仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第60話です。



第60話 決戦の舞台へ

 

足音が響かせながら歩いた先で、奴は一冊の本を読んで待っていた。

 

 

「僕は黒の剣士に用があったんだが」

 

 

「悪いがキリトは来ない。それとも私に勝つ自信は無いか?」

 

 

「……まあいいか」

 

 

エイジは明らかに怪訝な顔で乱暴に本を閉じ、オーディナル・スケールを起動する。

 

 

私もOSを起動し、私達は激突する。

 

 

エイジの動きは普通の人間を優に超えている。キリトでも避けるのがやっとだろう。それに、

 

 

――キリトが言ってた通り、こちらの動きが読まれている。

 

 

道中、昨晩エイジと対峙したキリトが「こっちの動きが読まれている感じだった」と話していたのが気になってはいたが、そこまで脅威ではない。奴の動きに合わせて攻撃の軌道を修正すればいいだけだ。

 

 

「ッ……どうしてついて来れるんだ!」

 

 

「だてに死線は潜ってないからな。こんな子供騙し、ヒースクリフの方がまだ強い」

 

 

「だったら、これでどうだぁああああああ‼」

 

 

エイジは激昂し更に動きが加速するものの、動きが単純な為、先程よりは回避しやすい。だがこの急激な動きの変化、明らかに普通じゃない。

 

 

「何故そうまでして生還者(サバイバー)の記憶を奪う。貴様と重村博士の目的はなんだ!」

 

 

「そんなの決まってるだろ‼返すんだよッ!仮想世界に奪われた悠那を……この現実にな‼ その為にはもっと多くのサバイバーから、悠那に関する記憶を集める必要がある。その全てを統合することで悠那は人工知能として蘇る!」

 

 

――電子の亡霊(デジタルゴースト)……確かにそれならば、理論上は彼女を蘇らせることは出来る。だが、

 

 

「そんなものはただのエゴだ。他人の幸福を奪ってまで蘇りたいと、彼女が望むはずがない!」

 

 

「彼女を助けられなかったアンタが彼女を語るな!」

 

 

「ぐッ⁉」

 

 

腕を掴まれ、遠心力を感じるほど強い力で振り回された後、コンクリートの壁に叩き付けられる。

 

 

「英雄と慕われるアンタらとは違って、僕や悠那みたいな弱虫は誰の記憶にも残らない!なら、SAOなんてクソゲーの記憶、貰ったっていいじゃないかぁ‼」

 

 

「ふざけるなぁ‼」

 

 

エイジの攻撃をかわし背後に回り込んだ瞬間、戦闘服の襟に怪しく光るものが見えた。

 

 

――これか!

 

 

私は力づくでそれを引っ張ると、襟元から服の裏側にある装置へと繋がる導線が激しいスパークを起こしながら引き千切れた。

 

 

「ッ、ちくしょおおおおお‼」

 

 

予想通り、エイジの超人的な動きはあの装置によるもののようで、ムキになって突っ込んできたエイジはすれ違いざまに放った一撃で倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――負けた……博士の作った装備と特性オーグマーを以ってしてもアイツに勝てなかった。

 

 

「さて、教えてもらおうか。奪った記憶はどうすれば戻る。答えろ!」

 

 

ペルソナが首元を掴み、問い詰めてくる。

 

 

「ふふっ……」

 

 

「何が可笑しい?」

 

 

まあ今更勝ち負けなんて関係ない。計画は既に最終段階に入っている。たとえこの男でも、もう計画を止めることは出来ない。

 

 

「もう手遅れだ。今この会場にはSAO生還者(サバイバー)が集められている。この会場で生還者(サバイバー)全員の脳をスキャンしてSAOの記憶を奪ってやる。そしてユナを生き返らせるんだ」

 

 

「今すぐ止めろ!」

 

 

「無駄だ。もう誰にも止められない。さあ、始まったぞ」

 

 

上の階から騒がしい声が聞こえてくると奴は僕から手を放し、短く舌打ちをしながら会場の方へと向かって走っていく。そんな奴の姿を見ながら僕は重村先生に連絡を取る。

 

 

「すみません……プレイヤーの1人に負けてしまいました。ですが、あとは一斉スキャンをするだけです。これであの時のユナを……悠那さんを『まだ最後の仕事が残っているだろう?』……え?」

 

 

『君が持っている悠那の記憶も提供したまえ』

 

 

先生の言っている事の意味が理解できず、思わず間の抜けた声が出た。

 

 

『鋭二くん。君が1番長くSAOで悠那と一緒にいたのだろう?当たり前じゃないか。……せっかくの装備も使いこなせないような奴に用はない』

 

 

その言葉と同時に目の前に91層ボス《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》が現れる。

 

 

「そ、そんな……僕と悠那を……ずっと一緒にいられるようにしてくれるって約束したじゃないですか⁉」

 

 

『……さらばだ』

 

 

そんな無情な言葉を最後に通話が切れ、ボスの牙が迫ってくる。

 

 

「嫌だ……奪わないでくれ……いやだぁぁああああああああああッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――でね……って、エーくん聞いてる?」

 

 

「え……?」

 

 

これはきっと走馬灯というやつだろう。これは彼女に初めてアイツを紹介された時の記憶だ。

 

 

――どうせなら、もっと楽しい記憶を思い出したかったな……。

 

 

「もう、ちゃんと聞いててよ!エーくんのために話してるんだからね!」

 

 

「分かってるよ。でもユナ、そいつ《ビーター》なんだろ?大丈夫なのか?」

 

 

頬を膨らませるユナを抑え、僕は彼女にそう聞き返した。

 

 

ビーター……βテスターのチーターの略で、レアアイテムが良く落ちる穴場や、経験値が効率良く稼げるクエストの情報を独占しているプレイヤーの事らしい。

 

 

ユナがそんな奴と関わっていることに対する僕の心配を他所に、ユナは笑いながら話を続ける。

 

 

「あの人はそんな人じゃないよ。わたしの歌を褒めてくれたし、エーくんの事も真剣に話を聞いてくれたんだよ」

 

 

勝手に自分の事を話した彼女に色々と言いたかったが、彼女の善意を無下にしたくなかった僕は一度あの男……ペルソナに会うことにした。

 

 

 

 

その日から僕たちの日常は少しずつ変化した。だがあの日、目の前でユナがモンスターの群れに殺されそうになった瞬間でさえ、足がすくんで動けなかった自分の無力さを痛感した。

 

 

あの場に駆け付けながら彼女を救えなかったあの男に吐き捨てた言葉も、自分自身に対する自責の念にしかならなかった。

 

 

結局、僕はSAOの頃から何も変わっていなかった。OSであれば黒の剣士や閃光、そしてペルソナよりも強いと思っていたが、VRとARの違いを利用し、博士の開発した装備に頼っていただけだ。実際、僕はあの男に負けた。本当に……、

 

 

「滑稽な話だよな……」

 

 

「ああ。本当に世話が焼ける奴だよ、貴様は」

 

 

そんな声が聞こえたと思えば、突如としてカオスドレイクが消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――引き返してきて正解だったな。

 

 

重村博士の目的は自身の娘である悠那の蘇生。その為に生還者(サバイバー)の記憶を集めているのなら、エイジもその対象になっている可能性も考えていたが、悪い予感ほど当たり易いのは考えものだな。

 

 

「どうして助けた」

 

 

「別に、私は彼女……ユナとの約束を果たしただけだ」

 

 

「ユナとの、約束……?」

 

 

「もし自分が死んだら、貴様の事を守ってほしい。彼女が死ぬ前、そう頼まれた。私が貴様の元を離れた後も彼女は何度も迷宮区に来て私と共にレベリングを行っていた。たとえ自分が死んでも、貴様だけは無事に現実世界へと帰還できるようにな」

 

 

「嘘だ……だってそんな事、一言も……」

 

 

「貴様に余計な心配を掛けたくなかったんだ。私も口止めされていた。詳しい事は本人から聞くといい。まあ、貴様らが生み出したAIとやらにその記憶があるかどうかは分からないがな」

 

 

そう言い残しながら踵を返すと、私は再び会場の方へと走りながら菊岡に連絡を取る。

 

 

 

 

「菊岡、例のプレイヤーから情報を聞き出した。奴ら、会場内にいる生還者(サバイバー)の脳を一斉にスキャンするつもりだ!」

 

 

『ああ、僕の方でも情報を掴んだ。現在スタジアム内を飛んでいるドローンにはオーグマー自体の出力をブーストする機能が実装されているらしい』

 

 

「オーグマーの出力ブースト……そんな事をすれば、記憶スキャンだけじゃ済まないぞ」

 

 

『ああ……最悪の場合、ナーヴギアのように脳そのものにダメージを与え、死をもたらす可能性がある。僕は教授を止める。君はスタジアム内の観客にオーグマーを外すように指示してくれ!』

 

 

「分かった」

 

 

ロックされている扉を蹴り破って会場内に入ると、目の前に広がっていたのは、まるでSAOがデスゲームとして始まった時のような地獄絵図。

 

 

会場内にいた全員が、SAOのボスモンスターに襲われ、パニック状態に陥っていた。

 

 

――これは、一筋縄ではいかなそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、何が起こってるんだこりゃあ……」

 

 

突然、周囲に現れたボスモンスターの群れを見たエギルがそう呟いた。

 

 

「……演出の一環って感じでもなさそうね」

 

 

――彼の予想したとおりになったな。

 

 

周囲にSAOのボスモンスターが次々と出現していく中、アスナとシリカの目の前に第74層のボス《ザ・グリーム・アイズ》が現れた。

 

 

「アスナ‼」

 

 

俺は座席を踏み台にして、座席を倒しながらボスに斬りかかる。

 

 

「ぐぅッ⁉」ズキッ!

 

 

――着地の時に捻ってたのか……!

 

 

「キリト君‼」

 

 

「しまッ……‼」

 

 

足首の痛みに気を取られた一瞬の隙に、第1層の隠しダンジョンの死神ボスの鎌が迫っていた。

 

 

「キリトッ!」

 

 

だがその鎌が俺の体を抉る直前、さっきの俺と同じように俺と死神の間に飛び込んできたペルソナによって弾かれ、死神は一時撤退する。

 

 

「すまない。遅くなった」

 

 

「いや、お陰で助かったよ。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――早々にキリト達と合流できたのは幸運だった。だが、

 

 

そこに再び、先程の死神が大鎌を振り上げて迫ってきたが、突然、私達と死神との間に立ち塞がったユナが巨大な盾で大鎌を防いでいた。

 

 

「ユナ⁉」

 

 

「キリト、ペルソナ助けて!このままじゃ、ここに来てくれたみんなが危ない‼」

 

 

「一斉スキャンか?」

 

 

その問いに彼女はコクリと頷く。

 

 

「会場全員のエモーティブ・カウンターの平均値が1万を超えたら、高出力のスキャンが行われて脳にダメージが……‼」

 

 

やはりそうかと思い、私がキリトに視線を送ると彼は会場中に聞こえるようにオーグマーを外すように呼び掛けたが、誰もオーグマーを外そうとはしない。

 

 

「なんで……」

 

 

「無駄よ。今までのイベントバトルの影響で現実と仮想の境界がわからなくなっているの!」

 

 

――そこまで計算していたという事か……。

 

 

どうすればいいのかというキリトの問いに、ユナは旧アインクラッド第100層のボスモンスターを倒し、ゲームをクリアするしかないと説明する。

 

 

「今、オーグマーのフルダイブ機能をアンロックするから、椅子に座って!」

 

 

「オーグマーにフルダイブ機能が⁉」

 

 

「オーグマーはナーヴギアの機能限定版でしかないもの。さあ早く!」

 

 

そう話す間もユナは必死に死神の猛攻を抑えている。だがそれもいつまで持つかは分からない。私達は決意し、全員で旧アインクラッド100層へ向かうことにした。

 

 

「っ……ペルソナさん。お願いします、みんなを……」

 

 

「ああ、今度こそ約束は守る。それまで私達の命は君に託した」

 

 

そう言って改めて覚悟を決めた私は椅子に座り、ゆっくりと深呼吸する。

 

 

「……みんな、行こう!」

 

 

 

 

『リンク・スタート‼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 





多分今までの章の中で一番時間掛かったんじゃないか(どの章でも時間掛かり過ぎてるので、本当に1番かは分からないけど)っと思うくらい大変だった。

それでも頑張れたのは、この話を楽しみにしてくれて、温かい感想を送ってくださる読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

次回、オーディナル・スケール編最終回です。
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