12月24日
今日はクリスマスイブ。多くのイルミネーションで街は明るく賑わっている。
そんな中、私は35層の迷いの森にある1番大きなモミの木の下で、装備の最終確認を終わらせたところだ。
何故こんな所に来ているかと言うと、クリスマスイブ…つまり今日の深夜限定で、イベントボス《背教者ニコラス》が出現するという情報を掴んだからだ。
だが、そいつは何処に出現するか分かっておらず、確かなのは「とあるモミの木の下」という事だけだ。
では、何故そんなに少ない情報だけでこの場に来たのか。それはボスのドロップアイテムが《蘇生アイテム》だからである。
蘇生…今やデスゲームと化したSAOの中で、それは実現可能なのか。そもそも蘇生アイテムの情報は本当の物なのか。それを確かめる為に私はここへやって来た。ここに現れるという確証も無いまま……
–––噂をすれば何とやら……。
何処からか鈴の音が聞こえてきたかと思えば、上空から斧を持った真っ赤な服のサンタもどきが降ってくる。どうやら場所に間違いは無かったようだ。
「……まるで、人の血を浴びて紅く染まったようだな」
ニコラスとの戦闘が始まった。
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長時間の戦闘は終わり、私がドロップしたアイテムを確認すると、見慣れないアイテムがあった。
早速そのアイテムを調べてみると、それはやはり蘇生アイテムのようだ。
【還魂の聖晶石】
『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して《蘇生:プレイヤー名》と発声することで、対象のプレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができます』
アイテム解説にはそう書かれていた。
知ってはいたさ。このゲームは私達プレイヤーにとって現実である。それを認識した時から。
例え蘇生アイテムであっても、既に死んだ者の命を戻す事は出来ない。それがこの世界…ソードアート・オンラインのルールだから。
–––だけどよ、少しくらい期待させてくれたって良いじゃないか。
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–––街に戻ったらこの情報を公開しよう。
そう思いながら、帰りの道を地図を見ながら進む。ここは迷いの森。その名の通り地図が無ければ簡単に迷ってしまう。転移結晶を使おうがこの森の何処かに飛ばされるだけでその意味を成さない。
森の出口に1番近いルートを進んでいると、目の前にイベントボス目的であろうレイドが現れた。
「《聖竜連合》か」
聖竜連合とは、かの血盟騎士団と肩を並べるほどの大型ギルドで、レアアイテムの為なら簡単に犯罪行為も行うことでも有名だ。
私自身、こうして顔を合わせるのは初めてだ。
「ビーターのペルソナだな?」
どうやらあっちは私のことを知ってるようだ。誤魔化せそうに無いなので適当に頷いておく。
「貴殿は何故このような場所に?」
レイドの隊長と思わしき男が話しかけてきた。
「貴様らと同じ……という事にしておこう」
「なら我々と共に行動しないか?イベントボスとはいえ、1人ではどうにもならないだろう。ここは協力してボスを倒すのはどうだろう?」
やはりこいつらも蘇生アイテム狙いでこの場所にやって来たらしい。だが、
「その必要は無い」
「必要は無い?どう言う意味だ?」
「もう倒した」
その言葉にレイド全体が驚きの声を上げる。口だけでは信じて貰えないだろうと思い、私は手に入れた蘇生アイテムを手に持って見せた。
「これがその蘇生アイテムだ。プレイヤーのHPが0になってから10秒以内であれば蘇生出来る」
「成る程……時に、失礼ながらその蘇生アイテムを我々に渡してくれないだろうか?」
「断る。と言ったら?」
レイド前方の隊が武器を構える。
「力尽くで奪うまで」
私は背中の両手剣に手を掛けるが、直ぐに手を離し、代わりに隊長の男に蘇生アイテムを投げ渡す。
「止そう、元々ソロの私には不要の品だ。貴様らの好きに使うといい。それにもうすぐ50層のボス攻略がある。お互い、無駄な争いは避けたいだろ」
「流石はトッププレイヤーの1人。良く分かっているな」
隊長の男が武器を仕舞うと、その後ろにいる者たちも次々と武器を下す。
その後、聖竜連合が先に森を抜け、それから暫く経つと私も森を抜けた。時刻は午前0:45……この時間帯であれば外には誰も居ないだろう。私はそう思いながら街に向けて歩き出した。
彼は決して善人では無い。ただ、自分や自分の大切な者達にとって都合が悪くなる事は避けたいだけ。
なら、今の彼にとって大切な者達とは?