仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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大変お待たせしました。第74話です。



第74話 偶像(アイドル)始末屋(アサシン)

 

「あ、あなた!来てたんだ」

 

 

アークスのアイドルクーナ。普段の彼女のお気に入りの場所であるショップエリアの3階。先日のライブの件もあり、気分転換にと足を運んでみると、どうやら先着が居たらしい。

 

 

「ああ。昨日あんな事があっただろ?その、心配になってな」

 

 

「ふふっ……ありがとう!心配してくれた事もだけど、昨日助けてくれた事も含めて」

 

 

「気にするな。私じゃなくても同じ行動を取った筈だ。あの子達を悲しませたくなかったからな」

 

 

「そっか」

 

 

歯切れの悪い会話が続き互いに黙り込んだ。

 

 

「そ、そう言えば!昨日一緒にいた2人とっても可愛かったね!まったく、隅に置けないなぁ~」

 

 

「茶化すな」

 

 

「あっはは!ごめんごめん!」

 

 

気まずい空気の中、多少強引ではあったが、クーナは話の流れを変える。

 

 

「彼女達は私の妹だ。とは言っても血は繋がってないがな」

 

 

「へぇー、何か訳アリみたいだね」

 

 

「まあ色々とな。話せば長くなるが、聞くか?」

 

 

「うーん……気にはなるけどいいかな!そういうプライベートな話は追及しない主義だから」

 

 

そう言って明るく振舞うクーナだったが、表情が曇り、その眼は遠くを見つめていた。

 

 

「あたしもね、弟が居たんだ。あなたと同じで血は繋がってないけどね」

 

 

「『居た』?」

 

 

「あ……色々あってね。居なくなっちゃったんだ」

 

 

「……そうか」

 

 

「何があったか聞かないんだね」

 

 

「君は私達の事情について追求しなかった。私だけ話を聞くのは不公平だろ」

 

 

「優しいんだね」

 

 

再びペルソナとクーナは互いに黙り込む。先程とは違い気まずい空気ではなかったが、互いに気を抜きすぎていた事もあり、互いの端末からの着信音にオーバーなリアクションで驚いてしまう。

 

 

「あーあ、もう休憩終わりか。それじゃあまたね!」

 

 

「ああ、また」

 

 

ペルソナと別れた後、クーナは自分の元に届いたメールを見て表情を曇らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア!」

 

 

「フン!」

 

 

キリトの持つ2つの剣がダーク・ラグネを斬り裂く。間髪入れずに私が×の形に付けられた傷の中心に向かって剣を突き刺すと、ダーク・ラグネは断末魔と共に大量のダーカー因子を放出させながら消滅した。

 

 

「ふう……どうだ?新しい武器の使い心地は?」

 

 

「結構良いよ。重さも要望通りだし、流石、君が紹介するだけはあるよ」

 

 

キリトが今使っている武器は《コート・グライド》。私の持つコート・エッジと同じ《コートシリーズ》と呼ばれる武器の一種だ。

 

 

――そして《奴》が持っていた物と同じ……。

 

 

「大した腕だろ?リズベットには悪いことをしたが」

 

 

「いや、リズにジグさんを紹介したら意気投合してたよ」

 

 

鍛冶師同士、何か通じるものがあるんだろう。キリトに他の鍛冶師を紹介してリズベットから苦言を受けるかもと身構えていたが、杞憂だったようだ。

 

 

「さて、少し休憩できたし、そろそろ先に行こうか」

 

 

「いや待て、後ろが付いて来てない」

 

 

私がそう言いながら後ろを振り返ると、そこにはダーカーとダーカーに侵食された原生種の死骸が因子となって消滅している中を2つの影がヘロヘロになりながら追い掛けて来ていた。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、もー、お兄ちゃん達早すぎるよ!」

 

 

「貴方達、ペースに合わせるって事知らないの?」

 

 

息を切らしながらやって来たのはリーファとシノン。シノンからの叱責の言葉にキリトは苦笑いを浮かべながら2人に謝罪する。今日もナベリウス雪原エリアは吹雪いており、数m先ですら良く見えない。そんな中、突然私達の歩いていた足下が崩れ落ちた。

 

 

「「「うわぁあああ⁉/きゃあああああ⁉」」」

 

 

キリト達の叫び声と共に雪崩に巻き込まれ、崖の下まで落ちたが、積雪がクッションになったお陰で大したダメージは無かったが、上から更に落ちてきた雪に押し潰されて窒息する所だった。

 

 

「みんな無事か?」

 

 

「ええ。まさか急に雪崩が起きるなんて思わなかったけど」

 

 

「本当ですね。あたしも急すぎて翅を出すの忘れちゃってました」

 

 

「……あれは」

 

 

雪の中から這い出ると、私は目の前の洞窟の奥に施設の様なものを見つけた。

 

 

壊れて開かなくなっていた扉を無理矢理持ち上げ、私達は施設の奥へと進む。中は何年も使われていなかったのか廃墟のようになっており、床や壁、天井に至るまで大きな爪で引っかかれたような跡が残っていた。それすらも何年も前の物のようだが。

 

 

「酷い荒れようね。一体ここで何があったのかしら?」

 

 

「……進むぞ」

 

 

暗い通路を私達は警戒しながら進んでいると、明かりが点いていた部屋を見つけた私達は、警戒しながら扉の窓から部屋の中を覗く。そこには森林トマトが栽培されており、小さな自動走行ロボットがトマトを2つ取って去っていった。

 

 

「追い掛けるぞ」

 

 

走り去るロボットの後を追っていると、淡い光が漏れている方から怒号が聞こえてきた。

 

 

「このポンコツめ!」

 

 

ホームレスのようにボロボロの爺さんが先程のロボットを怒鳴りつけていた。

 

 

「腐るから必要のない分は取るなと言ったろ!まったく、野菜しか作れぬ脳無しめ!」

 

 

怒鳴りつけられたロボットは乗せていた森林トマト2つをその場に落としていった。

 

 

――あの程度の作りで野菜が作れるのなら十分だろ。

 

 

私はそう呆れながら部屋の中に入る。本心では今すぐにでもこの場から出て行きたいが、知りたい事もある。今は私情を優先している場合じゃない。

 

 

「おい爺さん、ここで何をしている」

 

 

「ん?はっ!ひゃあああ!ひぃいいいい‼」

 

 

「あ、ちょっと待ってくれ‼」

 

 

私達の姿を見るなり、奇怪な悲鳴を上げながら逃げ去る爺さん。キリトは急いで追い掛けようとするが、爺さんはすぐ隣の部屋にあるテントの中に逃げ込んだので、誰にも需要がない追いかけっこが始まる事は無かった。

 

 

「来るな!来るなァ‼」

 

 

「あんたに危害を加えるつもりはない。いいから出てこい」

 

 

「食料!持ってないか⁉野菜以外の!」

 

 

テントの入口を抑えて怯えていた爺さんだが、私の言葉を聞いた瞬間、怯えるのを止めてそんな図々しい要求をしながらテントから顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爺さんは私が差し出したレーションとモノメイトを片っ端から平らげていく。初め、キリトがアスナから持たされていたサンドイッチを渡そうとしたが、こんな爺さんにそんな大層な物を渡すなんて勿体ない事はさせられない。

 

 

「あの、お爺さんはずっとここに?」

 

 

「そうじゃの。人と会ったのは2年ぶり、いや3年ぶりか」

 

 

「3年?こんな所で?」

 

 

「こんな所ぉ⁉こんな所じゃと‼」

 

 

野菜以外の食事にありつけて大人しくなっていた爺さんだったが、キリトの一言に突然激昂する。

 

 

「ここは研究所だ!お前達には想像もできないような!そう、途轍もない意義のある研究だ!理解できる筈がない‼」

 

 

「わ、悪かった!1人で不便じゃないかと思ったんだ。外に出ればアークスに救助して貰えたかもしれないのに」

 

 

興奮しながら力説する爺さんを宥めるキリト。爺さんは少し落ち着いたのか、肩を落として後ろを向き、わなわなと体を震わせながら話を続ける。

 

 

「外にはハドレッドが居る」

 

 

「ハドレッド?」

 

 

「あの暴走龍の事だ」

 

 

「奴に研究所を壊されて、ワシ以外は皆殺された!ワシが手塩に掛けて育ててやったのに!あの竜め……裏切りよったのだ!」

 

 

その時、管制からの通信が入る。爺さんは着信音に怯えて再びテントの中に潜り込み、「殺さないでくれぇ‼」と情けない声を上げる。因みに通信の内容は近隣のエリアで多数のダーカーと交戦しているアークスへの支援要請だった。

 

 

この爺さんに聞きたい事があったのだが、まるでショップ店員タイプのNPCのように同じ言葉を繰り返していた為、今聞くのは諦める事にした。……なに、ここにはまた来る事になる。その時また問い詰めればいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応援要請があったエリアでは、2名のアークスが複数のエル・アーダと交戦していた。

 

 

「加勢する!シノン!」

 

 

「ええ!」

 

 

私が合図すると同時にシノンがヘカートの引き金を絞る。発射された弾丸は寸分の狂いもなくエル・アーダの腹部にあるコアを撃ち抜いた。

 

 

同胞が倒されたと同時に新たな敵が現れた事を認識したエル・アーダ達は私達にヘイトを移す。戦力を分散させる事に成功し、私達は先に戦闘していたアークスと共にエル・アーダの大群を一掃した。

 

 

――取り敢えず眼前の危機は脱したか。さて次は……

 

 

「うわぁあああ‼」

 

 

「お、おいあんた、大丈夫か?」

 

 

突如、共闘していたアークスの1人が蹲って発狂し、それを心配したキリトとリーファが彼に近づく。ほぼ同時に、近くの岩の上から見えない何かがキリト達の方へと勢いよく突っ込んでいくのが見えた。

 

 

「キリト、後ろだ!」

 

 

私が叫んだ瞬間、キリトはコート・グライドを構え、見えない何かと激突する。何も無かった空間から、まるで初めからそこに居たように1人の少女が現れる。その少女は先日、ハドレッドと対峙した際に現れた始末屋だった。

 

 

「何をするんだ⁉」

 

 

声を荒げて始末屋を非難するキリト。その後ろで蹲っていたアークスはよろよろと立ち上がると、近くにいたリーファに襲い掛かった。突然の事に反応が遅れたリーファを押し退けるようにして割って入った、始末屋の少女は華麗な身のこなしで暴走するアークスに一撃を加えて距離を取る。

 

 

もう1人のアークスも武器を構えて少女を襲う。だが少女は慣れているような動きで2人の猛攻を完璧にいなし、確実に一撃を与えていく。

 

 

「止せ!彼らは君の仲間だろ⁉」

 

 

「彼らはもう、仲間ではありません」

 

 

キリトの非難に対して淡泊な言葉を返す少女。彼女を狙って2人のアークスが跳びあがる。

 

 

「シノン!彼女の足下を!」

 

 

「分かってるわよ!」

 

 

シノンに指示を出しながら私は少女と2人のアークスの間を目指して走る。もちろん、今更動いた所で間に合う筈もない。だから走り出すと同時に、シノンへ少女の足下を狙ってヘカートを撃つように指示を出した。

 

 

狙い通り、ヘカートの弾丸は大きな雪煙を上げ、今にも激突する寸前だった両者の動きが止まる。

 

 

「フン!」

 

 

私は2人のアークスを剣の腹の部分で殴り、同時に浄化能力で彼らに蓄積しているダーカー因子を浄化する。

 

 

雪煙が晴れ、倒れている2人を見た始末屋の少女は確実にトドメを刺さんとするが、すぐに彼女らの間に割り込んだ私が少女の攻撃を全て弾いては押し戻す。

 

 

「何故、邪魔をするのですか?」

 

 

「彼らはもうダーカー化していない。殺す理由はない筈だ」

 

 

私の言葉に少女は「まさか」と言いたげな顔で2人のアークスを観察する。

 

 

「信じられません。彼らはもう助からないレベルまでダーカー因子を蓄積していた筈です。なのに今ではダーカー因子が全く感じられない。一体彼らに何をしたのですか?」

 

 

「彼らの中のダーカー因子を全て浄化した」

 

 

「有り得ない。そんな事は不可能です」

 

 

「そんな事を言われてもな、出来てしまったものは仕方ないだろ」

 

 

「……納得は出来ませんが、今は目の前の事実を受け入れる事にします。わたしは彼らが無力化されたのであれば問題ありません。では」

 

 

「ま、待ちなs「シノン、彼女を見逃してくれ」どうしてよ!」

 

 

少女に対してヘカートを向けるシノンを制止し、そんな私をシノンは非難した。

 

 

「彼女は自分の仲間を手に掛けようとしたのよ!貴方それを許せって言うの⁉」

 

 

「彼女がしようとした事は確かに許されない。だが、彼女も好きで仲間に刃を向けた訳じゃない。ここは抑えてくれ」

 

 

私がそう説得すると、シノンは――納得はしてないだろうが――「分かったわ」と言ってヘカートを下ろしてくれた。その間に少女は姿を消しており、残った私達は倒れている2人のアークスをメディカルセンターに連れて行った後に解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーナside――――

 

 

 

――また、彼に助けられた。

 

 

違う。彼が助けたのは始末対象の方だ。だが、わたしは彼が自分を救ってくれたと感じた。

 

 

頭の中が滅茶苦茶だ。ダーカー化したアークスを元に戻す手段はない。この仕事を請け負った際、初めに"あの男"から教えられた残酷な真実だった。わたしもそれは変えることのできない運命なのだと思っていた。

 

 

そんな考えを彼は一瞬で覆した。目の前でダーカー化したアークスを救ってみせたのだ。

 

 

その光景を見た瞬間、わたしの中で何かが壊れた。今まで自分がしてきた事が無意味な事だったと全否定されたようなものだ。

 

 

――なのに、何故わたしはまた……。

 

 

またアークスを手に掛けなかった事に安堵している自分に罪悪感を感じていた。今まで多くのアークスをこの手で殺してきた。これから先、例えダーカー化したアークスを元に戻す手段が見つかったとしても、自分がしてきた事が、過去が変わる事は無い。

 

 

――こんな時あなたが居てくれれば、いい答えを見つけられたのかな?

 

 

「ハドレッド……」

 

 

種族の違う弟の名を呼びながら、わたしはベッドの上に横たわり、深い眠りについた。





話のオチと内容の大幅変更をしてたら前話から1か月経ってた事に驚きの作者です。


次回は成るべく早い投稿を心掛けますので、また次回もよろしくお願いします。
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