仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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アンチ・ヘイトってタグがあるけど、アンチコメはしたくないし見たくない。この小説ではそんなコメントが無いのが救い(元々少ないとは言わないで)。お久しぶりですオンドゥル暇人です。

大変お待たせしました。第66話です。



第66話 始まりの器

 

PSO2を介してオラクルに来てから数日が経った。アフィンやゼノ、エコーと言った面々との交流もあり、皆もこの世界での立ち回りを理解してきた。そんなある日のこと、私はランとユウキと共にナベリウス凍土エリアの探索に来ていた。

 

 

「2人とも遅いよー!早く早くー‼︎」

 

 

「こらユウ!1人で先に行ったら危ないでしょ!」

 

 

「まあ、私達3人だけで行動する久しぶりだから仕方ないだろう。最近は皆で一緒にというのがほとんどだったからな。っとユウキ、そこら辺はクレパスがあるから気を付けろ」

 

 

「分かってるってー!」

 

 

ランをなだめながら、先を走るユウキに注意を促していると、「うわっ⁉︎」という短い悲鳴を上げ、目の前からユウキの姿が消えた。

 

 

――やれやれ、言ったそばから……。

 

 

「ユウー!大丈夫ー⁉︎」

 

 

ランはクレパスに近づき、下に落ちたユウキに向かって呼びかけると、小さく「大丈夫ー!」っと元気な声が聞こえてきた。かなり深くまで落ちたみたいだが、一応無事なようだ。

 

 

「降りてみるか」

 

 

私はランの手に掴まり、深いクレパスの中へと降りる。谷の底ではユウキが待っていた。

 

 

「あ、2人とも!こっち来て、スゴイよ!」

 

 

ユウキは私達の手を取ると、洞窟の奥へと引いていく。途中、何度も躓きそうになった時には、流石にインプの眼が羨ましくなったものだ。

 

 

暫くすると少し開けた場所に着き、その中央に輝く巨大な結晶が浮かんでいる。私はそれに見覚えがあった。

 

 

――まさか、こんな所にあったとはな。

 

 

私が結晶に触れると、その輝きは一際強くなり、視界が白く塗り潰されていく。

 

 

 

 

 

『貴方を待っていた』

 

 

「シオン?ここは……」

 

 

聞こえてきたシオンの声に目を開けると、そこは先程の暗い洞窟ではなく、白い何もない空間だった。

 

 

『ここは現実と仮想の境界。貴方が始まりの器に触れた事で、招き入れることができた。だが、長時間の維持は出来ない」

 

 

遠くから聞こえていた声は鮮明になり、その声の主は私の目の前にその姿を現した。

 

 

「貴方の行動により、未来に変革が観測された。だが、それは演算によって導き出された可能性に過ぎない。貴方の選択次第で情勢は優位にも劣位にも変化する」

 

 

現れるなり早々、1人語りを始めるシオン。その言葉は相変わらず理解不能だ。

 

 

「今はまだ私の言葉を理解する必要はない。貴方に全てを話す時はいずれ訪れる」

 

 

シオンがそう言い終わると、再び眩い光が私の視界を覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

『始まりの器を記憶なき少女のもとへ……』

 

 

光が収まり、目を開けるとそこは元の洞窟の中だった。先程まで目の前にあった結晶は消え、代わりに独特な形状の杖を私は手にしていた。

 

 

「ペルソナ、それ何?」

 

 

「杖のようにも見えますが、不思議な形をしてますね。まさかさっきの結晶が?」

 

 

「恐らくな。だが、一体これは……」

 

 

「リズベットさんなら、何か分かるかもしれませんね」

 

 

「ああ、そうだな……っ‼」

 

 

ランの提案を受け、私達はアークスシップへと戻ろうとしたその時、洞窟の気温が一回り下がったように感じるほど身の毛のよだつ殺気を感じた。その殺気に私は杖をストレージにしまい、代わりにコートエッジを引き抜いて後ろを振り向く。

 

 

 

 

そこにはかつての私が立っていた。キリトから聞いてはいたが、確かに私の記憶とは若干異なるようで、奴は2本の剣を携えており、更に隣にはもう1人、仮面を付けた女性が立っている。無論、彼女も私の記憶にはない。

 

 

――だが何故だ?彼女からは……

 

 

「今、貴方が手に入れた物を(わらわ)に渡してもらおう」

 

 

私の思考を遮るように彼女はその手に私もよく知る両剣(ダブルセイバー)武器《コートダブリスD》を私に向け、そう言ってくる。

 

 

「断る……と言ったら?」

 

 

「腕づくで奪うまで」

 

 

その言葉と共に彼女は私に向かって攻撃してくる。だがこうなる事は予想していた。私は軽々とその攻撃を受け止める。

 

 

しかし、それは奴等も同じだろう。この攻撃は囮、本命は私の背後に回り込んだ"私"。

 

 

私に迫る2本の剣は間に入ったユウキの剣によって弾かれる。更にそこへランの魔法攻撃が放たれるも、奴は魔法を斬り落としながら飛び退くという離れ業をみせ、私達から距離を置いた。

 

 

「ちょっと!いきなり後ろから攻撃するのは卑怯じゃない⁉」

 

 

「ユウキ、そんな事言っても通じるとは思えないんだけど」

 

 

「2人とも注意しろ。こいつ等はそう簡単に勝てる相手じゃない」

 

 

私は2人にそう呼び掛けながら、対峙する仮面2人の様子を窺う。

 

 

「……《第二の英雄》と言われるだけの事はあるという訳か。それに《絶剣》とその姉……流石に分が悪いな」

 

 

男のその言葉に私は耳を疑った。《第二の英雄》、《絶剣》。その二つ名には覚えがある。絶剣とは言わずもがなユウキの事だ。そして第二の英雄とは私のことを指す。だが、それは一部の者からそう言われているだけであり、世間一般に周知されている訳ではない為、その二つ名を知る者は少ない。

 

 

だが、私が驚愕したのはそんな事ではない。その名を口にしたのが他ならぬ()だという事だ。前世の私が今の私を、ましてやユウキの事を知る筈がないのだ。

 

 

「貴様……一体何者だ」

 

 

「……アッシュ」

 

 

「っ⁉」

 

 

「今はそう名乗ることにする。行くぞヴァベル」

 

 

「はい」

 

 

アッシュと名乗った男、そしてヴァベルと呼ばれた女は空間転移し、洞窟内に再び静寂が訪れる。

 

 

「さっきのがアスナ達が言っていた……」

 

 

「ええ、マトイを狙うNPCみたいね。でも今回はペルソナさんを狙ってたみたいだけど」

 

 

「……いや、恐らく狙いはコレだ」

 

 

そう言って私は先程ストレージに入れた杖を取り出す。

 

 

「それってさっきの……でも、どうして?」

 

 

「分からない。だが、コレが奴等にとって重要な物だという事は明らかだ」

 

 

「なら、早く戻ってリズベットさんに調べてもらいましょう」

 

 

その言葉に私は生返事を返すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナベリウスから戻って早々、丁度いいタイミングでログインしたリズベットと出会った私達は、早速、例の杖の鑑定を行ってもらった。

 

 

「うーん……武器って言われれば確かに武器なんだけど……」

 

 

「もしかして、リズでも分からない?」

 

 

「残念ながらね。唯一分かることはコイツがとんでもない武器だって事と、今は壊れてて正常に機能しないって事くらいかな」

 

 

「修復できないか?」

 

 

「こればっかりは流石に無理ね。レプラコーンでもオラクルの武器の解析は可能でも修復や改造はできないみたいだから」

 

 

首を横に振りながら両手を上げるリズベット。彼女でもどうにもならないとなると、やはりあの人に頼むしかないか。

 

 

「そうか。すまなかったな、急にこんな事頼んで」

 

 

「別に良いわよこれくらい。結局何も分からずじまいだったし」

 

 

「あれ?みんな集まって何してるの?」

 

 

丁度その時、部屋の中にマトイが入ってきた。

 

 

「実はナベリウスでこれを見つけてな。今リズベットに鑑定してもらっていた所だ」

 

 

私がマトイに杖を見せると、彼女は不思議そうにその杖を見つめる。

 

 

「なんだろう……何だかすっごく懐かしい感じがする」

 

 

「もしかして、何か思い出せそう?」

 

 

ユウキの問いにマトイは首を横に振る。その表情は何かに怯えているようだった。

 

 

「でも、何か怖い……」

 

 

「マトイ、あまり無理に思い出そうとしなくていいんだよ?」

 

 

「うん……」

 

 

怯えはしているものの、興味もあるのか、顔を上げたマトイは私の持つ杖に手を伸はす。

 

 

「くっ!」

 

 

マトイの手が杖に触れると、杖の先端に着いた球状の結晶が激しく輝き、私の手元を離れて宙に浮かんだ。その光を目にした瞬間、私の脳裏に一つの映像がフラッシュバックする。

 

 

――この記憶は……。

 

 

私は良く見慣れた両手剣を持ち、その刃を目の前にいる少女の腹部に突き立てていた。

 

 

それはとても懐かしく、決して忘れてはならない私の罪の記憶だった。

 

 

剣が刺さった腹から血が溢れ出る少女の姿がマトイと重なったと思うと、実際に目の前にいたマトイが私の体に倒れ込んできた。

 

 

「「「マトイ⁉」」」

 

 

突如として倒れたマトイの元に皆が駆け寄る。当のマトイはすぐに目を覚ました。

 

 

「マトイ、大丈夫か?」

 

 

「……うん」

 

 

そう答えるマトイを見て皆が安堵する中、カシャンっという音が鳴り、そちらに視線を向けると、先程まで光を放ちながら浮遊していた杖がその光を失い、床に落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万が一という事もあるので、マトイはメディカルセンターに預けて、私達は居住区の外れにある少し寂れた裏路地を歩いている。

 

 

「ねえペルソナ、どこに行くの?」

 

 

「オラクル1の刀匠(とうしょう)と言われる人物の所だ。リズベットでもどうにもならないのであれば、あの武器について分かるのはその人物しかいないと思ってな」

 

 

「そんな凄い方が……でも、どこでその方の事を?」

 

 

「少し前に知り合った情報屋からさっき聞いたんだ」

 

 

――元々知っていたが、裏を取らないと問い詰められた時に面倒だからな。

 

 

そのせいで今度パティの密着取材に付き合わなければならなくなったが。

 

 

「っと、ここか」

 

 

そうこう話していると、扉の上にオラクル文字で「ジグ」と書かれた看板が立てかけられた建物の前に着いた。

 

 

私が扉を開けようとすると、突然目の前の扉が開き、2人のアークスが飛び出して来たと思うと、彼らが出てきた部屋の奥から様々な工具が飛んできた。

 

 

「帰れ帰れ‼何度頭を下げられようとも、もう仕事はせんのだ!叩き出される前にさっさと出ていけ‼」

 

 

そんな怒声と共に投げつけられた工具をギリギリで避け、私はランとユウキを安全な場所に避難させて扉が閉まるのを待つ。

 

 

「だから言っただろ。ジグはもう引退して、今はただの偏屈ジジイだって」

 

 

「残念だなぁ。いい腕だったのに……」

 

 

落胆したようにそんな会話をしている2人のアークスはこちら気が付いた。

 

 

「すまないな、あんたら怪我してないか?」

 

 

申し訳なさそうに謝罪してくる彼らに私は「問題ない」と返す。

 

 

「もしかして、あんた達もジグに依頼をしに来たのか?だったら止した方が良いぞ。さっきも言ったがジグはもう引退しててな、今ではあの有様だ。確かにいい腕だったんだがな……取り敢えず、あんた達も痛い目に遭わない内に帰った方がいいぞ」

 

 

そう言い残し彼らはその場から立ち去った。

 

 

「ど、どうするの?」

 

 

「どうするも何も、一度話してみない事にはどうしようもないだろ」

 

 

「えー⁉でも、さっきの人みたいに追い出されたらどうするのさ!」

 

 

「ユウ。その時はその時よ。それにいつもユウが言ってるでしょ?『ぶつからなきゃ伝わらない』でしょ?」

 

 

「それはそうだけど……」

 

 

その後もユウキは尻込みしたが、暫くしてから覚悟を決め、私とランの背後に隠れて中に入る。

 

 

「しつこい連中め……そんなに痛い目に遭いたいのか」

 

 

扉を開けると、黒いキャストの男が怒気の混じった言葉を放ちながら振り向く。ユウキは彼の怒声に怯えて更に私達の背後に隠れる。私達の姿を見たキャストの男は動揺したのか、声を一瞬詰まらせた。

 

 

「なんじゃ?さっきの連中ではないのか」

 

 

「貴方が、刀匠のジグ?」

 

 

「だったらどうした?」

 

 

「わたし達、あなたに見て欲しい物があってきたんです」

 

 

ランがそう言うと、ジグは呆れたように肩を上下させる。

 

 

「ものわかりの悪い奴等じゃの。だから儂はもう仕事はせんと……!」

 

 

言葉の途中で私が杖を取り出すと、彼は再度言葉を失う。そして興味深そうな様子でそれを観察し始めた。

 

 

「ナベリウスで見つけた。これがどういう物なのか、分かるとしたら貴方だけだと」

 

 

「ナベリウスじゃと?……何とも不思議な構造じゃ。長いこと刀匠をやってきたが、これほどの物は見たことがない」

 

 

「何か分からないか?」

 

 

「無理じゃ」

 

 

「慌てるな。正常に機能するよう修復すればこの武器の正体を知ることが出来るかもしれん」

 

 

「それじゃあ、頼めるか?」

 

 

「ああ。この仕事、儂が受け持とう。長いこと腐っておったが、まだ世の中には儂の知らない物もある。面白いではないか‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

アッシュ。かつての貴方の名を名乗る彼は、手に持つ仮面を見つめていた。

 

 

「……アッシュ。これからどうするつもりですか?」

 

 

そんな彼の隣にヴァベルと呼ばれる少女が現れる。

 

 

「クラリッサが彼の手に渡るのは想定内だ。今はまだ様子を見て、彼らが私達と同じ道を辿るか否かを見極める」

 

 

「もしそれで手遅れになったら?」

 

 

「その時は……もう一度やり直すだけだ」

 

 

「それでも、何も変わらなかったら?」

 

 

「繰り返す。繰り返して繰り返して繰り返し続けて……必ず」

 

 

彼は仮面を被る。あらゆる感情を封印し、非情になる。全ては自身の本懐を果たすため。

 

 

『―――。―――。』

 

 

「変えてみせる。必ず……!」

 

 

 

 

 

 

 





今回はここまで。次回もよろしくお願いします。



↓以下、謎の2人のプロフィール。


〇アッシュ
・マトイを狙う謎の男
・ペルソナの前世と同じ姿をしているが、彼とは異なり2本の剣を扱う
・何故ユウキやランの事を知っていたかは現状では不明

〇ヴァベル
・アッシュと行動を共にする謎の女
・GGOでペルソナが使用しているコートダブリスDを何故か所持している

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