お待たせしました。第70話です。どうぞ。
「そう言えばゼノ、キリト達はどうした?」
「安心しろ。3人共俺達が乗ってきたシップに待機してもらってる。とは言っても、全員まだ目を覚ましちゃいないがな」
「そうか」
この先の流れを知っている身からすれば、出来る事ならゼノも一緒にシップで帰還して貰った方が私としては良かったのだが。
――まあそれはそれで後々、私が困ることになるのだが……。
「はぁ……上手くできてるものだな」
「大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
口ではそう言うが、実のところ、いくら奮闘しても思い通りになってくれないこの世界の理不尽さにどうにかなってしまいそうだった。
「それにしても、ダーカー多すぎない?いくら倒しても切りがないわよ」
「全くだ。おいカスラさんよ、いい加減教えてくれても良いんじゃないか?ここで一体何が起ころうとしてるんだ?そもそも、ナベリウスにダーカーは居なかった筈だろ」
「良いでしょう。それではまず、皆さんは40年前、このナベリウスで何が起こったかご存知ですか?」
先行するカスラはこちらを振り向かないまま、私達にそう問い掛けてくる。ゼノとエコーは何を当たり前の事をっと言いたげな表情を見せる。
「それってダークファルスとの決戦の事ですよね?初代六芒均衡の皆さんが命を賭してダークファルスと戦って、これを撃破したっていう」
「その通り。データにはそう記録されてます。ですが、事実は違います。ダークファルスは倒されてはおらず、今も尚この地に封印されている」
「おいおい、それってアークスが嘘をついていたって事かよ」
「その通りです。今までダーカーの侵略も無い平和な惑星。そう偽ることで注目を逸らす。そうすれば、ごく普通のアークスはこの惑星に価値を見出さず、近寄ることが少なくなる」
ゼノの言葉にそう即答するカスラ。衝撃の事実に2人は信じられないとでも言いたげだったが、今まで自分たちが信じていた組織の上層部がそんな重大な事を秘密にしていたのであると知ったのだ、無理もない。
「解せんな。何故アークスはそんな事をする」
「守る為ですよ。『ダーカーを殲滅し、宇宙に平和をもたらす絶対なるアークス』という虚構の神話を。ダークファルスは倒せるもの。そうアークスに信じ込ませる為の決定的な証拠を隠している。……先を急ぎましょう。貴方たちの知りたい全てが、この先にあります」
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更に先に進んだ私達は墓標の前へと辿り着いた。そこには、やはりまだゲッテムハルトが居た。そして先程は居なかったメルフォンシーナが墓標の前でジグに託していた筈の白錫クラリッサを掲げており、墓標からは異常なほどの瘴気が溢れ出している。
「ほぉ、オマエが来たか?それ以外にも随分とギャラリーが多いみたいだな」
ゲッテムハルトは私とゼノ達を見て高笑いする。
「ゲッテムハルト⁉テメェ、ここで何してやがる!」
「ピ・ク・ニッ・ク、だよ?」
「ふざけんな!この鳴動はテメェの仕業か!」
「ピーピーうるせぇな。おい、シーナまだかよ?」
自分で煽るような事を言っておきながら、ゼノの言葉を流したゲッテムハルトは、後ろで白錫クラリッサを墓標に掲げているメルフォンシーナに声を掛ける。
「止めなさい!自分が何をしようとしてるか分かっているのですか!」
「ダークファルスの解放、そしてそのダークファルスをも屈服させる力がを俺にはある!」
どうやらカスラの制止の言葉も耳に入らないらしい。
「正気じゃない」
「クソッ、さっきの話はマジだったのかよ」
「解放がなされたら終わりです。杖を回収してください!」
「分かった!行くぞペルソナ!」
「ああ!」
私とゼノはゲッテムハルトに攻撃を仕掛ける。
それを見てゲッテムハルトは面白そうに口角を上げ、ナックルを装備すると、私達2人の攻撃を同時に防ぐという離れ業を見せた。
――伊達に10年以上前線で戦い続けているだけの事はあるという訳か。
私とゼノが後退した直後、雷と光の矢がゲッテムハルト目掛けて降り注ぐ。土煙が舞い、ゲッテムハルトの姿が見えなくなる。
「オラァ‼」
エコーとカスラが放った攻撃は確実に直撃した。だが、ゲッテムハルトはそれを気にも留めず、煙から出てきたと思えば、ゼノの首を掴んでエコーに向けて投げる。そのままの勢いでカスラへに詰め寄ると、彼の顔面を殴り、カスラの眼鏡が割れる。
一瞬で3人を倒したゲッテムハルトは私の方に振り向きながら不敵な笑みを浮かべる。
「戦闘狂が……」
一気に距離を詰めるゲッテムハルト。私が剣を振ると、動きに合わせて奴もナックルを突き出して攻撃を防いでくる。
――そう言えば、コイツには一度も勝ったことが無かったな。
最初に奴と戦ったのはマトイが攫われた時。あの時は不意打ちだったのと奴の目的がマトイを連れ去る事だったから戦いとは言えないが。二戦目はまさにこの場所。ゲッテムハルトが投げてきたマトイを受け止めた為に戦闘どころではなかった。三戦目は私がダークファルスになったあと。マトイと初めて出会ったあの大樹で私が過去の私とマトイを殺そうとした所に奴が乱入し、私は私自身とマトイを殺すのは困難と判断し、その場から撤退した。
「……勝ち負け以前に、貴様とは真面に戦った事すらなかったか」
だが今となってはそんな事どうでも良い。大事なのは私が奴に一度も勝っていないという事実。
「理由はそれだけで十分だな」
「さっきからゴチャゴチャうるせえな!」
私の剣とゲッテムハルトのナックルがぶつかる。実力は五分五分だ。
「きっと以前の私なら貴様を殺す事にも躊躇しただろう。だが……」
ゲッテムハルトのナックルが私の剣を弾いた衝撃を利用し、体を回転させ、そのまま奴の左腕目掛けて剣を振る。
「私はもう昔のように甘くはない」
振り切った私の剣はゲッテムハルトの左腕を斬り落とした。切断面から鮮血が飛び散り、ゲッテムハルトは顔を歪ませて、ふらふらと数歩下がる。
「ゲッテムハルト様‼」
「来るな!……手を止めるんじゃねぇ」
「はい……」
駆け寄ろうとするメルフォンシーナを止め、切断面を手で抑えながらゲッテムハルトは不敵な笑みを浮かべる。
「くくッ……効いたぜ。やっぱりオマエは当たりだったみたいだな」
「もう止めておけ。最後の警告だ。大人しく投降しろ」
「投降?冗談じゃねぇ。こんなに面白れェ相手を前に戦いを止めるなんて出来る訳ねえだろ。おいシーナ!まだか!」
「もう……少しです」
ゲッテムハルトは片腕になったにも関わらず、ナックルを構え、メルフォンシーナに封印の解放を急かす。
「……仕方ない」
私は剣を構え、ゲッテムハルトが何をしてきても対応できるようにする。
「ちょ、待ってくれ!」
そんな私達の間に焦った表情でゼノが乱入してきた。
「ペルソナ、もういいだろ?アイツはもう真面に戦える状態じゃない。命まで奪う必要は」
「ゼノ。確かにお前の言う通り、このまま奴を拘束するのは容易だろう」
「なら」
「だが、私には奴がこの程度で諦めるとは到底思えない。それはお前も良く分かっている筈だ。例え今奴を拘束したとしても、いずれ同じ過ちを犯す。ならば奴をこの場で殺す。それが今できる最善だ」
「だったら……俺を倒してからにしろ」
そう言ってゼノは引き抜いた剣を私の方に向ける。
「正気か?」
「俺はいつだってマジさ。確かに今でこそゲッテムハルトは嫌な奴だが、俺にとっては永遠に憧れの先輩なんだ。殺させやしない」
「ちょ、ちょっと2人共!今は仲間割れしてる場合じゃないでしょ⁉」
「彼女の言う通りです!お2人共、今は封印解放の阻止を最優先に!」
カスラとエコーの言う通り、今は言い争いをしている場合ではない。現にこのやり取りをしている間も墓標から出てくる瘴気は禍々しさを増していた。
「……誰だ?俺は弱くなんかねぇ!」
その時、突然ゲッテムハルトが虚空に向かって叫んだ。私達には何も聞こえていないが、私には分かる。封印が綻んだ事でエルダーがゲッテムハルトの脳内に直接語りかけているのだ。
「執着だと?……そんなものはない。直ぐにだって断ち切ってやる」
ゲッテムハルトは静かにメルフォンシーナに近づく。
「まずい!」
私は立ち塞がるゼノを押し退け、剣を大きく振りかぶりながらゲッテムハルトに向かって走る。一歩一歩、奴に近づいているが、私の足よりも速く、奴の右手がメルフォンシーナの腹を貫いた。
「貴様……!」
コートエッジの刃が奴の首に触れる寸前、突如として墓標の前で浮いていたクラリッサが今まで以上の輝きを放って、消滅。同時に墓標から今まで以上に禍々しく大量の瘴気が溢れ出し、ゲッテムハルトを包み込んだそれは、私の攻撃を弾いた。
「遂にこの時が、最強の力が、俺の物になった!」
「なんて事を……」
高揚するゲッテムハルトだったが、すぐに異変が起きた。奴の周囲を包んでいた瘴気が徐々に奴の体を侵食しているのだ。
「な、何だこれは⁉︎クソッ!」
ゲッテムハルト自身もようやく異変に気がついたようだが、既に手遅れだ。いくら振り払えど、瘴気は離れるどころか、更にゲッテムハルトの体を取り込まんと集まっていく。
「もう間に合わない。ダークファルスが復活します!」
瘴気が晴れ、そこにいたのは戦闘服が変わり、眼と髪は赤紫色に肌の色も黒く染まったゲッテムハルト……いや、ゲッテムハルトの体を乗っ取ったダークファルス
身震いしそうな程の威圧感。まだ完全復活した訳ではない筈なのだが、圧倒的すぎるその気迫に空気が揺れているのを感じた。
「久しいぞ、甘美なる大地よ!嬉しいぞ、鮮烈なる青玄よ!我が闘争の為の万象よ!長く長く待たせてしまったな」
「ゲッテムハルトじゃねぇ。テメェ何者だ!」
「エルダー……」
「そう。我はダークファルス
エルダーは落ちているゲッテムハルトの左腕を持ち上げ、破損した部位を修復する。
「ペルソナ、俺が食い止める間にエコーとメルフォンシーナを連れて離脱しろ!」
「ゼノ⁉何言ってるのよ、あたしも戦う……!」
「逃げ腰に心居れた状態じゃ足手まといになるだけだ!……頼むペルソナ、俺が時間を稼いでいる間にせめて2人だけでも……!」
私は何も言わずに頷き、倒れているメルフォンシーナを回収する。
「私もいますよ。これでも六芒均衡の端くれですから。それに2人でしたら、時間を稼いだ後に逃走することも不可能ではありません」
「あんがとよ、カスラさん!」
「ゼノ、死なないでよ!」
「わーってるよ。ほら、さっさと行け!」
私はエコーと共にメルフォンシーナを抱え、ゼノとカスラを残して撤退した。
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ゼノ達が時間を稼いでくれたお陰で、私達は何とか成層圏外に待機していたキャンプシップまで退却することが出来た。
「ペルソナ⁉心配したんだぞ!」
「話はあとだ。今は……ッ!」
キャンプシップに入るや否や、目を覚ましていたキリトに問い詰められたが、同時にキャンプシップが大きく揺れる。
「何だ⁉」
デジャブを感じる展開だが、今はそんな呑気な事を言っている場合ではない。私達が急いで窓の外を見ると、そこでは衝撃的な光景が広がっていた。
遺跡エリアのシンボルともいえる巨大な柱が建っていた場所を中心に、周辺の大地をえぐりながら大量のダーカー因子が飛び出し、その中から巨大な岩の手のような物が現れる。
それだけではない。先程現れた手より一回り小さい――それでも対峙すればかなり大きいのだが――無数の手が集まり、惑星の十分の一くらいはありそうな巨大な岩石の体を形成した後、ナベリウスの大地から飛び去って行った。
「何だよ……あれ……」
キリトは窓の外で起こっている情景が呑み込めずに絶句する。その隣ではエコーが信じたくないような、懇願するするような表情でその光景をを目にしていた。
「ゼノ!ゼノ⁉応答してよゼノ‼」
エコーが緊急通信を使って何度も呼び掛けるが、ゼノからの反応は無い。
「ゼノーー‼」
キャンプシップ中に響いたエコーの叫びは、ナベリウスの
今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。