合いにも医学方面から意見を聞かせてもらった」

 

 

「きみって友達いたんだな……」

 

 

――おい、どういう意味だ。

 

 

声には出さなかったが、私は無言で和人を睨む。……というより、私からすれば和人に友人がいたことの方が驚きだ。明日奈からは「わたしたち以外と話しているところ見たことないんですよ」と聞いていたのだが。

 

 

「あのー、そろそろいいですか?」

 

 

「ああ、すまない藍子。最後に忠告だが、いくら人に近い姿をしているとはいえ、その体は機械だ。激しい動きや強い衝撃は危険だし、もちろん水もNGだ。何か問題があれば私の所に来い。基本この教室にいるからな」

 

 

「はい。分かりました」

 

 

藍子は深々と頭を下げ電算室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは足早に明日奈さんと木綿季が待つ教室へ向かっています。明日奈さんの肩に乗って何度も来たことがあるので教室までの道はバッチリです。――それにしても……、

 

 

――なんか周りからの視線が気になるような……。

 

 

理由は物珍しさからなのかもしれません。SAOでは女性プレイヤーの数が少なく、明日奈さんや珪子(シリカ)ちゃんにはファンクラブがあったから気を付けろってペルソナさんが言ってましたが、わたしも皆さんにそういう目で見られているのかも……と思うのは、わたしの自意識過剰でしょうか?

 

 

そんな事を考えていると、いつの間にか教室に着いていました。扉を開けると教室中の視線がわたしに集中します。プローブ越しに初めて来たときのことを思い出しました。

 

 

『あー!姉ちゃんやっと来た!遅いよ、もう!』

 

 

そんな元気な声が教室中に響いて、わたしが先日まであのプローブで通っていた紺野藍子だと気付いたみんなは驚きながらも周囲に集まってきて、中には気絶している男子生徒もいました。

 

 

わたしは事情を説明しながら生徒の波を掻き分けて進み、用意してもらった自分の席に座ると、隣の席に座る明日奈さんの肩に乗っている機械に向かって叩くふりをして、レンズ越しの妹に文句を言うと、ユウは軽く『ごめーん』っと笑いながら返す。

 

 

『でも姉ちゃんだけいいなぁ。ボクもペルソナに頼んでみようかな』

 

 

「彼が言うには予算が無いから新しいのは無理だって言ってたよ」

 

 

『むうー、じゃあ姉ちゃん、ちょっと変わってよー』

 

 

「ん-……ごめんねユウ。まだしばらくはお姉ちゃんが使っていたいから」

 

 

ユウからは『えー⁉姉ちゃんのケチ!』と言われてしまいましたが、いつも譲ってきた分、今だけでもわたしの我が儘を許してね。

 

 

 

 

 

そのあとは普通に授業を受けてクラスのみんなとも楽しく過ごすことが出来ました。

 

 

帰る頃にペルソナさんにユウがこの体を使いたいと言っていた話をすると、彼はわたし達2人が使えるように予め調整しているっと言ってくれました。――本当に優しい人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ALO新生アインクラッド第22層――

 

 

この日はキリト達の家でバーベキュー大会が催され、キリト、アスナ、シリカ、リズベット、クラインといったいつもの仲間達と、スリーピング・ナイツのメンバー。更にサクヤ、アリシャ、ユージーンといった一部種族の重役達。そして何故かいるクリスハイト(菊岡)といった豪華な面子が集まった。

 

 

サプライズでランを登場させた時は、ユウキを含めスリーピング・ナイツの全員が泣いて喜んでいた。状態が安定してきてALOへのダイブ禁止令は撤回、この日から本格的に復帰する。尚、スリーピング・ナイツのリーダーはこれまでどおりユウキに任せるようだ。

 

 

また、絶剣の噂を聞きつけていた領主達は、早速ユウキを自陣へ勧誘していたが、ユウキは笑ってそれを辞退。最強の剣士《絶剣》に振られ、肩を落としていたが、何を思ったのか領主2人は私を勧誘してきた。何度も断っているのだが、何故か諦めてくれない。

 

 

今回もいつものように適当に流そうとしたのだが、

 

 

「なあ、良いだろうペルソナ君。この後、私の部屋で一緒に酒でも……」

 

 

「コラー‼アリシャちゃん、色仕掛け禁止!ねえねえ、シルフよりケットシーの方がゼッタイいいヨー?可愛い女の子もイッパイいるしさー」

 

 

酒が入って酔っているのか、いつぞやの時のように抱き着いて、ウザ絡みされている。

 

 

――いや、VRの酒にアルコールは入ってないのだから酔うわけないのだが。

 

 

「ダメです……」ガシッ

 

 

と、その時、ランにコートの裾を掴まれた。

 

 

「ダーメーれーすー!ペルソナさんはわたしたち、しゅりーぴんぐ・にゃいつのれすから‼」

 

 

――ラン、お前もか……。

 

 

領主2人とは違い、彼女は本気で酔っていた。きっと場酔いするタイプなのだろう。

 

 

その様子を見て、クラインから恨めしそうな眼を向けられるが、それはいつもの事だから無視した。だが、クリスハイトが微笑ましそうな視線を向けてくるのが癪に障った。アイツには後で個人的に迷宮区の攻略に付き合って貰うことにしよう。

 

 

その後、二次会と称して28層の迷宮区に突撃し、その勢いでその層のボスモンスターを倒してしまったのは、良い思い出だ。

 

 

因みに、先程ランが酔った勢いで私をスカウトしたのは本気だったそうだが、私はこれから先も、ギルドに入るつもりは無いので、彼女からの誘いを断った。その代わりと言ってはなんだか、アスナがスリーピング・ナイツに加入した。ランが少し残念そうにしたのは、見ていないフリをした。

 

 

 

 

 

 

それからもスリーピング・ナイツの面々との交流は深まっていった。

 

 

ある時は現実世界で桐ケ谷家を訪ねたり、私の大学に特別に入れてもらい、双方向通信プローブやアンドロメダの今後の展開形について議論を交わしたり、またある時は1パーティーでフロアボスを攻略しにも行った。更に、2月中旬に開催された統一デュエル・トーナメントにおいては、キリトとユウキが各々のOSSを使用する激戦を繰り広げ、ユウキが最後に放った11連撃でキリトを破った際には、会場からは大歓声が上がり、MMOストリームの中継されていたこともあり、《絶剣》の名は世界中に響き渡った。

 

 

余談だが、私は目立ちたくないため参加せず、ユウキに色々と文句を言われた。お詫びに個人的にデュエルをする約束をしたのだが、ユウキが大会後のインタビューで「あの時の決着は次の大会でだからね、ペルソナ!」っと指名された。生中継で逃げ場が完全に無くなったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

私たちは仮想と現実の境界を越え、数えきれないほどの思い出を、長い旅路を共に刻んた。全てが夢のような日々。気付けばすでに3月下旬。――もうすぐ新たな季節がやってくる。

 

 




前回記載するのを忘れてました。藍子のこの小説内でのプロフィール。


〇紺野藍子/アバター名《ラン》
・ギルド《スリーピング・ナイツ》の元リーダー
・紺野木綿季(ユウキ)の双子の姉
・剣を片手に前衛で戦う妹とは異なり、後方からの魔法攻撃が得意
・現実世界では病気の影響で視力はほぼ0
・意外と場酔いするタイプで、記憶は残るタイプ

↑現時点ではこんな所です。多分この先も変えることはないでしょう。


次回、マザーズロザリオ編最後です。
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