仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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大変お待たせしました。第57話です。



第57話 失ったもの

 

人目が付かない街の端で、2人の剣士が互いにぶつかり合っていた。

 

 

「はあっ!」

 

 

「……」

 

 

紅白の装備を身に纏った少年の攻撃を、青年は易々といなす。

 

 

剣同士がぶつかる音が響く中、少年の剣が弾かれ、その首に剣先を突き立てられる。

 

 

「……終わりだ」

 

 

「っまだ――!」

 

 

「これ以上続けても無駄だ。それとも、貴様はこの状況を打開する策があるというのか?」

 

 

その言葉を受け、下を向く少年…ノーチラス。そんな彼に追い打ちを掛けるように青年…ペルソナは続ける。

 

 

「……貴様は死の恐怖を克服することは出来ない」

 

 

「そんなことっ」

 

 

「何度も手を合わせた私だから分かる。貴様は頭では恐怖に打ち勝とうとしている。というより、既に打ち勝っている。でなければ、私相手にここまで戦い続けられている訳がない」

 

 

「じゃあ、何で!」

 

 

「貴様の本能がそれを是としていないからだ。今の貴様ならプレイヤーとの決闘(デュエル)で負ける事はない。恐らく、あの《黒の剣士》が相手でも善戦できるだろう。だが、エネミーやレッドプレイヤー相手では話は別だ。本能が自らの命を優先させ戦闘を拒絶する。このまま迷宮区に行っても、貴様はきっと同じことを繰り返す」

 

 

「それじゃあ、僕は今まで何のために……」

 

 

「攻略組として戦うのは諦めろ。それが彼女のためにもなる」

 

 

叩き付けられる現実に落胆するノーチラスをそのままにし、ペルソナはその場から離れようとする。

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

そんな彼を呼び止める吟遊詩人の少女…ユナ。

 

 

「悪いが君の望みには応えられそうにない。奴を死なせたくないなら、今のギルドを脱退させ、前線から身を引かせるべきだ」

 

 

「そんな……」

 

 

「……すまない」

 

 

彼はそう言い残し、ノーチラスとユナから眼を逸らす。そしてまた、いつものように迷宮区に籠るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍子たちの見舞いを終え、帰宅すると同時に電話が鳴った。

 

 

「もしもし」

 

 

『おおペルソナ!俺だ、エギルだ!』

 

 

「エギル?どうした」

 

 

『実はクラインに連絡が取れないってキリトから連絡があってよ、嫌な予感がして調べてみたら、アイツ、昨晩から腕の骨を折って代々木の病院に入院してたんだ』

 

 

「なっ⁉」

 

 

『細かいことは分からないが、OSのイベントに向かう途中でトラブルにあったみたいだ』

 

 

それならクライン達が最後まで昨晩のイベントに参加してこなかったのにも辻褄が合う。だが、奴らはあの時、遅刻したメンバーを待っていた筈だ。つまり、私とアスナと別れた後に何か起きたっという事になる。

 

 

――昨日すぐに連絡を取るべきだったか……!

 

 

「その事、和人には」

 

 

『それがさっきから全然繋がらなくてよ、お前何か知らないか?』

 

 

和人は自分なりに調べてみると言っていた。恐らく、私と同じようにイベントが開催された場所を回っているのかもしれない。電話に出ないのはバイクを運転しているからだと考えられる。私はその事をエギルに伝えた。

 

 

『わかった。俺はキリトの奴と繋がらないか試しておく。お前も気を付けろよ』

 

 

「ああ分かった」

 

 

電話を切ると私はすぐバイクに跨り、クラインが入院しているであろう病院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我の具合は……良くはないか」

 

 

「まあな。イッチチ……気ぃ遣わせちまって悪いな」

 

 

病室には、ギプスで右腕を固定されたクラインの姿があった。

 

 

「一体、何があった?」

 

 

「分からねぇ。代々木公園でお前とアスナと会ったとこまでは覚えてるんだが、そっから先は頭にモヤが掛かったみてぇでよ……気が付いたら病院(ここ)に……」

 

 

やはり私たちと別れた後に何かあったようだ。問題は、その「何か」だが。

 

 

「それと、実はよ……」

 

 

「何だ?」

 

 

「実は俺、SAO時代の記憶が無いんだ」

 

 

一瞬、何を言っているのか理解できなかった。サバイバー(わたしたち)が決して忘れることは出来ないであろうあの2年間の事を、クラインは全く覚えていないというのだ。正確には、思い出そうとしても、昨晩の事と同様にモヤが掛かって思い出せないとのことだが。

 

 

「ただ……朧げだが、少しだけ覚えてる事がある。俺達を襲ったのは恐ろしく速い身のこなしの男……OSのプレイヤーだった。奴には気を付けろ」

 

 

恐ろしく速い身のこなし……そう聞いて思い浮かんだのはランク2位(アイツ)の顔だった。

 

 

「分かった。キリト達には私の方から伝えておく。……お大事にな」

 

 

病室から出た私はすぐ菊岡にクラインから聞いた話をメッセージで送り、今回のイベント会場へと向かった。時間までまだあるが、早いに越した事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーディナル・スケール起動」

 

 

時間になり、周囲の景色が変化すると同時に地面からヤドカリのようなモンスターが出現し、ユナが戦闘開始の合図と共に歌い始める。

 

 

アスナとリズベット、シリカの3人が近くにいたが声は掛けず、私は奴の所へと向かった。

 

 

「やはり来ていたか、ノーチラス」

 

 

「もうその呼び方はやめろ。ペルソナ」

 

 

「エイジ…か。ランク2位とは、随分とやり込んでいるみたいだな」

 

 

「あんたもそうだろランク3位。もう昔の僕とは違う。今の僕はあんたよりも強い…!」

 

 

そう言いながら私を睨むエイジ。その眼が見上げた先には歌うAIアイドル。

 

 

「ユナ…か。最初見たときはまさかとは思ったが《キィシャアアアアア‼》…チッ」 

 

 

その時、私とエイジの間にボスモンスターが割って入り、私にヘイトが向く。

 

 

「話の邪魔を……するな!」

 

 

攻撃モーションに入ったボスの足を一瞬で斬り落とした後、一撃を与えて吹き飛ばす。ボスは目の前から消えたが、エイジも私の前から姿を消していた。

 

 

どこに行ったか探す前に、新たに何かが現れる。

 

 

その場にいた全員が警戒する中現れたのはシリカの相棒ピナ。

 

 

――いや、いくらSAOのボスモンスターが現れるとはいえここはOSだ。ALOじゃない。

 

 

だからピナが現れるのはおかしいという考えに辿り着くと同時に、先程までピナと同じ姿をしていた小竜は、唸り声を上げながら巨大な黒竜へと姿を変えた。

 

 

《グルオオオオオオオッ‼》

 

 

「きゃあっ‼」

 

 

黒竜は目の前にいたシリカをターゲットにする。というより、

 

 

――シリカしか狙っていない?

 

 

彼女の周囲にもプレイヤーはいるのにも関わらず、黒竜はシリカだけを執拗に追い続けている。そんな不可解な行動に私は違和感と危機感を感じ、シリカの援護に向かうべく駆ける。

 

 

《キィシャアアアアア‼》

 

 

だが、足が回復したヤドカリボスが私の進路を塞ぐ。

 

 

「邪魔するなと言ったはずだが……」

 

 

先程私にやられた事を学習したのか、ボスは私の目の前に立ち塞がるや否やすぐに無数にも見える足で攻撃を仕掛けてくる。普通のプレイヤーなら何も出来ずに倒されるだろうが私は普通じゃない。ボスの攻撃を全て捌き、隙が出来たその体に深々と剣を突き立てた。 HPが多く削られていた事もあり、ボスは消滅する。

 

 

ボスの消滅エフェクトが収まると、視線の先ではエイジにぶつかったシリカが彼に突き飛ばされたのが見えた。……刹那、私は地を蹴る。シリカを庇うように覆い被さるアスナ。彼女に黒竜の凶爪が迫る。

 

 

私は更に加速し、黒竜の攻撃がアスナを襲う寸前で間に割り込み剣で防ぐ。 ギリギリで無理矢理だったため、黒竜の爪先が右肩に刺さった。

 

 

「ハアッ!」

 

 

私にのみ目が向いていた黒竜の前足にキリトが攻撃を仕掛ける。黒竜は悲痛の雄叫びを上げ、一度遥か上空へと撤退する。

 

 

「3人とも大丈夫か⁉」

 

 

「わたしは何とか」

 

 

「わたしも、アスナさんとペルソナさんが助けてくれたので……ってペルソナさんは⁉」

 

 

「大丈夫だ。それよりも――」

 

 

私はアスナ達から少し距離を置いた場所に立っているエイジを睨む。

 

 

「どういうつもりだ。今のは明らかにマナー違反だと思うが」

 

 

「……」

 

 

「おい、お前――ッ!」

 

 

何も言わずに立ち去ろうとしたエイジを止めようとしたキリトだが、目にも留まらぬ速さで首元に剣先を突き付けられ、戦慄する。

 

 

「……他愛ないな。VRでは最強の剣士もARではこんなものか」

 

 

エイジの煽りにキリトが何か言い返すよりも前に素早く後退すると、先程まで奴がいた場所に火球が着弾し、眼前に降り立つ黒竜。私たちは黒竜を迎え撃つべく剣を構える。

 

 

「ざーんねーん時間切れー!」

 

 

ユナのその合図と共に黒竜はどこかへ飛び去り、周囲の景色も元に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リズベット達が無事に帰るまで付き添い、私も帰宅すると、父がリビングで険しい表情で座っていた。

 

 

「また、あのゲームをしに行っていたのか?」

 

 

「ああ」

 

 

「そうか……」

 

 

父の表情が更に険しくなる。

 

 

「出来れば今後、あのゲームをしないでくれ」

 

 

「何故だ?」

 

 

「……」

 

 

私の問いに黙り込む父。十中八九、事件関連だろう。

 

 

「SAOの記憶が消える件と、何か関係があるのか?」

 

 

「……何で知ってるんだ」

 

 

「知り合いが巻き込まれた。昨晩、OSのプレイヤーに襲われ、その後の記憶と共にSAOの記憶も朧げになっているそうだ」

 

 

「そのプレイヤーの事は何か分からないのか?」

 

 

「……目星は既についている。証拠はこれから探すところだが」

 

 

エイジがこの事件の鍵を握っているのは明らかだが、まだそれを断言できるような証拠がない為、奴のことは伏せつつそう説明すると、父は大きな溜息を吐いた。

 

 

「どうせ止めても無駄なんだろ?」

 

 

「ああ。私が動かなくても、すぐに首を突っ込む奴がいるからな。1人には出来ない」

 

 

恐らくキリトは皆に危害が加わらないよう、1人で行動しようとするはずだ。彼だけに重荷を背負わせるわけにはいかない。

 

 

「わかった。俺もできる限りの協力はする。ゲーム関連の話では菊岡より頼りにはならないだろうが」

 

 

「知ってたのか」

 

 

「今朝、偶々あいつがお前に通話しているのを聞いてな。今回ばかりは俺も何も言いやしない。ただ、母さんを心配させるな。これが条件だ」

 

 

「ああ、分かってる」

 

 

その後、私と父は次の日の朝を迎えるまで互いに情報交換を続け、今後の事について話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO……アインクラッド第40層迷宮区――

 

 

あなたは走る。フロアボス攻略直後でアイテムも心もとない状態なのにも係わらず。

 

 

あなたは走る。トラップに閉じ込められたパーティーとそれを救出しに向かったという知り合いを救うために。

 

 

あなたは走る。大切なものを失う悲しみを彼に背負わせないために。

 

 

うわああああぁぁ……‼

 

 

迷宮区の壁を反射して聞こえた悲鳴の方へと、あなたはスピードを上げた。

 

 

道中、湧き出るエネミーの群れを突き抜け、ようやく辿り着いたトラップルームの扉を蹴り破ると、あなたの目に映ったのはエネミーに包囲されている少女の姿。

 

 

――まさか……スキルでヘイトを集めたのか!

 

 

背中の両手剣を引き抜きながらソードスキルを発動させ、集団の中に突っ込む。

 

 

しかし、乱入してきたエネミーに邪魔され、硬直状態に陥ってしまう。

 

 

エネミーが消滅し、あなたの視線の先では少女を囲むエネミー達が獲物を仕留めようとしていた。

 

 

――やめろ……。

 

 

全てがスローモーションのようにゆっくりと流れる。

 

 

――私に、また失えというのか。

 

 

硬直が解け、動けるようになったと同時に、あなたは少女に向かって手を伸ばした。

 

 

「っ、ユナ‼」

 

 

少女の名前を叫ぶあなた。少女はあなたに笑顔を見せる。

 

 

直後、周囲から振り下ろされた凶刃が少女の体を斬り刻み、無惨にもその命を奪った。

 

 

 

 

……その先の記録はあなたの記憶には残っていない。確かに覚えていることは、いつも彼女と共にいた少年からの、あなたに対する罵詈雑言のみ。

 

 

その日からあなたは更に迷宮区に潜り続けるようになった。

 

 

もう誰にも悲しい思いをさせないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう誰も、大切な人たちを失わないために。

 

 

 

 





OS編は媒体が映像と漫画しかないから少し難しい。ホープフル・チャントは持ってません。
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