誤字修正ありがとうございます。
お待たせしました。第58話です。
あの男と出会った切っ掛けは彼女の紹介だった。今思えば、攻略でみんなの足を引っ張ていることを気にしている僕の事を想った彼女なりの気遣いだったのかもしれない。それでも僕は《ビーター》と呼ばれる男の力を借りるのは抵抗があった。だから
『……ふんっ!』
『うわっ⁉』
『貴様は死の恐怖を克服することは出来ない』
そいつが発したその一言に僕の今までの努力を否定された。
「……今の僕は違う。僕は強くなった。あの黒の剣士や閃光……そしてあんたよりも」
僕は手に持つ本《SAO事件記録全集》の中にある《仮面の剣士》と記載されたページを開く。
「あっ!エイジ、またその本読んでる」
「ユナ……」
「んー何々……『私の前に立てるもの無く、私の後に生けるもの無し』だって。何これカッコイイ!」
この本の内容は少し過剰表現気味だ。あの男はこんな台詞を口にした事はないし、ここに書いてあるほとんどがこの本を書いた人物の想像だ。
「ねぇ、エイジ読んで!」
「……ああ、いいよ」
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「ペルソナ、そっちはどうだった?」
「こっちにはいなかった。そっちも収穫なしか」
私とキリトは、SAOの記憶が消える謎について手掛かりを探すために、今夜イベントが開催されるであろう場所でエイジを探している。
どんな危険があるか分からない為、アスナ達にはボス戦には参加しないよう釘を刺した。……本当はキリトにも今回の件には関わらせたくなかったが、言って聞くような奴だったら苦労しない。
「パパ、エイジというプレイヤーは見つかりませんでした」
「そうか……」
ユイちゃんが見つけられなかったという事は、奴はこの場にはいないのだろう。
――妙だな。
エイジがイベントバトル中に姿を現したのはサムライロード戦が初めてだが、恐らく奴はこのイベントが開催された当初……コボルドロードの時からどこかでバトルの様子を見ていた筈だ。それが今回はどこにも姿が見えない。私は妙な違和感を感じていた。
「お二人共がんばってください!私もこの戦闘中にデータを収集して手掛かりを見つけます!」
「ああ、よろしく頼む」
「はい!」
「……随分な気合の入れようね」
その時、よく知る声が背後から聞こえ、まさかと思い振り返ると……、
「シノン⁉どうして……」
シノンこと朝田詩乃がそこにいた。
「来るなと言ったはずだが」
「貴方は兎も角、キリトがへましないか不安だっただけよ。それに、みんなには危険だからボスとは戦うなって言っておいて自分たちだけ例外ってのも気に食わなかったしね」
「でも本当に危険なんだ。もしボスに殺されたら……」
「大丈夫、わたしはサバイバーじゃないもの。スキャンされる記憶が無ければ何も起きないはずよ。でしょ?ユイちゃん」
「はい。そのように推測されます」
「だけど……」
確かにシノンはSAOにはいなかった為、彼女から記憶がスキャンされる危険はないはずだ。しかし私たちと行動を共にしている以上、エイジも何をしてくるか分からない。クラインの事も踏まえると、記憶スキャン以外にも危険がないという確証はないのだ。
「それとも、わたしがいたら足手まといかしら?」
そう挑発的に訪ねる彼女に私は大きく溜息を吐きながら呆れる。
――そういえば彼女はこういう性格だったな。
強引なスナイパーの提案を承諾すると、バトルが開始される時間となった。
例の如く風景が変化し、鎖に繋がれた猪頭の獣人型のボスが姿を現す。
「あれは18層のボス《ザ・ダイア―タスク》⁉今日は13層のはずじゃないのか……⁉」
「現在、都内の各所でボスモンスターの出現が確認されています!その数10体‼ それにともなってボスの出現位置もシャッフルされているようです!」
「……随分と大盤振る舞いね」
予期せぬに動揺する中、私たちの他にボスの名を呟き、驚くプレイヤーを見つけた。
――やはり、私たちの他にもサバイバーがいるみたいだな。
「強敵なんでしょ?余所見しないでよね」
「……ああ、分かっている」
シノンの言葉ですぐに思考を切り替え、目の前のボスに集中する。キリトから特徴を聞くと、最初こそ鎖で行動範囲が限られているが、すぐに鎖を引き抜き、中遠距離にも攻撃が可能になるらしい。
早速、鎖を引き抜かんとプレイヤー達に背を向けるボス。その様子を見た他のプレイヤーはチャンスだと思い、ボスに接近する。
「……まずい‼ 離れろ‼」
キリトが警告した瞬間、壁に繋がっていた鎖が引き抜かれ、鎖の先端…壁に埋まっていた斧がボスに近づいていったプレイヤー目掛けて迫る。
私はギリギリの所でそのプレイヤーの体を引っ張り、斧の直撃を回避させたが、その後ろにいたもう1人のプレイヤーはダメージを受けていた。
――しまった……!
そう思うのも束の間、ボスは引き戻した斧を私目掛けて振り下ろす。
私は短いステップでボスの攻撃を回避すると、一撃を与えて後退する。
ボスは私から受けたダメージに若干怯みはしたものの、すぐに余分な鎖を自身の腕に巻き付けると、途轍もない跳躍力で私の頭上を飛び越し、控えていたプレイヤーを斬りつけた。
「下がれッ‼」
激昂しながら攻めるキリト。だが、飛んでくるボスの攻撃を捌くのが精一杯で、なかなか攻撃に移ることが出来ていない。
「キリトっ!攻めすぎよ‼」
シノンの声も今の彼には届いておらず、ボスが振り回す鎖の範囲攻撃に翻弄されている。
「下がれキリト!」
私はボスの攻撃を冷静に回避し、懐へ飛び込んで斬りこみ、ヘイトを向かせる。
再び放たれる範囲攻撃を両手剣で無理矢理弾いた次の瞬間、轟音と共に飛来した一発の弾丸により、鎖が甲高い金属音と共に砕かれる。シノンの狙撃が決まったのだ。
――今だ!
鎖が地面に落ちると同時に私とキリトは走る。
ボスは斧を振り上げるも、シノンの狙撃により攻撃の軌道が逸れる。
「「うぉぉおおおおお‼ / はぁぁあああああ‼」」
2本の剣に体を斬り裂かれたボスは爆散、消滅した。
▼
「お疲れさま」
「ああ…すまない。助かったよ」
「この報酬は銀座でケーキね」
「えぇ……俺の牛丼クーポンで手打ちにしてくれよ」
「そんなのいらないわよ!」
「キリト、女性に牛丼は流石に無いと思うぞ」
そんな風にお互いを労っていると、何か見つけたのか突然走り出すキリト。
私も彼を追ってその先を見ると、そこに居たのは何時ぞやの白いフードの少女。
――彼女は……!
少女を追うように私は階段を飛び降りた。
以前会った時はフードを深く被って顔が良く見えなかったせいで分からなかったが、間違いない。彼女は……、
「ユナ!」
私の呼び掛けに彼女は何も反応せず、前と同じように遠くを指し姿を消した。
「ペルソナ、君も彼女に会ってたのか」
「すまない。気になる事があってすぐに話せなかった。だが、何故彼女が……」
そこにユイちゃんが戻ってきた。
「ごめんなさい。ボスからダメージを受けた時に特定のプレイヤーに対して不可解なプログラムが起動しているのは確認できたのですが、もう少しの所でブロックされてしまいました」
「そうか……」
ユイちゃんの報告を聞き、考え込むキリト。すぐに気が付いたように顔を上げた。
「ユイ、あのフードの子が指していた方角を覚えているか?」
「はい。それが何か?」
「それを地図上にプロットしてくれ」
ユイちゃんは言われたとおりに地図を表示させ、その上に2本の線が引かれる。
「これは……!」
2本の線が交わった場所は《世田谷区大岡市》。
「パパ、これは東都工業大学の位置を示しています!」
――彼女は『さがして』と言っていた。この場所に行けということか?
ユイちゃんは続けてこの大学とエイジとの関連を調べ、奴が以前この大学に通っていたこと、そして奴がいた研究室の教授がオーグマーの設計者であるということを突き止めた。
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和人と別れ、私は詩乃をアパートまで送り届けた。
「ありがと」
「ああ」
「ねえ……今後もイベントには参加するのよね?」
「ああ。明日、和人が大学に行って直接調べるとは言っていたが、どれだけ情報が集まるか分からない。それに……」
――イベントに参加し続ければ、いずれ奴も姿を現すはずだ。
「……奴は私が止める。私にはその責任があるからな」
「なr「自分も参加するなんて言うなよ」でも!」
「今日のバトルでは君の援護に助けられたのは事実だ。それは素直に認めよう。だが今回は上手くいったからと言って次回もそうなるとは限らない。今日は居なかったが、もしエイジがあの場に居たら君の身にどんな危険が及んでいたか分からない。君も含めて皆をそんな危険なことに巻き込む訳にはいかない」
「それは……」
何か言いかけた所で俯く詩乃。私は無意識に彼女の頭を撫でていた。
「心配するな。私もキリトも簡単に負けるつもりはない」
私がそう言うと詩乃は私の手を退かし、いつもの呆れたような笑顔で私を見上げてきた。
「分かったわ。貴方たちみたいなお人好しには何言っても無駄なんでしょ?……だから、これだけは言わせて」
詩乃は握り拳を私の目の前に突き出す。
「必ず無事に戻ってきて。2人一緒にね」
「もちろんだ」
私は突き出された拳に拳をぶつけ返す。
「銀座のケーキのことも忘れないでよ?」
「……善処する」
ウインクをしつつ懇願された高額報酬に私は苦笑いを返すしかなかった。
▼
あの日、私は迷宮区の奥で聞き覚えのある音が聞こえてきた。
――いや……まさか、そんなはずは……。
音が聞こえる方へ歩を進めると、予想通りそこには"彼女が"エネミーと対峙していた。
「何故ここにいる。最前線が危険なことは理解しているだろう?」
「あ、ペルソナさん……久しぶりです……」
彼女は普段と変わらない笑顔を見せるが、肩で息をしている。取り敢えず安全地帯まで戻り、詳しい話を聞くことにした。
「……ありがとうございます。お陰様で助かりました」
「礼は良い。それより、どうしてまた迷宮区に出ているんだ。さっきも私が居合わせなかったらどうなっていたか」
「すみません……」
「……アイツはどうした?いつも一緒にいただろう」
私が尋ねると彼女は困ったようにはにかんだ。
「実は、彼には内緒で来てるんです。心配、掛けたくないので……」
そう呟く彼女に私は思わず溜息が出た。全くこいつ等は……、
「互いを想い合うのは結構だが、死んだらどうするつもりだ。その想いも伝えられないままだぞ」
「その時は……代わりに彼に伝えてくれませんか?」
少し頬を赤く染め、恥ずかしそうに微笑むユナ。そんな彼女の願いに私は、
「その願いを、聞き入れる事は出来ない」
それが、彼女との最後の会話だった。
こう段々とSAO時代の話を掘り下げていく中で、アインクラッド編と矛盾が起きないように意識してるつもりです(それでも幾つか矛盾点が生じるのですが)。
最近、投稿間隔が長くなっていますが、また次回もよろしくお願いします。