仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。オーディナル・スケール編です。


オーディナル・スケール編
第55話 オーディナル・スケール始動


 

東京某所――

 

 

最近、世間では《オーディナル・スケール》という最新ARゲームが話題を呼んでいる。

 

 

人々は次世代マルチデバイス《オーグマー》を装着し、ボス攻略などでポイントを集めることでランキング上位を目指す。順位が高くなるにつれて様々な特典が貰えるため、特に若者からは人気が高い。

 

 

かく言う私も、母の頼みでクーポンや商品券目当てで参加しているが。

 

 

そして今夜、この場所で発生するボス攻略イベント。私はある噂を耳にし、この場所に来ている。

 

 

――そろそろ時間か……。

 

 

「オーディナル・スケール起動」

 

 

その言葉がキーとなり、私の服装は黒と紫を基調としたロングコートへと変わり、私の手には両手剣が出現した。

 

 

――軽いな。これなら片手でも振り回せそうだ。

 

 

いつも手に感じる重みがない。仮想世界のような重さを再現するのが難しいのは分かるが、そういう所もできるだけ再現してほしいと感じるのは、私だけではない筈だ。

 

 

「やっほー!みんな集まってくれてありがとー!」

 

 

9時ちょうどを迎えたと同時に、周囲を飛ぶドローンの一体から1人の少女が出てきた。オーディナル・スケールのイメージキャラクターでARアイドル《ユナ》だ。

 

 

他のプレイヤーはユナの登場に驚き、困惑している。 無理もない。ボスイベントと聞いてやって来たのに、現れたのはボスではなくアイドル。驚くなっという方が難しいだろう。

 

 

「準備はいいかな?それじゃー…戦闘開始!」

 

 

ユナの合図と共にプレイヤー達の目の前に牛のような顔の人型巨人が姿を現す。 そのボスを見て、私を含めプレイヤー達は更に驚愕した。そのボスを私は知っている。

 

 

「アインクラッド第1層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》……噂は本当だったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その青年は高台からコボルドロード相手に奮闘するプレイヤー達を見下ろしている。その中でも彼が注目しているのは、両手剣を片手で振り、誰よりもダメージを与えているプレイヤー……ペルソナだ。

 

 

「何も変わってないんだな……あんたは……っ」

 

 

恨めしそうな目でペルソナを睨む青年。彼が手に持つ本は強く握られ、ページが酷く歪む。

 

 

その間にボスは攻略され、プレイヤー達は歓喜する。その様子を見届けると、青年はその場を後にした。

 

 

「復讐はまだ始まったばかりだ。ペルソナ……あんたや黒の剣士達にもいずれ思い知らせてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私には最近新たな日課ができた。義妹たち(予定)の見舞いだ。今日も大学の帰りに2人が入院している病院へと赴いている。常連となった今では、すぐに彼女たちのいる無菌室へと通されるようになった。いわゆる顔パスというやつだ。

 

 

「藍子」

 

 

「あ、今日も来てくれたんですね」

 

 

面会用の部屋に入り彼女の名前を呼ぶと、ガラス越しの無菌室にいる藍子の表情が和らぐ。

 

 

彼女の視力はほとんど失われているため、リハビリの時以外はメディキュボイドの中にいるそうなのだが、私が訪れるときは何故かいつもメディキュボイドから出ているらしい。なので私は病室に入る度に彼女の名前を呼んでいる。以前その事について何か理由はあるのかと聞くと、「貴方には本当のわたしを見てもらいたいから」とのこと。……まあ、無理していないのなら別に良いが。

 

 

「順調そうだな」

 

 

「はい。自分でも体力と筋肉が戻ってきたって感じが分かるんです。倉橋先生も『この調子なら予定通り無菌室を出られるだろう』って言ってました」

 

 

「そうか……」

 

 

――死を宣告された彼女たちがここまで回復したのは嬉しい限りだ。

 

 

「それはそうと、最近ALOにログインしてないですけど、大丈夫ですか?もし忙しいのなら、毎日お見舞いに来て下さらなくても……」

 

 

「ああ、その事なら別に心配はいらない。見舞いも私が好きでやっている事だ。偶然にも大学が近所でな。帰りに寄ってるだけだから時間的にも問題はない」

 

 

藍子の表情が少し暗くなるのを見て、私は急いで事情を説明する。

 

 

「それと最近ログインしてないのは、本当にすまない。ARの方で気になるイベントがあってな、VRの方に時間が割けなくなってきてるんだ」

 

 

「例のオーディナル・スケールですね。その影響で各VRMMOの総ログイン数が減少してて、イベントが中止になるって話もよく聞います」

 

 

「今はどこもAR一色だからな。まあそれも一時的なものだろう」

 

 

「そう……ですよね」

 

 

「それに、これからは私もなるべくVRにも入れるようにする。さっきも木綿季にログインしてない事で散々言われたからな」

 

 

「ふふっ、そうですか」

 

 

再び彼女の表情に笑顔が戻る。その後、私たちは時間の許す限り世間話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、私はボス攻略イベントの情報をもとに、ボスが現れるという場所へと訪れた。

 

 

――ギリギリまで情報が開示されないのはどうかと思うが。

 

 

「おっ、君も来たんだな」

 

 

「かず……いや、今はキリトか。それとアスナにクライン」

 

 

「こんばんは」

 

 

「よう、ペルソナ!今日は期待してるぜ!」

 

 

そこにはキリトとアスナ、そしてクラインと彼のギルド《風林火山》のメンバーがいた。

 

 

――さて、時間だな。

 

 

「オーディナル・スケール起動」

 

 

その言葉と共に私の姿は変わり、街の風景も殺風景なビル群から西洋の街並みのような物へと変化した。そして私たちの視線の先にボスが姿を現す。

 

 

その姿は正に鎧武者といったところか。

 

 

「キリト君、あれ」

 

 

「ああ。アインクラッド第10層ボス《カガチ・ザ・サムライロード》だ」

 

 

「どんな奴だ」

 

 

「ああそうか、君は戦ったことなかったな。刀スキルを使う範囲攻撃が厄介な相手だよ。HPが減ると大技を使ってくる。これには気を付けた方が良い」

 

 

ボスの情報をキリトから聞いている間に、ボスに続いていつものように(・・・・・・・)AIアイドルのユナが現れ、歌い始める。

 

 

彼女が歌うエリアはボーナスステージとして扱われ、プレイヤー達にはバフが掛かり、クリア時にはボーナスポイントが獲得できるのだ。

 

 

 

戦闘が始まると、ボスの周りにいるプレイヤー達が次々とやられていく。この手のゲームは、ボスの攻撃で一撃死することが良くある。だからこそ、初めの方は相手の動きをよく見てパターンを覚える必要がある。

 

 

――まあ、こちらには初めからパターンを知ってる奴らがいるのだが。

 

 

現在、クライン達が壁役(タンク)攻撃役(アタッカー)が連携して確実にボスにダメージを与えている。因みに私とキリトは後ろでボスの動きを観察している。パターンを知らない私が行っても邪魔になるのは目に見えている。キリトは、恐らくまだARの感覚に慣れていないだけだろう。

 

 

「範囲攻撃、来るぞ‼気を付けろ‼」

 

 

クラインがそう叫ぶと、サムライロードの左腕から白い蛇のような攻撃が周囲のプレイヤーを薙ぎ払い、銃を使って遠距離から攻撃しているプレイヤー達を一掃した。

 

 

「狙われてるぞ!」

 

 

ボスの攻撃が迫ってくると同時に、私はそれを回避し、ボスの懐に入り込む。そしてすれ違いざまに一撃を加える。

 

 

続けてキリトも攻勢に出たが、少しの段差に躓いて転倒。ボスの目の前で無防備な姿を晒した。

 

 

――まったく、何をしているんだか。

 

 

どうせ真面な運動をせずにVRに入り浸っていたのだろうと呆れつつ、私は一時撤退するキリトを援護しながら一度ボスから離れる。

 

 

「オラ、どいたどいたー!」

 

 

そんな威勢の良い声と共に、虎男がランチャーを発射する。

 

 

発射された弾はボスに向かって一直線に飛んでいくが、なんと奴は寸での所でそれを避け、外れた弾はその後ろで歌っているユナへと迫る。

 

 

「ヤベっ⁉」

 

 

ランチャーを発射した本人も焦った声を漏らすが、その次の瞬間、1人のプレイヤーが飛び出し、ランチャーの弾を剣で弾き返してボスに当てた。

 

 

「ランク2位 ⁉すごい……!」

 

 

――アイツは、まさか……。

 

 

突如として現れたランキング2位のプレイヤーに驚くアスナだったが、私はその男に見覚えがあった。だが、先程の人間離れした動きは、私の記憶の中の"奴"とは合致しない。

 

 

「大技が来るぞ‼タンクの奴らは着いてこい‼」

 

 

その男は2本目の刀を抜いたサムライロードの斬撃を華麗に躱し、ボスにダメージを与える。続いてアスナとクライン達が攻撃を加えていくが、奴もタダでやられる気はないらしく、2本の刀を振り回し、四方へと飛ぶ斬撃が周りにプレイヤーを近づけさせない。

 

 

――なるほど。確かにキリトの言っていた通り厄介そうだな。だが、

 

 

私はクライン達がボスの周りから離れる中、1人飛び交う斬撃の雨を避けながらボスに近づく。

 

 

――パターンが解れば大した事はない。

 

 

私以外にボスの懐に飛び込んだのは、やはりランキング2位の男。私たちが双方向から攻撃を加え、ボスが態勢を崩す。そこに飛び出してきたアスナがレイピアを突き立てると、サムライロードは花火のようなエフェクトを上げながら爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボスモンスター攻略おめでとー!ポイント、サービスしておいたよ!」

 

 

ボスモンスター撃破のポイントに追加でユナからのボーナスポイントが加算される。

 

 

――奴は……もういないか。

 

 

私は周囲を見渡し、ランキング2位のあの男を探したが、既にその姿はなかった。

 

 

「ナイスファイト、ペルソナ」

 

 

「ああ。それはそうとキリト、OSを続けるならお前はもう少し運動した方が良いぞ」

 

 

「いや、こっちの攻略は任せるよ。それよりも君のそれは……」

 

 

キリトは私の頭の上を指差す。そこには『3』という私のOS内での順位が表示されていた。

 

 

「意外か?」

 

 

「ペルソナさん、3位だったんですね」

 

 

「私は今までに開催されたイベント全てに参加しているからな。それと……」

 

 

私が言葉を続きを言う前に、ユナが私の近くに降り立ち、そのまま私の頬にキスをした。

 

 

「「「なっ⁉」」」

 

 

「今日()MVPはあなた!これで10連勝、スゴイね!また期待してるよー!」

 

 

ユナはそう言い残して立ち去る。

 

 

「っと、まあこんな具合にユナからのMVPボーナスが貰えてな、結構トントン拍子にランクが……って、どうした?」

 

 

説明を続けようとすると、キリト達は驚いた表情のまま固まっていた。

 

 

「ペルソナ、オメェ!ユナちゃんからキスして貰えるとか羨まし過ぎるぞこの野郎!しかもさっき『10連勝』とか言ってたよな⁉まさか10回もキスされたのか‼」

 

 

私の肩を揺らしながら抗議してくるクライン。仕方ないだろ、そういう仕様なのだから。

 

 

「ペールーソーナーさーん?ちょっとお話しましょうか?」

 

 

後ろに黒いオーラを纏わせながら笑顔で近づいてくるアスナ。

 

 

「ちょっと待て。私は怒られるような事は何もしていないと思うが」

 

 

「いいえー怒ってませんよー。ただ、すこーし『お話』がしたいだけです」

 

 

――それのどこが怒ってないんだ。

 

 

その様子を見て苦笑いをしながら「ファイト」とジェスチャーを飛ばし、意気消沈しているクラインを連れて撤退するキリト。……いや、止めてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、30分くらいアスナの理不尽な説教を一方的に聞かされた。途中、ランやユウキがいるのにどうとか言われたが、2人に何か関係があるのか?

 

 

――まあ良い、今日は少し疲れたな。

 

 

相当疲れが溜まっていたのかベッドの上に倒れ込むと、私はすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、私は懐かしい夢を見た。

 

 

SAO時代、その日も私はいつものように迷宮区へと潜るためのアイテムや食料を調達し、いつものように宿で寝ようとしていた時だった。

 

 

「~~♪」

 

 

何処からか歌が聞こえ、私は惹かれるように自然と脚を進めていた。

 

 

――吟遊詩人か。珍しいものだな。

 

 

声がした方には楽器を弾きながら楽しそうに歌う少女。立ち止まるプレイヤーはほとんどいなかったが、彼女はそんな事はお構いなしに、ただ楽しそうに歌っている。私はそんな彼女の歌につい聞き入ってしまっていた。

 

 

「ご清聴、ありがとうございました」

 

 

「……いい歌だった。君が作ったのか?」

 

 

「はい。わたし、歌うのが好きなので。でも、戦えないわたしには歌うことしか出来ないので、せめてみんなを勇気づけようって色んな場所で歌ってるんです。ただの自己満足ですけど……」

 

 

それでも十分素晴らしい事だ。この世界に囚われたプレイヤーの中には戦えない者は少なくない。それでも自分にも何か出来ないか行動する者もいる。彼女の歌だって、いつも戦いに明け暮れているプレイヤー達の心を人知れず誰かを癒している筈だっと伝えると、

 

 

「ありがとうございます。あの、また何処かで会えたら、歌聞いて行ってくださいね」

 

 

そう言って上機嫌に立ち去る少女。

 

 

私はその後幾度となくこの不思議な吟遊詩人の少女と出会うことになるのだが、そんな事をこの時の私は知る由もなかった。

 

 

 

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