過去最長!
大変お待たせしました。今回の話は上記の通り過去最長です。第71話、どうぞ。
ペルソナ達が惑星ナベリウスでゲッテムハルトと対峙していた頃。アスナはマトイに皆で探索した遺跡エリアについての話をしていた。
「……それでね、その時ユウキが……マトイ?どうかしたの?」
「え?ご、ごめんなさい。何でもないの。気にしないで」
話をしている途中、マトイがどことなく上の空だと気付いたアスナはマトイに問い掛ける。アスナからの問いにマトイは笑顔でそう答えるが、彼女はいまだ心ここにあらず、といった感じだ。
そんなマトイの様子を見て、アスナはそっと彼女を抱き寄せた。
「アスナ?」
「マトイ、何かあるんだったら遠慮しないで相談してほしいな。だってわたし達、もう仲間なんだから」
「でもわたし、いつもみんなから貰ってばっかり。街に出て一緒に買い物したり、探索に行った惑星の話を聞かせて貰ったり、わたしの記憶の事だって……みんながわたしの為に頑張ってくれてる。でもわたしは、みんなに何も返せてない」
話しながら泣きそうな声になるマトイ。アスナはマトイを安心させるように、彼女を包む手に力を入れる。
「大丈夫。わたし達はもう十分色んな物をマトイから貰っているよ」
「そんな事」
「本当だよ。いつも探索から帰ってきたわたし達の心配をしてくれたり、わたし達の話を楽しそうに聞いてくれる。だからわたしもみんなもマトイにもっと色んな話を聞かせてあげたいって思う。マトイが居てくれるだけで、わたし達は十分なんだよ」
「アスナ……ありがとう」
完全に安心したマトイは笑顔を取り戻し、アスナの腕の中で静かに涙を流す。自分の記憶が無いこともあるが、その事で自分が皆にとって重荷になっているのではないか。そんな考えがあったマトイにとってアスナの言葉がどれだけの救いになったのは言うまでもないだろう。
『緊急警報発令!船団前方にダークファルス反応あり!各自、戦闘準備をお願いします!』
問題というのはいつも空気を読まない。警報を聞き、アスナはキッと顔を強張らせる。その直後、舟全体が大きく揺れた。ダークファルスの攻撃が始まったのだ。
「マトイはメディカルセンターに行ってて。わたしはみんなの所に行かなくちゃ」
「アスナ!」
「大丈夫。ちゃんとみんな一緒に戻ってくるから。その時はみんなでお茶でもしよう?」
「……うん」
そう言ってマトイを安心させるようにアスナは笑顔を見せて部屋から去る。マトイもアスナの言いつけ通りメディカルセンターへと向かう。だが、その瞳は今までのような不安に怯えた少女のままではなく、決意を胸に抱き前を向いていた。
「わたしも、やれる事をしないと!」
▼
同時刻、オラクル船団市街地――――
『オラクル船団市民の皆さんにお伝えします。総力戦警報が発令されました。船団は現在ダーカーとの交戦状態にあります……』
「ダーカー?」
「この前、テミスが襲われたばっかりなのに」
「シールドはどうなってるの?管制がしっかりしてくれないと」
「10年前のような事は御免だぜ」
突然の緊急警報に船団中の市民が不安の声を上げる。その不安は的中し、船団外で多くのアークスがA.I.S(
すぐさまアークスや緊急クエストと題して招集されたプレイヤー達が市民の避難活動とダーカーとの交戦を行う。
「みんな、早く逃げろ!……クソッ!船団でダークファルスと戦うなんてマジか」
「泣きごと言ってる場合じゃないぞ」
先行部隊として市街地でファルスアームと交戦していたアフィンの元にナベリウスから帰還したペルソナ達と、彼らと合流したアスナ達が駆けつけてきた。
「今は私達に出来ることを全力でやるだけだ。ラン!シノン!」
何処からともなく飛来した魔法と弾丸がファルスアームに命中し、落下したファルスアームは待ち伏せていたキリト達の総攻撃により消滅した。だが、ファルスアームは無尽蔵に湧き出している。いくら倒しても切りがない。
『ファルスアームがメディカルセンターに接近しています。付近のアークス各員は直ちに急行してください』
「えっ⁉」
「アスナ?どうしたんだ」
「メディカルセンターにはマトイがいるの。多分他の場所よりもそこが安全だと思ったから」
「ッ!(マズイ!)」
キリトとアスナの会話を聞いたペルソナは血相を変えてメディカルセンターへと駆け出した。
「ペルソナ⁉」
「お、おい相棒!キリト!」
「3人共⁉待って――ドオオォオン‼――っ!」
走り出していったペルソナ、キリト、アフィンを追いかけようとしたアスナだったが、目の前に別のファルスアームが現れて道を塞ぐ。
「やあ!」
「ユウキ⁉」
飛行による加速を利用した重い一撃をぶつけ、ユウキはファルスアームを突き飛ばした。
「アスナ行って!コイツはボク達で何とかするから!」
「たくっ、ホント男ってのは勝手なんだから!アスナ、あのバカ達の事頼んだわよ!」
リズベットを始め、仲間達がファルスアームを足止めし、アスナに道を作る。
「みんなありがとう!気を付けてね!」
▼
メディカルセンター前――――
「みんな!こっち!早く!」
「医療班は負傷者の治療に!他のスタッフはセンター内の患者の避難を!マトイちゃん、あなたは避難の手伝いをお願い!」
「はい!」
マトイはフィリアの指示通りに市街地とメディカルセンターを繋ぐゲートの近くまで行くと、そこでは駆け込んでくる市民をメディカルセンターのスタッフが誘導している。
「ダークファルスが来るぞー‼」
誰かが叫んだかと思えば、避難民のすぐ後ろからファルスアームが迫っていた。
「みんな逃げて!」
マトイは急いで避難してくる市民たち全員をゲートの中に入れる。その直後、ファルスアームがマトイの目の前に降りてきた。
「ひっ……」
「デリャァァアアアアア‼」
ファルスアームがマトイに襲い掛かる寸前、ファルスアームの背後から現れた青髪のキャストの女性がパルチザンで一閃し消滅させた。
「大丈夫かい?お嬢ちゃん」
「は、はい!」
「ん?お前さん、確かアイツが言ってた…「マトイ!」…ようやく来たか」
その女性はマトイに近づいて彼女の顔を見て少し考え込むが、すぐに遠くから聞こえてきた声の方に目を向ける。そこにはペルソナが走ってきており、その後ろからアフィン、キリト、アスナの3人が彼を追いかけるように走ってきていた。
「ペルソナ!みんな!」
「マトイ大丈夫⁉怪我とかしてない⁉」
「うん。この人が助けてくれてたの」
「また会った…いや、今はまだ初めましてだったね」
「貴女は?」
「アタシは六芒均衡の二、マリアだ」
「六芒均衡ってアークストップの?」
アスナの疑問にマリアは「ああ」と短く頷いた。
「まあ今はそんな事どうでも良いさ。アタシは他の六芒と違うからね。それよりアンタ」
マリアはペルソナの方へ目線を向ける。
「肝心な時に大事な仲間を守ってやれないと、後で一生後悔するよ」
「それは…(分かっているつもりだ)」
ペルソナは目を逸らすが、その先で複数の爆発が起こっていた。
「どうやら旗色が良くないね。他の舟にも敵が入り込んでいるらしい」
「そんな!」
「この辺りで一気に戦況をひっくり返さないと、少々マズイ事になりそうだ」
「でも、40年前は倒せたんです。今度も大丈夫でしょ?」
アフィンの言葉にペルソナはバツの悪い顔をした。その様子を見ていたキリトとアスナが心配そうに彼を見つめる。
「ペルソナ、何か知ってるのか?」
「……倒せなかったんだ」
「え?」
「40年前、アークスはダークファルスを倒し切れなかった。封印するのが精一杯だったらしい」
ペルソナの言葉にマリアを除くその場にいた全員が信じられないという顔をする。
「そのダークファルスをゲッテムハルトが復活させて解放した。船団を襲ってるのはそいつだ」
全員が絶句し、緊張が走る中、その場にいた全員に対して緊急通信が入る。
「これは……!」
その通信の内容を見た時、今度は流石のマリアも驚愕した。
▼
数分前、アークスシップ指令室――――
『ダーカー因子の浄化とA.I.Sの活動の為、複数の艦船でフォトン消費率が急激に増加しています!』
「このままでは敵本体が到達する前に船団が維持できなくなるぞ」
「フォトンを温存する為ここで手を緩めたら壊滅しかねん」
「しかし」
管制の報告と現場の状況を見ていた上層部たちは現状に憂いを感じていた。
「今はまず、敵斥候の排除が最優先だ。それなくして船団の維持はない!」
そう言ってレギアスは上層部の者達の不安を一蹴する。が、彼自身も状況打破の策を講じれずに頭を悩ませる。そんな彼に対して突然通信が入った。
『レギアス。船団の防衛状況は思わしくないようだね?』
(……分かっているならば話は後にしろ。手が空いたら聞いてやる)
通信相手はレギアスが一番相手にしたくない男からで彼は周囲に通信の内容を聞かれないようにその男からの通信に応じた。
『君の時間を割く価値はある筈だよ?今のままでは船団全体を失う事になる。それは避けたいだろう?』
(まるで他人事のような口振りだな。策があると言うのか?)
『敵の骨を断つために、こちらの肉を切らせる覚悟があるのなら』
(何?)
『マザーシップに蓄えられたフォトンを放出し、ダークファルスを粉砕する』
(何だと⁉馬鹿を言うな!既にダーカー因子の浄化と戦闘の為に大量のフォトンを消費している。この上、更にフォトンを失えと言うのか!)
『それが出来なければ、40年前の悲劇を繰り返すことになる。僕らに選択の余地はないのさ』
男の言葉にレギアスは反論できず、苦渋の決断を下した。
▼
ペルソナside――――
私達は緊急通信で送られてきた作戦の内容に驚愕していた。
「何だこの作戦。マザーシップのフォトンで攻撃するなんて!」
「マザーシップってあの一番大きい船のことだよね?」
「その通りだ。だが、この作戦は余りにもリスクが高すぎる。もしこの作戦を実行すれば、船団へのフォトン供給は確実に停止するだろう」
「それって、かなりやばい事なんじゃ?」
キリトの不安通り船団へのフォトン供給停止は非常に危険だ。フォトンはアークスや市街地の住民にとって酸素や電気といったエネルギーと同義で、この大量のオラクル船団を維持できているのもフォトンあってこそなのだ。
「レギアスめ、コレで起死回生を図るつもりか。その上これだ」
「『この砲撃は管制の判断によって即座に行われる。事前の警報は発令されない』え?それって」
「たとえ味方の舟が巻き添えになっても容赦はしない。っという事さ」
「そんな!敵を倒せれば味方がどうなっても良いっていうのか⁉」
敵味方関係なしの作戦内容にキリトは怒りの声を上げる。彼の怒りも最もだが、この作戦を発令したレギアスも現状打破にはこの方法しかなく、味方を巻き込むのは彼にとって苦渋の決断の筈だ。
――これも全て"あの男"の計画の内というのが腹立たしいが。
「ねえ見て。これ、わたし達の舟も攻撃範囲に含まれてるんじゃない?」
マトイの指摘に私達はもう一度ウインドウを見る。確かに私達が乗っている舟もマザーシップの砲撃の直線状に入っている。
「攻撃の中止は出来ないのか⁉」
「既に砲撃シークエンスが進行しているし、アークスシップの進行は完全に自動化されてる。今からじゃ間に合わない」
「そんな……」
「兎に角、アンタ達はすぐにシェルターに向かった方が良い。そのお嬢ちゃんの身の安全を確保するためにもね」
「……仕方ないか」
「そうだね。わたし達にどうにもできないなら、今は言う通りにした方が良さそう。みんなの事も心配だし、避難シェルターで合流するように連絡しておこう?」
私達はマトイを守りながら避難シェルターへと向かった。道中、ファルスアームとの交戦中に抜け出した事をアスナからこっ酷く叱られ、避難シェルター付近でもユウキから自分たちに丸投げされた事に対して耳に胼胝が出来そうなほど文句を言われた。
因みにマリアだが「そこら辺にいるデカブツ共をぶっ潰してから避難するよ」っと言って何処かに行ってしまった。……まああの人なら大丈夫だろう。
「ねえ聞いてるのペルソナ!」
「聞いているし、それについてはずっと謝ってるだろ。そろそろ離してくれ」
「いーやーだー‼」
「はぁ……ラン、」
「いやです」
「まだ何も言ってないんだが」
「最近のペルソナさんは勝手すぎます!マトイさんが心配だったのは分かります。ですが、わたし達にエネミーを押し付けて良い理由にはなりません!あの後アスナさんを貴方たちの方へ向かわせる為にみんなで抑えたりして大変だったんですからね!少しは反省してください!」
そう言ってランはそっぽを向いた。確かに最近は何かとマトイの事を気に掛けたり、前の世界と違いは無いかなど走り回って彼女達を相手に出来なかった。恐らく先程の私の行動でランも堪忍袋の緒が切れたのだろう。どうやら私に残された道は誠心誠意、彼女たちに謝罪し、その不満を解消させる為に奮闘するしかないらしい。
「あははは……」
「キーリート―くーん?君も笑ってられる立場じゃないからね?」
「わ、分かってるよ。ちゃんと反省してます」
そんなやり取りをしている私達から少し離れた場所で、複数のアークスが何処か焦ったような口調で管制と通信を行っていた。
「みんな、大変だ!」
避難民の誘導を終えたアフィンが切羽詰まった様子でこちらへと向かってきた。
「どうした?」
「実は、この舟の居住区が切り離せないらしいんだ!」
「そんな⁉でもどうして?」
『船外の戦闘で、固定アームの制御装置が破損しました。このアームが外れないと、居住区が分離できないんです!』
アスナの問いにアフィンが通信していたオペレーターがそう答える。
「居住区が分離できないって事は、この舟も砲撃の巻き添えになるんじゃないのか?」
「おいおい、もしそんな事になっちまったら、ここにいる奴等全員死んじまうだろうが!何とかならねえのかよオペレーターの姉ちゃん!」
エギルの言葉にクラインは通信画面に喰らい付いてオペレーターに問い掛ける。
『予備端末を操作すれば何とかできるかもしれません。ですが、操作するには居住区から出て、固定アームを直接起爆するしかありません』
オペレーターの言葉にその場にいた全員が息を呑む。居住区の外に出るという事は、最悪の場合、分離された居住区に戻る事が出来なくなってしまうリスクもある。誰かがやらなければならないが、その場にいる誰もがその決断を渋っていた。
「私が行く。ユウキ、悪いが今は離してくれ」
「だ、ダメ!」
ならばここは予備端末の場所も操作方法を知っている私が行くのが最善。そう考えた私は早速ユウキに手を離すように頼んだが、即座に断られてしまった。こんな時に駄々をこねている場合かと思ったが、私の腕を掴んでいるユウキの眼はいつの間にか真剣なものに変わっていた。これは無理に引き剥がせないか。
だが、このまま何もしなければこの舟に乗っている多くの命が失われる事になる。
「じゃあ俺が行ってくるよ」
そんな中、そう切り出したのはキリト。
「ちょ、キリト君⁉」
「お兄ちゃん、流石に危ないよ!」
「でも誰かがやらないといけない。じゃないと、避難してる人達が犠牲になる。それに、俺達はこの世界にログインして来てるんだ。例え乗り遅れたとしても死ぬわけじゃない」
「じゃ、じゃあわたしも一緒に!」
「いや、アスナはここでマトイ達を守ってくれ。いくら敵の数が減ってきてるからって、気は抜けない。彼らを守るなら数は出来るだけ多い方が良い」
「でも!」
アスナが反論しようとしたと同時に、私達の上を巨大な影が通過した。再びシールドを破り、複数のファルスアームが舟の中に侵入してきたのだ。その内の一体が飛び跳ねながらこちらに迫ってくる。
咄嗟に私とキリトが前に出て臨戦態勢を取るが、次の瞬間、ファルスアームが私達の目と鼻の先まで来た所で、その体を霧散させ消滅した。
「な、何が……⁉」
「……」
突然の出来事にキリトは何が起きたのか戸惑っていたが、私は視界の先で転移して立ち去った仮面の男の姿を見た。キリトもその姿を見たのか、険しい表情をしながらこちらに目を向ける。
「ペルソナ、アスナ達を頼む!」
「分かっている。……気を付けろよ」
「待ってキリト君!」
「アスナ、今はキリトに任せるんだ。私達には別にやるべき事がある」
キリトを追いかけようとしたアスナを止めた。同時に私に引っ付いているユウキをアスナに託し代わりにコートエッジを構え、侵入してきたファルスアームの一体を抑える。
「アフィン!マトイをシェルターへ!」
「分かった!マトイ、早く!」
アフィンがマトイをシェルター内に連れて行ったのを見届け、私は対峙するファルスアームの下に潜り込み、掌のコアにコートエッジを突き立てると、そのまま手首の付け根の方まで切り裂き、ファルスアームは消滅した。
だが、まだ気は抜けない。侵入してきたファルスアームはさっきの二体だけではないのだ。
すぐさま態勢を整える私の元に四体のファルスアームが私を取り囲むように降りてきた。……まあ同胞を一撃で屠った奴がいれば、最優先で潰しにくるのは当たり前か。
――はぁ……一、二体程度ならまだしも、四体同時は流石の私でも手を焼きそうだな。
心の中で悪態を吐きながら私がどうにかこの状況を打破できないかを模索していると、突然、私を囲むファルスアーム達は四方から繰り出された攻撃により次々と倒されていった。
――そうだった、今の私は1人じゃなかったな。
「全く。貴方もキリトさんも、どうして一人で解決しようとするんですか?」
「別に一人で解決しようとしている訳じゃない。私にしか出来ない事に最善を尽くそうとしているだけだ。……それと、さっきの償いをとも思ったんだが」
一応助けられた身なので偉そうな事は言いたくないが、もう少し気の利いた言葉を掛けられないのだろうかっと思いながらランにそう返す。
「残念ですが、今のでまた一つ貸しが出来てしまったので、先程の件をまだ許す気はありません。ですが、もし貴方がどうしても許して欲しいと望むのでしたら……」
そっぽを向いたまま続けるランは私の方へ振り返ると、
「今度のクーナさんのスペシャルライブ。一緒に行きましょうね!」
ユウキに良く似た悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言った。
「……ああ、分かった。約束しよう」
予想外の言葉に暫く呆気に取られていたが、すぐにその提案を承諾した。
「! 約束しましたからね!ライブ後のサイン会も一緒に来てもらいますからね!絶対ですよ!」
「あー!姉ちゃんだけズルい!ボクも一緒に行きたい行きたい!」
いつの間にか隣にいたユウキに私とランは一緒になって驚く。
「ふふ、分かった。ユウも一緒に行こう?いいですよね?」
「……勿論だ」
ランはすぐにいつもの微笑みでユウキにそう提案し、私は彼女に同意した。
「コラー‼そこの3人、イチャつくな!そっちに一体行ったわよ‼」
リズベットの怒声が聞こえたかと思えば、新たに侵入してきたファルスアームが私達の方に向かって拳の形を作って突進して来ていた。
――別にイチャついてた訳じゃないんだが……。
私達は一斉にその場から飛び退いてファルスアームの突進攻撃を避ける。私達が立っていた所に突き刺さったファルスアームは抜けられなくなり、手首の付け根部分の弱点に私とランとユウキの集中攻撃を浴びせる事で、一瞬で散った。
「まあ、取り敢えず今はこの状況から脱する事が最優先だな」
必死に他のファルスアームを抑えている皆に加勢する。……さっさと残りも片付けるか。
▼
キリトside――――
『次に、安全装置を解除して、手動で分離装置を作動させてください』
俺は教えて貰ったパスワードを電子版に入力する。
『安全装置が解除されました。起爆ボルトはオンラインです』
そんな機械音声と共に出てきた2つの起爆ボルトを掴んで端末へと押し戻した。
『起爆ボルト作動。これより、分離シークエンスを開始します』
アナウンスの直後、遠くの方で複数の爆発が起きた。
『成功です!急いで戻って来てください!』
「分かりました!」
俺はここまで来た道のりを急いで戻る。
『分離シークエンスを開始しました。居住区は300秒後に分離します』
そんなアナウンスが船内に繰り返し響く中、船内が大きく揺れ始める。分離の為の爆発か、外の戦闘の影響か、突然の激しい揺れと共に前の道が塞がって通れなくなる。
「くそッ!」
俺はすぐにマップを開き、表示された別ルートを走る。かなりギリギリだが、このまま行けば分離が開始される前にシェルターまで戻れるはずだ。だが、道の先でまるで俺を待っていたように仮面の男が立っていた。
「お前は……!」
「マトイを、殺す覚悟はできたか?」
「そんな覚悟、する訳ないだろ」
「マトイを殺さなければ、お前は永遠の絶望に囚われる事になる。それは、死ですらも安らぎに思えるほどの深い暗闇だ」
「だったら何で、さっきは彼女を助けたんだ!」
「……」
「それはまだ、君がマトイを死の運命から救いたいと思っているからだ!そうだろ、ペルソナ……いや、アッシュ‼」
「!」
俺の言葉に彼は明らかに動揺した。俺がペルソナから聞いた話では、今俺の目の前にいる男はペルソナの前世の姿。俺が自分の名前を知っているのは想定外の筈だ。
「成程、彼から事前に話を聞いていた訳か」
「……ならば説明は不要だ。私の言葉を信じ、受け入れるだけでいい。これが救いだという事を。それともう一つ、私の本当の名は《アッシュ》でも《ペルソナ》でもない……話はこれまでだ」
その言葉と同時に、彼は俺に攻撃を仕掛けてきた。
「ぐっ!」
俺はすぐに剣でその攻撃を防ぎ、二刀流で応戦する。だが、まるで俺の動きを読んでいるように次々と俺の攻撃を避ける。そして床に突き刺さった剣を足で抑えられ、もう一本の剣も彼が持つ二本の剣で止められた。
「後悔するぞ……キリト」
「なっ⁉」
何で俺の名前を知っていたのか。その疑問を口にするよりも早く俺は蹴り飛ばされ、鉄の壁を突き破り、塞がれていた穴の中へと落ちる。
「貴様がどう考えようが、結末は変わらない」
「ま、待て!」
体を黒い粒子に変えて立ち去ろうとする彼を止めようと手を伸ばしたが、俺の手が彼を掴むよりも先に彼はその場から消えていた。
「くそ!」
俺は悪態を吐くが、すぐにここから離れないといけない。
――でも、今からじゃ居住区まで戻れるかも怪しい。このままじゃ……。
「! これは、もしかして!」
▼
ペルソナside――――
『……、3、2、1、0。区画閉鎖、居住区を分離します』
「そんな!キリト!」
扉の前で、キリトの帰りを待っていた私達だったが、通路から奴が来る姿は見えず、シェルターの外に出ようとしたアスナ達よりも早く、その扉は硬く閉じられた。
「キリト……」
――せめて、"アレ"に気が付いてくれ。
今一度、船体が大きく揺れる。居住区が完全に分離されたようだった。
その直後だった。更に大きな揺れが舟全体に響き、私達は床に手をついて振動に耐える。
揺れ自体はほんの一瞬のものだったが、今の私達には数十秒の長さにも感じられた。
揺れが収まった後、声すらも出ずに涙を流すマトイに私はそっと寄り添い、彼女の頭を撫でる。最後までキリトが戻ってこなかった事に場の空気が重くなる。
「だ……大丈夫、でしょ?アイツがこれくらいで死んだりする訳ないし、それにゲームなんだから、例えゲームオーバーになっても、セーブポイントから復活するんじゃ……」
そんな空気を換えようとリズベットがアフィンやマトイには聞こえない程度に、いつもの調子で皆を鼓舞しようとするも、今の自分たちの格好もあってか、最後の方は自信が持てなかったのか、段々と声が沈んでいく。
「ユイちゃん、キリト君と通信できる?」
「……ごめんなさい。先程の砲撃の影響で通信障害が発生していて、パパと繋がりません」
「そう……」
ユイちゃんの言葉に私達は肩を落とす。
『……っ、』
「……?」
そんな時だ。私の端末に途切れ途切れではあるが、通信が入った。
「キリトか?」
「え?」
『……。ペルソナ、みんな。聞こえてるか?』
「「「「キリト(君/さん)⁉」」」」
キリトの声が聞こえた瞬間、皆が私に向かって突撃してくるものだから、私は通信端末がある左手だけをその場に残して倒れた。
『おお……なんか凄い音したけど、取り敢えずみんな無事みたいで良かったよ』
――おい待て。無事じゃない奴がここに1人いるぞ。
「無事で良かったはこっちの台詞だよ!心配したんだよ!今どこに居るの⁉」
『脱出ポットだ。結構ギリギリだったけど助かった。心配かけて悪いなアスナ』
「本当に良かった!」
キリトの無事を知って安心しきったアスナも涙を流し、皆も互いに肩を組んで喜びを分かち合う。
――どうやら、自力で脱出ポットに気が付いたようだな。
シェルターの扉が閉まる前に脱出ポットの存在を教えようと何度か通信を試みたのだが、上手く繋がらなかったので不安ではあったが、何とかなったようで良かった。
▼
宇宙空間――――
「フッハハハハ。いいぞ、楽しいぞ。アークスよ、この我を押し返したか。それでこそ戻ってきた甲斐がある」
フォトンブラスターの巻き添えになった船団の残骸に立つエルダーは、完全復活を果たした自らを破ったアークスを賞賛し、高らかに笑っていた。
「ようやく戻ってきたかと思ったら、いきなりやられちゃった上に大喜び?」
「誰だ貴様は?…いや、この感じには覚えがある。貴様
アプレンティスと呼ばれた女はもみあげの先が紫がかった金髪で、ニューマンのように尖った耳をしている。
「そういう事。もっとも、新しいと言っても10年は経ってるけどね」
「そちらの気に食わん2人組は
続いてエルダーが視線を向けた先に居たのは、名前の通り双子の子供のダークファルスだった。
「揃いも揃って我を出迎えるとは、感謝感激痛み入る。だが、そいつらは誰だ?」
最後にエルダーが振り返った先に居たのは、先程キリトと応戦していた仮面の男と、仮面を付けた少女ヴァベルだった。
「新参の子。女の方はヴァベルって名乗ってる。男の方は何も喋らないから、取り敢えずあたしは
「奴等が何であれ、我を楽しませてくれるのなら一向に構わん。アークス。諸兄等の健闘を称え、今回は退いてやろう!自在に動くこの身があれば、いつ如何なる時であっても闘争は可能。長く長く楽しませてもらうぞ!せいぜい足掻け、アークスよ‼」
大きな笑い声を残しながら、エルダーはその場を後にした。
▼
「フォトンを失った君は文字通り丸裸も同然だ」
その男は椅子から立ち上がり、マザーシップの映像に向かって話し掛ける。
「ああ、シオン。君の匂いがもう、ここまで漂ってくるようだよ」
まるで玩具で遊ぶ子供のように笑う男。その狂気にも満ちた瞳は、映し出されたマザーシップだけを一点に見据えていた。
オラクル編第一章終了。
次回もよろしくお願いします。