仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第72話です。



第72話 もうそこにいないわたし

 

エルダーとの戦闘から数日が経過し、生き残ったオラクル住民とアークスにより復興作業が進んでいる。だが、戦闘によって生じた大きな傷痕は、未だ多くの者の心に残っている。

 

 

――まずはここ数日の事を話そう。

 

 

エルダー戦の直後、私とキリトは皆を集め、この世界のNPCは死んでも復活しない事を皆に話した。まあ皆、ダーカー強襲の際から薄々勘づいていたようで、話をすると、全員が何を今更と言いたげだったのは不服ではあったが。とは言え、疑念が確信に変わった事で、皆で話し合った結果、今後は積極的にNPCとも連携を取り、NPC側の被害は最小限に抑えようという事になった。

 

 

 

そして現在、私は艦橋に呼び出されている。

 

 

あまり気は進まなかったが、私の記憶と異なる事象が生じていないかの確認もある為、仕方なく艦橋へと向かっている。中に入ると、そこには私と同じように呼び出されたのだろうエコーと、エルダー復活時に私達が撤退するまでの時間を稼ぐべくゼノと共にナベリウスに残ったカスラが居た。

 

 

その場にゼノが居なかったのが気になったが、カスラ曰くエルダーとの戦闘中にゼノがエルダーを引き付けたお陰で助かる事が出来たらしい。

 

 

――私の記憶と同じ展開だからここは問題ないな。

 

 

エコーはゼノの行動を「ゼノらしい」と言って艦橋から出ていき、私も彼女を追う形でその場を後にした。

 

 

「……エコー」

 

 

「心配しなくても、あたしは待たされるの慣れてるから大丈夫。ゼノならその内ひょっこり戻ってくるわよ。それに、ゼノが留守の間はその分しっかりしないと!」

 

 

「それは……確かに、その通りだな」

 

 

「そうそう。それじゃ、あたしは任務があるから。いつまでもしんみりしてないで、君も自分の任務を頑張りなさいな」

 

 

そう言いながら私の胸を叩き、エコーはその場を後にした。勿論その行動が強がりだという事を私は知っている。

 

 

――あんな目をされてはな……。

 

 

本当はもう少し気の利いた言葉を掛けるつもりだったのだが、無理して笑う彼女の瞳を見た途端、私は何も言えなくなってしまった。

 

 

「はぁ……相変わらず何も変わってないな私は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、君も休憩か?」

 

 

エコーと別れた後、ロビー2階の柵を背もたれにしていた所、偶然近くを通り掛かったキリトがこちらに近づいてきた。

 

 

「キリトか。まあそんな所だ」

 

 

「何か疲れてるみたいだけど大丈夫か?」

 

 

「最近色々あったからな。疲れもするさ」

 

 

首に掛かっているペンダントに触れながら私はキリトに愛想笑いを向ける。

 

 

「そのペンダント。この世界に来てからずっと持ってるけど、大事な物なのか?」

 

 

「ああ、これか。そんな大相な物じゃない。これは「あ、いた!」ん?」

 

 

「やったわね。キリト、ペルソナ!」

 

 

突然声を掛けてきたのは、銀髪ポニーテールの少女だった。親しげに話し掛けてきた少女だが、私もキリトもその少女とは初対面であり、キリトは少女を見て首を傾げる。

 

 

「君の知り合いか?」

 

 

「いいや(まだ)初対面だ」

 

 

少女の事は良く知っている。だが、この世界の彼女とはまだ初対面だ。キリトと面識があったのかと思ったが、キリトの様子から彼の方も初対面のようだ。

 

 

私達の反応に「しまった」っという顔をして苦笑いを浮かべる。

 

 

「あっ……あはは、ごめんなさい。貴方たちがあたしの知り合いに似ていたから勘違いしちゃった。さっきの事は気にしないで」

 

 

そんな苦しい言い訳と共に、彼女は足早に私達から逃げるように走り去って行った。

 

 

「な、何だったんだ?」

 

 

「さあな」

 

 

突然の少女の登場により、ペンダントの話が有耶無耶になり、私は少し気が抜けて柵に寄りかかってロビーを見下ろした。

 

 

「メルフォンシーナさん待って!」

 

 

すると、メディカルセンターの病衣姿のまま走るメルフォンシーナと、彼女を追い掛けるマトイの姿が視界に入る。

 

 

「マトイ?どうしたんだー!」

 

 

「キリト、ペルソナ!メルフォンシーナさんが!」

 

 

マトイが目を向けた先でいまだ走り続けるメルフォンシーナは、キャンプシップ乗り場の方へと向かっていた。階段を降りる余裕もなさそうなので、私とキリトは柵を飛び越えてマトイの元へ駆け寄り、彼女から事情を聞いた。

 

 

彼女曰く、メルフォンシーナはつい先程目を覚まし、自分がゲッテムハルトにされた事、そしてゲッテムハルトがどうなったかをフィリアから聞き、暫くは落ち込んでいたらしい。しかし、フィリアが病室から出ていくと、マトイの隙を見て病室から脱走したとの事だ。

 

 

私達はマトイをその場に残るように言い、彼女の代わりにメルフォンシーナを追い掛けた。

 

 

「ッ、ペルソナ、あれ!」

 

 

「分かってる。私達も行くぞ」

 

 

整備中のキャンプシップを奪っていくメルフォンシーナを見て、私達も別のキャンプシップを使ってメルフォンシーナが乗るキャンプシップを追い掛ける。

 

 

「なあこれ、流れで乗ったけど大丈夫なのか?」

 

 

「こっちは緊急だ。そんな事わざわざ気にするな」

 

 

キャンプシップを盗んだ事に不安になるキリトを余所に、私はメルフォンシーナに向けて引き返すよう説得したが、通信を一方的に切られてしまった。

 

 

「チッ!ワープ軌道に入ったか。少し揺れるぞ、掴まってろ!」

 

 

ワープ軌道に入った彼女のキャンプシップに続けて速度を上げ、滑り込むように同じワープ空間へ飛び込む。初の試みで上手くいくか分からなかったが、無事ワープは成功し、飛び出した先はナベリウスの惑星軌道上だった。

 

 

「イッタタタ……君、ちょっと運転荒すぎないか?」

 

 

「掴まっていろと言っただろう。彼女がナベリウスに降りた。私達もすぐに追うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッテムハルト様……」

 

 

雪の上の足跡を辿って、ナベリウス遺跡エリアの最奥まで辿り着くと、私達は墓標の前で膝をつき、何度もゲッテムハルトの名を口にし涙を流すメルフォンシーナの姿があった。彼女は私達の存在に気付くと、眼から溢れる涙をそのままに私達の方を振り向く。

 

 

「キリト様、ペルソナ様……ゲッテムハルト様はどこですか?」

 

 

「……ゲッテムハルトは、もういない。ダークファルスに体を乗っ取られ、消えた」

 

 

彼女の問いに私が正直に答えると、彼女は悲しみに顔を歪ませる。そして目の前に落ちている鋭利な破片を手に取り、自身の首に突き立てようとする。

 

 

「よせ!」

 

 

「いや!離して!」

 

 

だがキリトがすぐに止めに入り、彼女が自身の首を刺すことは無かった。

 

 

「ゲッテムハルト様が居なくなったのなら、私にはもう生きる意味が無いんです!」

 

 

キリトがどれだけ力を入れてもメルフォンシーナから破片を手放さなかった為、已むを得ず、彼女を叩いた。倒れた彼女はそのまま眠るまで延々と泣き続けた。本来ならまだメディカルセンターで絶対安静でいるべき状態なのだ。無理をし過ぎたのだろう。

 

 

私は持っていた簡易の寝具で彼女を休ませ、ひたすら目覚めるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元々ナベリウスに来た時点で夕方だった事もあり、周囲はいつの間にか夜の闇に包まれていた。

 

 

「……落ち着いたか?」

 

 

「はい……取り乱してしまい、申し訳ありません」

 

 

焚火を焚き、コーヒーを沸かしていると、ずっと聞こえていた規則正しい呼吸音がしなくなったため、試しに話しかけてみると、やはりメルフォンシーナは起きていた。その顔からは先程までの憑き物が落ちたようだった。

 

 

「あの、さっきは叩いちゃってごめん」

 

 

「いえ。キリト様は私のために止めてくださったのですから、むしろお礼をさせてください」

 

 

流石のキリトも女性を叩いた事には罪悪感があったのだろう。私は互いに頭を下げ合う2人を焚火の近くに座らせ、作っていたコーヒーを振舞う。

 

 

「ゲッテムハルト様は……」

 

 

コーヒーを飲み、再び焚火の音だけがする沈黙の中、メルフォンシーナが口を開いた。

 

 

「昔のゲッテムハルト様は、猛々しさこそあれ、あそこまで暴力的な人ではありませんでした。幼かった私の相手もしてくれましたし、他の方からも嫌われたりはしていなかった。それこそゼノ様からは」

 

 

メルフォンシーナはゆっくりと昔の話をしてくれた。

 

 

10年前もゲッテムハルトとゼノは良く衝突していたらしい。それでも現在のように険悪な感じではなく、お互いに冗談を言い合う程度もので、その度に彼らのやり取りを見ていたメルフォンシーナの姉……本物の(・・・)メルフォンシーナが間に入って叱責していたそうだ。

 

 

「だけど……それを壊したのは私。10年前、ダーカー襲撃、ダークファルス【若人】(アプレンティス)の出現。あの時、私が出しゃばらなければ……!」

 

 

幼かった彼女は守られてばかりの自分に嫌気が差しており、自分1人でも戦える。そう自分に言い聞かせるように、ダーカーが溢れかえるテミスの居住区へと向かったのだという。

 

 

「結果は火を見るよりも明らかでした」

 

 

破壊される街。無限に湧き出てくるダーカーの大群を前に、メルフォンシーナはただ隠れる事しか出来なかった。

 

 

「私と同じくらいの赤毛の少女と会いました。女性のダークファルスが近くを通ったのですが、その後の事は良く覚えていません。恐らくは、あの子が逃がしてくれたのでしょう。気が付くと、私は破壊された街を走っていました。逃げた先でダーカーに遭遇しましたが、近くに落ちていた短杖(ウォンド)を反射的に構えた事でダーカーを倒すことが出来ました。それが初めてのテクニック発動でした。これでもう、守られる存在でなくなる。誰かを守る事ができる。その慢心が全てを壊したのです」

 

 

ダーカーを倒した後、メルフォンシーナはウォンドを持ってゲッテムハルトと姉の元に駆け付け、彼らが対峙しているダークファルスに一撃を与えたのだが、全く効いているような素振りも無く、そのままゲッテムハルトは顔に傷を負い、彼女の姉はダークファルスの攻撃により命を落とした。

 

 

「この時から私はメルフォンシーナとして生きる事となりました」

 

 

「「……」」

 

 

メルフォンシーナの話が終わり、私達は何も言えなかった。

 

 

「……すまない。こういう時、何て言えばいいのか……情けないが、『辛かったんだな』とか、『しっかりしろ』とか、上っ面の言葉しか思いつかない」

 

 

「いいえ。これは私が背負うべき(とが)ですから」

 

 

何のフォローも出来ず、再び沈黙がその場を支配したと同時に、上空から何かが落下してくる音が聞こえてきた。

 

 

「何の音だ⁉」

 

 

謎の物体が私達の目と鼻の先に落下し、私は落下の衝撃波からメルフォンシーナを庇う。

 

 

何かが落下した場所にはクレーターが出来ており、その中心に人影が見えた。

 

 

「あいつは……ゲッテムハルト⁉」

 

 

「いや違う。奴がエルダーだ」

 

 

「何だって⁉」

 

 

強者(つわもの)の気配を感じて来てみれば、貴様等であったか。三度(・・)相まみえるとは奇遇」

 

 

「エルダーって、でも奴は倒した筈じゃ」

 

 

「我を滅したつもりか?ダークファルスは滅びぬ。倒せぬ。殺し尽くせぬ!」

 

 

「ゲッテムハルト様⁉」

 

 

「違う!あいつはエルd「ゲッテムハルト様‼」待て、シーナ!」

 

 

エルダーをゲッテムハルト本人だと勘違いし、近づこうとしたメルフォンシーナをキリトが引き留めるが、精神状態が正常じゃない彼女はキリトの手を振りほどいてエルダーの元へと駆け寄った。

 

 

メルフォンシーナは嬉々とした表情をしていたが、そんな彼女とは裏腹にエルダーは彼女の首を掴んで持ち上げる。その様子を見た私とキリトはすぐに戦闘態勢を取る。

 

 

「彼女を離せ、エルダー」

 

 

「ゼノとか言う男より、我を楽しませてくれるのか?貴様等は」

 

 

私達に対して問い掛けてきながら、エルダーはメルフォンシーナを投げ捨てる。

 

 

「ゲッテムハルトはどうした!」

 

 

「奴はもういない。我が喰ろうてやったわ!」

 

 

「どけ、キリト」

 

 

「ペルソナ⁉」

 

 

拳を振りかざしながら迫ってくるエルダー。私は咄嗟にキリトのコートを引っ張り、「メルフォンシーナを頼む」とキリトに眼で伝えた……つもりだ。

 

 

私はエルダーの攻撃を回避しつつ、剣をエルダーの胸に突き刺す。私の刃は確実に奴の体を捉え、その体を貫いていた。だがエルダーが痛みを感じている様子はなく、逆に私は首を掴まれ持ち上げられた。

 

 

「ぐっ…(流石に力勝負じゃ勝てないか)」

 

 

「さあ見せてみろ、貴様の真の力を!あの時の力を!」

 

 

「彼を離せ!」

 

 

「邪魔をするな!」

 

 

「なっ!」

 

 

その様子を見ていたキリトがエルダーの背後から斬りかかるが、その行動を予測していたエルダーはキリトの2本の剣をもう一方の腕で折り、キリトの事も掴んで持ち上げた。

 

 

「ぐっ、くそ……っ!」

 

 

苦しみながらエルダーの腕を掴んだキリト。彼の手がエルダーに触れた瞬間、触れた場所からキリトを持ち上げていたエルダーの手が青白くなっていく。

 

 

――まさか、キリトにもあの力が……。

 

 

キリトの方に気を取られていて、私の方もキリトの方と同じようになっていた事に気付けなかった。それほどまでに今目にしている状況が信じられなかったのだ。

 

 

「そうだコレだ。この感覚だ!やはり貴様の力であったか!もう1人の方にも同じ力があるのは喜ばしい誤算だった。しかし、まだヌルい!」

 

 

エルダーは私達を投げ飛ばすと、自身の胸に突き刺さっていた剣を引き抜くと、そのまま力の限り振り下ろす。私達とエルダーとではかなり距離があったが、発生した衝撃波によって、私とキリトは吹き飛ばされた。

 

 

「「ぐわぁぁああああ‼」」

 

 

「キリト様!ペルソナ様!」

 

 

「もっと強くなれ!もっと我を楽しませる存在になれ!ハッハハハハ……‼」

 

 

全身の痛みで意識が朦朧とする中、高笑いしながら私達の前からエルダーは転移で立ち去った。

 

 

三度訪れた静寂。私はエルダーが残した剣を回収し、ボロボロのメルフォンシーナに近寄る。

 

 

「メルフォンシーナ……大丈夫か?」

 

 

「……恨みます。何故止めたのですか?私には生きている資格なんて無いのに……。私のせいでゲッテムハルト様は!」

 

 

涙を流しながら抗議してくるメルフォンシーナ。正確には彼女の自害を止めたのはキリトなのだが、今の彼女がそんな些細な事を気に出来ない程余裕ないのは私はよく分かっている。……だからこそ私が出来るのは前世の私と同じ言葉を彼女に掛ける事だけだ。

 

 

「死ぬんじゃない。ゲッテムハルトの為に生きるんだ」

 

 

「でも!」

 

 

「ペルソナの言う通りだ。君がいなくなったら、誰がゲッテムハルトを救うんだ!」

 

 

「あれはゲッテムハルト様ではありません!」

 

 

「何か、奴を元に戻す方法がある筈だ。今は何も思いつかないが、きっと……」

 

 

そこまで口にして私は言葉の続きが出てこなくなった。前世でもこの先の言葉は出なかったが、今の私が口籠ったのは、これまでの経験からダークファルスに完全に体を乗っ取られた人間を元に戻す方法が思い付かなかったからだ。

 

 

――せめて"彼女"のように中途半端だったのなら、まだ希望はあるんだろうが……。

 

 

「……不器用ですね。貴方たちは」

 

 

「「……」」

 

 

「メルランディア」

 

 

「え?」

 

 

「出来れば覚えておいてください。『メルランディア』それが本当の私の名前です」

 

 

そう言って微笑むメルランディア。彼女の瞳からこれ以上、涙が流れる事は無かった。

 

 

――ああ、そうか。そうだった。

 

 

メルランディアを見て私は懐かしい記憶を思い出した。まだ私がアッシュだった頃、全く同じように彼女を鼓舞した時、私は自分に誓ったんだ。自分が全てを救ってみせると。今思えば、何とも傲慢な考えだろうか。

 

 

――だが、それでいい。それでこそ私だった。

 

 

初めから絶望する必要はない。ここは確かに私の前世と似ているが、私が知る世界ではない。この世界に「私」は居ない。だが、この世界には皆がいる。共に戦い、試練を乗り越えてきた仲間達。彼らとならば見出すことが出来る筈だ。どんなに悲惨で残酷な運命をも覆す道を。

 

 

 

 

――必ず、探し出してみせる。全てを救う方法を。

 

 

無数の星々が煌めくナベリウスの夜空。その星空の下、私は改めてそう決心した。

 

 

 

 

 

 

 





今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。
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